少女二人
「……………あなた、が、平賀日比斗、ね?」
俺はなんと幸せ者なのだろうか。
目の前には豪華な食事。
そして煌びやかな宝石の装飾。
そして――マジで可愛い二次元美少女‼
これって2.5次元とかっていうやつでいいよね?
そんな感じ。
そう、俺が認めた初2.5次元の人物。
銀色の髪は腰まで伸びている。
顔は整っている。
そして胸は大きい。幼女にしては大きい。
彼女は幼女キャラ。
マジで? 俺の守備範囲なんですけど⁉
え、この前、ちょっと前のページで中学生は守備範囲じゃないって言ってた?
それ嘘じゃね?
俺そんな記憶在りません。
いえ、あったとしても、胸の大きさでは高校生をも遥かに凌駕しているので関係ないです。
もしかしたら体調の割にっていうパターンもあるけど……。
「胸のサイズってどんな感じですか?」
……。
…………。
…………………………?
俺何言ったの?
もしや、胸のサイズ訊いた?
初対面の相手に?
まさか。
………ん?
なんで顔、赤らめているの?
俺なんかした?
記憶にないのだが……。
いや、これ嘘?
俺ホントに訊いたの?
流石に…………?
あ、俺の人生オワタ。
俺訊いたわ、これ。
ホント俺は何なんだろうな。
初対面のやつに訊くとか、しかも相手は王女やで。
これって極刑かも……?
「……………D」
あれ、D?
この年で、D。
凄ない?
デカすぎやろ。
俺の極刑ないの?
きたことない、これ。
俺勝ったの?
やった~~~~~~~~~~~‼
そんな単純な思考を回す。
しかし、何かわからないことがあるような気がした。
そこで、少し複雑な思考を試みる。
王女――確か、あいつのいうことにはアリス、だったっけ……アリスは、俺の連れ――まだ名前も訊いていないあの少女と対談していたはずだ。対談というようなものでは無いような言いぐさだったが……。あいつはここにいるはず――だが見当たらない。
どういうことだ?
俺は頭をフル回転させる。
あいつとアリスの関係は?
そもそもあいつは何者だ?
俺は何のために連れてこられた?
そして、アリストは誰だ?
最後の問は、目の前の少女――という解を求めているわけではない。
アリス――とはどのような性格の持ち主か、ということだ。
俺が求めているんは名前ではない。
ならなぜ、俺はあの少女――俺と同行している少女の名前を知りたがっているんだ?
そんなの今はどうでもいい、ことか。
大事なのは名前ではない。
性格、個性。
そう、それが最も簡潔な名称。
これ俺の持論。
しかし、与えられたら等価交換が必須となる。
これは俺の絶対ルール。
まずは、探りを入れるところからか。
そう自分に言い聞かせる。
まずは……
「あなたは、ここの国の王女、と聞いたのですが……」
槍は向けられる。
しかし、ここでは殺さないはず。
俺の仮説通りなら。
俺が連れてこられた、ということは考えられるのは大きく二つ。
一つは、何らかの交渉をするため。
もう一つは、俺を処刑するため。
大きく二つだ。
そして、俺は一つ目が正しいと判断した。
その理由も二つある。
まず一つ目は、目の前の料理。
そもそも俺を殺すなら、接客などしないだろう。お金もかかるし、そもそも危険人物として扱うならこんなに自由にはさせないだろう。今の俺には手錠も、縄も何にも繋がれていない。拘束系の魔法はあるだろうが、周囲にいるのは兵士。普通、魔法使いなら槍ではなく杖を持つだろう。魔法を使えないから武器を持つ。唯一この部屋で槍を持っているのは王女、アリスだけだ。そして、俺が胸のサイズを訊いた時も槍をこっちに向けてはきたものの実際には動かなかった。だから俺はやられない、と確信している。
二つ目だが、これは城の外――俺と同行していた少女の話から考察したものだ。彼女は俺を召喚した、と言っていた。召喚する理由も軍師にする、と言う感じのことを言っていた。そして、『殺すわけがないじゃない』という言葉。現状からするに、おそらくどの国も俺のような異世界人が欲しいはずだ。勿論こっちのほうが技術は進んでいるわけだし。まあ、俺が役立つかどうかは後の話にして……。つまり、この国も俺を欲しているはずだ。おそらくその交渉と俺は考えている。そんな交渉相手を殺す? そんなわけはないはず。
