折鶴という少女
お久しぶりです
久々に更新します
更新を待っていた読者にお詫び申し上げます
「………………あなた、に、お願い、が、ある」
俺は魅了されている。
このアリスという王女に。
俺の思考はすべて停止しているかのように感じられる。
この時間が、彼女のためだけにあるかのような、そんなあり得ないことでさえ信じてしまうほどだ。
俺の思考は彼女――アリスという少女がすべてを遮っている、そんな感覚。
俺の時間が彼女に奪われているのだ。
俺の視界には王女しか映らない。
俺は王女を主として認めている。
これは『理性』ではなく『本能』なのだ。
犬が人間を主として認めるのとおそらく原理は同じだ。
いや、俺だけではない。
いや、俺だけか?
王女という存在が俺の思考を遮っているのかもしれない。
が、今の俺にはそうとしか結論を導けない。それが事実。
何がお望みか。
そう聞き返したい。
だが、俺にはできなかった。
なぜだ?
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんででなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんででなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで‼
どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして‼
俺の中で反芻される。
何か俺の思考の中に入り込んでいる。
お前は……
誰だ
どうしてか。何故か。
彼女のこと以外考えることが許されないはずなのに。
なぜだ。
俺の思考を、決断を遮断している、彼女は。
彼女?
俺は何故彼女と断定できたのか。
姿も、名前も――。
名前?
『名前なんて必要ない』
俺は……?
『名前はあくまで記号』
何を迷っていたのだろう。
「特徴が、最も簡潔、だったかしら。日比斗」
そんな心の声にしかなかった音が目の前で聞こえた。
なぜ気が付かなかったのか。
俺の目の前に、さっきまで、ここに入るまで一緒に戦っていた少女がいるのに。
「無事でなによりだわ」
少女の服装を見るに……捕まっていたのか?
アリスと話していた、と言うのは誤解なのだろうか。
実際は彼女を捕まえるための罠だったのではないだろうか。
俺はそれを疑ったのか?
俺自身が恥ずかしくなる。
どうして俺はこんな単純なことに気が付かなかったのだろうか。
俺の連れが敵将と対話している。それはつまり、何らかのリスクが伴うということ。つまり危険にさらされている。
どうして気が付かなかったのだろうか。
俺は助けられた身なのに。
どうしてか。
俺は信用していたのに。
それは……否だからか。
俺は信用していなかったのだ。
彼女を。
どうしてか、いつからか。
谷内から話を聞いてからか?
それは否。
裏切られてからか?
それも否。
最初から信用していなかったのではないだろう。
俺は助けられた身なのに?
そんなの最低じゃないか。
助けになろう?
そんなのホントの気持ちか?
虚空の気持ではなかったのか?
自分に問う。
どうして?
なんで?
答えはない。
いや、それよりも目の前のこと。
俺は今、どういう状況なのか。
無事でよかった?
どういう意味か。
極めつけは『日比斗』だ。
どうして名前を知っている?
何故こいつが知っているのか。
何で名前までこいつは知っている?
そんなこと今はどうでもいい。
こいつがここにいる理由。
そして目の前の王女――アリスへの注目が薄れた件は後でみっちり話してもらおう。
まずは……目の前、からかな?
「アリス、さっき言いかけたこと聞かせてくれ」
その俺の言葉を聞いて驚いたのは俺の隣にいる少女―-折鶴だったけ、アリスの話によれば。
折鶴?
このことはアリスからきちんと聞いていない。そもそも、あの王女は一切、俺の隣にいる少女が折鶴とは言っていない。俺の頭の中でつながった事柄だ。
理解できない(みえない)もの――普段ならわからないものが解ったのだ。
どうしてか?
この能力、か。
それは理解された事実であった。
だが、解り切れない。
なぜだろうか。
だが、この俺の発想には間違いがないはずだ。
だが、俺のこの能力への仮説は完成した。
後は結論を導くだけ。
だがそれが難題。
だが、今、すべきことは理解している。
このことを訊くこと
アリスの話しかけた結論を聞く。
その理由は何か――それは折鶴――――いや、まだ確定したわけではないな。この俺の隣の少女の反応故だ。
この少女は、俺が、アリスに結論を言われかけた時「無事でよかった」と言った。
つまり、あのまま言葉を聞いていたら、俺が危うかったかもしくは――――彼女に何か不利益があった、と考えられる。
ならば、ここで訊くのは仕掛けることの基本。
俺が訊いた時、彼女は動揺していた―――が、止めようとはしなかった。
そして、彼女は以前、俺に「殺すわけがないじゃない」と言っている。その言葉が正しいのは俺を抱えて飛んだことが証明している。
これらから――この質問で俺の命がどうかなる、ということにはならないはずだ。
ならば、一つ目の俺の仮説は崩れ去る。
そして、この結論は、彼女に不利益がある、ということになる。
「……………………面白い」
やはり、俺の思考は理解しているのか……?
