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王の資質  作者: 誠也
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16.幻竜ジグリス

 辺りはじめじめとしており、水溜まりや青々とした草が点在している。

 老師の探知魔法で調べた幻竜ジグリスの居場所に来たわけだが、湿地だったのか。


『うへ~、なんだか湿気が凄くて気持ち悪い。』


 確かにこの湿気は気持ちのいいものではないな。それにしても竜の姿が見えない、竜種は小さくとも十メートルはあるはずなんだが。〝魔力探知〟。ん、確かに五十メートル前方に大きな反応はあるが姿は見えない。

 しかし、その反応は凄まじい速度でこちらに向かってくる。透明な竜か!〝『重』魔障壁〟。透明な魔力でできた厚い壁を目の前に展開させる。極大魔法をもしのぐことのできる壁だが、竜はいとも容易く突き破り、俺は体当たりをくらった。三十メートルは飛ばされただろうか、骨や内臓はまだ支障をきたす程ではないがやられてるな。アイテムボックスから回復薬を取り出し、一気に飲み干す。ふう、壁で多少は勢いを抑えているだろうが、それでもなおこの威力。まともに攻撃を受けるのは身が持たないな。


『ご主人、大丈夫?』

『ああ、なんとかな。』

『ねえねえ、見えない相手なんだし、泥をかけるとかして見えるようにしちゃおうよ。』


 確かにこの湿地なら泥が用意しやすいな、それに上手く目に入れば動きを狂わせることもできる。


『リジル、協力頼むぞ。』

『ほいさ~。』


 リジルを地面に突き刺す。〝土流衝〟。全方向に向け、高さ五十メートルはある泥の波を起こした。俺の魔力をリジルに通すことで魔力が増幅され、通常の数倍の威力となって魔法が放たれるのである。泥の波はジグリスを捉え、その姿を露にした。全長三十メートルのどっしりとした体に、硬質な鱗を纏っているのが窺えた。ジグリスは羽をはためかせ浮かび上がり、身を振るわせる。全てではないが泥が落ち、点々とした模様が残る。

 これで戦い易くはなったな。欲しいのは血だが、動きを止めねば採取は難しい。


「ジィガァァァーー!」


 ジグリスは叫ぶとともに、周囲に霧を発生させた。

 なっ!これでは何も見えん。泥を付けた意味もない。魔力探知で大体の場所は分かるが、腕や足などの長さは把握できない。つまり、まだ少し距離があると感じても、実際はもう目の前にジグリスの爪があるという事態にもなるのだ。

 試しに暴風魔法で霧を払っても、すぐさま新しい霧を発生させる。魔力探知を頼りに遠距離から攻撃魔法を放っていくが、地水火風どの属性も効果は薄い。

 思っていたよりも厄介な相手だ。


『ご主人、私ちょびっと本気出していい?』

『ああ、ここはお前に任せる。』

『やったー!派手に行っくよ~!』


 リジルが俺の魔力を吸い出した。その魔力は彼女に溜まり、刀身は禍々しいオーラを纏っている。


『充填完了!うりゃあぁー!』


 切先から高密度な魔力の光線が放たれる。その速度は光の如く、霧を払いながら一瞬にしジグリスの体を捉え、その右半身を抉った。

 霧は晴れ、ジグリスの姿が露になる。ジグリスはその痛みからか暴れまわっているが、次第に動きを止めその場に横たわった。


『どーよご主人、私すっごいでしょ!』

『本当にいつ見てもとんでもない破壊力だな。』

『えっへん!』


 リジルのお陰で幻竜ジグリスを仕留められた。血が固まらない内に採取してアイテムボックスに取り込む。その他に鱗を一枚剥いで見るとその下の肌は緑になっていた。透明な姿のタネは鱗にあるのか。これを使えば面白いものが作れるかもしれないと、ジグリスを丸々アイテムボックスに入れた。さて、戻るか。

 城のブラッドリー老師のもとに行くと、居たのは老師とユリスだけでまだ二人は帰ってきてない様だ。


「レイ兄、もう素材は採れたの?」

「なんとかな。他の二人はまだみたいだな。」

「うん、ずっと待ってたけどレイ兄が一番だよ。」


 二人の手伝いに行くか。〝念話〟。


『ベル、レイだ。そっちは今どうなってる?』

『ん、お兄ちゃん?えっとね、ロロノフの居場所は分かったんだけど、海底一万メートルでさ、そこまで行くのはちょとキツいなって思ってて、上がってきてくれるのを待ってるの。』


 海底一万メートルか、それは確かに厳しいな。


『わかった。任せた。』

『うん、お兄ちゃんはリオを手伝ってあげて。』


 ベルとの念話を切り、リオに繋ぐ。


『リオ、俺だ。今どうなってる?』

『兄さん?もう素材採れたの早いな。こっちは怪鳥ザイレンを見つけて今目の前に居るんだけど。何をしても涙を出さないんだ。』

『わかった、俺もそっちに行く。』


 転位先は岩山で、なかなかの高地だ。崖の中の少しの窪みを利用し作られた巣が見え、その隣にリオの姿があった。


「リオ、そいつが怪鳥ザイレンか?」

「うん、そうみたい。」


 体長はそれほど大きくないが、七色に染められた毛と不格好な頭に大きな目と正に怪鳥だな。こちらを見ても逃げようとはせず、じっと佇んでいる。

 リオの話によると、叩く等の直接攻撃をしてもびくともしない程の固さを持っており、笑わせたり、催眠魔法で欠伸を誘ってもムダだったらしい。


「リオ、一番簡単なのが残ってるじゃないか。」

「えっ、何かあったっけ?」

「すぐ取ってくる、待ってろ。」


 一度ロッジに戻り、それを持ってきた。


「そうか、玉ねぎか!うっかりしてたよ。」


 ちょっと抜けているのがリオらしい。

 早速、ザイレンの前で玉ねぎをみじん切りにする。するとすぐ効果が出てザイレンは目に涙を浮かべた。その滴が落ちる瞬間逃さず瓶に採取した。

 これで残るはロロノフの角だけだ。ベルに念話を繋いでみるがまだ浮上してこないらしく、手が出せない様だ。今日もいい時間になる、一度イマリを送らなければな。

 ロッジに戻るとイマリはソファーで寝ていた。その横にセシルが座り、編み物をしている。


「お帰りレイ、どうだったの?」

「あと一つを残して他の素材は集まった。もう少しだ。」


 エリクシールができて、その効果が確かなら父上の病気が治る。その後はどうなるだろうか、試験の通り数をこなしたゼノを王とするのか、父上が王を継続するのか、今回の件は行き当たりばったりだしな。

 寝ているイマリを抱え村に送った。


「今日もすまないなイマリを連れ回して。」

「構わねえよ。イマリも兄弟が出来たみたいに毎日楽しそうにしてるしな。病気のことが済んでも遊んでやってくれよ。」


「そうだな。」と顔を緩ませて返事をする。

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