そんな俺の推測は当たっていたのか、少なくとも賭けには勝ったようで、攻撃されていない。
そして、王女――アリスは、
「…………面白い」
そう一言口にした。
これは正解を意味する、と言うことでいいのか、そうではないのか、まったくわからない。
しかし、アリスの顔には年相応の少女の笑顔が映っていた。
いや、これは俺を試しているのか。
何を試しているのか。
それはおそらく俺が使えるかどうか、ということであろう。
つまりは、俺を軍師――などとして雇うほどの人物かどうかを調べている、と俺は仮説を立てた。
その仮説が正しいのならこの結果は悪くない、となる。
その仮説があっていないにしろ、そうでないとしても、さっきの反応でマイナス評価はもらっていないだろう。
ここで低評価を貰うと即首を落とされるという悲しい……その結末ダメ、ゼッタイ。
それ俺、終わってるんじゃないの?
そんなんダメだし。
まあ、ここまでは高評価だろう。
「………………私、この、国、治めてる……ッ。だから、その、認識、いい」
単語、単語で繋いだ声が俺に届く。
俺の認識で合っていたようだ――と言っても、牢獄の中である程度は訊いていたのだが。どうやら、これ以上の内容はきけないらしい。いや、訊かないほうがいいだろう。次こそ周りの兵士に動かれるかもしれない。やはり俺が異世界から来たといくら言っても限度があるはずだ。例えば玉座に座っているアリスを殺しにかかるとか。こんな時はいくら兵士でも我慢がいかないはずだ。俺は殺される。
じゃあ、次の内容だな。
「ええと……俺の連れ……女の子が一緒にいたと思うんだが、そいつと知り合いとさっき耳にはさんだ」
一応、谷内のことは伏せながら話す。
あいつとは、一朝一夕で会った仲だが、俺の数少ない知り合いだ。
もしも、があると怖い。
だから、伏せておくことにしよう。
決して名前は出さないでおこう。
「…………そう」
そこでアリスは一呼吸おく。
「………………私と彼女、仲が、よか、った。一緒、に、お風呂、にも入った。一緒、に遊ん、だ、よ。トランプ、も、したし、和国、のボードゲーム、もした、んだ、よ。あの子、との、会話、楽し、かった。あの子、可愛、い。私、が保証、する。……でも、彼女、は、和国の、異国、の貴、族。……だから……………」
そこで長い沈黙の時が流れる。
ここにいるすべての人の視線が、彼女――アリスに向けられる。
そして、彼女は豪華な椅子から華奢な腰を上げる。
視線が集まるのはその美貌だけではない。
その美しく、この世のものとは思えない彼女のその体は勿論、十分に魅惑的だ。
その腰まで流れているプラチナブロンドの髪に目が引かれるのは勿論のこと、その、サファイアのような目、透き通っている皮膚。すべてがこの世にできる造形品ではないかのように思える。
しかし、彼女に目が向けられているのはそれだけではない。
それは何か――。女王としても素質、だ。
彼女の存在感はこれまで以上に増した。
これは、彼女の――アリスの女王としての姿であると直感的に俺は理解した。
彼女は天才だ。
女王としては本当に天才的だ。
人を統括する、そんな彼女の姿は見ていない。いや、そもそも俺は彼女とは初対面のはず。しかし、俺は彼女を女王として認めている。つまり、彼女が王だ、と俺は本能的に悟っているのだ。
あんなに単語ごとに区切って喋っていた人とは思えない神々しい姿。
彼女は立ち上がると、その沈黙に音を入れた。
長い、杖を床につく音。
その音は、広いこの部屋に響き渡る。
いや、部屋に響いているのではない。
心に響いているのだ。
彼女は一言も喋っていないにも関わらず、初対面にも関わらず、俺の心に触れた。
彼女は天才だ。
俺にはそうとしか思えない。
そして彼女――アリスは口を開く。
「………………彼女は、折鶴は―――」
折、鶴?
