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牢獄と城と異世界の異国

 ここは?

 冷たい。

 暗い。

 そして硬い。

 温もりがない。

 それにはどっちの世界にも恵まれないのか……。

 そう落胆する。

 ベッドはないみたいだ。

 俺は何をしていたのか。

 思い出す。

 いや、抜けている……。

 思い出せ。

 そう自分に命令する。

 欠けていてもいい。

 一ピースでもいい。

 欠片でもいい。

 思い出せ。


「作、戦……?」


 俺は連呼していた言葉を思い出す。

 作戦?


「あ、作戦は……失敗、なのか?」


 まて、俺は今どこだ?

 失敗したとしたら、牢獄、か?

 異世界に来て、一発目で失敗。で、牢獄か……。

 自分の無能さを呪う。


「あいつは……?」


 自分を元の世界から連れてきた、名前すらまだ聞いていない少女の顔を脳裏に描く。

 それと一致する人の姿はない。

 そして、目の前にあるのは鉄の棒。


「牢獄、なのか?」


 答えはない、よな。

 そう自分を納得させる。


「そうだ」


 不意を衝く答えだった。

 誰、だ?

 俺と一緒にいた、あの彼女の声ではない。

 太い声。


「おい、どうなってどうなったんだ」


 おいおい、と返ってくる。

 凄いな、俺が他人と話している……。

 初見の人間と話すとか、滅多なことではないな。

 いや、あいつがいたか……。

 これも、俺を異世界に連れてきた少女を思い浮かべた。

 何であいつを思い浮かべるんだよ……。

 あいつ、俺を奴隷とか言っていたじゃないか。

 散々使われて……。

 いや、俺は守られてばかりじゃなかったか?



 『あんたを殺すわけがないじゃない』



 そういや、そんなことも言っていたか。


「何ニヤニヤしているんだ、気持ちが悪い‼」


 俺の顔が?

 まさか。

 いや、そうかも……。


「気持ち悪いって何だよ‼」


「何だよ、って何だよ」


「何なんだよ‼」


 俺は、一呼吸置き、


「ところで……ここは牢獄であっているんだよな」


 俺は、この不毛な言いあいが馬鹿らしくなったので切ることにした。

 この問には、少し答えにくいのか、目線を反らして、


「ああ、それであっているよ」


 やはりか。

 納得する。

 ということは俺の作戦は失敗でいいのか?

 だが納得のいかないことが増えてきた。



 なぜ失敗した?



 その記憶が欠落している。

 いや、飛行中に何かが当たった、ということはわかる。

 しかし、それが何なのか、そして、それは誰があてたのか。

 その記憶がない。

 納得がいかない。


「そんな話は置いておこうぜ」


 相手側からの注文。

 それに対しては対価を払う。

 俺の中の絶対ルール。

 等価交換。

 お互い利益も利子もない。


「わかった」


 その問いに応える。


「名前くらいはお互い知っておいた方がいいだろ? 気味が悪くねぇか? そんな相手と腹を割って話すなんてなぁ」


「俺は名前が嫌いだ」


 それに対して、何でだ? と訊かれる。


「簡潔じゃない」


 それを聞いて、少し相手は黙る。

 伝わらなかったのか?

 不安になる。

 コミュニケーションは苦手分野。

 ろくにネット以外で会話をしたことがない。

 そのネットのチャットとかでもしばらくしたら返答されなくなるのが常。

 俺はいわゆる、コミュ障でもあるのだ。

 引きオタの典型だよ?

 一応補足ね。


「お前、面白いな……」


 予想外だった。

 笑ったのだ。

 人が俺の言葉で笑うなんて経験は初めて、かもしれない。

 面倒くさい。

 いや、喜んでいる?

 俺は喜んでいるのか?

 初めてできたことが嬉しい、のか?

 二重跳びが初めてできたり、逆上がりが初めてできた時、嬉しいのと同じ、なのか?

 俺はこの感情が何なのか知らない。


「いいぜ。俺は谷内宗也(やちそうや)だ」


 この流れで、なんで名乗るの?

 コミュ障な俺にはわからん。

 どうしてもわからん。

 俺がコミュ障だからか?

 だが、俺の、俺自身の規則には従う。


「俺は平賀だ。平賀日比斗」


 それを聞いて笑う。

 また笑った。

 何故笑う?

 俺の名が変なのか?

 唯一親からもらったものである、名が。

 罵倒されたのか?

 だがそういう雰囲気はない。



 わからない



 それが俺の答えであった。

 俺の顔が深刻そうだったのか、


「悪い、悪い。やっぱりお前のその性格、嫌いじゃないぜ」


 その性格、か。

 確かに俺はコミュ障だが……?

 いや、そうじゃないのか?

 やはりわからん。

 それが結論だった。


「谷内でヤチか。能登半島のほうの人か?」


 谷内でヤチと読むのは石川県の能登半島のほうで多く見られる性だ。

 確か、前にラノベで読んだことがある。

 いや、ネットで見たのか?

