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王の資質  作者: 誠也
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2.森のロッジ

 背の高い木々に囲まれた中、二階建てのロッジが建っている。別荘にと城の者には秘密で建てたものだ。森の中ではあるが、日当たりは良く、足下には赤や黄の花が彩りを添えている。一つ呼吸をすると澄んだ空気が心地良い。ここはポプリの森と言い、香の材料となる植物が良く採れる。これはと趣味で香を作り始めてから、至高の一品を目指し精製するのが今の楽しみだ。隣でゆっくりと大きく呼吸をするセシルに安堵の様子が窺える。


「静かないい場所ですね。」


 口尻を少し上げ微笑む彼女の横顔に「ああ。」と俺も少し顔を綻ばせる。彼女の手を引き、ゆっくりとロッジの中へと導く。入口に五段程の階段があり、手摺と俺の左手を頼りによたよた昇る姿もまたどこか愛らしい。中に入り、リビングのソファーに座らせるとロッジについて説明をした。一階はリビングにキッチン、トイレに風呂、空き部屋が二つ。二階は俺の寝室と書斎、香の研究室となっている。それから一階の空き部屋の一つをセシルの部屋にすることも伝えた。


「今後についてだが、俺もそれなりに忙しく、ずっとお前に付いてはいられない。まあ、必要な物は大体揃っているから不自由は無い筈だ。それでも、どうしても俺が必要になったときの為にこれを渡す。」


 白金の指輪を彼女の掌に乗せる。「これは?」と首を傾げる彼女を見て伝える。


「指輪の名は特に無いが、この指輪を嵌め、強く念じると距離に関係無く指輪を嵌めた者同士で念話ができるようになる。困ったら使ってくれ。」


 説明後、彼女は左手薬指に指輪を嵌めると顔を赤らめ何やらそわそわし出した。指輪は連絡用で他意はないのだがな。まあ、好きにするといい。


「あのレイ、あなたのこと聞いてもいいですか?」

「俺か?止めておいた方がいいと思うが。」


「どうして?」といった風に彼女はまた首を傾げる。伝えてもいいが、正体を知ると怖がるだろうな。そうなれば面白くない。この場は誤魔化すか、いや・・・。一時の沈黙が気まずい。


「ごめんなさい、困らせてしまって。この話は止めましょう。もし、レイが言ってもいいって思えたらそのときに教えて下さい。」


「いいのか?」と戸惑う俺を「はい。」と彼女の優しい声が抑える。ふっ、俺の方が怖がってるのかもな。場が落ち着きを取り戻した所で彼女に食事を用意した。まずは肉を付けるべきだと少し多目に作ったが、食の細い彼女にはきつく、半分も入らなかった。残りは皿ごとロッジの前のテーブルに置いておいた。その内()()()がやって来て食べるだろう。中に戻り、彼女のベッドを用意する。と言ってもここには俺のベッドしかない為、二階から彼女の部屋にそれを移動させただけだ。また新たなベッドを拵えるとしよう。さて、城の方はもう朝になってる筈だ、そろそろ戻らねば。


「セシル、俺は暫くここを空ける。何かあれば連絡しろ。」

「はい、帰りを待ってますね。」


 声の中にどこか寂しさを見せる彼女の頭にポンと手を乗せ、「心配するな。」と伝える。手から伝わるセシルの体温が少し上がるのを確認し、俺は城へと転位した。


 城の自室、さっきのロッジの一階分の面積はある広い部屋に、大きなベッドと机、箪笥に本棚が一つだけ置いてある。シンプルな部屋好きだとか、物をあまり持たない主義という訳ではない。以前この自室に私物を置いていた頃、従姉妹が遊びに来て滅茶苦茶にされた記憶が尾を引いており、基本私物はロッジに置くことにしているだけだ。まあ今となっては、セシルが暮らすに丁度良い。魔法により身なりを整え父上の下へ報告に出向く。この時間は部屋で朝食を取っている筈だ。

 廊下へ出るとメイド達が掃除をしていた。俺に気付くと皆一様に礼をしたまま動きを止める。位の高い王族や貴族にこの様な反応をするのは一般的なことだ。しかし、俺にとっては止めて欲しいことの一つである。王である父上は確かに凄い、俺も尊敬し、国民皆からも慕われている。だが俺はそんな父上の子供というだけだ。ただ運良く王族に生まれただけで、自分にはまだ何の力もない。今まで気ままに過ごし、敬われる様なことは何一つしてこなかった俺にそんな対応しないでくれという思いがある。まあ、そんなこと思っていても相手としては関係無い、位の高い者への不遜な対応は命に関わることもあるのだ。今は仕方無いと思いつつ、分相応になるためにも少しずつ実績を重ねるしかない。少し力のいることだが。

 廊下を足早に移動する。父上の部屋は城の三階の北側、俺の部屋が三階の南側にあるので丁度反対だ。部屋の前に護衛が二人立っているが、特に気に掛けず、ドアをノックし中に入る。父上はソファーに凭れ、カップを片手に食後のコーヒーを楽しんでいた。もういい歳だというのに一向に衰えを見せない逞しき体と角。まだ現役を続ければ良いと思うのだが、本人は頑なに次の王を立てようとしている。理由も教えて貰えないまま急に話が舞い降りたこちらとしては迷惑極まりない。それはそれとして、


「父上、報告に上がりました。」


 父上の前に跪く。


「レイよ、報告とは何だ?」

「はい、この地より遥か西の土地になりますが、新たな領地を獲得しました。こちらを献上いたします。」

「うむ、ご苦労であった。オルフ、いつも通り頼む。」


 父上の後ろに立つ長身の男は「はっ。」と返事し、礼をする。父上専属の執事のオルフだ。新しい領地についてオルフに説明すると、必要な処理を一手に担ってくれる。彼もいい歳だが中々に聡明で、仕事が早い。後は任せておけば良いだろう。部屋を失礼し、自室に戻る。するとそれを見て、メイドが朝食について尋ねてきたので、運んでくれと頼んだ。椅子に座り凭れ掛かると机の上の手紙が目に入る。さっきはこんなものあっただろうか?差出人は・・・シャーリーだと!?シャーリーとは俺の従姉妹の名である。そう、この部屋を滅茶苦茶にしたあの従姉妹だ。嫌な予感しかしないが取り敢えず封を開け中を確認するしかない。


『レイへ

  久し振りね、どうしてるかしら?

  こっちはやっとお父様の外交の付き添いが終わったとこなの。

  政治の話なんてやっぱり退屈ね。

  そういう訳でお休みに入ったから、またそっちに遊びに行くわ。

  今月の七日には着くから。またね。

  シャーリー』


 ななななシャーリーがまたやって来る。しかも七日とは今日じゃないか。早く逃げなくては。そう思った矢先、強烈な打撃音と共にドアが勢い良く開いた。


「レイ、来たわよ!」


 開いたドアより、二本の角を生やした小柄な少女が入ってきた。お、遅かったか。

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