悲劇の少女は片銅貨に口づける
無欲の聖女の後日談(捏造)の続きです。
無欲の聖女のネタバレ(第3話と同じ)があるので、無欲の聖女を完結まで読んでない方は全力回避お願いします。
空白入れます
ロミオとジュリエットのストーリーはうろおぼえ(登場人物の名前だけ調べて、あとは記憶をもとにでっちあげてます)なので、レオノーラ式改変が行われる前から、たぶん原作とはけっこう違うと思います。(ヴァイツに伝わる間になんか変わったということでひとつ…)
「あれから1か月、ついに、レオノーラ様独占権をまた手に入れたわよ!」
「いがいに、早かったよね」
「そうですね。私もこんなに早くレオノーラになることになるとは思いませんでした」
「そう、大変だったの、大変だったの!大変だったから4回言うけど大変だったのよ!
まず、交渉材料になる情報集めはマルセルに任せておいたの。
そして、レオノーラ様になる日を知っていることをさりげなくみんなに知られるようにする。
そうすると、『あらかじめ日付の奪い合いをして、その日レオノーラ様だったら当たり』という取り決めがほぼ無意味になるわね。
でも無意味でも残ってるわけだから、『取り決めを中止しよう』と提案される。
提案に応じる必要はないのよね、という立場で交渉して、『1回ぶんの優先権』を勝ち取ったのよ」
「なるほど…。だから、3人だけじゃなくてみんなが今回は協力してたんですね。
夕方から入れ替われば、『還俗』じゃなくても入れ替われるよね、と言ってレーナさんと交渉していたのは見ていました」
「そういうことよ。それがみんなを納得させる最低条件だったからね。
そんなわけで、時間少ないんだから、早く読んでね!」
「はい、それでは読みましょうか。
まだ、読み始めたばっかりだったんですよね。パーティー会場に潜り込みました、だけで」
「そうだね、ロミオとジュリエットがマリオとジアノになって、あとはパーティーの説明とかで終わっちゃったんだったよね」
「それでは、続きを読みますね。
友達と一緒に、キャピュレット家のパーティーにまぎれこんだマリオット。
友達はここからは別行動だ、と言って遊びに行ってしまいました」
「あれ、いっしょに遊ぶんじゃないんだね。
もしかして、すごい広いのかな。パーティーの場所って」
「嫌われている人が入り込んでも気づかれないくらいっていうことは、相当広くて人もたくさんいるんじゃないかしら。
でも、呼んでない人が来ていたら普通は気づかれそうだと思うけど」
「たくさんの料理が乗ったテーブルがありますし、それにぶつからないでたくさんの人が踊りを踊れるような場所もあるはずなので、かなり広いはずですよ。
あと、招待状は一枚で執事などの同行者を何人か連れて来ていいものもあったりするので、たぶん誰かの同行者のふりをしてもぐりこんだのかもしれませんね」
「ああ、荷物持ちみたいな感じ、なのかな?」
「カイ兄ちゃんみたいな感じじゃないかしら?
レオノーラ様について歩くのが仕事だったんでしょ、あのころは」
「そうですね。あの頃のカイみたいなものだと考えるといいかもしれません。
カイの服装なら、貴族の人たちがいるパーティー会場で一人で動いててもあまり怪しまれないでしょうし。
話に戻りますね。
友人は、『ヴァイツ中の美人が集まっているから来てみろよ、冷たいロザリアちゃんのことなんてすぐ忘れられるぜ』というようなことを言ってマリオットを誘っていたのですが、マリオットは『ヴァイツの美人がみんな集まる、というならその中に必ずロザリアがいるはずだ』と思って参加していました。
なので、ロザリアがいないか、いろんなところを見て歩いています」
「そうしていると、見たことない美少女とマリオットの目が合います。
そして、目が合った瞬間に、恋に落ちます。一目ぼれです」
「え、ロザリアさんのこと好きだって言ってたのに?」
「よくわかりませんがそうらしいですね。
とりあえず話を進めましょうか。
お互い一目ぼれして一瞬で両想いになったマリオットと謎の美少女。
そのまま見つめ合っていると、まわりがざわめき始めます」
「友人が走ってきて、『マリオット、なに目立ってるんだ、さっさと逃げるぞ!』と言っています。
マリオットは『待ってくれ、僕は彼女と話を…』と言いますが
『なにを言ってるんだ、彼女はキャピュレット家の一人娘のジアノッツァだよ、話なんかできるわけないだろ、いいからさっさと来い!』
と言われ、マリオットは友人に引っぱられて、パーティー会場から抜け出しました」
「あら、敵の家の娘だったの?」
「大変、なのかな?
