第8話
「おいおい、お前達いったい何をやっているんだ?」
突如なんともやる気のなさそうな声が聞こえてきた。
「ん~? これはこれはルーシア王女、このような所に来て頂けるとは。何か急用でしょうか?」
「こんにちわ、ミスト。用といえば用なのですが、その変に畏まった話し方ではなくいつも通り話して下さい」
「・・・そうかい。いや~助かる、堅っ苦しくて仕方ないんだけどいつもの喋りだとファリスの奴が煩いからな」
「くすっ、ファリスは真面目ですから」
「あれは真面目すぎるんだ。もう少し緩くてもいいと思うんだよ俺は、そうしたら恋人の1人や2人簡単にできるのにな基は良いんだから」
「1人や2人って・・・恋人が複数できたら問題ですよ。それとミトス団長がそれを言ったらダメですからね、ファリスが悲しんでしまいますから」
「なんで?」
ルーシア王女とやる気のなさそうな男が話している。結構親しいというかフランクというか、俺が言うのもなんだが王女に対してあんな感じに対応して大丈夫なのか?
「あの方はいつもあんな感じです」
いつの間に傍まで来ていたディオラさんが教えてくれる。
「誰?」
「第二騎士団の団長であるミスト様です。第二騎士団は主に魔物や盗賊の討伐を行っているのですが・・・」
「何か問題あり?」
「いえ、問題という訳ではありませんが。現在第二騎士団は要請があった魔物討伐に出向いているはずなのです」
「・・・団長がいるな」
「はい。まぁ、理由は想像できますけど」
ディオラさんと話しているうちにルーシア王女とミスト団長が近寄ってきた。
一見とてもやる気のない団長のようだが近くに来たことでよりハッキリと分かる、この男かなり強い。簡単に負けるつもりはないが、勝てるかと聞かれれば今のとこ分からないとしか言えない。
「よお、ディオラも久し振りだな」
「はい、ミスト団長もお元気そうでなによりです」
「堅苦しい挨拶だなあ」
「メイドですから。それはそうとミスト団長、また仕事をサボりましたね」
「えっ、ミストは見習い騎士の教育ではないのですか?」
「ミスト団長、ルーシア様に嘘を教えないで下さい。ルーシア様、第二騎士団は現在要請があり魔物討伐に出向いています」
「はぁ、ミスト1人でしたから少し変だと思いましたがまたですか。このことはファリスに言いますから、沢山怒られてください」
「うっ、それは勘弁してくれないか」
「ダメです♪」
どうやらこの男はファリスという人に頭が上がらないようだ。どんな奴にも苦手なものはあるんだな、俺も人の事は言えないが・・・。
「そ、そんな事よりそっちの男は誰なんだ新人か?」
「トウヤ様は王家の客分です」
「なるほど。トウヤ殿、先程は若い者が大変失礼をして申し訳ありませんでした」
「敬語は不要です、俺自身の身分は平民と変わりませんから」
「そうか、あぁ、俺に対しては喋りは普通でいい。ミストだ、よろしく」
ミストは右手を出してくる、以前召喚された者が握手でも広めたのだろうか。
「トウヤだ」
手を取り握手する、周りから見たら何の変哲も無い握手だ。
「うおっ!」
「・・・随分と変わった挨拶だな、ミスト」
途端にミストは驚愕の声を出し、俺は手を放して先程のミストの行為に対して小言を漏らした。
「握手はそれほど変わった挨拶だとは思いませんが、トウヤ様の世界では違うのでしょうか?」
「いいえ、ルーシア様。トウヤ様は握手について言ったのではないと思われます」
「握手しただけにしか見えませんでしたが、何かあったのですか?」
「予想は出来ます、きっと私が昔やられた事と同じ事をしたのでしょうから」
「いやー、悪ぃ悪ぃ。実力者を見たらどのくらいか確認する時にやったりするんだが、あんな風に対応されたのは初めてだ」
ミストは謝っているがガハハと笑いながら全く悪びれた様子が無い、相手がそれなりの身分のある奴だったらどうする気だ。いや、ミストだったら全くその辺りも気にしないような気がするなぁ。
それはそうとディオラさんもやられた事があったのか。ということはディオラさんの実力はこのミストが認める程ってわけか、やっぱりただのメイドじゃないってわけですな。
「そういえば、さっきの俺が吹き飛ばした男の実力ってだいたいどのくらいなんだ?」
「私が見た限りですと、冒険者ランクで例えればEに近いFでしょうか」
ディオラさんが答えてくれる。
たしか冒険者ランクはFからだったよな、ということは今すぐ冒険者を始めても同ランクと同じくらいには戦えそうだ。
「それでどうされます、訓練に参加してもう少し確認されますか?」
う~ん、どうするかな。とりあえずこの世界でも問題無く身体を動かせることは分かったし、現状確実に戦えるというレベルも確認できた。それに、吹き飛ばされた男を快方しながら俺を睨んでくる一団と一緒に訓練すると変に気疲れしそうだしなぁ・・・よし決めた!
