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各々の生徒は贈り物を準備する

 『無欲の聖女』レオノーラ・フォン・ハーケンベルグの還俗日を前にして、いろいろなところで作戦会議が行われている・・・。

 同学年の生徒のうち、貴族ではない庶民組の何人かが集まっているようだ・・・。

 

 「レオノーラ様へのプレゼントの案、こんな感じで良いかな?意見まとめてみたけど。まあだいたい前回と同じではあるんだけどね。」


 作戦1、個人で購入?共同で購入?未定

 おもちゃ、アクセサリー、本など、子供たちが遊んで危なくないもの。

 予算では貴族組相手には勝ち目ないし、数で勝負。いろいろある中から選ぶのは楽しいから、おもちゃは人数ぶん以上に集めるのを目標にする。

 手持ちのものからでも良いし、買ってきても良い。ただし無理はしない。


 作戦2、貴族組との共同作戦、服を大量購入。

 資金を集めた量に応じて枚数を変える、小さな金額でも協力すれば共同参加者として連名で送ってくれるみたい。作戦1で余った金額を集めて持っていくだけでも人数がそろえば買える服が一着増えるくらいにはなるかも?


 「良いんじゃないかな、気軽に使えるくらいのおもちゃとか、安いわりに良い感じに見えるアクセの店とか、そのへんはあたしら庶民組の実力ってもんが発揮できると思うんだよね。子守り経験ある生徒もけっこういるし。

 そんで、作戦1のほうは予算はいくらくらいにする予定?あたしらだって出し合えばけっこうな金額集まりそうではあるけど、小物はそれぞれで買う?みんなでお金集めてからみんなで決める?」


 「うーむ、小物はバラバラで買った方がいろんな考え方で決めることになるから楽しいんじゃないかなって思う。相談して何人かで大きめなものを狙うのもいいかもしれないけどね。」


 「予算は、私なら父ちゃんに言えばたぶん出してくれると思うけど、ムリはさせたくないから誰かに決めてほしいな、テキトーで良いから。自分の小遣いから出すほうがいいのかな?」


 「あー、まあ全力出すよね、上限無しなら。

 んじゃ1人最大で小銀貨1枚くらい、くらいでどう?本気でテキトーだけど。

 市場で面白いの探して買えない予算でもつまんないし、ほどほどに良いの買えそうって言うとそのくらいかなって。

 もちろん実際は上限出さなきゃいけないわけじゃなくて、いい感じなのを準備できれば金額は自由で。あたしが勝手に言ってるだけだしね。」


 「そのくらいなら助かる。ありがとう。

 ところで、自分ちの倉庫にあったものを持ってくるときは値段関係ないよね?」


 「倉庫の物は家族と相談してもらって来るのは良し、で良いんじゃないかな。知らんけど。」


 「うん、了解。まあ相談は必須だねー。

 とりあえずこんな感じで、あとはなにか変更あったら相談しよう。」


 「りょーかい。んじゃ私は今度の連休の市場で掘り出し物がないか探ってみるね。」



 下位貴族の間でも会議が行われていた、庶民とあんまり変わらないと言っている者が多いが、相談するときは別れたほうが話が合うのかもしれない。

 下位貴族に聞けば下位だから普通の人ですね、くらいになり、平民に聞けば下位でも貴族ですし、ってなる立場が下位貴族なのかもしれない。


 「さて、皆さんが集まったところで、共同購入についての計画を再確認しましょう。

 レオノーラ様と孤児院に贈る服はどのような服をどのくらいの数揃えるか、についてですね。

 資金集めの募集を他学年にも広めるなら、もう少し具体的な予算計画が必要と考えます。」


 「普段着に使えそうな服は多少多くあっても良いと思います。

 良い物は相応に高いですけど、寒い時に暖かい服があるとかなり違いますし、清潔な服をこまめに着替えるのが健康維持に重要だと薬学の授業で先生が言っていました。」


 「そうですね、体育でも先生が言ってました。濡れた服や汚れた服を早めに着替えて清潔を保つのは大切だと。なので着替えに使える服、たくさんの清潔な衣服はプレゼントとして贈るのは良いことだと思います。」


 「制服みたいにみんなお揃いのデザインでいっぱい作って、みんなで着れるようにしたら良いんじゃないかな?古着だとどうしてもバラバラなデザインになっちゃうし、せっかく新品でいくなら、古着ではできないことをしたい。」


 「なるほどね、でもけっこう新品で揃えるってなると高い系だよね。制服と同じくらいの服を着替え分の予備もってなると。

 ここの制服、かなりお金はかかってるよ。まあ通学に自前のドレスとか使うような上位貴族様からすれば1人で10着でも20着でも余裕で買えるくらいだろうけど、あたしら下位貴族だとお金出し合えば行けるかもしんないけどムリかも、くらいな気がする。」


 「あっ、お揃いにしたいなって意味で制服みたいなっていっただけで、作業着くらいの汚してもあんまりガッカリしないくらいを想定してた、たぶんあんまり高すぎても目的には合わない気がする。値段じゃなくて数を揃えたい。」


