アンネとサーシャ(後話)
アンネ様との昼食のあと母様はイケ叔父の居ない客間に俺をベビーベッドに運んで部屋に入った。リリは後かたずけ、姉様は勉強を言いつけられて自室に戻っていった。
初めて入った客間は我が家で一番豪華で広かった。一室だと思っていた部屋はドアがあり複数部屋になっているようだった。客間はさすがに応接間のような広い造りで、デカデカと貴族のマークと剣と盾が飾ってあった。調度品も豪勢ではないが木目を活かしたシンプルで無駄のないデザイン、まるでその光景は俺には貴族の客間のような感じに思えた。
「はぃー」(スゲー)
「あら、アルフちゃん、ここ入るのは初めてだったね」
「それにしても、凄いなこの部屋は豪華ではないが、凄く洗練されているな、貴族を招いても粗相にならない感じだな」
(あ、そう思います? 伯爵令嬢から見てもそうなのか、某伯爵の三女だったね)
食事中の会話では、「アンも丸くなったわね」とか色々最近のアンネ様のことやアリスや俺の事、フェンリのこと、父様以外の事を話していた。
家族には聞かれたくない内容がここで話されるんだということは感じていた。まさか母様は俺には人格や意識がハッキリしてるとは思ってないんだろう、フェンリもだけどね。
なぜか俺のベビーベッドに一緒に寝ているんだよ。俺の横で狼? らしく窮屈だけ丸まって寝ている風にしている。ただ、ときどき尻尾が動いて俺に当たるんだけど。
フェンリの大きさだけど、俺より一回り小さい豆柴の成犬って感じ。――今更だけど。
「この部屋だけはね、お父様の立っての希望なのよね。家を建てるときに殆どだして貰ったの、別に私たちでもそれなりに家は建てられたんだけど。田舎、田舎ってもう強引でね、押し切られちゃった」
(ははーん、なるほどね……どんだけいやなんだよここが! いや娘可愛いのか)
「『儂はどこに泊まれと言うんじゃ、この度田舎に』って」
「まあ、あの御仁ならいいそうだな、父上にも容赦ないからな、はははー」
「まあ、そんなことはいいわよ、で、結局どうしてあなたとあの子がここにいるの?」
「んー……やっぱり不思議か。まあそうだろうな、お嬢様って我が子を言ってるくらいだからな」
(へ、我が子? 誰? ヴァン? いや、違うだろうー――人妻だったのか、この人は……)
「私と一緒に王宮護衛官しているときから気にはなってたけど……わたしが先にいなくなっちゃから、すべては知らないけど。まあ、あなたも馬鹿ではないけど。まあ、そのお嬢様の事を思っての事なんだわね」
「すまん、ミレーヌが賢くてよかったよ。さすがに全部は話せないからな、あの子のためだ。……今は一緒に暮らしてはいるが、あくまでも護衛っていう立場だ。あの子も母とは思っていないだろう」
「まあ、いいわよ。事情は何となく察しがつくから。じゃあ、これからの相談をしましょうか。あなたの立場とお嬢様のことを」
(うーん、聞いていい物かわからないけど、さすがにこれから寝て聞かなかったことには出来そうもない。フェンリ、お前尻尾が反応してるぞ……)
俺とフェンリは寝ているフリをしてさらに話しに耳を傾けた。――……。
「まず、お嬢様はまだ、自分の立場や身分は全然知らない。最近まで住んでた別荘はそれなりに立派なでな、一応、父は私の家の寄子の貴族だとは説明はしていたらしい」
「それは無理があるわね、その子は今三歳なんだっけ、クラウスからも説明はされたけどクラウスもアンネがくることと女の子が一人と家政婦って感じの監視員っぽいこと言ってたけど」
「まあ、あいつも賢いからな、王都に呼ばれた理由もわかっていただろうし、ヴァンのこともきっと何かの配慮なんだろう。ここにはおまえもアルバート殿、わたしも含めて学院の四強が揃っているからな」
(あれれ、これって何かやばくない? 俺、大丈夫かな? あ、フェンリ、耳立てない、尻尾うごかなさい――)
「スゥースゥー」「スゥーハァー」
(…………、芝居お互いに止めような、フェンリ、まじこいつもおかしいよ!)