すごい仲悪いって言ってたけど、本人同士仲良くなるのは勝手なんじゃないのかな?」
「うーん、大変、らしいですね。
学校の中とかならある程度自由もききますけど、貴族というのは、ちょっとお出かけするとかでも親とかに許可取らないといけなかったり付き人がついてきたりするので、こっそり動くのは難しいと思います」
「ああ、たしかに、孤児院にレオノーラ様が来るときって、いっつもカイ兄ちゃんも来てたよね。
最近は差し入れ届けに来る時だけしか会わなくなっちゃったけど。
そういえば、カイ兄ちゃんって、貴族なの?」
「カイは、身分的には貴族、ではない、と思います。たぶん」
「レオノーラ様も知らないの…?」
「本人が言おうとしないので、わざわざ聞くのも悪いのかな、とか思っていました。
カイが言うには『貧しいと言うには恵まれすぎていますし、賢明と言えるほど学べているわけでもありませんので、レオノーラ様についていきたいのはやまやまですが私にはその資格がないと考えます』だそうです。」
「そうなんだ、たしかにお金持ちそうだよね、いつも新品みたいな服着てるし、差し入れいっぱい持ってきてくれるときあるし。」
「そう、なんでしょうね、おそらく。
布の値段は目利きがしにくいのでわかりませんが、たぶん、安くはないんじゃないかなと思います。
あと、差し入れの量と質にびっくりでした。
前回は屋台で人数分の串焼き買ってきていましたし。あの量ならいくら値切っても小銀貨1枚はかかるはずです。
侯爵家からの手紙を持ってくるついでに買ってくるにしては、高すぎるかなと思います。配達屋さんに頼むほうが安く済むでしょうし。
と、いうことは、カイのポケットマネーでわざわざ買ってきてくれているということになりますね。
でも、カイがくれるというなら素直にもらって食べるんですけど。」
「あの串焼きおいしかったね!」
「そうね、あれは焼いてもらってすぐ急いで持ってきてくれたからこその味だと思うわ。
それにしても、私たちがお肉を食べるのなんてめったにないんだから、くず肉を適当に持ってくるとかでも充分うれしいのに、あんな立派なの持ってきてくれるんだからびっくりよね。」
「そうですね、くず肉とかでもみんな大喜びだと思います。野草炒めに少し入れれば一味違います。
あ、話の続きに戻りますね。
パーティーから何か月かたったあと、夜、満月の下。
ジアノッツァはバルコニー、つまり建物の2階からせり出したベランダにひとりで立って、ひとりつぶやきます」
『あのかたの名前はマリオット。モンタギュー家のマリオット。
父はキャピュレットとモンタギューは敵だと何度もいうけれど、それで嫌えるわけもなし。
それにしても、不思議よね。
この手にも、足にも、顔にだって、ジアノッツァなんて名前は書いていない。
それでも私はジアノッツァ。キャピュレット家のジアノッツァ』
『もちろん彼だってそうだわ。
モンタギュー家のマリオットだ、なんて彼のどこに書いてあるわけでもない。
マリオットってなんなの?ただの名前よね?
そうしてそんなものに、私たちは引き離されるのかしら。
ああ、マリオット、どうしてあなたはマリオットなの?
もしも、そう、もしもの話。
モンタギュー家のマリオット、その名を捨ててくれるなら。
私もキャピュレット家のジアノッツァ、この名も家も捨てて、あなたのもとに飛んでいくのに』
「ロミオだったのを変えられちゃったからだよね。マリオになったのは」
『月の女神はいたずらがお好きだと言うわ。
ねえ、月の女神様。
ほんのひと時の気まぐれで、ここに彼の幻でも連れて来てはくれないかしら?』
「長いひとりごとだね」
「劇とかではよくあるのよ、そういうことは。気にしちゃだめよマルセル。
続きを聞きましょ」
「ひとりごとだと思っていたジアノッツァですが、バルコニーの下に人影が現れます」
「マリオットかな?」
「そうですね、予想通り、陰から出てきたのはマリオットでした。
マリオットは言います」
『あなたがそう望むなら、この名などいつでも捨ててしまいましょう』
『ああ、マリオット様、そこにいらっしゃるのはマリオット様ね。
これは偶然?それとも月の女神のいたずらで幻を見ているだけなのかしら?
