21.休暇の終わり
「はぁ~。」
思わずため息が出る。
「どうしたのレイ?」
項垂れている俺を覗き込むセシル。
「いや、今度の試験なんだが、俺の師匠も試験官の一人に入っていてな。それがちょっとやそっとじゃ乗り越えられなくて困っていた所だ。」
「確かに知った人とはやりづらいよね。」
そういうレベルではないがな。
そう言えば今日はやけに静かだな。アイツまだ寝てるのか?うん、無理に起こさない方がいい。そう思っていたら寝室から勢い良く出て来た。
「はぁ~、もうお父様ったら融通が利かないんだから!」
出て来て早々に機嫌が悪いシャーリー。一体何があったんだ?
「ねぇシャーリーどうしたの?」
「うん、さっきお父様から念話があって仕事が入ったから直ぐに帰ってきなさいって言われたの。もう少し休みを頂戴って言ったら、そんなワガママばっかり言うなって。それで、念話を切られたんだけど、私は念話が使えないから話はそこまで。」
「う~ん。でも、お仕事はちゃんとした方がいいんじゃないかな?」
「セシルまで、お父様の味方なの?」
「いや、そういう訳じゃないよ。」
セシルは少し困惑した様子でこちらに助けを求めてきた。シャーリーの扱いはセシルの方が上手いんだがな。
「シャーリー、あまりセシルを苛めてやるな。またいつでも来れるだろ?」
「レイも、もう知らない!」
シャーリーはロッジの外へと飛び出して行った。そんなに帰るのが嫌なのか、セシルと顔を見合わせる。どうしようという顔をするが、俺は「ほっておけ。」と言うと少しガッカリしたような顔をしてセシルも外へと出て行った。こういうときのシャーリーは俺の言うことを聞かない。落ち着くまでしか待つしかない。だが、セシルの気も悪くしてしまった。う~ん、旨い昼食でも作っておくか。
森の中を駆ける。少し息が苦しくなったところで、立ち止まった。
何よ、何なのよ!二人して私が居ない方が良いの?このままだと二人の距離がどんどん縮まっちゃうじゃない!
でも、ホントは分かってる。レイは私じゃなくて、セシルの方に気があるんだって。それにセシルもスッゴいいい娘だし。それでも、それでも、諦め切れないじゃない!だって私の方が先に好きになったんだもん!
もし、セシルが居なかったら・・・。
ああ、ダメダメ悪いこと考えちゃ。そんなことできない。セシルは大好きな友達の一人。それにもしそれをやってしまえば、レイは一生こっちを見てくれなくなる。
どうしたらいいのよ・・・。
「お、シャーリーじゃねぇか、お前も散歩か?」
「ジ、ジーク。」
「おい、どうしたんだよ何があったんだ?」
「えっ。」
ジークが慌てた様子でこちらを見てきた。気付いたら、私の頬を涙が伝っていた。あれ、いつの間に出てたんだろ。うそ、止まらない。
その場に座り込む。ジークも隣に座り、何も言わずに背中をさすってくれる。すると溜まっていたものが吹き出した様に嗚咽が止まらなかった。
暫くして、全部出し切ったら、ちょっとスッキリした。
「ありがと、ジーク。」
「構わねぇよ。」
横で笑うジークにつられて少し口元が緩む。
「シャーリー!ジーク!」
セシルが私を探しに来てくれたみたい。でも、レイの姿は無い。合流したセシルから「あんまり心配させないで。」と怒られた。今までと立場が変わってなんだか可笑しい。
ジークはそれじゃあと帰って行った。またお礼をしないといけないわね。
「セシルごめんなさい。ワガママが過ぎたわね。私家に帰るわ。でも、一言だけ言わせて貰うわ。あのバカレイを譲る気は無いから!」
右手人差し指を向けて宣言した。
「えっ!う、うん、私も負けないよ。」
セシルも一瞬驚いた表情を見せたが、両拳を握って対抗してくる。でも、お互いその姿が可笑しくて笑いあった。
ロッジに戻るまでレイに対する想いをお互いに暴露しあった。どちらも大体思ってた通りって感じだった。
このときセシルがただの友達から親友に、そしてライバルになった。うん、絶対負けない。
ロッジに着くと、当の本人は何も知らないって感じに昼食を作っていた。このバカレイめ。まあ、料理は美味しかったけど。
「じゃあセシルまた来るわ。」
「うん、またねシャーリー。」
レイの転位魔法で家に戻る。
よし、さっさと仕事を終わらせてまた戻るんだから!
ロッジに戻り、一息つく。シャーリーが帰った。今回のアイツが居た期間、いつもよりなんだか大人しかった気がする。最初はいつも通り横暴だったが、セシルと会ってからか、変わった気がする。これからもこのくらいなら普通に遊びに来てもいいんだがな。また呼んでやるか。




