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偽りの夫人は使用人にまぎれる

久々投下。

途中までだし放置になるかも。



無欲の聖女完結後のネタです、本家読まないとさっぱりです。

本家読んでも多分さっぱりです。

『還俗』予定日当日。

 ヴァイツゼッカー帝国学院ではレオノーラ様を歓迎するため徹底的な清掃作業が予定されていた。

 午後だけという短時間の『還俗』時間が与えられる予定のため、少ない時間を無駄にしないよう、万が一にも馬車の故障などが起きないよう、街中の道は掃き清められ、校舎は隅から隅まで磨き上げられる。

 どうしても落ち葉などは当日に仕上げの掃除が必要になるため、早朝から使用人や生徒たちが仕上げの掃除のために集められることになった。

 

 しかし、その日は神託で履歴書が送られてきたのだ。すぐ行きます、と書いてあった。

 履歴書に書かれた名前は「ザ・ライト・オノラブル・レオニーチェ・レディ・タールグルント・オブ・ヴァイツゼッカー」。見覚えはない。

 一番近くにいて対応できそうなのがビアンカ皇女しかいなかったため、彼女が面接官として対応することになった。

 だが、面接室で「レオニーチェ」の姿を見てみれば、どこからどう見てもレオノーラ様であった。

 髪の色は変えているようだが、顔がそのままなので一目でわかる。


(どうして臨時募集のアルバイト志望者の履歴書が神託を通して送られてきたのかと思ったら、そういうことでしたの?どうしたらいいのかしらこの状況!?)

「えっと。はじめまして、でしたわね?面接担当のビアンカです、よろしくお願いしますね。」


「はじめましてですね!ビアンカさま!

 レオニーチェ・タールグルント・ヴァイツゼッカー、11歳です。レオニーチェと呼んでいただけると嬉しいです。」


 レオニーチェと名乗る美女は見事な最敬礼をする。どれだけ少なく見ようとしても11歳には見えない。

 だがヴァイツゼッカー帝国学院の入学年齢が12歳だから、入学していない貴族は11歳以下がほとんど。だから入学前の貴族を演じるなら11歳を名乗るのは理解はできる。

 隠せるとは思っていないのだろうな、と確信する。

 国民全員が彼女の顔を見ればレオノーラだとわかるといってもいいのだから当たり前ではあるが。

 ビアンカはとっさに最敬礼を返しそうになるが、普通の淑女の礼を返す。

 兄から柘榴の礼の話は聞いている。相手がレオニーチェと名乗りレオノーラであることを隠すなら、自分もそれに対応するべきだと。


「あら、よろしいのですか?

 ではレオニーチェ様と呼ばせていただきますね。

 時間も限られていますので手短に行きましょう。まずは今回の清掃作業に参加しようと思った理由を教えてください。」


「えっと、時間が少し予定外に空きました、アルバイト募集見つけました。

掃除なら毎日しているので自信はありますし、アルバイト料で買い物できるなと思いました。」


(還俗の時間って予定外に増えたりするものなのかしら?

 でも今ここにいるということは、レオノーラではなくレオニーチェとしてなら外出が許されている?

 でも、この名乗りは…やっぱりそういう意味よね?)


「念のためもう一度確認させてください。予定は空いているのですね?外出できる状態だからここまで来た、というのに間違いはありませんね?」


「はい、この通り、昼すぎくらいまでに自宅に戻ればいいことになっています。

 アルバイトの後で夕食の材料を買い出しするにも時間がかかりますので、早朝から午前中で終わると聞いてちょうどいいと思いました。」


 少女の両手首に光る文字が浮かぶ。

 罪人を捕らえる手枷を連想するのは気のせいだろうか?

 古代エランド語らしき単語が不規則に表れている。

 文字を見るだけでも、神々しさを感じられる文字である。神の手による文字とみて間違いないだろう。


「はい、志望動機も書類も問題なしですね。採用です。よろしくお願いします。

 それでは、作業はもうすぐ始まりますので準備をお願いします。

 汚れてもいい服装に着替えて来てくださいね。

 できれば、時間ぎりぎりに集合場所の中庭まで来るようにお願いしたいのですが、問題はありませんか?」


「あ、はい。ギリギリですね。了解です。ギリギリというと数分前程度でしょうか?」


「できれば集合時間の2分前以降で、数分の遅れなら問題ありませんが遅くとも集合時間の10分後までには集合場所についてください。

 それまでは極力ほかの参加者には姿を見られないようにしてください。

 更衣室はこのメモの通りに歩けばあります、ほかの部屋と見間違いやすいのでお気をつけて。」


「はい、それでは着替えてきます、失礼します。」


レオノーラは部屋から出て、ガッツポーズを思わずしてしまう。


「やったぜ、これで高額バイト代が手に入る!

 名前から経歴まで全部でたらめに書いたけど通るもんだな!

