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王の資質  作者: 誠也
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14.襲撃

 暗がりからやって来たからか、日の光が視界を奪う。目が慣れ辺りを見るとこのトトリ村の人々は農作業の合間の休憩に入っていた。俺に気付いた村人は手を振って話しかけてくる。


「おう、魔族のあんちゃん。昨日言ってた病気の話どうなったんだ?」

「皆のお陰で、手掛かりが見付かった、ありがとう。イマリはどこにいるか知らないか?」

「イマリちゃんなら、川の方に行ったよ。」


「助かる。」と伝え、教えられた川に行ってみる。川には桟橋があり、そこでイマリともう一人彼女と同い年くらいの男の子が釣りをしていた。タイミング良く魚がかかった様で、男の子は竿を立てて釣り上げる体勢に入る。しかし、かかった魚が大物なのか逆に引っ張られており、危うい。すかさず、男の子に近付き竿を一緒に握る。「せーの。」と力を合わせ持ち上げた先にかかるのは体長二メートル近くのイトウだった。釣り上げた後、桟橋の上でバタバタとその巨体を振るわせるイトウの頭を軽く叩き、動きを止める。


「やった!やったよイマリ!それから魔族のお兄ちゃんもありがとう。こんなの滅多に釣れないよ!」

「やったなガンちゃん。皆に自慢できるよ。」


「へへ。」と鼻を鳴らす男の子。二人ではその魚を運ぶのに一苦労しそうなので、俺が担いで村まで送った。

 魚を見て集まる村人。「おお!」という歓声がいくつか上がってある。それから収拾がつくまで待ち、イマリに今日も同伴を頼んだ。「任せろ!」と胸を叩く彼女の頭に手を置き「ありがとう。」と伝えた。

 その場で昨日書き写した地図を広げ、作戦を練る。あの酒場のある村の近くから当たって行くのが良いだろう。では、行くか。

 それからしらみ潰しに候補を当たる。だが、なかなか()()()に出会えないもので、もう百人近くになるだろうか、時間だけがどんどん過ぎていく。連れ歩いている彼女にも疲れが見え始めている、少し休んだ方がいいだろうな。適当な休める場所を探し、近くにあった喫茶店に入った。席に座ると「ふう。」と一息つくイマリ。少ししてやって来た店員にリンゴジュースとコーヒーを注文した。


「なかなか見つからないもんだなあ。」

「すまないな、長く連れ回して。」

「いいって、そんなのあたしは気にしないよ。こうしていろんなとこ行けるのは面白いしさ。」

「そう言ってくれるのはありがたい。でも、疲れたりしたら直ぐに言ってくれよ。」


 それに頷く彼女。この件が落ち着いたら何か礼をしたいな。イマリは何をしてもらえたら嬉しいだろうか。

 ん?殺気か。それも複数、店の外から感じる。恐らく俺を脅威と感じた者が兵士か傭兵を呼んだのだろう。まあ、店内も少し冷えた空気を感じるし、こちらの方は魔族の被害者が多いのだろうな。彼女を巻き込むわけにはいけない。彼女にトイレに行くと嘘をつき、一旦外に出る。すると武装した者達が俺を取り囲んだ。ざっと見て十人か。


「俺に何か用か?」

「魔族が口を利くんじゃねぇ。」

「そうよ!散々私達を苦しめておきながら、白々しい。」

「俺はお前達なんぞ知らんが?」

「クソ魔族が、人の故郷を奪っておきながらよくそんなことを言えるな。」


 なるほど、無関係ではないらしい。以前俺が奪った領土の住人の様だ。それを出されると何も言えないな、こちらが悪いのは明らかだからな。


「故郷を追い出されて、行く宛を探す間に何人魔族の被害にあったと思ってるの!私の子供達なんて・・・。」


 涙を見せる一人の女。そうか、他の奴に・・・。


「そうか、それは俺が悪い。」

「認めたな!なら、首を差し出せ!」

「それはできない。ただすまないとは思ってる。」

「もういい!皆、こいつを殺すんだ!」


 皆一斉に剣や槍を俺に向け突進してくる。だが、動きが遅い。武装はしているが元々は兵士ではない平民。戦いに関しては素人なのだろう。かわしながら彼らの武器を一つずつ破壊する。刃の無い剣や穂の無い槍を見れば戦意は落ち、皆その場に座り込んだ。


