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マンホールの下とドラゴンと魔法少女

さて、俺は落下したのだから、当然目の前には……?

 まてよ、俺は落下により死亡……

 いや、そんなことはない。

 手足も首も胴体もついている。体のどこにも傷なし。字もなし。

 いや……傷がないっておかしくないか?

 落ちているんだぞ?

 ああ死んでしまうなんて情けない。

 死んだのか?


「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」


 ……。

 …………。

……………………。

 ちょっと待って?

 目の前にいるの、ドラゴンなんですけど?

 死んだんじゃねーの?

 まあ、ドラゴンいるし……?

 こいつって火とか吹いちゃうの?

 まって……これって異世界転生ってやつか?

 死んでしまって、異世界で生まれ変わるやつ。

 あ、そーだ、そーだ。それだ‼

 これって俺TUEEEEEEEじゃねーの?

 いけるぞ、俺、ドラゴンに勝っちゃうんじゃねーの?

 やってやる……ッ‼


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼」


 俺はドラゴンに殴りかかる。

 秘められた力が……。

 発動……しなかった。


「ぐお?」


 ドラゴンがこちらを向く。


「ど、どらごんさま、す、す、すみませんでしたぁぁぁぁぁ」


 THE、ジャパニーズ土下座。

 これ日本の最上級の謝罪。

 ドラゴンに届け……ッ‼


「ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」


 あ、終わりましたか、これ。

 生まれ変わったニュー俺もすぐに終わりですか。

 はい、そうですね。

 そうですよね。

 …………。


『風の精霊よ』


 そんな声と同時に俺の体は宙に舞った。

 は?


「お、おろせよ‼」


「死にたくなかったら黙ってなさい、奴隷」


 ど、ドレイ?

 生まれ変わって速攻奴隷ですか。

 俺ってそんなもんですよね、はい。


「このあたしが救ってあげるって言ってんの。光栄に思いなさい。解ったら早くおとなしくする」


 今はこいつに従うか……いや、何でこんなぺったんこのいうこと聞かなきゃなんねーの?俺、今すぐこのゲームやるんだッ‼


「解った?」


 圧倒的バレバレな作り笑い。


「あんた、あたしの胸みて従うのやめようとしたでしょ?」


 うわ、何でこいつ解るんの?

 こういう時って殺されかけるの定番だよね?


「うん、大丈夫。あたし、殺さないから」


 うわ、やっぱり俺の心よんでるわ、こいつ……。

 でも……殺されかけるのって死なないよね?

 

 それってご褒美だよね?


 うわ、引かれた。

 全力で引かれた。

 なんか落とされかけたし。

 今落ちたら死にますよ、俺。確実に。しかもドラゴンの餌食として。


「あ、あんた、変態なのね……」


 だが……


「俺、中学生、守備範囲じゃないんだ」


 空気が凍った。

 文字通り。

 目に見えないはずの水蒸気がちょうど北海道のほうで見られる現象のように。

 マジで怖いよ。

 てかどうやって凍らせたんだ?

 あ、ドラゴンいたわ。

 ここ異世界。

 ってことは……


「そうよ、あたし、魔法使いよ」


 マジですか。

「じゃあ、極限魔法とか言いながら厨二臭い魔法使えんだろ、ドラゴンとか瞬殺だろ、なあ、なあ‼」

 あれ、なんか手から力抜けた気がするんですけど、俺、落ちないですよね?


「あたし、魔法、使えないわ」


 あれ?

 俺どうやって飛んでいるの?

 怖くなってきたんですけど?


「あんた馬鹿にしてるの? 確かに魔法はあたしみたいに上級貴族のたしなみではあるけれども……」


 あれ?

 ちょっと待てよ?

 上級貴族?

 こいつが?

 こんなにぺったんこなのに?


「あんた、まだ何か腑に落ちないことがあるようね」


 あれ、もしやばれた?

 またこの下りか……。

 今度はマンホールから落ちて転生、ではなく、ドラゴンに食われてご臨終、か。

 流石に俺でも萎えるぞ、それ。

 異世界に転生して5分で終了とか。

 もしやこれって新記録じゃね?

 冗談じゃねーぞ。


「そうね……あ、どうやって飛んでいるか、でしょ?」


 思いもよらぬ助け舟来た。

 助かった、のか。

 ほっと胸をなでおろす。


「あんた死にたいの?」


 あれ、ばれてましたか。

 そうですよね、うんそう。

 ここで〈完〉とかマジで泣きます、ですよ。


「すみま、せんでした。ですから、命だけは、命だけはお助け願います」


 そうすると少女は、はぁ? と言い、


「何バカなこと言ってんの? あたしがわざわざ召喚した人、殺すわけないじゃない? むしろ、助けようとしたのに……マジで死にたいの?」


 まじか……俺は、幸せ者、なのか?