俺は疑問に思う。
誰、だ?
そんな俺の疑問はその残響とともに置き去りにされる。
そして、アリスは最後の通達をする。
「………………私、の―――敵」
・・
あたしは和国の貴族だ。
和国の正装は和服と呼ばれる服だ。明国から伝わったものとされているらしい。明のものとよく似ている。明国とは最近仲悪いわよね……。そんなこと今はいいの。あ、脱線したわね。続けるわ。だけど、少し、明のものよりも身軽だ。どうやら、明のものはたくさん宝石を付けて、煌びやからしい。だけど、和国のものは色だけで表現している。少し厳かなもののほうがよいとされてきたからだと聞く。だけど、今はそんな正装はしていない。だって、異世界から人を連れてきた帰りだもの。異世界とこっちの世界のゲートはそんなに数がない。だから、身軽な恰好のほうがいい。いくら明のあんな正装より身軽と言ってもそんな正装で移動できるほど簡単じゃないわ。明ったら、あんなオモイ服でよく生活できるわね……。あたしだったら、あんな服、着ないわ。ま、明でも普段は、正装はしないらしいけど。
どうして、あたしが服の話をするのか、だって?
それは簡単な話よ。
文化を知ってもらう――じゃないわ。
今の恰好が問題なの‼
今の場所が問題でもあるわ。だって、こんなに暗いのだもの。足下はどうにかわかるから危険性については問題ないわ。だけど、暗いのは駄目ね。後でしっかり言っておくわ。服の色も一応わかるわね……。そうよ、服! 服が問題なの‼
なんか、粗末な服を着せられているの。下民が着るやつ‼
ホントあの王女様にはイヤなことされてばかりだわ。
折角、楽しい話をして、盛り上がっていたのに、いきなり現実の話をしたんだもの。
あたしだってわかっているわ。
もうあの頃には、あの楽しかった時には戻れない、ということは。
だけどね、もう少し雰囲気だけでも戻っていてもよかったと思うのよ。
あの頃はそれ程あたしには――いいえ、姫様―-今は王女だったわね。あの子も同じだわ。
楽しかったの。魅力的だったの。
なのに、あの王女、何考えているのよ。
馬鹿なのかしら。
ネジが一本足りないのかしら。
あ、そうじゃなくてこんな格好させられる方が問題だわ。
あたしも一応貴族よ。
誇り、や威厳だってあるわよ……一応。
何、この鼠色の服⁉
そして生地が駄目ね。肌触りが駄目だわ。
下民ってよく耐えられるわね……。
薄くない、この服⁉
寒いわ。
デザインも最悪、薄さも、生地も最悪。
この服、没!
速攻、没‼
駄目、絶対。
この服、二度と着たくないわ。
あの王女様に一泡吹かせてやるわ。
そう決心する。
あ、忘れていたわ。
これも追記ね。
幼馴染として、ね。後、これ、平賀――じゃなくてあいつのためなんかじゃないからね‼
自分の中で、自分の言葉に付け加える。
よし、これで誤解されない。完璧だ。
自分しか知りえないことであろうとも、完璧にする。
これも貴族のたしなみよ。
ああだ、こうだ考えているうちに扉が開く。
「あたしが次、何やればいいかはわかっているわ」
つい言葉に出た。
誰か聞いていただろうか。
いや、そんなことはどうでもいい。
自分の納得ができるのなら。
関係ない。
迷いもない。
「あたしはあたしの結論を出したわ」
誰にも伝わらない、あたしだけの思い。
やりすぎていたあの王女は何をしているのだろうか。
そんなことはどうでもいい。
今は結論を伝えに行こう。
それだけでいい。
そして、視界が光を帯びる。
その光は、少女の復讐――否、幼馴染の教育をしに行く少女を賞賛するように、暗闇の部屋を照らした。