精霊と聖女は精霊祭でつられる
きっかけは、誰かが言い出した精霊祭と還俗の抱き合わせ、という思い付きだった。
精霊を讃える精霊祭。それならば精霊の愛し子であるレオノーラも讃えられるべきではないか、と。
光の精霊とレオノーラがそろって降臨すれば、光の精霊への賛美、崇拝は一層高まるのではないか。
そして、歌や祈りや供物がお礼として捧げられることで精霊が喜ぶのではないか。
そういう名目で還俗を1回増やしたい、という住民の本音も見えるが、金の精霊からすれば損はないので認めることになった。レオノーラは供物という言葉に釣られた。
精霊祭当日の早朝から金の精霊とレオノーラがホイホイと釣り上げられたそんな日の朝。
納得いかないのはレーナである。レオの身体でぶつぶつ言うのが止まらない。
「祭りで還俗、そこまではいいのよ、いや良くないけど。どうせ祭りとなれば出かけたいのがあいつなんだから、出かけるのは想定してるわ。
最大の問題は、金の精霊がレオノーラについて行っちゃったから水鏡の魔法で見張れないってことなのよ。レオの身体が魔力を持っていれば似たようなことはできるはずなんだけどこの体では魔力もないから使えないし。」
それを聞いたブルーノが疑問を返す。
「こちらから見えたとしても指示ができるわけではないのだから、結果は変わらないと思うが?」
「わかってるわよ、そのくらい。
でも、見えてる落とし穴に飛び込んでいるんだろうなって思うのと、実際何が起きてるのかがわかるのでは心の準備ができるだけ見ているほうが少しマシかな、って思っているだけよ。」
「なるほど、見えていれば対策が取れるわけではないが、心の準備はできる、か。」
「そうよ。どうせ今だってどんどん状況を悪化させてるんでしょ、見なくても想像はつくけど想像をすればそれを悪い意味で越えてくるのが精霊の愛し子レオノーラ様ってわけ。以前だって翻訳のアルバイトで例の『無欲の聖女レオノーラ』を本人が訳しているのを見た時にはさすがに言葉が出なかったわ。」
「アルバイトのためとなればどんな文章も無心で、いや、金のことしか考えてない状態で読めるから平気で訳せるんだろうな。」
「私が読んでもダメージを受ける本を、よく翻訳までできるもんよね。金銭に関する執着心はもう感心するしかないわ。以前から子供がエロ本を翻訳していたのにも驚きだけどね。」
「それがレオだからな。ところで、精霊祭はどうする?手分けして出店での販売とほかの出店からの掘り出し物探しを手分けしてやる予定だが。」
「またレオがいろいろもらってくるんでしょうからいまのうち倉庫の整理をしておくわ。今転売しても問題ないものとほとぼりをさましてからなら転売できるものと手放したら問題にしかならないものの区別は私と院長くらいにしかできないでしょうからね。
もし出店で倉庫の在庫を売るなら、まず周辺の店の値段と品物を調べてくれれば最適な売り物選択と値付けをしてみせるわ。初動は遅れるけど、それ以上に儲けさせてみせる。
調理系の出店をするなら品物を急に変えることはできないと思うけど、最初は値札を出さないで準備ができていない風に装って周りの偵察を優先して。あとはできれば客層、見かけない顔がどのくらいいるか、だいたいでいいから。」
「そうか、任せた。」
「まかせときなさい、損はさせないから。」