 いや、さっき殺さない、と言いながら、最後には、死にたいの? と言ってたし、絶対気分だろ、こいつの言動。

 だが、この様子だと、気づかれていいない。

 俺が、こいつが上級貴族であるということに対して疑いの意を感じたということに。

 ということは……俺生還⁉

 助かったの?

 これは喜ぶべきことではないか。

 俺は生還したのだぞ。

 いや、戻れないけど……はい。

 そんでもって、俺ってこの世界での生き方、知らねーぞ。

 待て、平賀日比斗。

 こいつの機嫌を損ねたら生きる術を失うのだぞ。

 なら、こいつに尽力するしか術がないのではないだろうか。

 いや、そんなことがあるか‼

 これだけ傲慢な人に尽くしたくなんかないッ‼

 どちらも本音。

 俺が生きるためにはこいつに尽くすか、ないのか?

 そんなことを考えているうちに、


「仕方ないわね。説明するわ。これは、精霊結晶よ。精霊を閉じ込めた石を使っているの。魔法は直接周りにいる精霊に呼びかけ、服従させ、指示させるもの。今あたしが行っていることとは根本から違うのよ」


 妙に楽しそうに話す。

 こいつ、本当は魔法、使いたいんじゃないか……?

 そう思う程、楽しそうで、せつなげに話す。

 今はこいつに尽くす、か。

 まずは話を合わせること、だよな。

 情報収集のために。

 そう、これは情報収集。


「つまるところ閉じ込めたものを、あらかじめ服従したものを使うってことか?」


 そういうと、少し弾んだ声で、


「そうね……少し違うけど、そんな感じね。あたしが持っている最高の結晶はこれね」


 そういって取り出したのは、美しい、まったく濁りのない、薄い青色の結晶。

 これは、よくあるパターンだと氷系の魔法か?

 そう思わせる結晶。


「まあ、これは大事なものだから、しまっておいているの。いざって時に使えないといけないしね」


 もっと知りたい。

 こいつのこと。

 魔法のこと。

 たくさん知りたい。

 こ、これも勿論、俺の今後のため、だ。

 そう、今後のため。

 今後のため。

 そう反芻しておく。


「実際は服従させた者しか、その精霊を使役できないの。だから、その、精霊を使う権利を壌土されなくてはならないわ。そのためには……」


 こいつ、いろんなことを知っているんだな。

 なんか、バタバタ聞こえてきた。

 空気が震えている。

 というか、暴風警報出るレベルの風が吹いている。


「おい、大丈夫か?」


 何がよ、と言って、


「この程度の風、普通よ、普通」


 そうか……?

 まてよ、大事なこと、忘れているような……?


「ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」


 あ、ドラゴンさん、話の中に入れていなくてすみません。

 心の底からお詫び申し上げます。

 飛翔しているドラゴンに詫びる。

 デカい。

 飛んでいると翼も広がりもともと多きかったドラゴンが更に大きく見える。

故に、圧倒感が凄い。

 俺たち、追いつけられるどころか追い越させそうだ。


「やばい、ドラゴンが……ドラゴンが…………」


 なに、どうしたの?

 とか言いながら少女は俺に促されて背後に目を配る。


「何も見えないじゃない?」


 そう。勿論何も見えない。

 何故なら近すぎるから……彼女には真っ暗に見えているであろう。

 俺もそうだし……。


「う、上、上……‼」


 表現方法を変える。

 少女はそれを見て動揺する。


「おい、普通って言っていたよな‼」


 少女は、そんなことないわよ、と言う。

 そして、とてもぶるぶるしている。

 ケータイに着信が来たくらいの頻度で。

 怖がって、いるんだよな。

 しかし、気が強い性格のせいか、


「し、仕方ないわね。わ、私が倒すわよ」


 え、待てよ……?

 こいつ、魔法使えないんじゃ……?

 少し高度を下げて、俺を安全地帯(?)に入れた。

 そっからは自力で降りなさい。

 少し怖いかもしれないけど、最初だけよ?

