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王の資質  作者: 誠也
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25.お気に入りの場所

 第二の試験が終わり、二日が経った。次の試験まで待つしかなく、取り敢えずロッジでのんびりとしている。昨日は久し振りに香の精製をしたり、リビングで優雅に紅茶を楽しんだ。

 やはり落ち着く。争いなど本来俺の仕事では無い。次の試験は穏やかなものだと願うばかりだ。

 リジルはというとまだ具現化したままだ。リジル曰く具現化するための魔力がまだ一割も減っていないそうだ。普段の大技に比べると燃費が良く感じる。ただリジルもなかなかに活発でセシルと共に森を歩き回っている。あまり暴れないといいが。


「たっだいま~!」


 噂をすればだな。


「ご主人お腹減った~。お昼は~?」


 ん、もうそんな時間だったか。時間を忘れてゆっくりし過ぎたな。


「すまん、まだ何もしてない。」

「う~ん、じゃどっか食べに行こうよ。」


 確かにたまにはセシルを外食に連れて行くのもいいな。またイマリの所か、いや、今日はあの町に行くとしよう。二人と共に転位した。

 うん、ここは変わり無い様だ。この町の名はモルト。ユリスが壊滅させた海の町ルーベルの隣町だ。以前ルーベルの町の生き残りをここへ運んだのだが、どうしているだろうか。あの服屋の娘は居るだろうか。二人に説明してまず服屋の娘を探すことにした。

 このモルトは交易の町として名が通っているらしく行き交う人間や馬車が多い。そのためか町の規模も大きく今まで見てきた中ではルーベルに次ぐ発展具合だった。

 俺はというといつも通り人間共から遠巻きに奇異な目を向けられる。セシルと人間に近い姿をしたリジルが隣を歩くお陰でまだ悲鳴は聞こえはしないが。それでもやはり噂を聞き付けてか兵士達がやって来た。大きな町だとこうなるよな。


「失礼、貴方は魔族であるか?」


 集まってきた兵士の中でも一際腕が立ちそうな青年が話しかけてきた。ん、まともなやつも居るのだな。


「そうだが俺に何か用か?」

「いえ、少々騒ぎになっていましたのでその確認に。もしや、貴方が噂の方ですか?」


 青年兵士はハッとした表情でそう言った。


「噂とは?」

「それは・・・。」

「あ、やっぱりあのときの!」


 青年兵士が話そうとするのを遮るように聞き覚えのある女の声がした。あの服屋の娘だ。娘は兵士達を掻き分けるように俺の元にやって来た。


「良かった。来てくれたんですね!」

「ああ、様子を見にな。」


 俺と嬉しそうに話すのを見て、周りの兵士や人間達は「なんだ。」、「大丈夫じゃないか。」と口にし散っていった。


「ミーファ、君の知り合いだったのか。」


 青年兵士が娘に語りかける。そうか、この娘はミーファというのか。


「うん、前に話した私を助けてくれた人だよ。」

「そうか、なら大丈夫だな。先程は失礼しました、では私はこれにて。」


 青年兵士が帰った後、娘に改めて自己紹介をした。名前すら知らなかったからな。娘の名はミーファ、こちらに移住してからは彼女のつてでまた新な店を構えることが出来たらしい。今は少し借金があるようだが、店も軌道に乗り、なんとか元の生活水準には戻っているそうだ。


「ご主人そろそろお腹が限界だよう~。」


 リジルはその言葉通り、腹の音が聞こえた。本当に人の様だな。少々話し込んでしまったか。ミーファにここでのオススメを聞くと、ミーファも丁度昼の休みに入るらしく、その店に案内してもらった。

 その店はパスタを主に扱っており、なかなかにオシャレで女性の比率が高い。というより店員を除き、男が俺しかいない。これはまた肩身が狭く感じるな。それにまた多くの視線を感じる。今日は二人と外食するのが目的だ俺一人があれこれ言ってはいけないな。

 少しして注文したミートソースが届く。パスタの固さもソースの絡み具合も申し分ない。確かに旨いな。


「ねぇミーファちゃん。さっき話してた兵士って彼氏?」

「えっ何で!?」


 ミーファはリジルの言葉に同様を隠せない様子。そういうことらしい。


「ふふふ、お姉さんにはお見通しなんだよ。ほれ、聞かせてみ~。」

「う、うん。リジルちゃんの言う通りさっきのソラくんとはお付き合いさせてもらってて。でもほんの一週間前くらいからだよ。こっちに来て困ってる私を凄く助けてくれて。優しいし、便りになるし、この人と付き合いたいて思って告白したの。そしたらオッケーもらったってところかな。でもまだ付き合って間もないからそのくらいしかないよ。」


 恥ずかしそうに話すミーファを前にリジルとセシルはニコニコとしている。やはり恋バナが定番なんだろうな。


「そういえば、セシルさんとレイさんもお付き合いしてるんですよね。」


 ドキッとする。やはりこっちにも話が来るよな。セシルと顔を見合わせる。


「それがさ~ミーファちゃん。この二人はねちょっと質が悪いんだよ。お互いに好きなのにハッキリしないんだから。見てるこっちがもうわぁーってなるくらいもどかしいんだよ。」


 もうこの話も何度も聞いた。もう腹の中では答えを出しているのに俺自身声に出すのを恐れてるんだよな。


「ほれほれご主人、お答えをどうぞ~。」


 こいつ俺がまただんまりを決めると思っておちょくってるな。はぁ~、リジルにのせられてようで気にくわないがその場の勢いを利用させてもらおう。


「セシルちょっといいか。」

「えっえっ。」


 セシルが取り乱している。


「おおー!ついについにこのときが!」


 リジルが煩い。それに周りの女性客の目も気になる。

 セシルの肩に手を置いた。〝転位〟。


 転位先はジルヴァニアの城南側の塔の屋根の上。俺のお気に入りの場所だ。「ここはどこ?」と尋ねるセシルに説明する。


「セシルここはジルヴァニア、魔族の国だ。その城に今俺達は居る。ここは城の中で俺が一番気に入ってる場所だ。ここからは国を一望できるんだ、どうだセシル。」

「凄く大きな国だね。ここでレイが生まれたんだね。」

「ああ。俺は今この国の王となろうとしている。まだ試験は途中決まったわけではないが、なった暁には国をもっと良きものにしていきたいと思ってる。」

「レイならきっとできるよ。」

「ありがとう。・・・セシルその道のり、いや、もっと先までお前と共にいたい。好きだセシル、俺と付き合ってくれないか。」

「はい。・・・って随分待たされた感じがするな。」

「いや、俺だって凄く悩んだんだ。種族の違いだとか色々あってだな・・・。」


 その後二人して笑いあった。せっかく覚悟を決めて告白したんだかな。雰囲気台無しな気がする。

 パスタの店に戻るとリジルにミーファ、店中の女性客が詰め寄ってきた。一応報告すると拍手が巻き起こる。なんだかむず痒い。

 恋仲にはなった訳だが、結婚となるとまだ障害がある。まずはそう父上だ。何て話せばいいか。いや、情けないことは考えぬ。

 取り敢えず今はこの幸せに身を委ねよう。

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