 アル様に原稿案を見てもらってバイトに潜り込めるか聞いたら充分イケるって言ってくれたのを信じてよかったぜ。

 子爵や男爵はいっぱいいるし増えたり減ったりするから適当な家名名乗っておけばばれないって本当だったんだな。

 いや、油断はいかん、最後まで俺がレオノーラだってことがばれねえようにしねえと。

 歓迎会の準備のバイトに歓迎されるヤツが入ってるなんてバレたら台無しだしな。

 さて、と。貴族用語で汚れてもいい服装、の場合は、気合を入れて良い服で来い、の意味だよな。

 銀食器磨きのバイトに行くときに汚れてもいい服装っていうからボロ服で行ったら帰れって言われたのは苦い思い出だぜ。

 更衣室で着替えてくるとするか。それからギリギリまで待って合流、と。集合時間の指示を守るのはバイトの基本だからな。

 遅刻してもいいってのはよくわからねえけど、まあ2分前から集合時間までに行くのが無難か。遅刻してほかのバイトににらまれるのも面倒だしな。

 それにしても、アル様は相変わらずすげえよな。神託を使えば送料無料で手紙が送れるんだから。万能っぷりがとどまるところをしらないぜ。

 これでバイト料の取り分が減らなくてすむ、ほかのバイトよりも一番お得なバイトってことになる。採用前に使った金は必要経費で請求したりできないからな。ケチるのが一番だぜ。」


 ちなみに、アルタ様はレオノーラがもし「れおにーちぇ、5さい、いっぱいはたらきます」くらいのことを書いたとしても顔さえ見せれば採用されると思っているので、バイトに潜り込めるかと聞けばイケるという答えになるのである。

 もちろん一目でレオノーラだと気づかれるのは想定済みである。


「俺は子爵の娘レオニーチェ、子爵の娘レオニーチェ。

 貧乏貴族はだいたい一般人と変わらないって言ってたし大丈夫だよな、貧乏貴族貧乏貴族っと。貧乏って言葉は恐ろしいよなー。

 帰りに買う買い物メモも忘れないようにしねえと。ハンバーグ用の安い肉とかさまし用の芋と野菜だっけな。手首に書いてもらったから安心だけどな。」


 レオノーラは足取りも軽く更衣室に入っていった。




 エルゼは更衣室のドアが閉まったのを目視した後、静かに、他の生徒にあわてて急いでいると思われない程度の最高速度で廊下を歩き、面接室に滑り込む。


「失礼します。ビアンカ様、レオニーチェ様が更衣室へ入ったことを確認しました。」


「お疲れさま、エルゼ。

 ねえ、確認したいのだけど。

 今回の清掃のメンバーにレオノーラ様の名前はあるかしら?」


「…!

 いえ、レオノーラ様の名前はありません!」


「なら問題はないわね。

 予想外の事件が起きることを避けるため、清掃作業参加者とほかの生徒や職員との接触は制限します。

 充分に身元調査は行っているはずではあるけど、われわれの仲間を守るため、念には念を入れましょう。

 集合時間から清掃終了まで、清掃作業参加者全員に緘口令を。もちろん今日学院内のほかの場所でレオニーチェ様に会ったであろう人にも全員です。

 もちろん、物理、魔力両面から、あらゆる連絡方法を遮断します。清掃区域内から出なくても困らないように、給水、軽食、備品は充分すぎるほどに予備を準備しましょう。

 急な体調不良が出た時にもその場で対応できるように、医療部隊も近くに待機させておきましょう。

 レオノーラ様に関する情報は即座に各所に伝えるようにとの指示は受けていますけれど、レオニーチェ様について報告せよとの指示は受けていませんから、問題はありませんわね。

 ただ、わたくしの知識不足により見覚えのない伯爵夫人がアルバイトにいらしただけのこと。

 でも、お兄様ならひょっとしたら見覚えがあるかもしれませんわね。至急の伝令を、内密に送りましょう。」


 『ザ・ライト・オノラブル・レオニーチェ・レディ・タールグルント・オブ・ヴァイツゼッカー』。

 ザ・ライト・オノラブルは伯爵以下の貴族の当主、当主の妻、まれに息子や娘につく言葉。

 貴族の名前にレディとつけられるのは伯爵以上の貴族だけ。レディの後に家名がつくのは当主の妻だけ。

 まとめると、『ザ・ライト・オノラブル・レオニーチェ・レディ・タールグルント・オブ・ヴァイツゼッカー』という名前の意味は、ヴァイツゼッカー領領主タールグルント伯爵夫人レオニーチェ、となる。


 タールグルント伯爵、という人物はヴァイツには存在しない。

 ヴァイツゼッカー領、という領地もない。現在は学園の名前としてのみ存在する。

 だが、『ヴァイツゼッカーの領主が誰か』とあえて問われれば答えは明らかだ。

 聖女としての身分を隠し、名前を変え、『彼』の妻を名乗る。

 半日限りの悲しい一人遊び。


 そんなものを見せられては、今回ばかりは全面協力するしかない。

 どのみち半日限りなら、せめて最高の思い出になるように。

本人だけバレてないと思っている変装でした。顔を見せている時点でみんな気づく。


ちなみに偽名の正解は

家名なしでレオニーチェとだけ名乗るが正解(貴族っぽい名前をもともと名乗らない)

レディ・レオニーチェ(レディの後にファーストネーム)だと伯爵以上の娘

レディをつけないなら子爵か男爵かな?って感じです。

レディの後に家名をつけちゃうと、家の中での女性で一番上=当主夫人になっちゃう。



貴族の名前の名乗り方は二次創作的設定です。(ヴァイツの貴族は別の名乗り方な可能性は充分ある、というか間違いなく違うと思う

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