アンネとサーシャ(前話)
フェンリが家に来てから、早一週間。最初から不思議なことばかりで家族の連中は気付いているかわからないが……フェンリのこと。俺を背負って楽しそうに家庭菜園の野菜を採っている幼女。特に甘い物系を"フンフン"いって採取している――リリだ。
「ふん、ふん、今日はあなたよー」
フェンリは単なる白い狼と家族全員は思ってはいない。なぜか会ったときから家族全員の一致の認識だろう――姉様除いて……。ただ、リリだけはフェンリの扱いの格が違う、演劇に出てくる聖獣フェンリルと重ね合わせて神扱いなのだ。
フェンリの習性というか、白き狼の習性じゃないと分かるけど、肉をまったく食べようとしない。お乳を貰ってる歳なのに、白き狼の魔物なら生態の謎がこの国では多いんだと。
白き狼は、単なるアルビノの狼とは違って珍しい。ただ、フェンリが来て次の日に再度、家族会議でフェンリは単なるアルビノの狼の子って言うことにしようと……父様が提案するとリリだけが……。
『だ、旦那様、その設定だけは、ご勘弁を、ふぇーん』と泣きだしてしまった。
父様は、慌てて……。
『いや、外だけの設定だ、家庭内じゃ、大賢者様のお供のフェンリルでいいぞ、リリ』って
姉様は、父様に……。
『リリ姉様を泣かすなんて、お父様、大嫌い』
って家族で大騒ぎだったよ。
あと、フェンリはその一幕を見ていて顔を少し横にしてから、うなずいて『ワフォーン』って鳴いたよな。俺以外はリリの泣いた姿を始めて見たようで慌てて気が付いていないだろうけど。
(そこの怪しいモフモフ生物、完全に人語を分かってるよな? まあーいい。神様が言ってた監視者なのかも知れないが……ここは気にすることは止めよう! フェンリはフェンリだしな……)
フェンリは日がな一日、母様と俺のそばを離れることもなく、リリが作る甘いもの系の野菜のクッキー? らしい小麦に甘い野菜を練り込んだ焼き菓子を美味しそうに毎日杯食べている。
父様は俺が悪いの? 的な感じだったがリリへの謝罪の意味もあって、甘いどころの野菜と果物まで家庭菜園に植えようと言いだした。
フェンリは一声鳴いて尻尾ブンブン回してたな。そんな一幕がありました。日記かよ――。
イケ叔父は、一度家に戻ってきてから、王都に急用ができたと知らせが届いたらしく……。
「また、すぐ来るよ!」キラーンとイケメンブリを発揮して我が家をあとにした。
姉様はそんなイケ叔父が居ないのが寂しいのか、泣いてたよ。フェンリが来る前だからね。
唯一の遊び相手だったからね。(このスケコマシーと思ったよ)
二週間前から隣の家から数名のいろいろな大人が出入りしていた。メイド風の女性や木工職人だろうかそれはもういろいろとだ。主人らしい住人は見かけなかった。家に居るのはメイド風の女性と少し年老いた男性でとても夫婦には思えない男女だった。
母様とリリにときどき挨拶をしていた。俺とは、リリと庭で日光浴のときに会釈するほどの付き合いだ。向こうは俺がそんなことしてるって気付いてないけどね。
あと気になっていたアンはあれから一ヶ月と一週間経っても、我が家に現れることなかったが、時折、庭の方で母様の肩慣らしと、迷いの森へ行っていたのか。ときどき獣か魔物が食卓に並んでいる。
ちゃんと役場で許可もらってるわよ――って、父様に怒鳴ってたけど、食卓が賑わってそれ以上は父様も何ものいってなかったな。怖いんだろうな、父様――俺もだよなんて思ってた。
そんな七刻の鐘が鳴りって終わってから、母様とリリが昼食の準備中にソレはやってきた。
玄関先で知らない鳴き声のヤギ馬の鳴き声が聞こえた。
「ぎゃーヒヒーン」
なにやら、"ガシャガシャ、ドン"と大きい音がして聞こえて来たこと思うと、玄関ドアがゴンゴンと硬いものドアを叩く音がする。母様が慌てて台所から玄関口にでて、勢いよくドアを蹴り開けてると……。
ドスン、ガタンと何かが倒れる音がして、俺はベビーベッドから覗いていると、そこにはフルフェイスの全身重装鎧をまとった騎士らしい人? が倒れていた。
そのフルフェイスの中から女性の声が聞こえてきた。
「ミレーヌ、手荒い扱いだな、やる気か? 私と!」
(いや、あなたの方がよっぽどやる気かになっていますよ、出で立ち)
「あら、そう? かしら、何かに玄関先で物騒な音が聞こえてきたからだわね、アンネ」
(アンネキター、違う意味で!)
