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祝福の金貨は片銅貨へみちびく

 無欲の聖女第3部についてのネタバレがあるので、無欲の聖女を完結まで読んでない方は回避お願いします。

 空白入れます











 アルベルト王子から金貨持ち逃げ(王子は渡してもいいって思ってたようなので、王子から譲渡された状態としています)から、レーナとの入れ替え発生までの2年間、『金貨の立場』から見たらどうなるか、のお話です。レオは今回ほぼ出番ありません…。

 龍徴は持ち主に祝福を与える、と言われる。

 ただ、それだけでは正確な表現ではない。

 龍徴は、持ち主と認めたものに祝福を与える、のである。

 今日も、龍徴の中では誰を持ち主と認めるか、そして持ち主にどういう祝福を与えるかの会議が行われるのである…。

 青年の姿をした存在に、少女の姿をした存在が話しかけている…。




 「裁定者、起きて!ついに彼が龍徴金貨を渡したわ!」


 「ようやくか・・。

 選定者、よく教えてくれた・・。

 ふむ、少年レオか。

 誘惑への反応は…まあ合格点だな。誘惑されても、根本的な思想までは曲げられていない。

 我は少年レオを持ち主として合格だと認める・・」


 「どういたしまして。

 私も同じく、龍に認められた少年「レオ」を新しい持ち主と認めるわ。観察者と実行者も認めるって言ってたわよ。

 龍本体、そして私たち4人も認めた。これで少年は正当な持ち主として登録されたことになるわね。

 彼を祝福しないといけないわ。初めてのまともな仕事だから、がんばらないとね」

 

 「今までの仕事も充分に「まともな仕事」だと思うが・・。

 いずれ国を治める身になることを考えれば、彼が『国民が豊かになるように』という目的に能力を使っているのは責められることではあるまい・・」


 「うん、まあたしかにそうよ。裁定者が言う通り。

 国民が豊かに、っていう望みを持つのはいいことだと思うわよ。王族が私利私欲に走るよりは百倍良いわよ。

 でも、なんかこう、手ごたえっていうか達成感っていうか、わかりやすい成果が出やすい仕事が欲しかったのよ。最初くらい。

 彼のところで仕事を始めてから、魔力を祝福に変えてばらまいてはいるけど、金運上がるって言ってもほんのちょっとずつでしょ?

 彼の魔力の総量がそのへんの術師なんかとはケタが違うのはたしかだけど、国全体にばらまいたら密度はかなり落ちちゃうんだから。

 わかりやすい結果が出るのなんて何年後何十年後かわからないってくらいだと思わない?」


 「ふむ。それは否定できんな・・」


 「でしょ?

 でも、今回は持ち主ひとりの金運を上げればいいんだから、わかりやすい成果が出しやすいじゃない。

 龍の本体に接続しているときほどではないにしても、魔力量は充分あるはずだし、制御はむしろ単独のほうがしやすいし。

 だから、4人でちゃんと相談して、持ち主の少年をすごいお金持ちにしちゃいましょ?」


 「相談、と言われても、我は意見を出すのは得意ではないが・・」


 「うん、それはわかってるから、いつもの仕事通り、『実行可能か』とか『効果的か』とかの裁定をお願いするわね。

 いつものって言っても、祝福の案をまとめるのは今回が初めてなんだけどね。

 普段は混乱させるほうの能力ばっかり使うことになっちゃってたから。まあ持ち主候補を試すために誘惑して混乱させるのも大切な仕事なんだけど」


 「なるほど・・。承知した・・。

 ならば行動案が出たときには我が裁定するとしよう・・。

 そういえば、観察者と実行者はまだ来ていないのか・・?」

 

 「そういえばそうね。

 観察者と実行者が少年の周辺の情報を調べているはずなんだけど、ちょっと遅いわね。

 国単位のことならともかく、ひとりの金運あげればいいだけなんだし、あの二人ならあっという間に実行プランの案の一つや二つ持ってくると思ってたけど。

 呼んでみる?」


 「いや、これまで数年待ったことを考えれば、ここで数時間程度待つくらいはどうと言うこともあるまい・・。

 金貨を隠蔽する能力は発動済みなのだろう・・?」


 「それはぬかりなく。

 少年には『他の人に見せる』という考えが簡単には起きないように干渉してるし、偶然見えるとかの心配もない程度には隠蔽しているわ。

 下町では金貨1枚でも強盗殺人事件が起きてもおかしくないくらいの金額ではあるんだから、祝福の金貨が原因で持ち主が死んじゃったなんてことになったら笑いごとじゃないからね」

 

 「ふむ。ならば、気長に待つとしようか・・」


 「そうね。ゆっくり待ちましょう」


 ・・・・・・


 「ねえ、いくらなんでも遅いわよね。丸一日たっちゃってるわよ。

 わたしも待つのには慣れているとはいえ、少し飽きたわ」


 「たしかに、少し遅いな・・」


 二柱がそんなことを話していると、幼い少年の姿をした存在が走ってきた。


 「大変!大変だよ~!

