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王の資質  作者: 誠也
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8.魔王候補

 そこは木々に囲まれ月明かりも差し込まない。ジークの様に夜目が利かないとダメだな。〝光明〟。光の玉を身の回りに浮かべる。周囲五メートル程はっきりと分かるほど明るくなり、近くに居た動物達は眩しさを感じ、逃げていく。目が慣れて来ると赤や橙の果物が目に入った。


「あまり食い過ぎるなよ、森の皆のものだからな。」


 さすがは森に暮らす者という所か。彼にもしっかりした一面がある。俺も最初はここにロッジを建てたときに災いをもたらす者ではないかと随分警戒されたのが懐かしい。ふむ、リンゴにみかんにぶどう。一般的で旨そうなのがこの辺りだな。食後でもあるし、食べるとしてもどれか一つとしよう。


「セシル、好きな果物って何だ?俺が取ってきてやるよ。」

「ありがとジーク。う~ん、ぶどうかな?ここにある?」


 スパッ。素早くぶどうを手に取り、セシルに渡す。ぶどうを取りに動こうとしていたジークは一瞬目を大きく開き、その後またあのにやけ顔になっていた。


「ありがとジーク。」

「いや、今のはレイだ。」

「えっ、そうなの?ありがとレイ。」


 シャーリーはさっきのを見てか「私のも取ってきなさいよ!」と言う。お前は目が見えるだろうと言おうと思ったが、雰囲気を壊しかねないので従っておく。食後のデザートを堪能し、次の場所へと転位した。

 気付けばそこは水の上で、大きな飛沫とともに泉へと落ちていく。幸い浅く、下半身が濡れるだけで済んだのだが・・・。


「アハハハハ、お前どこ転位してんだよ。」

「そうよ、レイ!早く乾かしなさいよ!」

「レイでも失敗することあるんだね。」


 俺としたことが、いい笑いの種になってしまったな。落ち着いた所で辺りを見回すと、木々が青白く光っていた。その光を反射し、泉も青く光っており、とても神秘的な空間となっている。俺とシャーリーはその光景に言葉を失った。


「ねえ皆、どうかしたの?」

「ああ、ちょっとな。」


 そうだ、セシルはこの光景が見れないのだ。どんな綺麗な物もその目には映らない。またこの光景を伝え様にも俺には言葉が見付からない。己をただただ不甲斐なく思う。その目を見えるようにしてやりたい。だがそんな方法あるのだろうか。目が傷つけられ失明した場合は回復魔法で治療できるが、生まれながらの盲目を治したなど聞いたことがない。可能性があるとすればエリクシールだ。何でも治すと言われる秘薬エリクシール。その存在は幻とも言われ、製法もある場所も分からない。それ故効果も本物かどうかも分からない。もし、彼女に伝え、それが嘘であれば、ぬか喜びさせるだけになる。こっそりと探すことにしよう。伝えるのは見付けたとき、そう心に誓う。

 翌日、ルーベルの件が期日ということで、シャーリーの相手をセシルに任せ、ロッジを発つことにした。意外にもシャーリーが大人しい。余程セシルを気に入ったのだろうな。仕事終わりに二人へ土産でも買ってくるとしよう。〝転位〟。

 これはどういうことだ!?ルーベルに転位すると町が壊滅的な状況になっていた。家屋は倒壊し、至るところに死体が転がっている。またその死体一つ一つが無惨な姿をしていた。一体何が?

 町長の家へと急ぐ。道すがら、生き残りを探すが、見当たらない。結局生存者を見付けられないまま町長の家に着いた。着いたのだが、ここも家屋は残っていない。ん、何か光った?一瞬見えた光の先には瓦礫しかない。目を凝らすと瓦礫の下に鉄の蓋が見えた。確認の為、手荒く風魔法で吹き飛ばす。現れたのは地面に埋まる鉄の扉だ。地下室か。「誰か居ないか?」と声をかけながら扉を叩く。だが反応はない。取り敢えず開けてみるか。鍵がかかっている様だが、力を入れ抉じ開ける。すると、いきなり剣が飛び出してきた。空いた手で掴むと、怯えた様子の娘がその剣を握っていた。


「危ないな。だがまあいい。おい娘、何があった?」


 娘は口をガタガタと震わせどうにも話せる様子ではない。その娘との隙間から地下室を覗き込むと他にも何人か生き残りが見えたが、皆同じく怯えている。困ったな、これでは埒が明かない。