アンネという騎士は重そうな動作で起き上がりフルフェイスのカブトを取り素顔をさらした。
その背は残念な騎士ヴァンと同じで素顔は金髪ロングヘヤーで、これもまた凄く美人な騎士でなんとなくヴァンに似ている感じがする……。
「すまんな、そんなつもりでここに来たわけでもないのだが、村役場に寄って今後の住まう場所に行く前に挨拶に寄っただけだ。ヴァンにも釘を刺されたからな」
「あら、それはごめんなさいね、一先ずそれ脱いで家に入ってきたら?」
「そ、そうか。じゃあ、お言葉に甘えてそうさせてもらうか……お嬢様もまだ代官屋敷だからな。すまないなが、これを脱ぐのを手伝ってくれるか」
(なんで着てきたんだよ、じゃー)
「わかったわ、アン」
母様とアンネ様は玄関口にはいって、アンネ様な全身重装鎧のフルフェイスを置いていた。
「リリ、食事の準備はあとでいいからあなたも手伝って!」
母様が大きな声で叫ぶと台所から玄関先に向かっていくのが見えていた。
「リリと申します、アンネ様、お手伝いさせて頂きます」
「あ、リリ――先にヤメ馬を納屋つないで餌と水あげといて」
「はい、奥様、では失礼します、アンネ様」
「そ、そうだった。すまないな。アーネストをよろしく頼む」
(やっぱ、ヤギ馬に名前は必須か。父様のヤギ馬はホースだったけどな)
リリはアンネ様と会話を交わしたあと玄関から出てゆき、納屋の方にヤギ馬をついていった。
(あれ、さっき、ヴァンって言わなかったか? まさか……ヴァンの母親か、いや、年齢的にも母様と同じで位に見えるが……か、家族か! それはいい――、ヤメ馬? ヤギ馬だよね……んー…………ヤギ馬)
リリが納屋から戻ってきたころには、大体の重装鎧は外されていた。母様とリリは少し疲れた顔をしてアンネ様も少し汗ばんだ感じがでリリが清掃魔法をかけていた。
見ている限り父様が装備品している物とは全然違うタイプの重装鎧で総重量は想像がつかないがリリ一人分ってところか。――と思うとリリが一瞬こっちを見た気がした。いやっ確実に振り向いていた。
母様とアンネ様は居間に入ってきて、リリは台所で昼食の続きの準備をしていた。
あと姉様はフェンリと庭で遊んでいたが、お腹がすいたのかフェンリと共に玄関先からもどってきた。リリはその音を聞いていたのか、慌てて姉様とフェンリ様に清掃魔法を掛けていた。
そう言えば、この国では外履きと家履きがあったんだった。今さら――。
母様とアンネ様はすでに椅子に腰掛けながら、二人とも最初の出会いは何だったのかとおもうけど普通に会話をしていた。
「アリスもこっちに座りなさい、まず先にアンネにご挨拶しなさい」
「はい、お母様。始めてまして、アリスと、《《い》》……申します。アンネ様、よろしくお願いいたします」
「おおー、立派になったな、一度王都であったな、あ、これはすまない。わたしはアンネ、アンネローゼ・エーバントだ! こちらこそよろしくだな、アリス嬢!」
(アン、アンネ、アンネローゼ、貴族っていろいろ呼称があるんだな、しかしアンネローゼぴったりだ!)