流石は主催者といったところか。
この心理戦、俺の勝ちだ
だが、甘かった。
俺は王女を見くびっていた。
俺は、俺の思考は掌握されていたのだ。
俺はそのことにさえ気が付いていなかったのだ。
「…………………私、の、奴隷に、なって、もいい、のよ……?」
そう、そこまでは予想通り、だった。
そう、予想の範疇だった。
しかし……
「…………………おにぃ、ちゃん……ッ‼」
こいつ……………………
どこで
俺が
し、シスコンだ(これに弱い)と
知ったのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼
俺は負けたのだ。
この試合、終……?
俺の弱点を突かれた。
もう俺には勝利はない。
俺はこいつについていくしかない。
だが、何かが引っ掛かる。
俺は、誰のものだ?
そう、そこなのだ。
俺は、誰かに、連れてこられた……?
誰かとさっき話していた気がする
誰だ?
俺は誰と話していた?
「その答え、教えてあげなくもないわよ」
誰だ?
「あんた、死にたいの? やっぱり死にたいんでしょ? ここに自殺志願者がいますよ~」
お前、何を言って……ッ⁉
「嬉しかったのよ、貴方があたしの名前に気が付いて」
名前?
そんなのは記号だ。個人を特定するための、あくまで名称でしかない。個人を特定するのは、『個性』その人の『特徴』で十分だ。これが合理的だ。
「やっぱりあんた……」
あんた?
これはどうもお決まりパターンだった気がして……。
「一回死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~‼」
俺は見えない何かから――いや、俺は確かに、あの少女の損罪――じゃなくて、存在を感じ取った。
訂正する。あれは誤字ではなかった。損罪で正しかった。俺の背中には彼女の足の跡がついている。下手したら一生ものかもし れない。
そんなことを思いながら、目を覚ます。
いや、目は開けていた。
これは現在進行形だ。
しかし、俺は目を覚ました、ということを実感する。
感覚的な問題なのだろうか。視界が広くなった気がする。
いや、視野が広くなっているのだ。
俺は隣の彼女の存在ですら認知できていなかったのだ。
これは事実。
俺の目が、その視野に入るのを許していたのはたった一人―――
「…………………それは、私」
突如、俺の抱いた質問の回答が帰ってきた。
「もういい加減にして、アリス‼」
この声は?
俺は初めて第三者の存在に気づいた。
存在は認識できる。否、いることはわかる。
が、そこまでだ。
その存在を視覚的にとらえることができない。
いるのか、いないのか。
俺は解っていない。
しかし、
「…………………わかった」
そんな一言によって俺の疑問は解決された。
「さっきのは何だったんだ?」
そんな俺の疑問を置いていき、幼馴染であろうもの同士の会話が沸騰する。
「魔法を使うのはルール違反よ」
この声は……?
その答えが第三者の答えであるのは明確であるのだが、自分が寸秒前まで何故そのことを考えていたのかがわからなくなった。
ずっといたのに、どうして?
その答えが『魔法』であるのであろうが、仕組みが全くわからない。
記憶が切り取られた、という感覚。
いや、時間が、という方が適切か、とも思われる。
しかし、記憶が曖昧である以上、これに対する考察は無意味であろうという結論に達した。
「…………………魔法、なしでいくの?」
当然よ、と折鶴。
そういや、魔法は苦手だったけ?
俺の目の前で言っていたよな、と思い返した。
「まあ、いいわ。この状況をあいつは呑み込めていないだろうから、説明するわよ」
「………………ネタ、ばらし?」
ええ、そうね。と言って、
「説明してあげるから在り難く聞きなさい、ドレイッ‼」
そう俺に指をさして彼女は語り始めたのだった。