「まあ、ここにきたのは、あの子とわたし達、ふたりの身のためだ」
「話それちゃったわね、じゃあ! あなたは今、あの子の護衛のまま?」
「一応は、伯爵の三女で元王宮護衛官とは挨拶の際に身の上は伝えてはいるが、単に……お嬢様の護衛としか言ってないな」
「参ったわね、三歳言っても多分、それなりの知識と知能はあるわよ」
「すまんな、わたしも生まれから半年くらいしか、あの子のそばにいてやれなくてな。ここ半年で一緒に別荘で暮らしていてな。あの子の父もたまにしか来ていないようでな私が護衛についてからは来てないらしくてな……屋敷と言っても侍女は数名と家庭教師が二名、いたくらいでな、母は既に亡くなったと言ってたらしい」
「まあ、あいつら貴族共はそんなもんだわね。お父様もそう言うの嫌ってるから……まあ、いいわよ、その子は父と認識はあるのよね。まあ、男爵家ってことは大丈夫だわね。お父様やお兄様見てれば普通じゃないけど。私のことを話せば大丈夫でしょう……この王領は特殊だからね」
「まあ、そうだな。でないとここにはいないからな」
「じゃあ、あなたはそのまま護衛兼家庭教師ってことにしなさい。別荘のあった領地は違うけど。わたしとその男爵家の方は同じ寄子でお父様と付き合いもあって勉学と色々と教わるためにお父様の進めで、ここに住むことになった。それでいいわね、当分は……」
「すまんな、たぶん当面は大丈夫だろう。剣術はわたし魔法はミレーヌ、礼儀作法や言葉遣いと勉学はどっちでも行けるだろう」
「もうー、剣は止めた方がいいんじゃないの?」
「わ、わたしに出来ることは、それだけだからな」
しばらく母様とアンネ様はその後色々話をしていた。俺とフェンリは二人の話しを聞いていたが薄めで見たアンネ様は弱々しくいまにも泣きそうな表情に思えた。
(まあ、あれだ、姉様にも俺にも幼なじみができた。それでいいじゃないか。大人の事情なんて俺たち子供には関係ないよな、フェンリ)
そう思うと少し俺もこれから気楽に生活出来そうな気がしていた。
「ワン!」――尻尾がピクッと動いた。
(お、お前ー――)
「おぎゃー、おぎゃー」(うそ泣きですよ、母様、ごめんね)
「ああーごめんねアルフちゃん、どうしちゃったかな……」
俺が嘘泣きをしてしばらくしてドアが三回ノックされ、母様の返事を聞きリリが紅茶を持って来てくれた。
「ありがとう、リリあと半々刻もしたら、ちょっとお願い事があるから、アリスの様子見てここに来て頂戴ね」
「はい、奥様。では、そのように致します、では失礼します」
母様は俺を抱っこしながらリリに声を掛けてそのまま俺を抱いたまま、紅茶を飲み話を続けた。
(あれ、これって嘘寝って気づかれちゃうよね……、フェンリー! 俺、策士策におぼれる)
「あと、ヴァン君はどこまで知ってるのかな?」
「あいつは、なにも知らないな、あの子が産まれたときは、父上の領地にもいなかったしな、かわいそうだが自分にわたしの子で甥っ子がいるとは知らないだろうな」
「まあ、その方がいいわね、ある意味、ヴァン君は危険要素だからね、ウチの人以上の……」
(おいおい、なんて物騒な、ホントまじ大丈夫? 俺将来不安だよ)
「あの人は少しは事情はわかると思うけど、変にならないようにアレしとくわ」
「ああ、すまないな」
「それでもう住めるのかな? 隣の家は」
「自分で確認していないんだがな、そうなってるはずだ。父上が手配してくれたしなあの方も絡んでるからな、当面は代官のところの侍女が来てくれることにはなっている」
「んーそれだとやっぱりダメね、信用の問題じゃなくて、あの子にとってもね」
「部屋は何部屋あるのかしら?」
「見てはいないんだが、ここよりは狭いが五部屋と聞いている」
「まあ、クラウスとあの人のことだから、そこは問題ないわね」
「ん? なんのことだ?」
「まあ、判るわよすぐ」
俺は母様の温もりを久々に直に感じたせいか、そのあとの会話はわからない。起きたときには、アンネ様もいなくて、すべての話が終わっていて居間に移動してベビーベッドで目が覚めた。
俺は周囲を見廻すと薄暗くなっていて、フェンリと姉様とリリがじゃれあっていた。
フェンリはときどき俺を見る目が笑っているように感じた。
(チキショー……)
まあ、そんな感じで今日の午後は話題満載の一幕だったわけだが、突然数頭のヤギ馬の鳴き声がしてきて、父様とアンネ様のヤギ馬わかったがあと二頭がわからない。玄関のドアが開きいつのまにかリリが玄関先で対応していた。
「ただいま、リリ」
「ただいまです、リリ様」
「失礼する」
「失礼します」
リリが大勢に清掃魔法を掛けて家履きをたくさん用意しているのが見えた。
「お帰りなさいませ、旦那様、それにヴァン様、アンネ様に…………」
「ああ、すまない、お嬢様、お名前を」
「わ、わたしは、サーシャと申します、リリ様、よろしくお願いします」
