6.デート
転位先は昨日訪れた海の町ルーベル。さすがにセシルを連れて魔族の町は歩けないし、他の人間の町では俺が攻撃される。ここは一度兵士同伴で町中を歩いているため問題はないだろう。彼女の手を引きゆっくりと歩く。
レイとお買い物か、それにしてもここはどこなんだろう?魔族の町だとしたら私どうなっちゃうのかな?人の声が聞こえるし、どこかの町中なのは確かなんだけど、騒ぎになってる様子はないし、よく分からない。
「あ、この前のお兄ちゃん!」
誰だろうか小さな男の子の声がする。
「あのときの小僧か、どうしたんだ?」
「ううん、この前はありがとー!ねえ、そっちの人ってお兄ちゃんの彼女?」
「ば、な、急に何を言うんだ小僧!」
繋いだ手から彼の鼓動が速くなるのが分かる。いや、私の鼓動だろうか。
「違うの?」
「ああ、そういうのでは無い。言うなれば、俺はこいつの保護者といった所だ。」
その言葉に胸がきゅっとする。そうだよね、レイとしてはそうなるよね。
「ふーん。ん、お姉ちゃんは何でずっと目を閉じてるの?」
「私目が見えなくてね、見えないんだけど、目がキョロキョロ動いちゃうから閉じてるの。」
「そっか、残念だね。だってお兄ちゃんのかっこいい角も見られないんでしょ?」
「おい小僧、角のことは・・・」
彼の鼓動が再び速くなり、手も汗で少し滲んでいる。やっぱりあれは角だったんだ。
今の話は間違いなく彼女の耳にも入った。俺に角があるということで俺が魔族だと知った筈だ。誤魔化すのはもう無理だろうな。小僧に用事ができたと伝え別れた後、切り出した。
「セシル、お前に俺のことを話そうと思う。聞いてくれるか?」
「うん。」と少し固く頷く彼女を適当な場所を見つけ座らせる。それから俺が魔族であり、王族であること。それから今していることについても話した。もちろん、彼女の居た村を襲ったことも。
「セシル、俺が怖いか?」
「ううん、実のところ怖いとは全く思ってないよ。原因はレイにあった訳だけど、私は助けられて良くして貰ってると思うし。でもハリス村を壊されたのは胸がちくっとしたかな、あそこにはお父さんとお母さんとの思い出もあったから。」
「それはすまない、だが俺にも理由があったんだ。分かれとは言わない、恨んでもいい。」
「恨みまではしないかな。それはそれとして、一つ私も聞きたいんだけど、レイは私をどうしようとしてるの?殺そうとか思ってる?」
彼女は声を震わせながらそう言った。
「殺そうなど思ってない。普通に暮らし、生きてくれれば良いと思ってる。」
彼女は「本当に?」と首を傾げる。
「ああ、お前には老いてその身を全うするまで生きて欲しいと思ってる。それに勘違いしないで欲しいが、俺は無闇に人間を殺す様な真似はしない。領地を求めるときも、まず退去するように言う。それを拒否され戦いとなればこちらも手を出す様にしている。まあ、勝手な都合で領地を奪われる人間にとっては迷惑極まりない話だろうが。」
少しの沈黙の後続ける。
「もしセシルが俺のことを信用できないなら好きな所に行くのも構わない。俺もお前から嫌われたまま共に暮らすのは辛いしな。」
また少しの沈黙の後、彼女から答えが出た。
「・・・決めた。私、レイと一緒にいたい。」
「いいのか?」と恐る恐る尋ねると、
「うん、私はレイが悪い人じゃないって信じるよ。」
その言葉に胸が熱くなる。気付けば彼女を抱き締めていた。「ちょっ、レイ!?」との声の後、俺の背中には彼女の手の温もりが伝わる。落ち着きゆっくり解くと、お互いに笑い会った。
「実はね私、レイが魔族だって知ってたの。」
「えっ!いつだ?いつ気付いてたんだ?」
「それは・・・やっぱり秘密。」
彼女は綻んだ口元に右手人差し指を当てる。ふっ、俺も脇が甘いということか。
「じゃあ、仕切り直してお買い物行こレイ。」
頷き、彼女の手を取った。
人間の服と考えたときにふと思い浮かんだのが、前にシャーリーの水着を買ったあの店だ。水着の勘定の件もあるし、今回はあの店に行くとしよう。一度は顔を見せている分、少しは話ができる様になっていればいいが。
その店に入ると前と同じ娘が居た。娘は一瞬目がぎょっと大きくなった後、すかさずこちらへやって来た。
「ここここ、この前の、おおおおお釣りです。」
娘はそう言いながら頭を下げ、両手を皿の様にしてこちらに差し出す。その掌には銅貨が五枚あった。震えてはいるが前よりはましだな。
「そうか、足りていて良かった。」
娘の手から銅貨を受け取る。
「娘、序でに頼みがあるんだが、こいつの服を選んで貰えないか?女物はどれが良いかなど分からなくてな、見て貰えると助かる。」
「こちらの方のですか?」
店員の娘はセシルを見ると反応が変わった。セシルが人間だと気付き、落ち着きを取り戻した様だ。
「お客様はどの様な服がお好みですか?色とか、デザインとか?」
「ごめんなさい。私目が見えなくて色とかデザインとかは分からないんです。店員さんに全て任せてもいいですか?」
「そういうことですか・・・分かりました。コーデ考えますのでちょっとお時間を下さい。」
娘はあーでもない、こうでもないと店内を駆け回る。先程の様な怯えは最早無い。娘は少しして候補をいくつか手に取り持って来たので、セシルに試着を促した。さすがに俺は着替えを手伝えないので、そこも娘に任せる。「できました。」との娘の声の後、試着室から二人が出てきた。白と緑の服は春を思わせ、明るく穏やかな印象を見せる。
「レイ、どうかな?」
「いいんじゃないか。」
娘に礼を言い、服を買った。
「ありがとうございました、またいらしてください。」
その言葉に返しが詰まる。次は無いかもしれない。
その後も町を回り食材やセシルの為に杖を買い、ロッジへと戻る。出掛けたのが夜からだったのもあり、セシルは直ぐに寝室に入った。
少し疲れた。心がこうも揺さぶられるとは、少なくとも彼女に想いがあるのだろうな。最初はただペットを飼う様なものだったのだがな。さて、紅茶でも入れるか。
「レイ、探したわよ!」
振り向くとシャーリーが仁王立ちをしていた。