三人の兄妹は初対面で名づける
副題は変えるかも
還俗予定日の朝、ヴァイツェッカー魔法学園中庭。
清掃作業の参加者が集められていた。
参加者は全員緊張し、直立不動であった。
今は俗界にいないはずの聖女レオノーラ、そして皇女ビアンカが目の前にいるのだから当然である。
「わたくしは臨時に代表をすることになったビアンカです。レオノーラ様のための清掃作業の追加メンバーを紹介いたしますわ。
ザ・ライト・オノラブル・レオニーチェ・レディ・タールグルント・オブ・ヴァイツゼッカー様です。
レオニーチェ様、皆様へのご挨拶をお願いします。」
「はじめまして、みなさま!
レオニーチェ・タールグルント・ヴァイツゼッカー11歳です。レオニーチェと呼んでいただけると嬉しいです。」
「レオノーラ様…?レオノーラ様!!」
「還俗って午後からだったのでは??」
「みなさま?レオニーチェ様です。誰かに似ててもレオニーチェ様です。
『仮面の下を覗こうとするのは無作法』ですわよ紳士淑女なら。」
「すみません。あまりのショックに聞こえてませんでした。レオニーチェ様ですね。」
「失礼しました、レオニーチェ様ですね!」
「はじめまして、レオニーチェ様!」
「レオニーチェ様、ビアンカ様、よろしくお願いします!」
(いや、レオノーラ様11歳って無理ありすぎだろ、あの色気で11歳は無いわ)
(レオノーラさまだよねえ)
(どうしてレオノーラさまのための掃除にレオノーラさまが来てる??)
(どうしてレオノーラ様が伯爵夫人…ああ、そういうことね。)
(タールグルント伯爵っていう伯爵はヴァイツにいないし!貴族一覧丸暗記のテストつらかったし!!)
「そして、現時点で名前は名乗れない参加者が一名います。レオニーチェ様、」
「はい!?……なんでしょう?」
「私のお兄様にレオニーチェ様とおそろいの「ザ・ライト・オノラブル・アルバート・ロード・タールグルント・オブ・ヴァイツゼッカー」という名前を名乗るお許しをいただけますか?」
「タールグルント!? ……お許し…?
あ、そういうことか。はい、名乗って大丈夫です!」
ありがとうございます。では続いて、お兄様、いえ、「ザ・ライト・オノラブル・アルバート・ロード・タールグルント・オブ・ヴァイツゼッカー」、タールグルント卿にレオニーチェ様の清掃作業のパートナーをお願いいたしますわ。
「アルバートお兄様、はじめまして!レオニーチェです、今日は掃除がんばりましょうね!」
「はじめまして、レオニーチェ。私がアルバート……『お兄様』?」
「あれ、何か間違ってましたか?レオニーチェとアルバート様、家名が同じだから兄妹ですよね?」
「……いや、間違えてはいない、かわいい妹よ。掃除をがんばろう。」
「はい!」
「お兄様、お名前がアルバートになったとしてもこのビアンカと縁が切れるなんてことはありませんわよね。
レオニーチェ様がアルバート様の妹なら、兄の妹は私の妹。レオニーチェ様と私も姉妹ということになると思うのですが。」
「あ、ああ、そうだな。もちろんだ。お前もかわいい妹だとも。」
「それならビアンカさまもお姉さまですね!今日は掃除がんばりましょう!」
「そうね、兄妹仲良く掃除しましょうか!いいですわよね?わたくしもかわいい妹なんだったら。」
「ああ。もちろんだ。3人で仲良く掃除をしよう。」
「そうしましょう!ところで、ビアンカさまの名前はどうしましょうか。せっかくだし名前も変えますか?」
「それならレオニーチェが決めてくださいな。いい名前を期待しますわ。」
・・・・・
「参加者の皆さん、はじめまして。私はアルバート・タールグルント・オブ・ヴァイツゼッカー。
アルバートと呼んでもらえると嬉しく思う。
レオノーラ様のため清掃作業に参加してくれた皆に感謝する。よろしく頼む。妹たちを紹介しよう。
『ザ・ライト・オノラブル・レオニーチェ・レディ・タールグルント・オブ・ヴァイツゼッカー』、そして『ザ・ライト・オノラブル・レディ・ロザリア・タールグルント・オブ・ヴァイツゼッカー』だ。妹たちよ、みなさんにご挨拶を。」
「ロザリア・タールグルント・オブ・ヴァイツゼッカーですわ。レオノーラ様のためのお掃除、完璧にやり遂げましょう。」
「レオニーチェです、充分きれいな気も……いや、今以上にきれいにしてレオノーラ様を喜ばせましょう。みなさん、がんばりましょうね!」
(充分きれいだから掃除いらないんじゃないかって思ったけど、充分だからバイト中止ってなっても困るしな。掃除はもとがきれいだと難しいんだよなー。
ゴミの山とかのほうが減ったことがわかりやすいから働いた感が出るしごみの中から使えるものを集めることもできるから楽しいんだが、学園は普段から掃除がしっかりしてるからごみがあまりたまらないんだよな、残念。)
「はじめまして!よろしくお願いします!」
「よろしくおねがいします!ピカピカに掃除します!」
「アルバートさま、はじめまして!今日はレオノーラ様のため全力で掃除いたします!」
・・・・・・
「三人の周りだけ空気が違う、輝いてるようにさえ見えるわ。」
「美しいって言葉はこういう時に使うためにあったのね…。」
「いやいや、ありえないでしょ!?
