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王の資質  作者: 誠也
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1.出会い

 城南側の塔の屋根の上。そこが俺のお気に入りの場所の一つだ。城下を一望できる良き場所であり、誰にも知られていない。寝転がり目を閉じると春の陽気が心地良く眠気を誘う。何処からか俺を呼ぶ声が微かに聞こえるが、返事はしない。どうせ面倒なことだろう。意識を放り投げ、眠気に身を委ねた。


 眼前にはのどかな農村が広がり、人間共は笑みを浮かべながら作物の収穫にかかっていた。しかし、俺を見るなり人間共は皆一様に武器を手に持ち攻撃を仕掛けようと向かってくる。俺はそれを嘲笑うかの様に村を覆う程巨大な火の玉を頭上に作り上げ、村へと放つ。その結果、一瞬にして家屋は焼け落ち、身を焼かれた人々はもがき苦しみながら息を引き取った。

 これが今の俺の仕事だ。魔族の王子である俺は人間から領土を奪い、こちらの領土を拡げる。そうすることで功績が称えられ次の王へと近付くことが出来るのだ。現在次の王になると噂されているのは俺を含め五人。皆各地へ散り同様に次の王になるが為、侵略行為を行っている。正直言って、王となることに執着はない。先程まで目の前にあった農村の様な場所で自由気ままに過ごしている方が合ってると俺は思う。だが、他の候補の中に下には付きたくない奴がいる。回避するためにもせっせと働かなくてはいけない。全くもって面倒だ。


 目を開けると月の光を眩しく感じた。すっかり体も冷え、腹も少し空いている。大分寝てたみたいだな。起き上がりズボンのポケットに入れた懐中時計を見ると夕食の時間を疾うに過ぎていた。料理は既に下げられているだろうから、他で取るとしよう。〝転位〟。


 転位魔法により城より遥か西へと移動した。一面緑が広がり、膝程まで伸びた草が風を受け揺れている。日も高く、こちら側はまだ昼時の様だ。この様な場所でまたゆっくりするのもいいが、まずは腹を満たそう。右目に千里眼の魔法を付与し、近隣の町や村を探す。北西の川沿いに村があるな。だが、人間の村の様だ。まあ、腹を満たせるなら問題はない。〝転位〟。


 村の中心部、突如姿を現した俺を見て驚く村人の女。俺の姿を見て魔族だと気付くと悲鳴を発した。人間とあまり変わらない外見だが頭にある二本の角で気付いたのだろう。この世界における人間は俺達魔族を恐怖の対象として見ており、この反応も頷けるがあまり嬉しいものでもない。悲鳴に反応し他の人間共も集まって来た。男共は遠巻きにしながら斧や鍬を手に息を荒くしている。だが攻撃はしてこない。人間と魔族にはちょっとやそっとでは覆すことのできない力の差がある。その為か躊躇っている様だ。その方がいい、無闇に戦わなくていいからな。さて、飲食店は・・・あれか。屋台が一つ、獣の肉を焼く匂いを発している。近寄ると周りも合わせて付いてくる。屋台の店主は俺の目的がここだと分かると怯えながら後退りした。


「店主、この串焼き一本貰おう、いくらだ?」

「えっ、あ、はい、銅貨二枚です。」


 銅貨二枚を屋台の台に置き、コンロから肉の串焼きを一本手に取る。何の肉だか分からないが、匂いはいい。串を歯に掛け先端の塊を外す。弾力のある肉は噛む楽しみはあるが、味が薄い。まあ、こんなものか。

 串焼きを買う俺を見てか村人達の警戒が少し弱まり、あちこちで話し声が聞こえる。俺のことを「あまり悪い奴じゃないかも」とか、「まだ分からんだろ」とか言ってるみたいだ。コロコロ変わる反応もまた面白い。最後の塊を飲み込むと、腹はそれなりに満ちていた。低燃費なのか、ただそこまで動いていないだけか、とにかくもう良い。右手で口を軽く拭い、そのまま頭上に右手人差し指を立てる。〝火球〟。上空に現れた巨大な火の玉は村人を再び怯え上がらせるのには十分だった。皆顔が半泣き或いは諦めを示し、斧や鍬も手から離れる。