「辞めとく、確認はもう十分だろう」
「かしこまりました」
「なんだ、訓練に参加しに来たのか。だったら俺と模擬でもするか?」
「それこそ辞めとく、初日から疲れたくないしな」
俺はルーシア王女とディオラさんと一緒に訓練場を後にした。
~~ 訓練場side ~~
「なんだお前ら、そんなに不貞腐れた顔なんかして」
王女達と別れてからミストは見習い達が一部集まっている所に近づいて行く。とりあえず聞いてはいるが少し前から視線を感じていたのである程度の予想は出来ていた。
「ミーゴに聞きました、あの男は俺達に実力が無いと馬鹿にしたそうじゃないですか」
「実際ミーゴとやらはアイツに負けた、なら間違ってないだろ」
「ミーゴが負けたからといって俺達全員が弱いと思われるのは心外だ!」
「・・・で、お前達はどうしたいんだ?」
「俺達もアイツと戦わせてくれ!」
他の奴等を見ても男の主張に同意している。
若い貴族ってのはプライドばっかり高くて碌に実力を探ることも出来ないのかよとミストは心中で溜息をついた。とはいえ、ここで理解させないまま放置すると燻ったままになってこいつら何をするか分かったもんじゃないからなぁ。しゃあない、ここは先達として俺がこいつらを窘めておくか。
「止めとけ止めとけ、結果が分かり切った試合なんてやる意味がない」
負け試合から学ぶこともあるだろうが、プライド優先で相手の力量も判断できていない今のこいつ等にそれは期待できないしな。
「それはどういう意味だ!?」
「そのまんま可愛い後輩がわざわざ負けるとこなんて見たくないってことさ」
「俺達があんな奴に負けるだと!」
「そんな認識だから負けると言ってるんだ。ほら、分かり易く示してやるから」
ミストは先程と同じように手を差し出す。
「手を取ってみろ。そうすればお前等の認識の甘さが分かる」
「グハッ!」
手を取ったコイズはその瞬間地面に叩きつけられていた。
コイズ自身は何が起きたか分からず気付いたら空を見ており背中に激痛が走ったという感覚で、周りの連中もいつの間にかコイズが倒れていて訳が分からないといった感じだ。
「ゴホッ!ゴホッ! い、いきなり何をする!?」
「何ってこれが答えだ、お前等俺がやったことに全く反応できてなかったろ」
少し威圧するように睨みながら周りを見ると怯えた様に目を伏せていく。
「こんな不意打ちされて誰も防げるわけないだろ!」
コイズは認めたくないのか尚も喰ってかかってくるので、ミストは呆れながらも一つの事実を告げた。
「トウヤは反応して防ぎ、尚且つ反撃までしてきたぞ」
「なっ!!」
コイズはミストの言葉で驚愕の気持ちと信じられないといった気持ちで混乱し呆然となる。
驚愕している見習い達を見ながらミストはトウヤくらいの年齢の時の自分の実力を思い起こしそれを比較してみた。
「召喚された奴ってのは化け物ばっかりなのかね~」
嬉しそうに呟くミストの声は誰にも聞かれることなく風に流されていった。
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