 「デザインをしてもらうか既存のデザインを使うかにもよりますけど、同じデザインで大量購入ならある程度安く作れそうですね。」


 「なるほど、それじゃ新品の安い服でたくさん揃えられそうな店ってあるかな?」


 「友達で上位貴族にも下位貴族にも服を作ってる仕立て屋がいるから、簡単な見積もりだったら聞けるよ、見積もり代も食堂で一食ごちそうするくらいで済ましてくれる。だいたいの予算と目標、どの程度の服をどのくらいの数作るのかを決めてからじゃ無いとダメだけど。

 そこに決めろってわけじゃなくて、いろんなところに話だけ持ってくのは良いことだと思う。」


 「それならお願いしますね、大量に注文する経験はありませんし、いろいろ情報は集めましょう。」


 「了解、んで、全体の予算はだいたいいくらで行く?どのくらいのスケールの商談かで話は変わると思うんだよね。」


 「今のところ金貨1枚を少し越えたところです、最終的にはおそらく金貨数枚程度になるでしょう。無理はしないようにとの通達がありますから個人からは上限でも銀貨1枚におさえていますが、それでも人数が多いのでまとまった金額になっていますね。足りない場合は上限を変更してくれればもっと出せるという意見もたくさん寄せられていますが保留中です。」


 「なるほど、けっこう大きい商談になりそうだね。予算は変動ありか。

 今度の休日に話持って行ってくる。何種類か見積りもらってくるよ。詳しくは来週で、お疲れ様。」


 「お疲れ様でした。また来週。

 見積りに経費が必要なら金額を請求してくださいね。」



上位貴族たちの間でも会議が行われている・・・。


「次回の還俗の予定も近づいてきましたね。

 それでは予定通り、還俗時にレオノーラ様に喜んでいただくための作戦会議を行います。

 まずは、衣装についてですね。

 ドレスは常時いくつか準備してはありますが、追加が必要かについて相談しましょう。」


 「服装については比較的シンプルなデザインのドレスを好むのではないかと思われます。

 前回の還俗でもシンプルなデザインのものばかりを着ていたようです。」


 「いや、学園祭の売店で手芸用品の出品があった時、レース素材や小さなアクセサリーなどは好んでいたように思えます。買うことはありませんでしたが、興味深い様子でご覧になっていました。

 おそらくですが自分を着飾るということにいまだ慣れていないだけで、そういうかわいいもの、きれいな装飾などへのあこがれのようなものは持っているのではないでしょうか。

 今となっては還俗日くらいしかそういうものを楽しむ機会もないでしょうし、ある程度かわいい系や華やかなものなどを使うのも良いのではないかと思います。

 今では黒のサバラン以外を身に着けていないわけではなく、最近はちょっとしたアクセサリーを身に着けたり明るい色の服を着ることも多くなっているようですし。」


 「レースがたっぷりの服などはあまり好んでいるようではないように思えます。

 自分が着る服に関してはまだシンプルなデザインを好むのではないでしょうか。」


 「我々がレオノーラ様への贈り物を決める場合、服装に関しては本人の意見は全く参考にできませんからね…。

 前回聞いた時には『汚しても気にしなくていいような安くてぼろな服が一番良い』でしたし。

 パーティーに参加するには最低限の装いがあると説得して、なんとかドレスを着ていただくことは納得していただけましたが。」


 「レオノーラ様の場合は主賓ですからどんな服でもドレスコードで門前払いされる心配は全くないですけれど、ほかの参加者の服装が決められなくなりますわね。

 わたくしたちがレオノーラ様の前で見苦しい格好をするわけにもいかないですし、レオノーラ様より華美な服装をするのもためらわれますし。」


 「まずは我々の服装については清潔感を重視してかつシンプルなデザインでいきましょう。アクセサリーは最低限に。

 レオノーラ様にはお土産に使えるようにアクセサリーを多めに。気軽に使える程度の小物を数多く、準備しておきましょう。」


 「パーティーの主役にふさわしい、そして気軽に使えるレベルの装飾品ですね。

 パーティーでもあまり高価な物は使わないようになっていますし、こういう時くらいは予算を回さないと芸術関連の文化が保てませんからある程度のまとまった金額を使いたいところですが、気軽に使えるレベルとなるとあまり高い物は使えませんね。

 新たに買う場合には最大でも1個あたり銀貨数枚程度まで、金貨を使うようなものは自粛、くらいでどうでしょうか。」


 「そのくらいなら普段使いにも良いかもしれませんわね。普段着にも合わせられるような物で、体格に関係なく身につけられる物を優先しましょう。」


 レオノーラが聞いたらショックでぶっ倒れるような金額の使い道があっさり決まっていく。

 

