43.魔道具技師
城下町の大通りから西側は少し登り坂になっている。路地に入ると階段があり、建物の黄や茶の壁と相まって少し洒落た雰囲気だ。階段を登りきると広場があり、そこから一軒の特殊な店が見える。外観はレトロな赤レンガ造りで、屋根からは煙突が突き出している。看板にもあるがここが魔道具技師ワルドナーの店の様だ。気分屋と聞いたが、今日はどうだろうか。
入口のドアを開けると鐘が鳴り、カウンターに居る牛人の娘が「いらっしゃいませ。」と元気な声を出した。店内は暖色の明かりが照らし、入口の正面にカウンター、左右に魔道具がずらりと並ぶ。カウンターの裏で機械を弄る音がするので、工房は奥だろう。それにしても店内に並ぶ魔道具は見たことの無いデザインが多い。用途が分からないな。カウンターの娘に聞いて一つ一つ何の道具を聞いてみる。すると「良かったら試して下さい。」と言うので、いくつか使ってみることにした。
まずは水色の筒型をした魔道具。これは風魔法を利用した魔道具で室内の空気を調整するものだと言う。起動してみると一瞬で室内の温度や湿度、空気の清浄度が最適化され心地良い。消費魔力も低燃費であるし、これは凄い。参考までに価格を聞いてみると、やはりそれなりだった。だが、まあ納得できるな。次は黒いマット状の魔道具。これは重力魔法を利用したもので、マットの上の重力調整ができるらしい。トレーニングやリラクゼーションに良さそうだな。
「なるほど、どれも面白い。」
「それは良かったです。どれも父さんの自信作なんですから。」
娘は誇らしげに胸を叩く。うむ、ワルドナーの腕は確かだ。是非にでも力を借りたい所だ。
「すまない、こちらで魔道具の注文はできないか?」
「うーん、どんなものか分かりませんが、父さんに聞いてみないと何とも言えないです。ちょっと待ってください。」
そう言うと娘は店の奥へと入っていった。話す声がこちらに漏れてくる程大きく、その声色から彼のワルドナーの気分は良さそうに感じる。少しして娘と共に牛人の男が出て来た。筋肉質の逞しい容姿をした牛人。この者がワルドナーらしい。うむ、想像していたのと少し違ったな。だが、この姿からは想像できぬような繊細な技術を持っているのだろうな。
「あんたがお客かい?俺に注文したい物って何だい?」
「ああ、実は・・・。」
依頼の魔道具について説明する。
「なるほど、イメージはできる。だが作ったことが無いからな、ちょいと時間がかかるな。それに金も結構貰うが大丈夫かい?」
「時間がかかるのは分かってる。金の方だが、そうだな、ちょっと相談しなければいけないが、今出せるのが白金貨一万枚くらいだったか・・・。」
「白金貨一万枚!?これって御役所からの仕事か何かかい?」
ワルドナーの目が変わる。白金貨一万枚はまあ多いよな。だが、範囲が広い分、魔道具もそれなりに大きさか個数が必要だろうしな。
「ああ、一応王室付けの依頼となるのか?」
「王室付けって、あんた一体何者だい?」
「すまない、申し遅れたな。俺はレイ=フェイウォン、この度第十代魔王となった者だ。これは俺が・・・。」
「ええー!」
依頼の訳を話そうとしたのだが、遮られてしまった。
「ま、魔王様!?あ、あんたが本当に魔王様なのか!?」
「ん、そうだが?」
そう返すと、ワルドナーは冷や汗を垂らし、その場に平伏した。
「すみませんでした!魔王様とはいざ知らず、大変失礼な物言いを!そ、そうだ娘は何か失礼をしませんでしたか?」
先程から話が少しおかしくなっていたが、どうやら俺が魔王に即位したことを知らなかったらしい。うむ、皆が皆知ってる訳では無いよな。
「気にしないでくれ。魔王とは言え、まだ俺は名が広まる程の何かをした訳でも無い。それにできれば先程の様な普段通りの対応の方が嬉しいんだ。」
「それは本当ですかい?」
「ああ。だからもう立ってくれ。」
気分屋と聞いていたが、魔王という圧倒的ネームバリューには弱い様だな。立ち上がるワルドナーに再度依頼内容を含め話を進めた。
「よし、大体の枠は決まった。後は任せてくれ。次は試作品ができたら連絡を入れるからよ。」
「ああ、頼む。」
ふふ、順応も早いな。思っていたより、すんなりとことが進んだ。次に取り掛かろう。




