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○の叔父  作者: 朝倉義政
2/22

春の田植えが終わると親父は村の男衆を連れて仕事に向かう。ヒャッハーの季節だ。時は戦国、寒冷期。春は田植え、夏はヒャッハー。秋に稲刈り、冬はヒャッハー。年に二回ヒャッハーの季節がやってくる。

ヒャッハーしなければ生き残れない。そしてヒャッハーしに来たのも迎撃できないとやっぱり生き残れない。なんて時代だ。

今年は美濃の土岐さん家にヒャッハーに向かっていった。去年は三河にヒャッハーしに行っていたという。このヒャッハーの収入が少ないとほんと辛い。何しろ俺分の飯が少なかった理由だったりする。

ヒャッハーしに行く前日の親父が言っていた。


「今年は銭になると良いな。去年は酷かったからな」


親父の愚痴や、村のみんなの話を聞くとどうも去年はヒャッハーしに行ったものの、狩谷(どこや?)で三河国先代領主、松平出雲守の迎撃に会い敗走した。一昨年三河にヒャッハーしに行った時迎撃に来た今代の領主、松平越前守が非常に弱かったので二匹目の泥鰌を狙ったみたいだ。先代は手ごわいのでお家騒動で揉めている美濃にヒャッハーしに行くそうだ。

親父が村の男衆を半分ほど率いてヒャッハーしに行った。こうなると家は兄貴の天下……にはならなかった。親父がいなくなって気が大きくなったのか、兄貴が家長の様に振舞おうと親父の真似をした。そしておふくろ様の制裁、流れるような腹パンからのアッパーカットを受け崩れ落ちた。どうもこれは恒例行事のようで、親父がヒャッハーしに行く度に調子に乗り制圧されることを繰り返している。

結論、兄はバカ確定。


そんなおふくろ様とバカ兄を村において、俺は村長の息子の治兵衛と一緒に津島へ向かっている。塩を買いに行くのだ。時代が変わっても塩の重要性は変わらない。むしろ各種調味料、香辛料の類がほぼ無い分重要度はより高くなっている。

うちの村では村長が塩をまとめて買っている。各家各人が各々で買いに行くよりも、誰か塩屋に伝手を作っておいてまともな塩を買った方がいいのだ。ちなみになんで俺が付いて行っているかというと、本日買い付けに行く治兵衛が計算をできないからだ。俺は村の中で最高の頭脳を持つ男。商人よりも早く計算し(九九って素晴らしい)、読み書きをできる(長老に習った)。そして前世の知識経験によりそこら辺の交渉には自信がある。4、500年前の人間なんぞどうにでもなるわ。


なりませんでした。

意識としてはつい最近までジャパニーズなビジネスマンしていたはずですが、商人ってのは塩と同じですね。今と同じで煮ても焼いても食えやしない。持ってきた米を換金しようと米屋に持っていったら、すごい額で買い取ろうとする。お値段なんと市価の12分の1。

なめ過ぎでしょうと怒声と罵声を交わして市価まで押し戻し、さあもう一声と交渉を続けようとした時、治兵衛に止められた。

治兵衛は市価の8分ほどの値段で米を売り、商人に謝りつつ俺を抱えて店を後にした。何をする、もう少しで……と食ってかかる俺に、治兵衛は苦笑しつつ抱える腕に力を込めて俺を締め上げつつこう言った。


 「店の裏側に津島の侍が集まり始めていた。あのままじゃいつ切られてもおかしくなかった」


 なんですと?


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