「まあ、サーシャ様と言うのですか、わたしのことはリリとお呼び下さい、この家のメイドですから」
「あ、はい、わかりました。リリ?」
「では、居間までご案内して食事の前に紅茶を入れて参りますね」
リリは、なぜかサーシャの手を握り居間まで案内してから台所に戻り紅茶準備をしているようだ。
母様と父様は姉様を近くに呼ぶと、父様が姉様とそれほど年齢が変わらない女の子を紹介していた。
「アリス、この子は、サーシャ様と言ってたな、お前のお母様のお爺様の知り合いの息子の子供でな、この度我が家の隣に越してきた子だ」
「あなた、アリスにそんなこと言っても意味わからないわよ、いいアリス、この子はあなたとアルフの幼馴染みですよ!」
「イヤーそれも、イマイチだな」
「あら、簡単じゃない、幼馴染みですよ」
「わーい、アリスにも、やっと幼なじみができたんですね」
「ほら、言葉はわかりずらけど、意味はわかってるわよね、ちゃんとご挨拶しなさい。アリス」
「一緒に遊んでくれる! と、友達でしょ、わたしはアリスと申します。サーシャ様」
「はいはい、よくできました! アリス、じゃあ次はサーシャ様ね、ただ堅苦しいから様付けはやめましょうね」
「はい、わたしはサーシャです、アリス、さ、アリス、ミレーヌ様、これからよろしくお願いします」
「ワオーン」――尻尾全開で振ってます。
「あらら、フェンちゃんごあいさつですか? えらいですね、この子はフェンリです、家族です」
「か、かわいいですね、サーシャです、よろしくおねがいします、フェンリちゃん?」
「ワフン」――尻尾が一瞬止まり尻尾で挨拶しているようだ。
「あと、この子がアルフですよ、わたしが代わりに」
「サーシャです、アルフちゃん、これからよろしくです」
「はぃー」(よろしくだ、サーシャ、幼馴染みキター)
「まあ、そんな感じかしらね、ウチの家族は、リリにはさっき挨拶したからね」
母様が家族全員を紹介し終わると父様はとヴァンの表情が凄く悲しくなった。
「酷いです。ミレーヌ様……僕だって」
「ああ、そうだったわね、アリス、あなたには関係ないですけど、ヴァン君もお隣に引越してきます」
「あれれ、ミレーヌ、俺、説明したっけ?」
「あれれ、ミレーヌ様、僕も説明しましたっけ?」
「アンネも黙ってないでないで説明しなさいよ」
(母様――父様、ヴァンが少しかわいそうです)
「アリス嬢、私も隣に住むことになった。サーシャの指南役だ! いや家庭教師だ、べ、勉強のだ、よろしくな」
「はぁ、まあ良いわ、で、アリスとサーシャ、ここからあなたにも関係します。これから私もアリスとサーシャに勉強を教えることになっていますからね。まあ、勉強だけではありませんが、いいですか二人とも」
「はい」「はい」
「サーシャ様、これはあなたのお父様からのお願いもあるんですよ、ここでちゃんとこれから勉強していくのです。それまでは、お父様もこちらにはこれないでしょうが、我慢してくださいね」
「はい、わかりました、ミレーヌ様」
「まあ、そんなに硬くならなくてもいいわ、昼前と昼過ぎだけ二人でお勉強。それ以外は遊んで良いからね」
母様が二人に厳しいことを話していたとき少し強ばった感じがしたが遊んでいいと言うと二人はお互いの顔を見て笑っていた。
「ミレーヌ様、わたしここに来て嬉しいです。お友達もできても、いっぱいここで勉強も頑張ります」
「そうね、アリスも負けないようにしなさいね、二人はライバルで友達なんだからね。わたしとアンネのようにね」
「はい、お母様」「はいミレーヌ様」
「じゃあ、話はここまで、リリも準備出来たようだから夕食の前に紅茶でも飲みましょうー」
母様が最終的にこの場を仕切ってしまったが、父様とヴァンは特には発言することはなく楽しい時間と夕食が終わった。家族と三人と一匹の食事が終わると俺も食事を済ませ、ベビーベッドで眠った。気がつくと俺は寝室に移動していて、ボーッと過ごしていた。
ふと――俺は、ベビーベッドから見える窓の暗い景色から、昨日には感じられなかった隣の家から漏れる光がとても印象的に感じた。
そうだやっぱり、サーシャは俺に取って単なる幼なじみになる関係でそれ以上それ以下でもない。どんなことが起きようともそれはかわない事実だ。母様もこの先何十年かわからないがきっと二人の将来が心配だったんだろう。今はこの村、いや、この環境で――きっと楽しんで過ごしてもらいたいんだと俺には思えた。そう思ったとき、フェンリはなぜか俺のところに来て顔を覗いたかと思うと隣で寝始めた。
(やっぱり変だよなお前、でも嬉しかった今日はいろんなことが……)
ここまで読んで頂きありがとうございました。
かなり、後半はほのぼのし過ぎていますが、幼なじみと言う存在を大事に考えてのお話しでした。今後の展開で二人いや三人の生活は特になにかあるとかはありません。