 せんていとさいてい、どこにいるのー?」


 「あ、観察者ね。

 観察者、こっちよー」


 「あ、そこにいたんだね!

 はぁ、つかれたー」


 「疲れた、って言ってるけど。

 通信魔法くらい使えばいいじゃないの。

 久々だから使い方忘れちゃった?」


 「まりょくせつやく、はしっていけって、じっこうがいってた」


 「魔力節約??

 一人を祝福するだけなのよね?

 魔力が足りなくなるなんてことないはずだと思うんだけど」


 「これ、れぽーと。よんで」

 

 「珍しいわね、実行者が直接持ってこないなんて。

 …なによこれ!

 『死の宣告』に近い呪詛、しかも、解呪阻害、じゃないわね、彼に対して解呪を『試みる』行動をトリガーにして呪いをさらに悪化させる罠が仕込まれているわ。ゆっくり死ぬか即座に死ぬか選べ、とでも言いたげな呪いね。

 この少年、いったいどんなバケモノを敵に回しちゃってるのよ。こんなレベルの呪詛、もし人間がかけようとしたら成立させる前に術者が発狂するわよ。このレポート読んだだけでわたしも一瞬意識が飛びそうになったわ。

 龍徴の魔力でも抜け道はないの?魔力量だけならかなりあるわよね」


 「それをじっこうが今探してる、まりょくで意識分割、たくさんかんがえる。

 未来予知も使ってる、そのぶん、のこった魔力少ない、魔法は節約しないとだめ。

 さいていに、こーいう目的にまりょく使っていいか、きいておけっていってた。

 考えるだけならもんだいないだろーけど、かいけつさくを思いついたら使っていいかって」


 「なるほど、未来予知は魔力消費が大きいんだったわね。

 しかも複数起動となると消費量のケタが違ってくるはずだし。

 裁定者、『わたしたちは金運を上げる祝福を与えるのが仕事だから、呪詛に対抗するのは許されない』、とかはあるの?」


 「呪詛の種類にもよるが、いくら金を持っていても死んだら金運が高いとは言えないからな、持ち主の死を避けるために能力を使うのは問題ない・・。

 ただし、われわれが生死に関することに干渉できるのは、『死んだら財産を失う』という状態が前提となる。龍徴以外の財産を、小銭でもいい、常に持たせることだ・・」


 「なるほど、『生きているほうが金運が良い』という前提があれば、生きるために祝福を使うのは問題ない、だから、常にお金を持っていないといけないっていうことね。

 逆に言うと、お金がない状態からだと『生きてても死んでてもお金がゼロなのは変わらない』から『生きているほうが金運が良い』という前提が崩れる、から手が出せなくなる、と。

 裁定者、『落ちてる小銭に気付きやすくなる』祝福と、『小銭を大切にする』干渉を要求するわ。これなら、魔力量もほとんど使わないはずだし、小銭を持ち歩くようにもなるわよねたぶん」


 「なるほど。その二つは消費魔力も充分に少ない、未来予測に影響を与えるものでもないな・・。

 認めよう・・。実行者は手を離せないだろうから、我が代行するとしようか・・」


 『おっ、約80フィート先に片銅貨1枚発見!ラッキー!』


 「……裁定者、念のため聞くけど、もう彼に祝福かけてくれたりした…?」

 

 「いや、まだだ・・。

 どうやら、あれが平常の能力らしいな・・」


 「……祝福、いらないかもしれないわね。たぶんいつでも小銭持ち歩いてそうな気がするわ。彼なら」

 

 「ならば、やめておくか・・?」


 「いえ、一応かけてもらっていいかしら?