「悪いな、これが俺の仕事だ。十分だけ待とう。その間に逃げるなり、俺を殺そうとするなり好きにするがいい。だが時間が経てばこれを村に落とす。さあ選べ。」


 皆悲鳴と共に逃げて行く。さすがに戦いを挑む奴は居ないか。十分経過。衝撃と轟音が響き、一面焼け野原と化す。焦げた臭いと熱を帯びた瓦礫のせいか少し息苦しい。目に映る範囲に死体は無い。十分でも逃げれるものだな。両手を胸の前で合わせる。〝結界〟。村の跡地を不可視の膜が覆う。この地を領土とするには魔族が住む必要がある。だが移住するにも時間がかかる。その間にまた人間が戻ってしまうと追い出した意味がない。そこで侵入を防ぐ為結界を張るのだ。さて、瓦礫を片付けるとするか。そう思った時、何処からか微かに声が聞こえた。まだ何か居るのか。声のする方へ歩み寄って行くとそれは次第にはっきりとしてきた。少し高めの女の声だ。


「誰か!誰か居ませんか、誰か!」


 村の外寄り、火の玉を落とした地点より離れた場所に十代半ばの娘が下半身を瓦礫に挟まれ身動きが取れ無くなっていた。火傷の様子は無い。ここまでの距離になると魔法の威力が少し弱まっていたと見える。俺の足音に気付いたのか娘はハッとした表情でこちらを振り向く。


「誰か分かりませんが助けて下さい!何かに挟まれて動けないんです!」


 この娘自分の状況がまるで分かっていない。魔族の俺に助けて貰えると思ってるのか?いや、この娘、目を閉じている。もしかして目が見えないのか。ふん、面白い。俺は気紛れに彼女の周りにある瓦礫を退かす。だが、瓦礫に足を潰されていたせいか骨が折れ、立ち上がることも出来ない様なので序でに治癒魔法もかける。


「何方か存じませんが本当にありがとうございました。」


 彼女はふらふらと立ち上がり礼をする。彼女の立ち姿はなんとも痩せこけており、惨めったらしい。身に纏う色褪せた赤と白の服からしても彼女の家は貧しいのだろうか。


「構わん。それより村の他の奴らは逃げたぞ、お前も急いで追うといい。」


 すると彼女は苦笑いした。


「いいんです。私置いてかれた様ですから。」

「どういうことだ?」


 詳しく聞くと、彼女は生まれたときから目が見えないらしく、それが原因で苛めにあっていた様だ。親を早くに亡くし、村長の家で世話になっていたが、手の掛かる奴だと疎まれていた。今日もさっきまで家で一緒に居たのだが、逃げ出す際に置いていかれたと言う訳だ。なんとも幸が薄い。


「どうするんだ?このままでは野垂れ死ぬぞ?」

「それは嫌です。でも、何も頼りが無いのでそうなるとしかないですね・・・。」


 彼女の顔に陰りが増す。何の道ここを出て行かないと移住して来る者が殺すだろう。それでは助けてやった甲斐がない。


「娘、俺が面倒を見よう。」


 今日はどうかしているのだろうな、こんなこと口走るとは。


「えっ、そんな見ず知らずの方にそんなこと・・・。」

「お前は死にたいのか、死にたく無いのかどっちなんだ?」

「・・・死にたく無い、死にたく無いです!」

「じゃあ決まった話だ、俺と来い。」


 彼女の手を取り、体を引き寄せた。すると小声で「はい。」と顔を赤くした。


「あのまだ名前を言ってませんでしたね。私はセシル、セシル=ノーザンです。あなたは?」

「俺はレイ。レイ=フェイウォン。転位魔法を使い、俺の隠れ家に移動する。掴まっていろ。」


 セシルはまた小声で「はい。」と頷いた。〝転位〟。

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