どうして一番人気がなかったはずの庭掃除にレオノーラ様とアルベルト様とビアンカ様がそろうわけ?
レオノーラ様が来ることを知っていればお二人は喜んでくるだろうけど、レオノーラ様がなんで庭掃除に?還俗は午後からじゃないの?」
「それは言わないほうがいいんじゃない?やっぱりやめたと言われてもこっちは止められないんだし。現状あたしらには得しかないじゃん。邪魔する必要はない。」
「うん、それはわかる。現状を理解はできてないけど。まあ見とけ覚えとけってことだね」
「そうそう。この状態見れてラッキー。」
「ところで、アルベルト様が妹たちっていってたわりには名前が少し違ったけど、あれってどういう意味だかわかる人いる?貴族の名前ってことなんだろうけど、『適当に決めた貴族っぽい名前を名乗る』以外の意味があるんだったら私はわかってないなって思うんだけど。」
「最初のレオノーラ様の名乗りが『タールグルント伯爵夫人レオニーチェ』っていう意味のはず。
ヴァイツでは伯爵以上の上位貴族はたとえばレオノーラ様が『レオノーラ・フォン・ハーケンベルグ』になっているみたいに短い名前になることが多いけど、今回は誰も知らない名前を名乗ってるから『伯爵夫人を名乗るから、話を合わせなさい』っていう感じのアピールするため説明的な名前になっているんだと思う。
夫人ということは結婚相手がいるっていうことになるよね。夫人なんだから。
お相手はアルベルト皇子のことだろうなとも思えるけど、精霊の花嫁っていう二つ名があるからお相手は人間と決まったわけでもない、だからアルベルト様が『タールグルントを名乗ってもよろしいですか』と聞いたのは相手は自分でいいんですか?みたいな意味のはず。
それでどうしてお兄様になったのかがわからない。
ちなみにビアンカ様の名乗りは当主夫人以外の女性っていう意味だから兄妹という意味になるわねこの場合。」
「レオノーラ様の名乗りまでが見逃してもらえるラインぎりぎりで、皇子が乗っちゃったらアウトだったから勘違いするふりをしてスルーしたんじゃないかな。
兄妹として仲良く過ごすまでなら許されているのかもしれない。
アルベルト様に会う予定がなかったからああいう名前を名乗ってみたけど、本人に会ったら照れちゃって兄妹に設定変更したのかも。
予想外って顔だったし。」
「あんなに大恋愛してて照れることもなさそうだと思うけどね、まあ夫婦設定は無しで兄妹、ビアンカさまもだから3人兄妹ってことになったっていうことね。」
「掃除を名目に出会えるように計算してたのね…。聖女様も大変だぁ、知ってたけど。」
「いや、3人で熊手とちりとりとほうきを抱えてはりきって掃除に行ったみたいだけど。」
「マジメか!! いや、還俗の予定以外で出会えるなら掃除でもなんでも楽しいだろうけど!」
「そろそろ私たちも掃除しましょう、レオノーラ様のためですし!」
「そうですね、レオノーラ様が近くに…居ないけど、レオニーチェ様が近くで見てくださるかもしれませんし、徹底的に掃除いたしましょう。」
「賛成、中央通路のあたりを掃除しましょうか」
ヴァイツでは学園に魔力の強さ順に呼ばれてしまう召喚魔法の仕様上、魔力が高いことが多い上位貴族はお互いのことを当然知っているはず。(上位貴族一覧を覚えるのにそれほど苦労しない程度には伯爵以上の家はたぶん少ないはず?)
なので上位貴族に「どこどこの伯爵なんとか卿の娘なんとかさん」みたいな長い名前を付ける必要はなくて、「レオノーラ・フォン・ハーケンベルグ」(ハーケンベルグのレオノーラ)のようなシンプルな名前になりがち。この場合レオノーラが侯爵の孫っていうことは当然知っている前提。
下位貴族(子爵、男爵、騎士爵)は相手が知らないこともある前提で長い名前を名乗ることが多い感じ。領地~で爵位が~で家名~の名前が~ですーみたいな感じであいさつしたほうが初対面では親切。お互いそういう名乗りならどっちが格上かわからなくて調子に乗る事故も無くなるし。
以上、二次創作内設定です。本家優先、これ鉄則。