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王の資質  作者: 誠也
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18.秘薬

 城に戻った俺達は採取した素材を確認した。幻竜ジグリスの血、怪鳥ザイレンの涙、一角鯨ロロノフの角。これでミルマールの持つ素材と合わせてエリクシールが作れる筈だ。

 集めた素材を俺のアイテムボックスに入れた。


「じゃあ、行ってくる。」

「頼んだよ、お兄ちゃん。」


 頷いて、ミルマールのもとに向かった。


 ミルマールの家に着くと、彼女は庭の畑手入れをしていた。オーバーオールに麦わら帽子、手には軍手をはめて雑草をむしっている。


「ミルマール。」

「ん、レイさん!こちらに来られたと言うことは素材の内容の再確認ですか?」

「いや、もう集まったんだ。」


 アイテムボックスから素材を出して見せる。ミルマールはそれらを見ると目を丸くして、


「えっ、嘘でしょ!だって、まだ、えっ!?」


 と混乱し出した。素材集めが思ったよりも早かったらしい。最後には、「私が素材を集めようとしたときには珍虫ベヘナの体液だけでも一年半かかったのに・・・。」と愚痴を漏らしていた。

 取り敢えず気を取り戻してもらい、エリクシールの作成に取り掛かる様に頼んだ。


「分かりました、これから作ります。ただ、作るのが初めてなので、ちょっと時間が掛かりそうです。」

「ああ、それは分かってる。こちらもできるまで待つさ。それよりもミルマールが作業している間、そちらに集中できる様に家事や身の回りのことは俺がやろうと思うが構わないか?」

「ホントですか!それは助かります。じゃあ、頑張りますね!」


 それから、ミルマールは家の中の研究室に缶詰め状態になった。その間俺は食事の支度、畑の手入れ、掃除や洗濯等一通りを請け負った。時折様子を伺うとエリクシールの精製に没頭しており、用意した食事にもあまり手を付けていないのが見受けられる。俺もそうだが、面白いと思ったらとことんやってしまうタイプだな。見守ろう・・・。

 ん、いかん。寝てしまっていた。ミルマールは・・・居ない!?トイレ、それとも風呂か?いや、何度か様子を見に来たときに、置いてあったリュックが無くなってる。何処に行ったんだ?まさか、持ち逃げ?取り敢えず、彼女を探そう。魔力探知を使い、彼女の居場所を探る。あった、ここから西へ一キロか。〝転位〟。


「わ!レイさん!どうしてここに!?」


 ミルマールは突然現れた俺を見て大きく驚いている。ここは森の様だな。


「いや、それはこっちの台詞だ。お前こそどうしてこんな所に居るんだ。」

「ああ、それはですね、エリクシールができたことはできたんですが、効果が確かか分からないので、ここら辺に居るウサギとかを捕まえて試そうかなと思いまして。」

「それなら、出掛ける前に行ってくれ、心配したぞ。」

「ごめんなさい、起こしちゃまずいかなと思ったので。」


 ふう、思い違いで良かった。

 その後、ミルマールとウサギを三匹捕らえ、彼女の家に戻った。

 それから実験を始めた。まず怪我に対しての回復だ。軽傷では、普通の回復薬と区別がつきにくいからと、ウサギに致命傷を与える。息を引き取る前にエリクシールを飲ませ、反応を見る。すると、ウサギの傷口はみるみる塞がり、健常な状態に戻った。一つ目は成功だ。次に状態異常に対しての回復の実験を行う。ウサギに猛毒や麻痺の針を射ったり、発症までが早い病原菌を取り込ませた後、効果を試し、いずれも健常な状態に戻るのを確認できた。


「レイさん、効果は確かです。これならレイさんのお父さんもきっと良くなる筈です。」

「ありがとうミルマール。感謝してもしきれない、何か返せるものは無いだろうか?できる限るの礼がしたい。」

「そんな、いいですよ、私も念願のエリクシールが作れたんですから。それで十分です。」


 そう言ってミルマールはニコっと笑顔を見せる。再び頭を下げ、城に戻った。

 父上の部屋に行くとベル達が父上が寝ているベッドの横でじっと様子を見ていた。皆俺に気付くと一様に寄ってきた。完成したエリクシールを見せると、直ぐ父上にと急かされる。苦悶に満ちた表情を見せる父上の頭を起こし、エリクシールを飲ませた。ゴクリと喉を通る音がした後、少しして表情が徐々に明るさを取り戻していった。目を開ける父上は何があったのか分からないという顔をする。ユリスは泣きながら父上に駆け寄り抱き付いた。


