7.友達
「な、何故ここが!?」
シャーリーにはこの場所を教えていない。それに転位魔法など使えなかった筈だ。
『僕だよ兄さん。』
『リオ、お前の仕業か!』
『そんな、怒らないでよ。もともとは兄さんも悪いんだから!』
『どうやってこの場所を見つけたんだ!』
『ブラッドリー老師にお願いして、探して貰って、そのままシャーリーさんを転送して貰ったんだ。』
老師か、そうだ、そこも押さえとくべきだった。詰めの甘いことを悔やむ。
『じゃあ、後はよろしくね兄さん。』
リオめ、城に戻ったら一発酷い目に遭わせてやる。
「ふ~ん、こんな別荘もあったのね。」
彼女はソファーにだらっと座り、早くも寛いでいる。
「シャーリーも俺でなくともリオとか他の兄弟も居ただろう?どうして俺なんだ?」
「それは・・・そんなこと別にいいじゃない!そ、それより紅茶でも入れなさいよ!」
どうしてそこで怒るんだ。まあいい、俺も丁度紅茶を飲もうとしてたところだ、彼女の気分が悪化しない様にさっさと用意しよう。
キッチンで茶葉を選んでいると、彼女はロッジの中を歩き始めた。まずいそこは!彼女はセシルの部屋のドアを開けた。
「レイ、これはどういうこと?この女は何?」
シャーリーの声が震えている。その裏には確かな怒りを秘めて。まずい、暴れだす寸前だ。取り敢えず正直に伝えるか。
「そいつは前に仕事で訪れた場所に居たセシルというんだが、俺が間違って怪我をさせてしまってな。今は世話をしてるんだ。」
「そんなこと言ってこの女とイチャついたりとかしてないでしょうね?」
恐ろしくて彼女の顔が見れない。
「ああ、シャーリーが思ってる様なことは無い。」
声が上擦ってしまう。
「本当?」
「本当だとも。」
「目を見て言いなさいよレイ!」
「ああああああ、本当だ、シャーリー。」
「まあ、いいわ。」
ふう、なんとか収まった。彼女が暴れだしたらこのロッジが完全に無くなる所だった。額にベッタリ付く汗を拭う。
何だろう、少し騒がしいな。誰か来たのかな?
「レイ、どうかしたの?」
起き上がって、リビングに行こうとすると声が聞こえた。激しいけど可愛らしい声だ。
「これはどういうこと?この娘、人間じゃない!」
「それがどうしたというんだ。種族など関係無いだろ。」
「そんなこと言うのはレイだけよ!この前だってそうじゃない!急に悲鳴を上げられて、何もしてないのに攻撃されたのよ!私達全てを怖いものだと決め付けて、理解しようとしないじゃない!そんな人間達なんて嫌いよ!」
確かにそうかも。この前まで私も魔族って怖いイメージしか無かった。でも全ての魔族がそうと言う訳でも無いんだよね。レイがそうだった様に。
「まあ、俺も含めてこちら側も悪党はいるんだ。人間を殺して喜ぶ様な奴らがな。」
「そんなこと分かってる。分かってるわよ。でも、私は、私は、何もしてない!」
この女の子は本当は私達人間と仲良くなりたいんじゃないのかな?ただ、今までの経験か分からないけど、人間に対して辛いことがあって、こんな風に思っちゃうのかな。そのままだなんてなんか嫌だな。女の子の声のする方へ近寄り、ぎゅっとその娘を抱き締めた。
「ななな、何なのよ!」
温かくて柔らかな感触が伝わる。
「ごめんなさい。でもなんだかこうしたくなったの。あの、良かったらあなたの名前を教えてくれないかな。」
少しの沈黙の後、その子は小さく「シャーリー。」と発した。
「シャーリーちゃん。いい名前ね。私と友達になってもらえないかな?」
「・・・人間が私と友達だなんて生意気よ!でも、しょうがないわね、そこまで言うなら友達になってあげてもいいわ!」
「うん、ありがとうシャーリーちゃん。」
「ちゃんはやめて!それとあなたの名前も教えなさいよ。」
シャーリーったら、ちょっぴり恥ずかしそうな感じだな。