 どちらかなのだが。

 何でこんなどうでもいいことを初対面の人に訊いたのだろうか。

 疑問に思う。

 この世界に来てからか、こんなのは。

 あのまだ名前も訊いていない少女にしても、

 それを聞き、ノトハントウ? とクエスチョンマークを浮かべられる。

 そうか、異世界だからそんな名はないのか。

 納得する。


「すまない。おかしなことを聞いて」


 訂正する。

 だが、


「そうか。だから平賀なのか」


 どういうことだ?

 だから平賀?

 平賀と言う性の人は少ないが……。

 だから、とは何か。

 唯々それを疑問に思った。


「いや、おかしなことを言ってしまった。済まない」


 これでお互いさま、か。

 こいつ、俺のルールを呑みこんでいたのか。

 なるほどな。

 なんとなくだけれども、こいつのことがわかってきた気がする。

 まだ、雲をつかむようではあるのだが。

 それを思い、笑ってしまった。

 人に対してリアルで笑うなんてことは久しぶりだ。

 ギャグ系のアニメやラノベを読んで笑う。そんなことはよくあった。

 しかし、人間の目の前で笑う。そんなことはろくにやったことがない。

 俺にはこっちの世界が向いているのかもな。

 来てろくに時間もたっていないのにそう思えてしまう。

 あいつといい、谷内といい、この世界には俺に構ってくれる人がたくさんいるな。


「そろそろ本題に入ってくれ」


 谷内はひゅうと口笛を鳴らし、


「頭の回転は話通りいいな」


 そうなのか?

 俺はろくに人と接していないから一般基準はわからない。

 からかっているのか、そうでないのか。

 わからない。

 コミュ障って悪循環だな。

 そう思うほかなかった。


「それに免じて話しておこう」


 それに対して沈黙。

 その沈黙を肯定ととったのか、


「まずはここからかな。お前が何処にいるのかは、コルード王国の城の牢獄の中だ」


 やはり牢獄。

 名前からして、日本ではないな。

 あいつの話から考えると……大陸移動があるんだっけ?

 なら、何処かは考えても無駄だな。

 その結論に至ると、


「そして……あの貴族――お前の連れの所在、だな」


 それが訊きたい。

 どこなのか。

 無事なのか。

 今は何をしているか。

 今はなにをされているか。

 全部知りたい。

 どうしてだ?

 そんなの知るか。

 俺は、知りたい。彼女のことを。

 これは、その……異世界、研修の一環、学術的好奇心の一種だからな‼

 あんなぺったんこに興味ない。

 いや、ぺったんこのことは認めるが、あいつのことは認めない。

 あんなに強情で、暴力的女なんて、どうでもいい。

 だが……奴隷、だもんな。

 そんな強情で、暴力的な女の。

 あいつはこっちではご主人様だもんな。

 なら、どうすべきか。

 それは…………


「あいつは……俺といたあいつはどうなった?」


 そう俺が問うと、


「アリス様―-我が国王と面会中だ」


 どういうことだ……?

 その言葉は俺を、失望させた。


     ・・


 煌びやかな宝飾が施された空間。

 その宝飾は月の明かりを余すことなく取り入れているのか、あたかも昼間化のように思わせられる。

 そんな中、その宝飾に負けない程の美しさを放つ少女が二人面会していた。

 面会、と言っても、久々に会う友人との話――そんな話だった。

 昔にあんなことをした、こんなことをした。


「一緒にお風呂に入ったよね?」


「……………そんなこと、あった、ね」


 そんな他愛のない話をしていた。


「あんた、その時、あたしに水かけたわよね?」


 もう一人の少女――一方の少女とは別格の、煌びやかな椅子――玉座、とでもいうべき椅子に座っている少女は少し目線を反らし、


「……………やって、ない」


 それに対して、嘘つき~~と、笑いながら返す。

 そんな何ともない、平凡な会話を続けていた―――はずだった。


「アリス、どういうことなの?」


 急に面会していた少女の周りを囲むかのように、鎧を付けた兵士が囲む。

 その彼女の問いには返答がない。


「ねえ、アリス、私はあなたを信用してるの。アリスのこと、友達だと思っているの‼」


 少し動揺を見せる。

 周りを兵士がかこっているのを忘れているように、追い詰められているはずの少女の顔がぱっと明るくなる。

 しかし、それは一瞬の出来事に終わる。

 玉座に座っている少女は立ち上がる。

 そして―――杖を下ろした。

 それは、兵士への命令の合図だった。



 彼女を、私の友人をとらえて



 それに対して、兵士は従う。

 ただ一人、押さえつけられる少女がもがき、抗う。

 そして、自分の、彼女――友人との面会の終わりを告げるかのように少女は玉座に座りなおす。

 一人の少女がもがいている。

 しかし、もう一人――玉座に座っている少女はそれを見ているだけ。

 それも、杖をもがいて地に付している少女に向けたまま。

 もがいている、抵抗している少女を見て、


「………………とらえ、て」


 そう一言つぶやく。


「アリス、こういう話じゃなかったでしょ?」


 そう地に付している少女は尋ねる。


「………………事情、変わった」


 玉座に座っている少女は表情を変えず、単語を紡ぐ。

 地を這っている少女は、こう言う。


「そう、わかったわよ」


 地に這いつくばっている少女は、抵抗するのをやめた。

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