「どういう訳か体の痛みが無い。レイ、何をしたのだ?」

「はい、エリクシールを作り、父上に飲ませました。」

「何と、あのエリクシールをか!ほう、それでわしの病も治ったという訳か。それは手間を取らせたな、礼を言う。」

「いえ、今回の件は俺だけではありません、多くの助けがあり、為し得たことです。」

「そうか、それはまた礼をせねばならんな。」


 部屋に立ち込めていた悲壮の空気は消え、温かな空気が張り込む。皆顔に笑みが灯り、発する声も明るい。頃合いを見てオルフが紅茶とクッキーを運び入れ、皆で卓を囲み一息をつく。


「父上、病が治ったのですから王を継続されてはどうですか?」

「いや、王は降りる。病にかからずとも次の世代に引き継ぐとは決めていたことだ、考えを変えはしない。ちなみに一番成績を上げているのはゼノだが、次点のレイと差は倍ほどある。次の試験を前に少々差が開き過ぎてはいるな。」

「えっと、試験は一つでは無いのですか?」


 皆目を丸くして父上を見る。


「そうだ。全部で試験は三つ考えている。今している領地の拡大、これは国の為に無慈悲になれるかを判断している。平和主義を唱えることは立派だが、国が攻め込まれても何もしない様な無能では話にならない。侵略行為により、時に悪になる心を芽生えさせるのがこの試験の本質だ。ゼノは些か行き過ぎても見えるがな。さて、この一つ目の試験は幕としよう。次の試験はまた後日伝える。オルフ、このことはゼノにも伝えておけ。」

「かしこまりました魔王様。」


 オルフはさっと部屋を後にした。

 さて、俺もロッジに戻るか。と思ったそのとき部屋の扉が勢いよく開いた。


「兄さん!病気の正体が分かったよ・・・あれ?兄さんぴんぴんしてる?」

「どうしたのお父様!早く伝えなきゃ・・・ん、どういうこと?」


 ガイさんとシャーリーが部屋の入口で呆然と立ち竦む。あ、忘れてた。入口近くにいたベルが二人に説明する。


「よ、良かったぁ~。でも、もうちょっと早く教えて欲しかったな。」

「そうよレイ、私達あちこち走り回ったんだから!」


 部屋に笑い声が響く。その後、シャーリーもロッジに来ると言うので一緒戻った。


「セシル~、ただいま!」


 シャーリーがソファーに座るセシルに抱き付く。


「お帰りシャーリー。レイもお疲れ様。二人とも帰って来たってことは上手くいったんだね。」

「ああ、なんとかな。それよりもセシルお前に飲んで欲しい薬がある。」

「薬?私風邪とかひいてないよ?」

「セシル私からもお願い、騙されたと思って飲んでみて。」

「騙されたって、何か怖いな。でも二人が言うなら飲んでみるよ。」


 アイテムボックスからエリクシールの入った瓶を出して、コップに注ぎ、セシルに渡した。それからセシルは一口それを口に運ぶ。味は不味い様で、変な表情を見せたが全部飲み干してくれた。


「セシル、目を開けてみてくれ。」

「えっ、う、うん。」


セシルは目を開けた瞬間、眩しさからか直ぐに目を閉じたが、ゆっくりと慣らしながら、その瞼を上げていく。見えるようになったのだろうか、困惑した様子を見せる。そしてハッとしたように


「レイ、シャーリー、私目が見える!見えるよ!」


とこちらを見上げる。セシルは俺達の顔を初めて見るからだろうか、一瞬動きが止まる。


「ん、思ってた姿と違ったか?」

「うん、二人ともいい意味で期待を裏切られたかな。これからもよろしくお願いします。」

「こちらこそ。」

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