54.作戦決行
闘技大会が昼間に終わり、その興奮が覚め止まない中、夕方を迎える。道行く人々の話題は勿論闘技大会で、参加した選手を含めて宴会になっている所もちらほら見えた。まずいな予想以上に好評過ぎてこれでは動き難いかもしれない。
町に潜む構成員の居場所には全て配置を済ませ、地下の出入口を塞ぐ手筈も整えた。後は夜になるのを待つだけ。
『レイ。私だ。』
『レイラさん。はい大丈夫です。』
『どうした?緊張してるように聞こえるぞ。大丈夫だ。私が集めた兵だぞ。あまり気負うな。』
『そうですね、ありがとうございます。』
『ああ、それでいい。さて、直に日が暮れるが、手筈通り作戦開始は私が一斉念話で皆に伝える。準備はいいか?』
『ええ、何時でも行けます。』
『いい返事だ。では、また合図する。』
町の通りには明かりが灯され、日が落ちる。人々は家路を急ぎ、見える人影も徐々に少なくなってきた。一つ深く深呼吸をする。
『皆聞こえるか!これより作戦を決行する!分かっていると思うが、相手はマフィア。捕まえるなどとぬるい気持ちで行くな、潰しに行け!それではかかれ!』
町に配置した兵達が一斉に動き出す。城下町に潜んでいる構成員の数は約五千人。構成員一人当たり四人で戦う。一対四という数的優位で一分も経たぬ内に全て押さえ込むことに成功した。
地下への出入口はそれぞれ二千人ずつ当たっており、数秒で封鎖が完了。そのまま内部の制圧に移った。
よし、順調だ。後はこちらだけだな。城のとある一室、俺と十名の兵は突入した。中に居た一人の男を兵が囲み、取り押さえる。
「これは何のまねですか魔王様?」
「何の?自分が一番分かっているのではないかディープ大臣。」
そう、軍事大臣のこのディープはリジルの言うマフィアの特徴の通り、右手の小指の爪だけ極端に短いのだ。
「はて、私には分かりませんな。」
「ふん、あくまで言わぬつもりか。まあいい、取り敢えず拘束し、牢に入れろ!」
兵達は「はっ!」と返事をし、彼に縄をかけようとする。しかし、彼も簡単に押さえられる様な男ではない。彼はこの場を脱する為か、体を変化させる。彼もまた〝外道化〟の魔法を扱うことができ、虎人である彼は人の姿を無くし、ただの獣と化した。
体長約五メートル程の虎となった彼は兵達をあっさりと振りほどき、城の壁も容易く突き破り逃げて行く。このままではまずい。〝外道化〟。あれを相手するにはこれしかないと俺自身も獣となる。そして、彼を追った。
彼の逃げる方角へ転位し先回りする。彼は俺を見てもその足を止めることはなく突進してきた。正面から受け止めるが、勢いと彼自身の力が勝り、はね飛ばされそうになる。身体強化を重ね掛けし、なんとか持ちこたえると、彼は一度後ろに下がった。
「やりますな。ですが、少々お辛い様子。果たしていつまで持ちますかな。」
彼の言う通り、俺はこの状態をあまり維持できない。このままではやがて彼にやられてしまうだろう。だが、このままな訳がない。
『リジル出番だ。』
『ほいさ~。』
外道化を解き、リジルを手に取る。
「ほう、魔剣リジルですか。それは厄介ですな。しかし、今の魔王様とでは速さはこちらが上、その状態で私に勝てるとでも?」
「ああ、戦うのは俺じゃないからな。頼むぞリジル!」
『お姉さんに任せなさい。』
彼女にありったけの魔力を注ぎ込む。彼女は変化し人型となった。彼女はこちらに笑みを向けた後、ディープに右拳を繰り出す。その威力は彼の体が物語っている。当たった箇所から潰れながら後方へ吹き飛ばされているのだから。
しかし、それを受けてもなお立ち上がるディープ。瀕死の様だが、まだ諦めを見せない。さすがと言った所か。
「これ程とは・・・。しかし私も奥の手があるのですよ。ハハハハハ。」
高らかな笑い声と共に彼の体が発光する。あれはまずい!
「リジル!」
「分かってる!」
「ハハハ、もう遅い!なぁ、ぐはぁっ!」
ディープの体に剣が刺さる。すると、発光は止まりその場に倒れ込んだ。その側にはある男の姿があった。
「甘いなレイ。俺に勝ったんだろ?こんなヤツに踊らされるなよ。」
「ゼノ!何でここに!?」
「わしが連れてきた。坊主危なかったな。」
「師匠!」
そう、ゼノの監視を師匠に依頼していた。定期的に連絡を取ってはいたが、今日ここに来てくれるとは思わなかったな。
「ゼノ助かった、ありがとな。」
「ふん、こんな所で死なれるのは迷惑だと思っただけだ。」
「ここは素直に受け取っておけよ。」
彼の顔に少し緩む。彼のこんな顔を見るのはどれくらいぶりだろうか。師匠ありがとうございます。
それから少ししてレイラさんから連絡が入る。構成員及び地下施設の完全制圧。俺達の勝利だ。




