32.北の辺境
寝ぼけ眼を擦りながら、目を開けるセシル。俺と目が合いハッとなる。
「おはよう。」
「ごごご、ごめんね、レイ。」
慌てて起き上がり、
「こんなつもりじゃなかったの。」
と必死に弁明しようとするがその様子もまた愛らしい。ずっと見ていてもいいが、このままはかわいそうだな。
「別に構わないさ。俺もお前が側に居てくれる方が落ち着く。」
「ホント?」と覗き込むように見てくる彼女の頭を撫で、「ああ。」と伝える。安堵からか彼女は大きく息を吐く。少しして「じゃあ、また・・・」と小さく発し、口を止める彼女。その顔は赤い。続きの言葉を聞きたいが、それを止め。こちらから
「よかったら、また来てくれないか。」
と伝えた。こくこくと頷く彼女の手を引き、リビングへと降りた。リビングにはリジルがソファーで横になり、本を読んでいた。俺達に気付き、向けるその目は予想通りのもので、一つ小突く。
さて、そろそろ出掛けねば。食事は軽めに果物をつまんで、目的の北の辺境へと向かった。
北の辺境オーガスタ。そこは一面白銀で、空の青さと相まって絶妙なコントラストとなっている。目を奪われ、おもむろに足を踏み出すと、深く足を取られてしまった。大地の上に数メートルの厚い雪が積もっている様だ。踏み出す足はことごとくはまり、もどかしい。これではと村の位置を探し、一気に転位する。
村の入口、立ち止まってその全容を見渡す。村全体が、キレイに雪かきされ、村の周りを高い雪の壁が覆っていた。それでもまだ地面には達しないのか、建物は雪に埋もれており、普段は二階であろう箇所に出入口が見える。村に住む人々は毛の多いイエティなどが多く、そうでない者も居るが、厚手のコートで寒さを凌いでいる姿があった。
「珍しいな、あんた旅人かい?」
俺に気付いた体長二メートルはある男のイエティから声をかけられた。近くで見るとモフモフしていて触りたくなる容姿だな。
「ああ、ちょっと旅をしていてな。立ち寄らせてもらった。」
「そうか、よく来たな。俺はモノモフ、村を案内してやんよ。」
モノモフの好意に甘え案内してもらうことにした。村の主要部、旨い店、いい宿をざっくりと見たが基本的に単価が少し高めに感じる。寒冷地というのもあり、作物を育てられる時期に限りがあるせいでこれが普通なのだそうだ。また狩猟にしても獲ったり、獲れなかったりと波があり安定しない様だ。年により食料不足に陥ることもあり、どうしようもなくなったら国の外、人間の村や町行って略奪行為に及ぶこともあるらしい。同様に向こうから攻めて来ることもある様で、どちらも事情は同じとのことだ。こればかりは生きる為に必要な行為。争わず共生という道も食料事情が改善されなければただ苦しさを増すばかり。何か対策が必要だろう。
モノモフの案内は終わり、その後はおすすめの酒場でもっと詳しく村の話を聞くことにした。皆陽気でなかなかに楽しい酒の席になった。多くの話を聞けたがやはり村での困り事は食料事情、これに尽きるらしい。
対策は浮かばない訳ではない。地方を結ぶ街道の整備をすることで、流通を良くする。これにより雪で道が封鎖される前に他の村や町から物資を入れ、蓄えられる様にできれば多少改善されるとは思う。
しかし問題はこの村の人々の所得だ。流通が良くなれば食料が入ってくるのは確か。だが、この村としても何か売る物を用意しなければ、ただ浪費するだけ。
これには村人が出稼ぎに出るという手もある。街道整備により、他の村や町に行きやすくなるだろう。だがこれも労働力の減った残りの村人で作物の管理をできるのか、防衛の面で甘くなるのではないかなどリスクは幾つかある。精査する必要があるな。
別の案としては作物生産量を増やすか、特産を作り収入を増やすくらいか。まあこれもこの村のことを良く調べずには答えは出せない。今回はあまり時間は取れないが、また来たいな。




