表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王の資質  作者: 誠也
72/77

72.父の昔話

 捕らえた民一人一人と話していくが、何が正しいのか分からなくなるときがある。民の言うことにも思うところがあり、またこちらとしても己の信念を押し付けているのだから。行き過ぎればそれは洗脳、恐怖政治となる。

 そこで俺の出した答えはこうだ。まずは彼等と仲良くなる。その為に今回のことだけでなく、彼等自身のこと、こちらのこと何でも話した。相手を知り、己を曝すことで信じるという気持ちが芽生える筈だ。まあ、ありきたりだけどな。

 仲良くなれたら次の段階。クーザ陛下と取り決めた人間と我ら魔族の領土の境界地域にて互いが共生する町や村を作るという計画に彼等も関わってもらう。まだ何も無い土地を開拓し、そこに住むまでを人間と協力して当たってもらうことで、互いに苦労したことを共有し仲間という意識が芽生えるのではないかと思っている。実際に上手くいくかどうかはやってみないと分からない所ではあるが、上手く行くように願い、いや、彼らを信じてみようと思う。

 彼らと話をしているとき、忘れていたことがあった。ジークやレイラさんにことの解決を全く説明していなかったのだ。二人には申し訳無いことをした。ジークは何も知らず、セシルを探し走り回っており、レイラさんもセシルのことに心を痛めていたのだから。知らせた後、二人にこっぴどく叱られたが、最後には笑って許してくれた。今度皆で飲みをする席でも設けよう。

 捕らえた民と対話をして一週間が経つが、一週間前彼らは俺を襲った。国の法律では、死刑にされても仕方の無いものだ。小耳に挟んだ話では、城下で彼らの家族が彼らはもう殺され、帰ってこないのだと悲壮感を漂わせているのだとか。まあ、普通はそうだろうな。

 だが、彼らを殺せば民は俺を恐れる者、恨む者、信用しない者等が現れ、また国の働き手も減る。ここで彼らを殺すメリットは俺にとって何一つとして無い。

 さて、ここでポンと彼らを解放したとする。すると、何も罰せられはしないのだと勘違いをする者も居るのだろうな。取り敢えず次同じことをしたら即首を跳ねること、罰金としてこの一年の収入の五パーセントを徴収することとし、彼らを順次城下へと帰した。

 全ての民を帰し、城に戻ると父上が俺を呼んでいるとオルフから声を掛けられた。今回のこと、父上も思うところがあるのだろうな。

 父上の部屋をノックし中へ入る。父上は部屋の窓から城下を眺めていた。


「来たかレイ。では、そこに座って話すとしよう。」


 部屋の応接スペースのソファーに座り、父上と向かい合う。父上は優しい表情だった。


「今回の件驚いたぞ、お前がまさか人間の娘と恋に落ちていたとはな。」

「黙っていてすみません。全て整えてから報告にと思っていたので。」

「構わん。レイ、お前もわしのことは知っているのだよな。」

「はい。」

「ふっ、親子とは不思議なものよのう。少し昔話をしてもいいか?」


 俺は無言でゆっくりと頷いた。


「わしの愛した人間、バーゼリアはそれは快活な娘だった。わしがお前くらいの頃、良く人間の町や村に遊びに行っておったのだ。どんな所か興味があってな、変装しては潜り込んでおった。そんなときある村で彼女に会ったのだ。そのときの彼女は教会に勤めるシスターでな、教会で引き取った孤児を育てておったのだが、家事や教会の仕事を全て一人でやりきるほど器量が良かった。そんな彼女にこう声を掛けた「少しは子供達にやらせても良いのではないか?」と。すると彼女は右手人差し指を立てて「ううん、こんな楽しい仕事誰にもあげたくない。それに子供達は勉強して、遊んで、食べて寝るのが仕事でしょ。その仕事を奪っちゃダメなんだよ。」と言いおったのだ。そのときわしはこの小娘言いおるな、どこまでその体が持つのか見てやろうと思い、度々彼女の居る教会に立ち寄った。だが何度来ても彼女の顔は疲れを見せず凛として、輝いていた。わしはその姿にいつしか惹かれてな、彼女に会いに来ては口説いた。その度にやんわりと躱されるのだが、最後には決まって「今はね。」と弄ぶヤツだった。暫くそのやり取りを繰り返していたら、教会に居た子供達が「僕達のことは気にしなくてもいいから、シスターも幸せになって。その人が大好きなんでしょ。」と後押ししてくれてな、わしとバーゼリアは一緒になったのだ。それから教会で彼女と子供達に囲まれて暮らしつつ、城に戻りこちらの仕事もするという日々を過ごした。そして表向きにわしの婚約者となっていたシェリア、お前の母親にもこのことを話した。わしはシェリアのこともまた優しくていい女と思い、好きだった。シェリアには申し訳無いことをしたと思ったが、彼女は「私にもそのバーゼリアに会わせて貰えない?あなたが好きになった人間の娘も見てみたいわ。えっと、勿論、あなたを奪われたとか人間だからと言って襲ったりもしないわ。一つ提案したいことがあるの。」と言ったのだ。それからシェリアをバーゼリアに会わせたのだが、二人は直ぐに馬が合ってな、争うことはなかった。それどころかシェリアは「ねえマルク、私とバーゼリアの二人と結婚して貰えない?あなたは次期王様でしょ。だから表向きには私と結婚したことにして、本当はバーゼリアとも結婚してるってことにするの。私もバーゼリアもあなたのことが好きだし、私達二人もお互いを好きになったもの、これが一番良い案だと思わない?」と提案したのだ。そのときわしもその案に乗り、それから数年は何事もなく、暮らしていた。しかし、ある日わしがバーゼリアの所に居たときに城の者がわしを訪ねてきてな、城の大臣達にバレてしまった。その後、大臣達の手によってバーゼリアは城に連れてこられ、わしが彼女に剣を刺した。わしはこのとき全てを憎んだ。そしてなぜバーゼリアをこんな目に遭わせてしまったのだと自責の念にもかられた。しかし、その後シェリアに助けてもらってな、わしの今があるのだ。」


 父上と母上、そしてバーゼリアさんの話。何と言うか俺にも似たような所があるな。


「レイ、お前はお前の愛した人間の娘を絶対に守りぬけ。わしも引退した身だが手を貸す。お前は俺と同じ道は絶対に行くのではないぞ。」


 父上のその言葉に胸が熱くなる。俺とセシルとの仲を反対すると思ってた父上が応援してくれるとは。


「はい!」


 俺は力強くそう答えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