15.眉唾の解決案
今日も行く先々で会う女性は冒険者や薬剤師であったりしたが、目当ての女性にはなかなか当たらない。
「レイ、次はどの辺なんだ?」
「次は・・・ワーゼル高原だな。この辺に町や村は無かったはずだが、まあ行ってみるとしよう。」
転位したワーゼル高原に町や村は無く、家が一軒ポツンと建っているのが見えた。近くに寄ると赤い屋根の平屋の横に畑や井戸があり、ここで暮らす人間が自給自足しているのが分かる。屋根から突き出す煙突の煙を見るに、丁度在宅している様だ。
ドアをノックすると、「はーい、今行きます。」と優しい女性の声が返ってきた。しばらくしてドアが開くと、緑のローブに身を包んだ、少し背の低い女性が現れた。彼女は俺を見るや否や凄い形相をし、後ろへと倒れていく。危ないとすぐさま彼女の背中に手を伸ばし、事なきを得たが彼女はピクりとも動かない。どうやら気絶した様だ。やれやれ、いきなり倒れられるとは俺はそんなに怖いのだろうか?
このままではと、彼女を家の中のベッドに運んだ。とにかく彼女が起きなければ話が進まない、待つとしよう。
そう言えば、煙突から煙が出ていたな、台所へ行くと火をかけた鍋が見えた。鍋を見るにポトフを作っていた様だが、肉が無い。ベジタリアンなのだろうか、そんなことより火を消しておこう。薪を処理し、彼女の居る部屋に戻った。
うなされている様子から、もうじき目が覚めそうだと思うが、また俺を見て倒れはしないだろうか。いや、さっきは俺しか見えなかったはずだが、今は隣にイマリが居る。どうにか耐えて欲しいものだ。
それから三分ほどして、彼女は目を覚ました。
「う、うーん、あれ、何で私ベッドに・・・ひいぃ~。」
俺を見て後退りする彼女。何だろうこの既視感は。隣のイマリを見ると、顔を伏せて少し体を震わしていた。イマリ、お前もこんな風にしてたんだぞとツッコミたくなったが、今は彼女を落ち着かせたい。
「勝手に家に上がってすまない。だが倒れたお前をそのままにしておけなかったのでな。俺はレイという、できればお前と話がしたい。」
彼女は初め何がなんだか分からないという表情を見せたが、徐々に落ち着きを取り戻していった。
「わ、私はミルマールといいます。話とは何ですか?」
びくびくしつつも話しかけてくれた。なんだか嬉しいな。
「実は俺の父上が難病にかかってしまってな、その治療法を知っているかもしれないという人が丁度お前の様な姿をしていたと聞いて、訪ねさせてもらったんだ。」
「難病ですか?それはどんなものですか?」
「それはな・・・。」
ミルマールに病気のことを話すと、ハッとした表情をして、
「アルーゼン病!」
と言い放った。俺は前のめりになり、
「この病気を知っているのか?」
と問いただす。
「ええ、私もつい最近研究してた病気なんですけど、発症した例が少なくて、とても珍しい病気です。原因は病名の由来でもあるアルーゼンという病原菌なんですが、普通の人であれば呼吸や食事などで体内に入っても何ら問題の無い代物なんです。ただ傷口などから血の中に混入してしまうと、どんどん体を侵食して先ほどレイさんが言われた様な症状が出て、最終的には死に至ります。」
「そのアルーゼン病に治療法は無いのか?」
「そうですね、初期であれば薬でなんとかなるんですが、聞いた限りレイさんのお父さんは末期。ちょっと厳しいかもしれません。」
「そんな・・・。」
肩をがっくりと落とす。「レイ。」とイマリが優しく背中に手を乗せてくる。
「レイさん、眉唾物なんですが、治療法が無いわけではありません。」
「本当か!」
また再び前のめりになる。今度はミルマールに近付き過ぎて、目の前の彼女の顔が赤くなっていた。「すまない。」と少し距離をとる。
「おほん。その治療法なんですが、たぶん誰もが聞いたことのある万能薬、エリクシールを作ることです。」
「!あのエリクシールを作れるのか!?」
「ええ、大体の製造法は調べたんですが、材料が集められなくて諦めてたんです。その材料なんですが、一角鯨ロロノフの角、怪鳥ザイレンの涙、珍虫ベヘナの体液、禁断の果実、幻竜ジグリスの血の五つです。」
聞いたことがないものがいくつかあるな。
「この内、禁断の果実ってのはりんごのことなので、すぐ用意できますよ。あと、前に材料を探してたときに珍虫ベヘナの体液も手に入れてるので、実質あと三つですね。」
「ミルマールが持ってる材料を譲ってもらえるのか?」
「はい、乗り掛かった船と言いますか、私もエリクシールを作ってみたいですから。」
「助かる。」と伝え、頭を下げると、ミルマールは「任せて下さい。」と優しい顔を見せた。最初の様子と違い、こちらに慣れたようで少し嬉しく感じる。
材料を集めまた来ると伝え、一度ロッジに戻った。
「ここが前に聞いたレイのロッジか。静かないいとこだな。」
そう言えばイマリを連れてくるのは初めてだな。早速ロッジの中を案内すると、セシルがソファーに座って編み物をしていた。
「セシル来たぞ!」
「その声はイマリ?レイのこと手伝ってくれて大変でしょ、ゆっくりしていってね。あ、今お茶を入れるから。」
「そんなに気を使わなくてもいいよ。じゃあレイ、あたしここで待ってるから、お城に行ってきな。」
頷き、城に転位した。
城に戻るなりブラッドリー老師のもとを訪ねた。理由はもちろん探し物のためだ。まずは他の三人の居場所を突き止め念話を使い俺の集めた情報を伝える。転移魔法の使えるベルとリオにはすぐこちらに来てもらい、ユリスについては俺が一旦ユリスの居る場所に飛び、こちらに連れ戻した。そこからまた老師にエリクシールの材料の在処を調べてもらい、ベルに一角鯨ロロノフの角を、リオに怪鳥ザイレンの涙を依頼した。
俺は幻竜ジグリスの血。竜種は気性が荒いものが多く、圧倒的な力で何人も死に追いやったという話をよく聞く。幻竜ジグリスがどうかは分からないが、できる限りの装備を整えよう。
ロッジに戻り、自室に入る。壁に立て掛けた剣を手に取る。鞘から出すと刀身は光を反射し、波模様を浮き上がらせた。
『おっご主人、私を連れてってくれるの?やったー!めっちゃ久しぶりじゃん。なに、何?何するの?』
この声はこの剣の物だ。魔剣リジルは知性を持つ剣で、この通り会話ができるのだが少々うるさいのが傷だ。
『リジル、今度の相手は竜だ。お前は前の主人の時に戦ったことあるか?』
『う~ん、そだね、五百年前くらいだったかな炎竜と戦ったよ。その時は私も血の気が多くてさ、もうわぁ~てやりたい放題やって粉々にしちゃったよ、てへ。それより、いいかげん私のことはリジィーって読んでよ、ねっねっご主人。』
『わかったよリジル』
『もうつれないな~。』
こんな感じのやつだが実力は確か。リジルがいればなんとかなるだろう。あとは念のため棚から回復薬を五つほど取り、異空間のアイテムボックスに入れた。
『行くぞリジル!』
『イエ~イ、久しぶりに暴れちゃうよ!』