もし幻だったとしても、ここで会えるなんて素敵なことね』
『月の光に照らされた、あなたの姿に誘われて思わず出てきてしまいました。
幻ではありませんが、月の女神のいたずらというのは合っているかもしれませんね』
「おもわずでてくる、って、じあのさんの家の窓の下にかくれてたのかな、まりおくんは。
それって、へんしつしゃとかいうんじゃ…?」
「いいの、そういうのは気にしないでいいの!」
「続いて、マリオットはささやくように言います」
『ああ、ジアノッツァ、愛しいひとよ。
変わらぬ愛を、あの月に誓いましょう』
『いけませんわ、マリオット様。
月の女神は気まぐれに姿を変えますもの。
月が姿を消した日は、なにを頼りにすればいいのでしょう?
どうか、あなた自身に誓ってくださいまし』
「マリオくんが変わらないことをマリオくんに誓う、って、なんかおかしいよね。
もともとロミオだったのがマリオに変わってるんだから、たとえばロミオのときに誓ってたとしても無効になってるはずだし。
またロミオに戻ったら、またなかったことになっちゃうんじゃない?」
「彼はもともとマリオットだったということになっている、と思うわ。
『自分はロミオだったけど話の都合でマリオットに変わりました』なんてこと考えていることはないはず、よね」
「言われてみればそうですね。自分に誓ってもあまり意味がなさそうです。それでは、こうしましょう。
マリオットはポケットの中から、片銅貨を出して言います」
『それでは、この片銅貨に誓いましょう。
この想いは、泥にまみれようとも、打ち捨てられようとも、けっして「崩せません」』
「うん、まあ、たしかに片銅貨は崩せないわね。小銅貨や銀貨なら崩せるけど。
口説いてたと思ったらトンチ言い出したマリオ君は何者なのかしら…」
「ポケットに片銅貨、って、本当にただの通りすがり?」
「レオにいちゃんみたいに小銭を持ち歩く趣味の人だったとか」
「それはないとは言い切れないのが困るわね。レオノーラ様もこの顔で同じ習性なんだし」
「姿が少し変わったくらいで性格は変わりませんから、それは仕方ないことですね」
「少しじゃない、少しじゃないわよそれは。
普通男と女が入れ替わるのとかありえないし大事件なんだからね」
「たしかにそうですね。
でも、今回入れ替わってほしいと頼んできたのはアンネだったと思うんですけど」
「けっこう気楽に交換してるみたいだから、ちょっとわがまま言ってもいいかな、って…。
……レオノーラ様、やっぱりイヤだった?」
「いえ、今は往復ぶんの魔力貯めてるのがレーナさんのほうだから私のなにかが減らされるわけでもありませんし。
特に気にしてはいませんよ。
レーナさんも今くらいのペースだったら無理しなくても魔力貯められる程度だから大丈夫って言っていました」
「うん、それならよかった。
それで、続きはどうなるの?
片銅貨に誓われてもびっくりするだけだと思うんだけど」
「そうですね、ジアノッツァは少し考えて、こう答えます。
『それならその片銅貨に私の愛も誓いましょう。
そうすれば、二人の気持ちは「決して離れることはありません」』
ジアノッツァはそう言って、片銅貨をマリオットから受け取りその片銅貨にキスをします」
「おおー!なんかうまく返してるっ!」
「小銭なのに、小銭なのにちょっといい話っぽく聞こえちゃうわね」
「小銭で悪い話になるわけがないと思います。
えっと、次は…
げっ」
(おいおい、なんかマリオットの友達死んでるんだけど!?
どうなるんだよこの先、どう考えてもハッピーエンドに行く道じゃないだろこれは?)
「げ?
