13.求む治療法
行く先々では医者や薬剤師を訪ね、病気に関する情報を集めた。しかし、同じ症状のものは見たことも聞いたこともないと返ってくる。やはりそうそう出てくるものではないな。
「イマリ、少し休憩しよう。丁度昼だ、何か食べたいものはあるか?」
「そうだな~。ん、なんかいい匂い。あそこからするな。レイ、あそこの店行ってみよ。」
彼女が指差す先には酒場が見える。確かにいい匂いがするな。まあ、彼女に酒を飲ませなければ大丈夫だろう。店に入ると昼間だが、なかなかに賑わっていた。俺の姿を見ると客や店員は不思議そうな顔を見せ、少しおとなしくなる。だがそれも、隣にイマリがいるお陰か、酒が入っている性か、数秒後には受け入れられ、また元の賑やかさに戻った。空いていたカウンター席に座りメニューを見る。先程の匂いのものはどれだろうか?
「いらっしゃい!何にする?」
「そうだな、ここに入る前にいい匂いがしてたんだが、何の料理なんだ?」
「ああ、それなら鰻の蒲焼きさ。」
「鰻か、よし、それにしよう。」
「あたしもそれにする。」
店員の男は「はいよ。」と調理にかかる。男は調理をしつつ俺に話しかけてきた。
「それはそうと、兄ちゃん、角が付いてるってこたぁ、あんたは魔族なのかい?」
「そうだが。俺が居るのはまずいか?」
「いや、そういう訳じゃねぇんだ。ちょっとイメージにあるのと違ってな。」
「そうそう、レイはいいやつだもんな。」
と彼女はどこか誇らしげな顔をする。そんな買い被らない方が良いと思うが。
「兄ちゃん、人間の町に来るってこたぁ、何かあったのかい?偏見かもしれねぇが、普通魔族って来ねぇだろ?」
「そうだな、実は俺の父親が未知の病気にかかってしまってな、治療法を探してるんだ。」
「そいつぁ大変だ。一体どんな病気なんだい?」
男に説明すると、少し考える様子を見せてこう言った。
「なんかどっかで聞いたことあんな。」
俺とイマリは顔を見合わせた。「本当か!?」と確認すると。
「ああ、いつだったか忘れたが、確か緑のローブを着た三十くらいの女だったかな。客で来たそいつがそんなことを言ってた気がすんな。」
「その人はどこにいるんだ?」
「すまねぇが、そこはわかんねぇ。ここいらで見ない顔だったから多分旅人だと思う。」
「次にどこへ行くとかは聞いてないか?」
男は少し考える素振りを見せて、「いや、ダメだ、覚えてねぇ。」と言った。仕方無いか、だが希望が見えた。男に礼を伝える。それから、お待ちかねの鰻が出てきて、昼食を楽しんだ。イマリも頬に右手を当てて満足げな様子だ。
食事を終え、店を出る。緑のローブの女か、さて、どう探すかな。そうだ、老師の力を借りてみよう。となると、イマリは連れて行けないな。一度村に戻るとしよう。彼女に事情を説明し、村へと送った後、俺は城へと転位した。
魔力探知で老師の場所を確認する。研究室にいるようだな。〝転位〟。
「これはこれはレイ様どうされましたかな?いきなり来られたのでびっくりしましたぞ。」
腰の曲がったその老人は長い髪と髭を生やしている。この人が宮廷魔法使いのブラッドリー老師だ。
「突然すみません。老師にお願いがあって来ました。人を探して欲しいのです。」
「ほほう、どの様な方ですかな?」
「探して欲しいのは人間なのですが、容姿は緑のローブを着た三十くらいの女だそうです。」
「ふむ、それは難しいですな、服など着替えれば変わりますし、三十くらいの女と言われましても多くおりましょう。もう少し、限定できるようなことはありますかな?」
「いえ、これといったものが無いです。何人となっても一人ずつ当たっていきますので、どうかお願いできませんか。」
「そこまで申されるならやってみましょう。」