「あ、あのときのお客さんですか?」


 その声の後、一人の見覚えのある娘が扉近くへ出てきた。


「お前はあの服屋の娘か?」

「はい!」


 ようやく話ができそうだ。彼女に話を聞くと、突然一人の魔族が襲ってきて、数時間の内に町と人々をこの様にしたらしい。なるほど、それなら心当たりがある。


「娘、他の町に親戚や知り合いはいるか?良ければ俺が転位魔法で送ろう。このままここに居るより良いだろ?」


 服屋の娘は他の生き残りの人間共と顔を合わせると頷き、「よろしくお願いします。」と返事をした。地下に降りた俺は彼女等全員と手を繋ぎ、転位する。

 移った先は隣町のモルト。こちらは被害はなく健全な状態だ。皆安堵からか緊張がとけ、地面に座り込む。


「本当にありがとうございました。」


 服屋の娘から礼の言葉を受け取る。


「いや、礼はいい。この件、俺も関係無いとは言えないからな。」

「いいえ、悪いのはあの魔族です!あなたには何も関係無いですよ!そうだ、私またここで新しいお店を出します。そのときはまたあのお連れさんと一緒に来て下さい。うんとサービスしますから!」

「ああ、そのときはまた世話になる。」


「ではな。」と最後に残し、再びルーベルへと戻った。

 町は変わらず廃墟と化している。短い期間でここまでできるのは俺と同じ王族だろうな。魔力探知で周囲を調べると一つ大きい反応があった。これはユリスだな。〝転位〟。


「わぁ!あ、レイ兄!何だよ急に、びっくりするじゃん。」


 黒の服を纏い、右手には大鎌を持つ魔族。一番下の弟、第四王子のユリスだ。あどけない顔をしながら性格に難がある。まだ子供だからか善悪の分別が足りないのであろう、この有り様だ。この試験に参加させるのは時期尚早だと思っていたのだが、父上は候補の一人として挙げた。試験を通じ少しでも成長してくれれば良いのだが。


「レイ兄はここに何しに来たの?」

「実は数日前からこの町の土地について交渉しててな、今日が期日で来てみたんだがこの有り様という訳だ。」

「ふーん、悪いねレイ兄、僕がもうやっちゃった。レイ兄も交渉なんて面倒なことしなければいいのに。切り刻んだり、破裂させたりとか人間ってもうおもちゃだよね。それに殺すときのあの顔なんてホントサイコーだよ!」


 話す表情、声色からしてやはり本気で言っている。こいつに道徳というものを学ばせたい。


「あれ、レイ兄怒ってる?ごめん、ごめん、この土地は譲るからさ~許してよ。でも代わりにさ~僕と遊んでよ。」

「遊ぶって、何をするんだ?」

「決まってるじゃん、勝負だよ!」


 そう言うと、彼は大鎌を振りかぶりながら突進してきた。ふう、一度懲らしめておくか。彼の真後ろに転位し、大鎌を掴む。「ぐぬぬ。」と彼も力を入れているようだが、はっきり言ってまだ子供。力負けする筈がない。そのまま彼ごと大鎌を振り回し、数メートル先へ振り飛ばす。「イテテ。」と尻餅を付く彼の頭を叩き、勝負は終了した。


「あまり調子に乗るなユリス、お前はもっと心を磨け。」

「ちぇー、分かったよ。」


 頭を掻く彼に大鎌を放る。受け取った彼は立ち上がると「レイ兄またね。」とだけ言って去って行く。懲りた様子は微塵もない。まあ、直ぐに変わるものでもないし、仕方無い。

 あまり納得はいかないが、新たな領土が手に入った。例の如くこの町全域に結界を張る。念のためもう一度魔力探知を行い、生存者を確認するが反応はなかった。ダメか。それから風魔法で瓦礫や死体を集め、火葬する。人が焼ける臭いは鼻を突き、不快だ。処理が終わり、町は更地と化した。この何もない景色を見て思うことがある。いつか人間共が仕返しに来るのだろうかと。俺はいつも人間共を追い出してその領土を得る。そして領土を奪われた人間共は恨みを抱えたままだ。現在奪った領土も最早十数に及ぶ。その積もり積もった恨みが、人間全てを相手にした戦争の引き金となることも予想できる。それを避けるには最初から皆殺しにし、反乱分子を無くし情報の遮断をすればいいのだが、兵士でもない戦う意思の無い者も攻撃するのは俺の主義に反する。

 とは言え今は試験の最中。考えても仕方無い、そのときはまた考えよう。

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