どうしたの?なにか変なこと書いてあったの?」
「えっと、なんでもありません。
マリオットとジアノッツァが窓辺で愛を語り合ってから数日。
あの日マリオットをパーティーに誘ってくれた友人マキューシオが、街の大通りでキャピュレット家の青年ティボルトとけんかをしていました。
二人はものすごい勢いで殴りあっています。
マリオットは止めようとして二人の間に入ろうとしますが、マキューシオは飛び込んできたマリオットに気を取られている隙に、ティボルトにみぞおちを殴られて倒れてしまいました。苦しんでいます。
マキューシオが倒れたあと、ティボルトはマリオットにも殴りかかってきます。
少したって立ち直ったマキューシオは『お前が邪魔しなければ普通に勝ってたのに』と怒って、マリオットに殴りかかってきます。
結局、3人で大げんかになってしまいました」
「うわ、痛そうだね」
「マキューシオ君、相当痛かったんだね…」
「そうですね、ものすごく、痛かったようです。
ケンカが終わると、マキューシオとティボルトは大きなけがをしていました。
そして、その責任を取って、マリオットは町を追放されることになってしまいました」
「あれ、さいしょにケンカしてた二人はついほーされないの?」
「うーん、たぶん、二人はいい病院がその街にしかないとかで見逃してもらってるのかもしれませんね。
たぶん、けがが治ったら追放されるのでしょう。
二人のことはわかりませんが、マリオットの追放が決まってしまって、その噂はジアノッツァのところまで伝わってきました。
ジアノッツァは貴族の娘ですから、勝手に街を出ることはできません。
マリオットと会っていたことも内緒ですし、会いに行くというわけにもいきません。
ジアノッツァは落ち込んでしまって、部屋に閉じこもってしまいました」
「落ち込んでいるジアノッツァを心配した両親は、元気を出すためにと、街でも評判の美青年とのお見合いを準備してくれました。
ちなみに、当時のお見合いは親同伴で、親同士が気があったら結婚が決まってしまうことになっています。
ジアノッツァの両親はものすごく乗り気ですから、お見合いに出てしまったら間違いなくその日のうちに結婚が決まってしまうでしょう」
「元気出ない、それは元気でないよ!」
「元気づけるどころかとどめを刺しに来ているわね両親」
「もちろんマリオット以外との結婚なんて絶対にしたくないジアノッツァ。
いつも悩みを聞いてくれていた神父さんに相談してみると、『飲むと3日の間死体みたいに眠る薬』を準備してくれました。
それを飲んで死んだふりをして、3日後に目覚めてからこっそりマリオットのところに逃げればいいだろう、ということのようです」
「なるほど。死んじゃったことにすれば追いかけられないってことね。
でも、どうして神父さんはそんな薬持っていたのかしら?」
「もしかして、誘拐犯とかだったんじゃ……?
死んだふりさせておいて、起きたところを捕まえて売り飛ばすとか…?」
「じあのさんが危ない!」
「ジアノッツァはその薬を飲んで、死んだふりをしました。
だれも死んだふりには気づかず、お葬式をすることになりました」
「飲んじゃったの!?」
「そして、お葬式が終わり、棺桶に入った状態でジアノッツァは眠っています。
薬を飲んでから2日半、真夜中です」
「あと半日で起きるってことだね」
「そこに、こっそり街に入り込んできたマリオットがやってきます。
マリオットは街でジアノッツァが死んだ、といううわさを聞いて、墓地までしのびこんできたのです」
「マリオ、ジアノッツァが生きてることに気付けるのかな?」
『おお、ジアノッツァ、本当に死んでしまったのか?
いつも心は一つだと、あの日誓った仲なのに。
心の半分を失ったままでは、私も生きていくことはできない。
この剣で私の心臓を突き、彼女とともに死んでしまおう』
「マリオ、ジアノさんは寝てるだけだよ!」
「このままマリオットが死んでしまったら、ジアノッツァはどうなるの!?」
『けれど、最後に一度だけ、きみの姿を見てみたい。
そして、心は君とともに旅立ち、体はここに置いていこう』
「そう言って、マリオットはジアノッツァの入っている棺桶をこじあけました。たくさんの釘でしっかり止められていましたが、なんとか開けたようです。」
『ああ、ジアノッツァ。こんな時でも君は美しい。
まるで、ただ眠っているだけのようだよ。
でも、もうけっして目覚めることはないんだね…』
「目覚める、あと半日で起きるんだよ!」
『さよならは言わないよ、今日から私ときみはずっと一緒なんだから…』
「……と言って、自分に剣を刺そうとした、その時!」
「その時?」
「生きてることに気付くの?」
「マリオットは窓辺の誓いを思い出します」
『そうだ、ぼくとジアノッツァは片銅貨に誓った!
