37.憎しみ理由
今までの経緯をジークに説明する。
「すまんジーク、頼んでいいか?」
「おう、任せろ!」
胸を叩くジーク。彼には森の中での捜索を依頼し、俺は城に戻り老師を頼ることにした。
城はまだまだ夜明け前、自室で寝ていた老師には申し訳無いが起きてもらった。ふらふらする老師を支えながら、老師の捜索魔法を横で見る。地図上に映し出される赤い二つの点はここより東へ百キロを示した。その場所にはナシアルタと呼ばれる渓谷がある。何故そこにセシル達が?いや、何となくそうではないかと思うことが頭から離れない。念のため老師にアイツの居場所も探してもらうとさっきの反応の直ぐ側にあった。アイツ、俺が王になったからセシルを!右手に力が入る。もう深く考えず、直ぐにでも行こう。アイツが何を考えているか行けば分かることだ。
着いた先はなかなかの絶景だった。その谷の見事なまでの垂直加減は強引に切り開かれたかの様だ。また流れる川は絶え間無く音を発し、その激しさと崖で反響するせいかこの地で起こる全ての音を掻き消してしまいそうな印象を受ける。
また二人を探そうとしていると隠すつもりもないのか、谷の反対にアイツはやって来た。
「やっと来たなレイ。遅かったじゃないか。」
「ああ、すぐ帰ってくると思ってたからな。どうして二人をさらったんだゼノ?」
ゼノは悪びれる様子もなくただにやりと笑う。
「すまんな、アイツを殺すには力が必要なものでな、お前の持つ魔剣リジルを借りようと思った訳だ。人間の方はついでだ、魔剣がやけに守ろうと動くのでな。」
沸き上がる気持ちを抑える。こういう時こそ冷静にならねば。リジルを連れ去ったということは相応の何かがある。それを見極めねば。
「二人を返してくれないか?」
「ああ、俺の用が済めば必ず返そう。」
「用ってのは父上を殺した後か?何故そうなったのか教えてくれないか?最後の試験の前に言ったろ、次期王が決まったときに言うと。」
舌打ちをした彼は少し怒りを混ぜながら言葉を発する。その一言目は耳を疑うものだった。
「俺とお前は双子ではない。異母兄弟であり、俺の母はヤツによって殺され、生きていた痕跡全てを消されたんだ。」
聞き取れはしたが、予想外のことに疑問符が浮かぶ。今までそんなこと一ミリも聞いたことがない。彼の話は続く。
彼の母はバーゼリアという名だったらしい。何故殺されたのか、それは彼女が人間だったからだ。父上も俺と同じく人間の女性を愛し、ゼノという子をなした。だが、国の大臣達はそれをまずいと感じた。表向きには俺の母上と結婚していた父上に隠し子が居り、それがまた人間という。このままでは国民の反乱が起こる恐れがあると踏んだ大臣達はゼノとバーゼリアを殺すという結論に至る。父上は勿論反論したそうだが、大臣達の勢いを押さえることができなかったらしい。その後バーゼリアは秘密裏に城に連れてこられ、大臣達の前で父上がその心臓に剣を刺した。彼女の最後の言葉は「どうかゼノだけでもお救い下さい。」という願いで、そこだけはどうにか受け入れられ、今ここにゼノが居る。
徹底した箝口令と後処理がされていたのか。大臣達もそこまで動くのか。この話は俺も思うところがある。今の話と同じ道を俺も歩んでいるのだから。このままではいずれセシルも・・・。
「どうだ、力を貸す気になったか?お前も同じなのだろう?」
話を聞いた後ではゼノの思いも分からんでもない。だが本当にそれだけで済むのだろうか。今の大臣達を始末したとしても、次に選ぶ大臣がどうかまで分からない。結局は全てを公にしてそれでも付いてきてくれる様にしなければいけないんだ。まあ、ダメであれば俺は王の座をベルにでも譲って何処かの僻地に行ってもいい。俺は同じ道は歩かん。
「ゼノお前の話は聞けんな。」
「そうか、では殺り合うしかないな。」
互いに剣を抜き、鋭い眼光を交わらせる。こちらこそ決着をつけさせてもらう。