 とか言いながら俺を落とした。

 俺は運良く、擦り傷の軽傷で済んだようで……でも、彼女が気になる。


「おいッ‼ 大丈夫なのかよ‼」


 そういうと、


「わんわん煩いのよ、このエロ豚」


 エロ豚って何なんだよ‼

 俺をバカにしているのか‼

 オタクの俺を。

 いや……これって……

 このフレーズ、聞いたことが……?

いや、こいつの髪は赤色。

というより、赤より薄いからピンク、に近いか。

俺があっちの世界であったのは白銀の髪の少女。

そもそも髪の色が違う。

俺の思い過ごしか?


「少しそこで待ってなさい。すぐ終わらせるわ」


 そういって少女はドラゴンに向かって飛ぶ。

 ドラゴンはそれに対して上方に避けようとする。

 甘いんだから‼ と少女は口にしてドラゴン向かって急上昇。

 いや、甘いのは少女のほうだ。


「なッ‼」


 少女はブレス……ドラゴンが吐いた炎に身を包む。


「だ、大丈夫か‼」


 こんなの平気よ、と少女は言いながら立ち上がる。

 どうにか精霊結晶を使って防御壁を築いていたらしい。

しかし、無傷とはいかない。

命は、大丈夫か。

 それを理解し、ふぅ、と、胸をなでおろした。

 少女は立ち上がる。

 しかし、また、ドラゴンの攻撃を受ける。

 それをまた、精霊結晶を使って防ぐ。


「俺には、俺には何もできないのかよ」


 考えろ、平賀日比斗。

 お前は理科だけはできるんだろ。

 こんなシーン何度もラノベで読んだじゃないか。

 こんな場面、何度もアニメで見たじゃないか。

 こんな状況、何度もゲームで乗り越えてきたじゃないか。

 考えろ。

 思い出せ。

 この状況をまず整理するんだ。

 命がかかっているんだろ?

 まだ名前も聞いていない、俺よりも小さく、頼り気のない少女が戦っているんだろ!

 あいつが持っているのは精霊結晶。

 おそらく、あの俺に少し見せた精霊結晶――おそらく凍結結晶が勝利のカギ。

 考えろ、考えろ。

 ここを乗り越えられないはずがない。

 何か足りない。

 いや、あるけど理解していない。

 何か、見落としている。

 勝利へと導くもの。

 この世界にもともとなかったもの?

 それは、俺?

 俺がカギ?

 そういえば……腑に落ちないことがあった。


 さっき見えたのは……?


 戦いに使うのは確定してから。

 俺の能力が。

 次はドラゴンが上昇する。

 次は少女が急下降。

 それに対してドラゴンはブレス。

 この行動はすべて、俺の想定通りだ。

 いや、俺はそんなよみが深い人ではない。

 俺は理解していたのだ。

 否、見たのだ。

 次のドラゴンの行動を。

 未来視、なのか?

 俺はゲームやアニメの知識を総動員させて答えに達した。

 いや、そんな答え、今はどうでもいい。

 俺にはなんとなくだが未来が視える。

 その事実だけで今はいい。

 彼女は俺を助けようとした。

 彼女は生意気だ。

 しかし、そんなことを言いながらも彼女は今、俺の代わりに命をかけて戦っている。

 どうせ負けるならそれに抗ってみようぜ。

 運命とか言う阿呆にな。

 俺は覚悟する。

 

 今はこいつと共に戦う


 これも、異世界研修の一つ。

 そう、これは異世界との文化交流。

 そう言い聞かせる。


「次、ブレス来るぞ‼」


 気が付くと俺は叫んでいた。

 これが本心か。

 仕方ないな。

 こいつを助けるのか。

 仕方ないな。


 こいつ、魔法使えないのに戦うなんて危なっかしいにもほどがあるぜ。

 


「なに口出ししてんのよ、バカ。そんなの……」


 ああ、そうか。

 俺はこいつがほっとけないんだな。


「いいから上に飛べ、間に合わないぞ!」


 わ、わかったわよ。

 そうグチグチ文句を言いながら少女は上に飛ぶ。

 なんだかんだでこいつ、いうこと聞いたんだな。

 今は共闘するしかないか……。

 俺の指示通り動いている。

 その動きは俺が視えないほどの可憐な動き。

 それは俺の未来視を大きく上回る結果。

 

 この未来視は、万能ではないのか?


 いまいちわからない。

 この能力のことは。

 だが、これだけは確信した。


 この勝負、勝った


 次で決める。


「そのまま上昇。そして、凍らせろ!」


 そう叫ぶと少女は、


「そんなの、あたしも解っているわよ‼」


 白銀の輝きが視界に広がる。

 そして、ドラゴンは凍結した。


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