「はい、アンネ様!」
「ワフン」――尻尾の先が少し上がった。
「ん、なんだ、この白い狼の子は?」
「あら、フェンリも賢いのね、この子は先日、迷いの森で迷子になって保護したのよ、ただの狼の子よ、アービノ種なだけよ」
母様は立ち上がり俺のところにやって来てベビーベッドから抱き上げてアンネ様へ俺を見せていた。それはものすごい近い距離で。――首はもうすわってますよ。
間近に見た家族以外の綺麗な女性。俺はちょっと赤面していたかも? していないかも。ただ、俺は別に年増が好きなわけではない! 精神年齢的にはセーフなんだ。……なんだ。
「はぃー」
「この子が、アルフ。アルフ・バンフリートよ」
「そ、そうか、子のがか、やっとこ男子が生まれたんだな、産まれることは聞いていたが時期とかはわかんなくてな、だ、抱いてもいいか?」
「あら、いいわよ別に、珍しいわね、アンが子供に興味あるなんて」
母様はアンネ様に俺を預けてアンネ様は俺を優しく抱っこしてくれ会話は続いた。
「まあな、ヴァンとは歳は離れてるが、中々会えなかったからな……母もちがうしな」
(あー、やっぱり弟か。あれ、でも……もしかして、妾の子かヴァンは……まあ、ヴァンは残念な騎士で関係ない。不動のポジションだ)
「ああー可愛いな、よしよし、大きくなったら、わたしが……鍛えてやろう、一人前の騎士にしてやるぞ」
(……、えっとー結構です、遠慮しますの方向で)
ただ、俺はアンネ様に抱かれながら、この人が母様がここ最近鍛錬してまで待ちかまえる恐ろしい感じは全然しなかった、それよりも母様とは違ういい香りがしている。――なかなかナイスなヴァディーだ。
「止めくれる。アルフは普通の魔法士にしてバンフリート家を継ぐのよ」
(えっと、初耳? ですが……俺は先生になるんだよ母様、でも士爵で魔法士で先生でそれもアリかもな)
「いいではないか、男子を最近鍛えてないからな、さすがに今からとは言わん、三年後、嫌四年後からでも……」
「あーはいはい、考えとくわ」
「あぅー」(う、売られたー)
「そうかそうか、嬉しいかアルフ、ヴァンには負けないように鍛えてやるぞー」
(う、返事したのが逆効果だ)
アンネ様は俺に顔を擦り付けて喜んでいて母様に渡していた。しばらくするとリリが昼食の準備ができたのか台所から出てきて母様声を掛けていた。それから視線を移すと姉様とフェンリはマイペースに居間でじゃれあっていた。
「奥様、昼の御用が整いました。アンネ様の分もこちらにお持ちしいたしましょうか?」
「そ、そうね、ありがとう、リリ、はい、では失礼します」
「リリか、いいメイドだな、是非うちに……」
「駄目ですよ、リリはウチの家族ですからね」
「それは残念だな、中々いいメイドがみつからなくてな、お嬢様のは連れてくるのは無理でな」
「まあ、詳しい事情は聞かないし、今は食事にしましょう、あなたには質素ですけどね」
「そんなことはないぞ、すまんな、これからどうしたものだか」
「まあ、食事がすんだら相談には乗るわよ、これでも五年は主婦してるんだからね」
「そ、そうだな」
会話が終わりかけた頃、リリがみんなの分の食事をトレイ二つ、両手に抱えて居間のテーブルに置いていた。リリのメイドとしての能力はアキバ一番だ。……行ったことないけどさ、そんな手際も可愛さもすべてだ。
その後四人と一匹はいろいろと会話をしながら話していた。ほんと俺から見ると質素ではあるけれど暖かい食事風景だった。俺はあとでリリに哺乳瓶に入ったお乳をもらいました。最近は母様も忙しく授乳の機会はちょっと減りました。
――次話(後話)につづく。
読んで頂きありがとうございました