 もう一度確認するけど、実行者の計算には影響ないのよね」


 「ああ。それは問題ない・・」

 

 ・・・・・


 そして、しばらく時が経った……


 「選定者、今日の夜明けから昼までのレオ君の死亡原因予知レポート、置いておくよ」


 「ありがとう、実行者。

 毎日計算、お疲れさま。私も手伝えるといいんだけど……」


 「大丈夫、こっちは僕の仕事だから。

 この情報から、生存ルートを見つけるのは、選択者しかできないだろうから、ここからは任せるね。

 毎日のことだけど、昨日より彼に迫っている危険性は増してるから、気を付けて」


 「うん、このレポートの厚さで見当はついてるわ。

 本当に毎日増えるわね…。これに書いてある条件を満たさないようにどうにか誘導してみるわね。

 予知がなかったら何回死んでるかわからないわよね、本当に……」


 「今まではなんとか避けられる内容だったみたいだね。

 でも、そろそろ、呪いも最終局面に入っているのかも。

 逃げ道が無くなる日も、そう遠くはないのかもしれないよ……」


 「そうなのよね…。

 今はなんとか、予知で見つけた死因を満たす場所に行かせないように、とか、原因となるものを遠ざけるように誘導しているけど。

 『金運上昇』を拡大解釈するにしても限度を感じてきたし、計算能力も魔力も限界が近そうよね。魔力は裁定者がある程度集めて来てくれてるみたいだけど、それでも足りなくなりそうだし。

 呪いを解く方法が見つかればいいんだけど、ぜんぜん見当もつかないし…」


 「それじゃ、午後のぶん、計算してくるね……」


 「……うん、午前のぶんの誘導は安心して任せておいて!

 もし抜け道がなかったとしても、なんとかしてみせるからね!」


 「うん、お願い…。

 それじゃね……」


 「……わたしの何倍もつらい作業している実行者に対して弱音を吐くなんて、なにを考えてるのかしらね、わたし…。

 もう、ほんっとうに、ほんっとうに!腹が立つわねこの呪いはっ!!

 魔力残量確認、意識分割、思考加速!

 仮ルート構築、推定死亡率100%、ルート破棄。

 ルート変更、破棄、変更破棄変更破棄破棄破棄破棄!

 もう、こっちのルートもダメダメダメ、まとめてダメ!

 この呪いの原因になった奴、ぶっ殺したくなってきたわ。殺せるような相手じゃないんでしょうけど」


 ・・・・・・


 「……やっと、か。

 今日の午前の死亡条件回避ルート、完成よ。

 あと30分もすれば次の注文が来る、って考えると喜んでる暇もないけど」


 「えっと、せんてい、いまいそがしい?」


 「観察者、久しぶりね。ヒマよ。気分は最低だけどね」


 「ちょっとだけ、聞いてほしいことあるんだけど、いいかな?」


 「ええ。なんでもいいわよ、この最低最悪な気分を変えてくれそうな言葉なら大歓迎だけど、これ以上気分悪くなんてならないだろうからなんでも言ってみなさいな」


 「眠り姫、とか、ロミオとジュリエットって、読んだことある?」


 「……読んだことはないけど、それって、子供向けの物語よね?

 なにかヒントになるようなことあったの?」


 「うん、使えるかどうかわからないけど。

 ロミオとジュリエットは、飲むと数日間死体みたいになる薬が出てくるんだ。

 そして、眠り姫は、死ぬ呪いを眠る呪いに変える魔法が出てくるの。

 『呪いを解く』、じゃなくて、ほかの呪いとか薬で『上書き』、できないかな?」


 「……考えてみる価値はあるわね。

 あの呪いの目的は、単純に言えば『殺す』こと。その条件を満たせなくすれば、結果的に呪いを解いたと同じことになる。

 呪いを解く、という行動ではないから、罠には抵触しない、はずね。

 いちばん簡単なのは、あらかじめ『殺しておく』ことよね。もう死んでれば死なないわけだし。

 つまり、『生き返ることができるような殺し方』をしておいて、呪いを解消してから戻る。

 そうすれば、呪いが解ける、かもしれないわ。

 うん、観察者えらいっ!やる気出てきた!!」


 「え、そう?元気出た?」


 「うんうん、元気出た!

 あとは、レオの殺し方を考えるだけ、ってことね!」


 「……久しぶりだな・・。

 持ち主を殺す、という行動を認めるわけにはいかんが・・」


 「裁定者、久しぶり……

 いや、そういう意味じゃないの、ちょっと聞いて、聞いてから考えて!

