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「なんであんなとこいたんだろうな?」
「知らんし、興味ない」
ぽっくりぽっくり
「お前、殿様と何を話したんだ?」
「村の事とか、商談の進め方とか?」
「なんで疑問形なんだ?」
「緊張しすぎてよく覚えてない」
「さよか」
ぽっくりぽっくり
「塩、ずいぶん安くなったな」
「浜屋さん、カワイソス」
「? カワイソス?」
「あ、かわいそうだなって。値切られててさ」
長島からの帰り道、治兵衛と二人でぼけーと話しながら帰った。何で一農民が尾張でも上から数えた方が早いような方と話さにゃならんのだ。
あの話の最中、治兵衛は護衛の侍に外で囲まれていたという。いつ死ぬか今死ぬかととても怖かったと彼は語る。
その代償として今回持ってきた米3俵は思っていた以上の金になり、それ相応の塩が手に入った。のんびり帰りつつ道々に生えている蓬の葉っぱを回収した。時期的にも良い頃だ。
帰村後、村長に塩を渡して帰宅。帰宅後おふくろ様にやりたいことを伝えて快諾をもらう。その為に愚兄の足止めをお願いした。
俺が作ろうとしたもの。それはもぐさだ。
もぐさはお灸の時に使用するもので、蓬の葉の裏に生えている白い毛を生成したものだ。不純物が少ないもの程良いものとして流通する。当然だが作るのはとってもめんどくさい。
まず大量の蓬の葉を回収します。次に臼でついてボロボロにしてそれを篩にかける。篩にかけたものを陰干しする。以下これを繰り返して、青臭い臭いじゃなく良い臭いになり、淡い黄色になるまでやる。
かくして秋の音も聞こえてこようという時分。
俺の手元には良質なもぐさが革袋一つ分手に入れた。これをまた津島に行く時があれば換金して俺の食事代に
「ああ、いい匂いだ」
「ふふふ、でしょう。幸吉が頑張って作ってたのよ」
「そうか。幸吉よくやった」
と思っていた時期が俺にもありました。
俺が丹精込めて作ったもぐさはヒャッハーから帰ってきた、親父殿を始めとしたモヒカン部隊の足を癒すのに使われてしまいました。
親父達のヒャッハーはそこそこの成果を収めたようで、村の空気も明るい。無事に冬が越せそうだと皆は言うが。
変じゃないかと、おれは思う。
稲がほとんど垂れてない。垂れてはいるから、実はなっているのだろう。だけど俺の知っている様な風じゃない。何というか俺の知っている感じを100とするなら40程なんだ。
植え方の問題か、それとも肥料が足りないのか。はたまたそういう品種なのか。
疑問は尽きないがそれよりも次の問題が見えてくる。今年は晴天に恵まれ、水害も起きなかった。おふくろ曰く夏の野分で大抵尾張はどこかで水害が発生するのだという。それがなかったということは、お分かりだろうか?
ヒャッハーが押し寄せてくるのだ。
行商人の話を聞く限り美濃の収穫は普通だが、三河は夏の間に松平次郎三郎という男の元でまとまり始めたらしいし、北伊勢は神戸と木造という豪族同士で殴り合いをしていたが、最近和解したという。
北は今年の仕返しを、西は食料(とついでに女)を奪いに、東はノリと勢いで。
各々尾張に向けてきそうな気配。
あ~あ、戦国なんてまっぴらだ。