「ふふ。セシル、私の名前はセシル。よろしくねシャーリー。」
やっと落ち着いてくれた。セシルのお陰だな。その後はリビングで紅茶を飲みながら、歓談が続いた。セシルはうとうとしていたが、シャーリーが離さなかった。余程嬉しかったと見える。結局明け方まで話し込んで、気付いたら皆ソファーで寝ていた。
寒さを感じ目が覚めると、目の前にはシャーリーの顔があった。目が合うと彼女の顔が赤くなる。
「ななな、何で急に起きるのよ!」
「何でって、普通だろ?」
何をしようとしてたのだか。
「いいわ、お腹が空いたから取り敢えず何か作って!」
仕方無いなと軽く返事を返し、キッチンに立つ。あまり待たせてもあれだし、簡単にできるサンドイッチにしとくか。食材を切っていると、セシルも起きて手伝いに来てくれた。それを見てシャーリーも加わり、結局三人で作ることになる。しかしなんというか、見ていてどちらも危なっかしい所があり、気を使う。ただのサンドイッチ作りの筈なんだが。だが、こういうのも悪くない。
料理中、匂いにつられてか、ジークがやって来た。来るなり彼のニヤニヤした顔が目につく。
「なんだ、様子を見に来たら、お前って意外と節操がないんだな。」
「勘違いするな、こいつはただの従姉妹だ。」
「ただのって何よ!」
そこは反応しなくてもいいだろう。
「従姉妹ねぇ。まあ、別にいいけどよ。あ、これ土産な。」
そう言って彼は、仕留めた猪を床にどかっと置いた。
「ちゃんと血抜きして、締めてあるぜ。これでバーベキューしようや。」
「バーベキューって何の食材なの?」
首を傾げるセシル。
「猪よ、セシル。そう言えば猪のお肉って食べたこと無いわね、美味しいの?」
「そうだな、臭いが気になるかもしれないが、味は悪くないと思う。まあ調理次第の所もあるが。そういう訳で調理は一番詳しいジークに任せる。」
「なんでえ、全部お前にやらせて、楽しようと思ってたんだぜ。」
甘いな。お前の考えそうなことくらい分かる。そのくらいの付き合いだ。「ちぇっ。」と言いつつも、彼は手を動かしている。意外としっかりやってくれるんだよな。まあ、セシル達がいるのもあるんだろうが。
外に出て、コンロにテーブルと椅子を用意する。もう夜だが、月明かりが照らし、ランプなどいらない。サンドイッチは既にできており、後は猪だけだったが、ジークが手際良く処理してくれてあまり待ちはしなかった。普段多くとも二人でしか食事をしないからか、この人数は少し騒がしく感じる。だが悪くない。
夕食中、気になったのがシャーリーとジークだ。二人は初対面なのだが、直ぐに打ち解けていた。ジークのくだけた反応がシャーリーには合っているのだろう。
さて、メインの猪肉だが、臭みも少なく旨い。セシルとシャーリーも同じ反応だった。ジークはそれを見て少し鼻を高くしている。まあ、たまにはいいだろう。愉快な夕食は暫し続き、夜は更ける。
その中、シャーリーが皆でどこかに行かないかと提案した。夜半だが、ジークは元々夜型であり、俺達も起きて間もない為、特に不都合はない。俺はいつものシャーリーが出たと思ったのだが、他の二人はすんなりと承諾した。知らぬが仏ということか。
「ジーク、この森にいいとこ無いかしら?」
「ん、そうだなぁ、近くなら旨い果物があるとこか、綺麗な泉とかだな。どっちも歩いて三十分くらいで行けるぞ。」
「そんなのレイの転位魔法があれば一瞬よ!」
シャーリーが声高らかにそう言い放つ。そんな、人を便利屋みたいに言うんじゃない。まあ、実際できなくは無いんだが。それにセシルもいることだし、それがいいとは思っていた。どこか癪にさわるがあまり小さいことは言うものでは無いな。ジークに大体の距離と方角を教えてもらう。そして皆で手を繋ぎ転位した。