 っていうか無表情でナイフ構えるのやめて!助けて~!」


 「せんていがいいことかんがえたの、レオくんたすかるかも、はなしきいて!」


 「……だから、こういう感じで、どうにか呪いの裏をかけないかしら、って思ったのよ。

 文字通りに解釈すれば、不可能ではないと思わない?」


 「……なるほど、そういうことか・・。

 可能性はなくはないな・・。認めよう・・。

 魔力の補充は我に任せて、案をまとめてみてくれ・・」


 「了解!がんばってみるわね!」


 「がんばってね~!」


 ・・・・・・


 「見つけたわ。生き返れるかもしれない死亡原因。

 他からの干渉がなくこのままいけばの話だけど、約2か月後、同じ街で精神入れ替えの魔法を実行する少女がいるようね。

 その魔法は、ある程度近くにいる存在との精神入れ替えをする魔法だから、『レオ』をタイミングよく突入させれば、レオと彼女の精神の入れ替えができる。

 『肉体から精神が離れて一定期間戻れない』状態のこともヴァイツ語での『死亡』の成立条件として成り立つから、精神入れ替えもある意味では『死亡させる魔法』ともいえる。

 あとは、呪いがなんとか消せたら、元の体に戻せばよし、ということになるわね。

 精神交換後のことは予知できないから戻せる状況になるかは運しだいになるかもしれないし、精神入れ替えで正気を失ったりする危険性はある程度あるけど、今の状況よりはいくらかましなんじゃないかな、とは思うわ。

 実行者、そのルートまでの生存パターン、構築できる?」


 「もともとの呪いが死亡への誘導をする呪いだから、『死亡させる』目的で動けば、呪いによる妨害は少なくなるよ。

 だから、『2か月で殺す』つもりでルート構築すれば、簡単にいける、はず。

 うん、2時間くれればなんとかする」


 「2じかんならぼくたちでなんとかまもれるよね」


 「そうね。それじゃ、計算は任せて、わたしたちは目先の危険を避けるルートを再計算しておきましょうか。

 この仕事が終わったら、思う存分のんびりしてやるわよ~!」


 ・・・・


 『え、焼き栗くれんの?

 マジで?ありがとうおっちゃん!』


 『新作の試食!?

 感想言うだけでいいんだったら喜んで!』


 「計算通りなら、今日の早朝に焼き栗屋の前を新聞配達しながら通る、そして朝にパン屋ディアディアで買い出しをするルートに誘導すれば、魔法に巻き込まれてくれるはずだったのよね…」


 「うむ。2か月かけて何度も計算したし、今までの事前工作もすべて成功している、間違いはないはずだ・・。

 術者のほうも、レオを巻き込まなければ死んでしまうという計算結果になっているから、我々が誘導して巻き込んだことを気にすることもないだろう・・」


 「それじゃ、そろそろレオ君ともお別れかしら?」


 「どうなのかな?

 龍徴金貨は体のほうについていくのか、精神なのか、どっちなんだろう?」


 「まあどっちでも、持ち主を守ることには変わりあるまい・・」


 「うん、まあそうね。体と精神両方無事でないと戻れないだろうし。

 今度はお金持ちにしたいわねー。結局、今日まで生き残りルート探すのに全力だったしさ。

 今回のレオ君の場合、お金関係のことって言えば、小銭見つけやすくしたのと、今回みたいな試食とかに誘導したくらいだし」


 「しあわせそうだったけどね、試食の時も、片銅貨拾った時も」


 「うん、まあそうね。

 片銅貨1枚見つけた時でも、すごく幸せそうにするのよね。

 呪いさえなければ、もっとたくさん稼げるようにできたんだけどね」


 「それはこれから、かんがえよー」


 「うん、そうね!

 呪いをなんとかしてから、この先は考えましょ!」

 金貨の能力は『予知能力+金運がよくなる方向へ少しだけ誘導できる』と解釈しています。

 ケガをすれば治療費でお金使う+稼げなくなる→金運下がる

 死んだらお金持ってても使えない→金運が下がる

 とむりやり解釈して、レオが致命的なけがをしない方向、死なない方向に誘導しようと頑張っていた、そしてそっちに力使いすぎてお金に関してはビミョーな効果しか出せなかったという妄想です。(カー様本体は別にして、2年間で『銅貨何枚か+小銅貨たくさん』しかへそくりがないっぽいですし、貴族が『富を約束する金貨だ』って言うような物のわりにはビミョーな金運だよね、もしかして他で力を豪快に使ってたのでは?という解釈)

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