 「送り主の数が多すぎる場合には、送り主は秘密として、どれを身につけるかはレオノーラ様の判断に任せるということで。

 レオノーラ様から選んでほしいと依頼された者は例外として選ぶことができることとしましょう。

 その点では着付け担当の侍女が有利ですわね。」


 「着付け担当になれる時点で勝利者ですから仕方ないことです。

 さて、次ですね。服以外だと何があるでしょうか。」


 「お土産についてですね、服装や装飾品以外での。

 食料品なら保存がきくものを好まれるようですわね。」


 「『おいしい食べ物、できれば保存がきくもの』でしたね。

 保存がきくものを中心に、生ものは贈るとしてもごく少量ですね。

 以前喜んでいたナッツの瓶詰め、クッキー缶などのお菓子類、あとは小麦粉などの日持ちのするものを多めに送りましょう。」


 食べ物を贈る時は長持ちするものを中心に選ぶことになっている。食糧の在庫の心配をさせたくない、というのもあるし、在庫を増やそうとするあまり古くなったものを食べさせるようになっては本末転倒である。

 彼女たちは古くなったものでもなるべく捨てないで食べようとする。そして、その時一番危ないものを食べるのは体力に余裕のある者、この場合レオノーラである。

 つまり、下手な贈り方をしたら、贈り物をしているつもりで腐ったようなものを食べさせてしまうことにもなりかねない。

 彼女の性質なら、食事の量が足りなければ自分の分を減らすだろうから量が足りないのは論外。だが、日持ちのしない物については悪くなる前に食べきってしまえる量、そして食糧の残量の心配がない程度に保存のしやすいものを置いておいて食料に困る事態にしないようにするのである。


 ナッツは日持ちはするものではあるが、カロリー的にもかなりのものである。食べすぎて体調不良になる話も時々聞く。まあハンナ孤児院の場合は食べすぎて体調不良になる心配は全くないのだが。多めに送ってきたところで余分は保存に回されるか出店用の料理の材料に使われるだけである。

 ナッツが入ったパンは普通のものより小さくても同じ値段で、しかも早く売れる。

 つまりナッツは保存のきく食料としてもすぐれているし、調理して売れば換金性も高い素敵な贈り物である。

 レオもナッツは大好物である。資金源的な意味で。

 

 「ナッツやビスケットなどは例によって袋を汚したり形を崩すなどして、『廃棄品だから処分する必要がある、処分を手伝ってもらえませんか』という形で渡す、というのは前回と同じですね。もちろん食べて問題のないように上質なものを注文してあります。」


 「すでに注文してあったのですね。さすがですわ。」


 「食料についてもこれでよしですね。

 あとは精神的なものについてですが。」


 「精神的なもの、つまり還俗の時間の振り分けですね。

 これは交渉によって配分が決まっているはずですが。」


 「アルベルト皇子と過ごす時間が今回取られていないようなので、移動時間内に偶然会うことができるかと考えました。

 皇子は前回充分すぎるくらいに時間を振り分けたので1回休み、とのことですけど、どうにかねじこめませんか?」


 「わたくしたちにはそこを調整する権限はないので不可能です、ただし、学園内での移動時間に偶然出会うぶんに関しては黙認する方向でいきましょうか。もちろん長時間の足止めは認めるわけにはいけませんが。」


 レオノーラがガッカリする姿を見たいわけではない。ちょっとした幸運を演出することくらいは認めないこともない。

 だが、簡単にそういう偶然を認めてしまうと、レオノーラに会いたい者で廊下や道が埋まり、移動時間だけで貴重な還俗の時間を削ることになる。なので最小限である。

 アルベルト皇子に偶然会った後のレオノーラを見ると、顔色を赤くしたり青くしたりと忙しい。そういう反応も新鮮でいいものだが。


 「皇子についてはそれで良しとして、それ以外のことについて、服装、アクセサリー、食料、そのほかでまだ決まっていないもので必要なものはありませんか?」


 「冬に向かうこの季節、毛布などの寝具は良い物があると良いと思います。

 建物も建て直した後は隙間風も無くなったという話は聞きましたし、薪代に困るようなことは無いと思いますけど、やはり寒さが厳しいと体調も崩しそうですし。」


 「なるほど、たしかに良い寝具があると寒い日には役立ちそうですね。

 場所をとる物でもありますから、手紙を送って相談の上で必要ならば、ですわね。」


 簡単に買い替えするとはいかない物を理由をつけて購入する、予算がある時にしかできないことであるし、良い寝具は健康状態に直結する。

 大貴族の財力を活用して、さまざまな計画がつぎつぎと発表され、決定されていった…。



 このように、庶民も、下位貴族も、上位貴族も、それぞれの思いを込めて、レオノーラ・フォン・ハーケンベルグへの贈り物を準備している。

 『無欲の聖女』と呼ばれる彼女は物を欲しがることはほとんどないが、周りの者に笑顔が広がることを喜ぶのは容易に想像できる。

 将を射んとすればまず馬を射よ、ではないが、レオノーラを笑顔にしたければまず周りに喜びを広げる。そのために使う金銀は神に恥じるものではないと皆が確信している。



 ちなみに、レオノーラが一番喜ぶ贈り物が現金であることに気付かれることは無い。

 だれも現金をそのまま送るという選択をすることは無いのである。

※それぞれの出す金額を変更しました、それぞれの出す金額は近づいたけど、金銭感覚にはまだ開きがある感出てるでしょうか、

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