そう言うと老師は俺から少し距離を取り、両手を前に出した。その両手は光を放ち、何も無い壁に、一つの青い点と無数の赤い点を記した。青い点が今俺のいる位置で、赤い点が目的の位置を示している。俺はそれを一つずつ地図に落としていった。数えるのが嫌になる量だ。でも、やるしかない。写し終わるとその地図を丸め、紐で止める。老師に礼を伝え、一度ロッジに戻った。
「レイ、どこに行ってたのよ!遊びに行けないじゃない!」
開口一番にシャーリーはそう言うと、セシルが「まあまあ。」と宥める。シャーリーが落ち着いた所で、二人に事情を説明した。
「マルク様がそんなことになってたなんて・・・。助かるんでしょうね!」
「今の所は何とも言えない。だが、一つ手掛かりが見つかってな、明日またイマリにお願いして、当たって見ようと思ってる。」
シャーリーは「そう。」と力無い返事をした後、決断したように「レイ、私を一旦屋敷に戻して!」と続けた。
「どうしたんだ、急に。」
「私も何かしたいもの、お父様にも伝えて、力を貸してもらうわ!」
「分かった。」
「セシル、またね!」
「うん、二人とも頑張って!」
頷き、転位した。
目の前にシンメトリーの二階建ての洋館が見える。ここがシャーリーの実家だ。ここはジルヴァニアの隣にあるベルベット領にあり、彼女の父ガイさんが領主をしている。入口には警備が二人立っており、こちらに気付くと一礼をして、扉を開けた。走り出す彼女に次いで後を追う。二階の一室、彼女は扉を勢い良く開けた。
「ん、シャーリーかい?びっくりするじゃないか、女の子はもっと御淑やかにしないとダメだよ。おや、レイくん、いらっしゃい。」
銀の短髪に眼鏡をかけた優しそうな壮年の魔族。彼女の父ガイさんだ。見た目通り温厚な人で、怒った所を見たことがない。
「もう、お父様そんな場合じゃ無いの!大変なんだから!ほらレイ説明して!」
彼女に促され、ガイさんに父上のことを説明する。すると、急に取り乱した様に
「そんな、兄さんが、そんな状態だったなんて・・・。」
と項垂れた。一歩近付き、
「ガイさん、まだ時間があります。どうか父上の為に手を貸してください。」
「そう、そうだよね。レイくん、僕も兄さんの病気の治療法を探してみるよ。」
二人には魔族の領域内を改めて探して貰うように伝えて、俺は再びロッジへ戻った。
「お帰りなさい、どうだった?」
「ああ、快く引き受けてくれたよ。こちらも動かなくてはいけないが、同伴を頼んでるイマリも寝てる時間だ。今は少しだけ休もうと思う。」
「そっか、レイも最近ずっと動きっぱなしだもんね。休めるときはしっかり休んで。」
寝室に行こうとすると、「そうだ。」とセシルが止める。
「今日シャーリーとね疲れたときに効くお薬を作ったの。材料はレイの研究室のもの勝手に使っちゃたんだけど。良かったら使って。」
彼女からその薬の入った袋を受け取った。中を見ると飴玉の様なものが十個あった。一つ取り出し口に入れる。甘みと爽快感があり、薬というよりは本当に飴玉みたいだ。ペパーミント、レモン、蜂蜜、他にも疲労回復に効く物が上手く混ぜてあるな。
どうかな?という表情を見せる彼女に「ありがとう」と頭をポン叩く。「えへへ。」と照れる彼女を愛らしく思いながら俺は寝室へと向かった。ベッドで横になると思っていたより疲れが溜まっていたのか直ぐ眠りについた。
目が覚めたのはまだ暗い中だったが、手持ちの懐中時計は十時を示している。出発しようと思ったそのときふと頭に過ったことがある。その為、一階に降り、セシルの部屋に入った。ベッドには優しい寝顔の彼女が見える。「行ってくる。」と小声で伝え、彼女のおでこに唇を置いた。ふっ、〝転位〟。




