ヴァンパイアロード殺し
我が輩はヴァンパイアロードである。そして転生者である。名前はどうでもいい。
ヴァンパイアに転生した時、俺は歓喜した。
だってヴァンパイアだぞ、ヴァンパイア。しかもヴァンパイアロード。吸血鬼の王。最高クラスの当たり種族だと思った。
でも、世の中そんなに甘く無かった。
まず気になったのはモンスターの発生方法だ。
この世界の事など何も知らない俺だが、自分の置かれた状況だけでも、多少の推測は出来る。
俺は気づいた時には洞窟の中で仁王立ちしていた。
多分ポップしたんだろう。周りに俺の誕生に繋がるようなものは何一つ無かった。
そして俺がいる洞窟は狭い。
大きめのテントと同じくらいの大きさしかない。ギリギリ立てるレベル。
もはや洞窟じゃ無いな。穴だ、穴。
これがダンジョンとかなら、良かった。
ヴァンパイアロードがダンジョンボスとしてポップするとかなら、違和感が無い。
だがテントレベルの穴でポップするヴァンパイアロード。
何故だろう、雑魚臭が凄い。
そしてシュールだ。かっこ悪い。
すぐに旅立とうと思うのも当然だ。
しかしここで問題発生。
空は晴天だ。見事に雲一つ無い。
ヴァンパイアに対する嫌がらせとしては満点だ。
だが俺は行けるだろうと思った。
ヴァンパイアロードと言えば、吸血鬼の王。そして真祖。真祖が吸血鬼の弱点を克服しているのは定番だ。
そして外に出た。なんの躊躇も無く。
三歩歩いた所で、消滅しかけている事に気づいた。
痛覚が無いから気づくのが遅れた。
前世から数えて、生まれて初めて、痛覚の必要性を実感した。
命からがら洞窟に逃げ帰って思う。
誇り高きヴァンパイアロードが三歩散歩しただけで瀕死とか冗談キツい。
そして笑えない。
しかも、この周辺には、日光を遮る物が何も無い。ものの見事に何も無い。
発生地点から動けないモンスターとか、何その悪質なバグ。
だがまだ慌てる時間じゃ無い。
今がダメでも夜を待てば良い。
ヴァンパイアは夜の王とも言われている。大丈夫だ。
……夜が来ねー。
何言ってんだと思うが、マジで来ないんだから仕方ない。
ふざけた事に、この世界には太陽が複数あった。
そして、互いの隙を補うようにローテーションを組んでいる。
チームワーク強すぎだろ。
そして相変わらず、雲一つ無い。
おかしい!いくら何でもこれはおかしい!
なんでこの世界、ヴァンパイアに対してだけこんなにメタ張ってんの!?
なんでヴァンパイアに対してだけ、対策完璧なの!?
神か!神なのか!神様がヴァンパイア嫌いなのか!
その後もいろんな事して、現状からの脱出を試みた。
眷属召還で部下を呼んで、傘代わりにしようとしてみた。
一瞬で消滅した。一秒も保たなかった。
もしかしたら、ヴァンパイアロードだけが日に弱いくて、眷属なら大丈夫なんじゃという、淡い希望は砕け散った。
むしろ、三歩でも歩けた分マシらしい。
じゃあもう、外に行くのは諦めて、洞窟を拡張して、引きこもってやろうと思った。
いくらヴァンパイアロードとは言え、生まれたて、レベル1の力では洞窟に傷一つ付ける事もできなかった。
血液武器化とか使ってみても、拳が砕ける始末。
痛覚は無いし、再生速度も速いけど、意味が無かった。
蝙蝠変身?
それこそ無意味だ。蝙蝠になっても、弱点は変わらない。
詰んだ。
終わったわこれ。
俺はこんな、寝返りをうっただけで消滅するような所で一生を過ごすのか。
しかも、予想が正しければ、ヴァンパイアロードに寿命なんて無い。
気分は孫悟空だ。
大岩の下に封印された、お猿さん。
三蔵法師が来なければ何も出来ない。
もういい、寝る!寝てやる!
元々俺はヒキニートだ。なんて事無いもんねー!
永遠に惰眠を貪ってくれるわー!
結論。異世界チートなんて、ろくなもんじゃねーよ。