「許してくれとは言わない。このまま恨み続けてまた襲われようとも構わない。だが、俺にもやらなければならなかった理由がある、お前達にとっては関係ないものだがな。」


 悔しそうな顔を見せる者達。それを見て少し憂う。どうすれば良いのだろうな。


「レイどうしたんだ!襲われたのか!」


 騒ぎを聞いてイマリが店から出てきたようだ。


「レイは悪い魔族じゃないぞ!あたしを助けてくれたんだ!」

「イマリ、庇ってくれてありがとう。でもな、これは俺が悪いんだ。実はな・・・。」


 イマリやその場に居る者達に全てを話した。俺が王になるために侵略行為をしてたことを、勿論イマリの元居た村のことも含めて伝える。

 それを聞いて混乱するイマリ。無理もない、俺の悪い部分を知らなかったのだからな。


「すまないイマリ。騙していたつもりは無いんだ。」

「レイが魔族の王子で、魔王になるために私達の村を・・・。なあレイ、もしレイが魔王になったらあたし達をどうするんだ?」

「俺は人間に対して殺そうという気はない。この世界に住む隣人の一人として考えている。まあ今回の試験がこの様なものになった以上、悪評は酷いものになるだろうが。」

「だったらさ、試験が終わったらあたし達を元の村に戻してよ。そしたら全員が納得はしないとは思うけどさ、少しはましにならないか?」

「そうだな、それも考えてはいるが、こちらも考え方が違う者も居るからな、王になったとしても難しいかもしれない。」

「そっか・・・。」


 俯く彼女をただ眺めるだけしかできない。こうなることは予想できたが、俺は答えを見つけ出せていなかった。


「イマリ、取り敢えず村へ送る。それからもう会わない方がいいだろうな。」

「それは・・・。」


 言葉に詰まる彼女。その彼女の肩に手を置き転位した。

 村に戻り、彼女に別れを告げる。


「今までありがとう。イマリと会えて良かった。じゃあな。」

「待って!」


 彼女の声が俺を止める。


「レイがしてることは確かにあたし達を苦しめることだ。どうしていいか分からないけど、このまま会えなくなるのは嫌だ!」

「いいのか?」


 恐る恐るそう聞くと、彼女は「うん。」と頷いた。


「それに他の知らないあたし達を殺そうとする魔族よりも、レイに魔王になって欲しいしさ。」


 彼女の頭に手を置き「ありがとう。」と伝える。その置いた手の下から彼女の笑う顔が覗く。


「そうだ、セシルにはこのこと言ってるの?」

「ああ、あいつも俺のことを知ってなお一緒に居てくれている。」

「良かった。セシルもそうなら間違いないな。レイ、明日も来なよ。あたしまだ手伝うからさ。」


 そう笑顔を見せる彼女に少し救われた気持ちになる。ありがとうイマリ、俺はお前のお陰でまだ前を向ける。それから今日はここまでとロッジに戻った。

 ロッジに戻るとセシルがキッチンに立っていた。その手元には包丁があり、野菜を切ろうとしている。


「あ、レイお帰りなさい。待ってね、今ご飯作ってるから。」


 すぐさま彼女のもとに行き包丁を取り上げる。


「危ないぞ、後は俺がやるから。」


 そう言うと、彼女は珍しく怒った様に


「もう、レイったら、私だって慣れれば料理ぐらいできるんだよ。心配してくれるのは嬉しいんだけど、もっと信用もして欲しいな。」


 と頬を膨れさせる。確かに過保護過ぎても駄目だな、自分では何もできなくなってしまう。すぐさま包丁を返し、「悪かった。」と伝える。すると少し機嫌が戻ったようで、「今度から気を付けてね。」と笑う彼女に注意された。

 出来上がった料理はなかなか良くできていて、味も申し分なかった。今度から、セシルに任せても大丈夫だな。

 食事の際、今日の話をした。俺が奪った領地の人間と争ったこと、イマリに俺のことを伝えたことを。


「そっか、やっぱりそうなっちゃうよね。私もレイがしてる仕事、できればやめて欲しいと思ってるから。でもそうなると、ゼノってレイのお兄さんが魔王になっちゃうかもしれないんだよね。ホントに悩ましいな。」


 人間に対しての想いが変わってきた近頃、この件は本当に悩ましく感じる。俺も人間の恨みは買いたくはないが、領地を奪わねば俺は王にはなれない。答えが無い訳でもない。いくつかあるが、一番早いものは他の兄妹を全員説得または力で押さえ込み、俺だけを王の候補にすること。これは既にベルやリオは俺でもいいと言ってくれているから、ゼノとユリスをどうにかすれば良いのだが、ネックなのはやはりゼノだ。あいつは説得には応じないだろうからまず戦いになるだろう。そのときは・・・。いや、まずは父上の治療が先だ。今日のところは早く休もう。

 翌日、トトリ村に行くと村人の反応は前と変わらなかった。イマリは俺のことを黙っていてくれている様だ。


「よかった。レイ、また来てくれたんだな。」

「ああ、懲りもせずまた来させてもらった。」

「いいんだよ。あたしはレイはいいやつだって信じてるから。」


 彼女のその言葉に胸が温かくなる。そして、彼女に手を差し出す。


「イマリ、約束する。俺は王となり、苦痛を強いた人間に対してできる限りのことをする。再び俺に力を貸してくれないか?」


 彼女は俺の手を取り、「もちろんさ!」と言った。

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