この想いは、泥にまみれようとも、そして「打ち捨てられようとも」けっして崩せないと!
打ち捨てられる、という言葉には、「殺される」という意味もある。
もし彼女の死が自ら望んだものでないなら、この恋をあきらめていなかったなら、彼女が「打ち捨てられたとしても」必ずどこかにあの時の片銅貨を持っているはずだ!』
「普通に考えれば『狂っている』と言われるような行動だが、この時のマリオットは止まらなかった。
棺桶からジアノッツァの体を引っぱり出し、服を探り始めたのだ。
着ている服全体を探るとなると、自然と体にさわることになる。
そして、ついにマリオットは気づいた、2日以上たっているはずなのにジアノッツァの体がまだ温かさを保っている、つまり生きていることを!」
「おおー!マリオくんが気づいた!」
「片銅貨で解決しちゃったわね…」
『ジアノッツァ!ジアノッツァ!』
「マリオットが何度も呼びかけると、ジアノッツァはゆっくりと目を開きます」
『マリオ…ット…さま?』
『そうだ、マリオットだ、きみに最期に会いたくて、こんなところまでやってきてしまった!
一緒に死のうかと思っていたけど、きみが目覚めた!
これは奇跡がおきたんだろうか?それとも、死んだというのはうそだったのか?』
『あれ、たしか、神父様に、手紙を頼んだはず……』
『手紙は届きませんよ。今までも、そして、これからもね。
あなたたちは「もう死んでいる」のですから』
「しんぷだ、やっぱりわるいやつだったのか!」
「神父と、武器を持った男たちが二人を囲みます」
『ヴァイツの貴族は「人気商品」なのですよ。
二人とも顔はいいから、とても高く売り飛ばせそうです。
一人のはずがもう一人増えてくれるなんて、運がいいこともあるものです、これも神のお導きでしょうか?』
「悪いやつだー!」
「囲まれた二人ですが、あわてずに言い返します」
『たったそれだけの人数で勝ったつもりでいるとは、お気楽なものだな。
ヴァイツ貴族の魔力の恐ろしさ、その身で味わってみるがいい』
『私はもう貴族ではありませんけれど、「死人」の魔力もなかなかのものだと思いますよ?』
「二人はそういうと、魔力を開放して、戦い始めます」
「おおー!バトルものになった!」
「恋愛ものよ!ついでにバトルもしてるだけなんだからね!」
「マリオットとジアノッツァは戦いながら、こんな会話をしていました」
『こいつらを追い払ったら、二人で旅にでも出ようか』
『いいですわね、二人とも帰れる家もありませんし。
でもそれなら今までの名前は使えませんね、新しい名前を考えないといけませんわ』
『そうだな、それなら君は「ジュリエット」というのはどうだい?
あの空に輝く星に、そういう名前のものがあると聞いたことがある』
『それならあなたは「ロミオ」がいいわ。
はるか遠くへ旅立つ旅人、という意味よ。
どんなに遠くに行ったとしても、私が星なら見つめあえるもの』
『ははっ、それはいい。
でも、きみが星だとしても、もう二度とこの手から離すつもりはないけどね』
「さて、これから先のマリオットとジアノッツァ、とはもう呼べませんね。
ロミオとジュリエットの旅はどうなったのか。
長く語りたいところではありますが、そろそろお時間でございます。
最後に一言だけ言って、お開きにすることにいたしましょう。
『二人の戦いはこれからだ!!』
……おしまい。」
「すごい、小銭の話だったのに、なんかいい感じに解決してる!」
「結局ロミオとジュリエットになったんだね。
もしかしてそのあと軍人さんになるのかな?強いみたいだし」
「なんだか、ちゃんと恋愛ものになってたわね…。
自分で言っておいてなんだけど、レオノーラ様に恋愛ものを読んでもらおうなんて、無理言ったかなって思ってたんだけど。
レオノーラ様、ありがとう!」
「お礼をされるほどのことではありませんが、お礼の言葉とお礼の現物は常時受け付け中です。どういたしまして」
「……やっぱり、そういう発言を聞くと、レオ兄ちゃんなのよね、って思うわ。」
「いや、たまにこういうところがないと、「ずっとそのままでいて」って言いたくなっちゃいそうで危ない、と思う」
「うん、あぶない、からそのままが良いかも」