23.修練の塔
ここか。聳え立つその塔は見上げると雲が掛かり頂上隠れている。横にも広く直径三十メートルの円柱状の塔だ。
試験の日を迎え、町外れにある修練の塔を訪れた。監視役としてオルフが入口で待っていた。彼からまた一通り説明を受ける。といっても試験は一発勝負で負ければそこまでが記録となるということだけだ。
大きく深呼吸し、中へと進む。
塔の中は単純な造りで、階層毎に広い部屋一つと上へ続く階段しかない。その部屋の中央にはその階層のフロアマスターが待ち構えていた。
「レイ様、お初にお目にかかります。私は第一階層が主、ボルフガング少尉であります!」
一階層は少尉クラス、剣を扱うオーソドックスなタイプと聞いた。さあ、油断せず行こう。
オルフの合図で試合を開始する。ボルフガングは動かず、こちらを窺っている。では、こちらから攻める。踏み出し間合いを一気に詰める。そのまま剣で一撃を与える。ボルフガングは反応できず、受けた攻撃の勢いそのまま壁まで飛んでいく。ドカッという派手な音を発し壁にめり込んだボルフガングは気を失っていた。
オルフが俺の勝利を宣言する。よし、まず一つ。
その後も順調に勝ち進み、今は十三階まで辿り着いた。ユリスが敗れた八階のマクベル中将は思ったほど魔法の腕はなかったので、簡単に勝つことができた。ちなみにベルは十二階までだったらしい。十二階の剣聖コジロウは剣術の腕はなかなかだったが、俺と同じレベル。魔法で上回る分俺が勝てたという訳だ。師匠の言った通り二年前の俺なら負けていただろうな。
さて、十三階の相手は大魔導師アルルアリ。彼は確かに凄い魔力を持っている。だが、技量は俺の方が上。コジロウよりも剣術が無い分俺にとっては楽に勝てた。
階段を更に上へと昇る。さて、次はどんなやつだ。
「良く来たなレイ。待っていたぞ。」
十四階のフロアマスターは俺の知った顔だった。スレンダーな体にシルバーの髪の綺麗な容姿。フォーマルな白の服のみで鎧は纏っていない。キリッとした顔に頭には特徴的な角が生えている。彼女はレイラ・ヴァンクリーフ、父上の妹で俺の叔母にあたる人だ。
「レイラさんがフロアマスターとは思いもしませんでした。」
「そうだな。いつもは旦那がやっているのだが、少々熱出してしまってな。私が代役を引き受けたわけだ。」
レイラさんは父上の兄妹の中で父上に次いで強い。彼女は魔法剣士として魔法、剣術どちらも超一流の腕を持ち、今の師匠の前に教えを乞っていた人だ。腹をくくらないとな。
オルフの合図がかかる。その瞬間彼女の姿が消えた。まずい〝転位〟!後方に移動したが、先程俺が居た場所には彼女の姿があった。
「初手は避けたか。まあ、私が幾度となく教えた戦法だがな。」
そう、転位による瞬間移動からのゼロ距離攻撃。間合い等関係無く、死角から攻撃するそれは同じく転位魔法の使い手か余程の者でなければ回避するのは不可能だ。対処は向こうが消えた瞬間にこちらも転位で移動すること。
しかし、転位魔法使い相手にこればかりではお互い何もできないままだ。彼女も次の手で来るだろう。
だが、その前にこちらから攻める。〝極重力〟。師匠には効かなかったが、どうだ?彼女は一瞬膝を曲げただけで直ぐ様元に戻った。防御魔法を張ったのだろう。さすがに対応が早い。まだまだ行くぞ。〝極熱線〟。〝極空斬〟。反撃されぬ様に追撃を加える。しかし、彼女はそれら全てを剣で捌く。光速の熱光線と全方向からの風による斬撃をものともしないとは。それに今のやり方、転位で避けるまでも無いということか。
彼女はゆっくりとこちらへ歩いてくる。完全にナメられてるな。
遠距離は効かない、また課題の近接戦闘か。全身に強化魔法を付与し、彼女に向かい踏み出す。前後左右からフェイント混ぜ剣を振るがどれも受け止めらる。
「どうしたレイ。これでは私は倒せんぞ。ふっ。」
彼女の神速の横薙ぎを辛うじて剣で受け止めたが、その威力に後ろへ飛ばされる。受け止めた剣は折れ使い物にならない状態となった。
「剣がそれでは戦えんな。降参するかレイ?」
まだ負けを認めるわけにはいかない。
『リジル、手を貸してくれ。』
『待ってましたー!もうお姉さん頑張っちゃうよご主人!』
リジルを鞘から出す。それを見てレイラさんの顔付きも変わった。
「魔剣リジルか、これは私も本気を出さねばな。」
しゃがみ込み床に手を置くレイラさん。すると床が光り陣ができた。その陣からは鎧が現れた。右手に長剣、左手に盾を持つその鎧は自立し動き回る。リビングアーマーか。
「主よ、また我を呼んで頂けるとは恐悦至極に御座います。」
「うむ、久しいなスバル。」
「此度の敵はあやつに御座いますか?」
「そうだ、やつは私の甥だ。今日は指導の様なものだが手は抜くな。」
「ハハ。」
跪くスバル。
レイラさん一人でも厳しいのに召喚魔法とは、これはリジルを使ってもどうにかなるのか・・・。




