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第7話

「おい、貴様!」


 大声が聞こえた方を見ると、近くで模擬戦をしていた男の1人が怒った感じに俺を指差していた。

 周りを見るが居るのはルーシア王女とディオラさんだけである。

 もう一度男を見るがやはり指差しているのは俺のようだ。


「貴様、先程の言葉はどういう意味だ!」


 男が怒った顔のまま近づいてくる。

 さっきの言葉・・・あぁ、つい呟いた期待はずれという言葉のことだろう。それにしてもよく聞こえたな、距離もあるし訓練中でいろんな音が出ているのに。それとも思った以上に声が出ていたか?


「聞いているのか!?」


 黙ったままだったので無視されたと思ったのか男は不愉快そうに顔を歪めている。

 さてこの状況、考えようによっては使えるな。

 見た感じ大半の見習い騎士の実力は低いようだが、今後を考えたらこの異世界の戦い方を少しでも体験しておきたい。とはいえ頼んだところで本気で戦ってくれるかどうか分からなかったが、もう少し煽り戦う方向にもっていけばこの男は怒って本気で戦ったくれるかもしれないからだ。よし、その方向で行こう。


「あぁ、聞いている。それで、何か用か?」

「用だと、先程の言葉どういう意味かと聞いているのだ!」

「さっきの言葉? ・・・あぁ、期待はずれか。意味も何もそのまま言葉通りの意味だ」

「き、貴様~!」


 惚けた感じに答えると男はさらに顔を赤くしながらワナワナと肩を震わせている、あともうひと押しかな。


「そもそも、怒りたいのは俺の方だ。騎士の訓練が見れるというからわざわざルーシア王女に連れてきてもらったのに居たのは見習い騎士のみ、しかもそいつ等は思った以上に実力が低いときたもんだ。思わず溜息が出てもしかたないだろ」


 溜息をつき少し大袈裟にやれやれといった感じに首を振る。

 模擬戦をしていた他の見習い騎士も次第に騒ぎに気付きチラホラこちらを見始めていた。


「ルーシア王女の知己か知らないが、平民風情が貴族を馬鹿にしていいと思っているのか!?」

「おいおい、俺がいつ貴族という身分を馬鹿にした。俺が馬鹿にというか呆れたのは単純にあんた達の実力が低かったからだ」

「ふざけるなー!」


 男が木剣を振り回してくる、とても冷静状態とは言えない怒りに任せての攻撃なので威力はあるだろうが技術を見るには期待できそうにない。とりあえず、簡単な身体能力の把握と比較から始めるとしますか。



~~~ ルーシア&ディオラ視点 ~~~



 訓練風景を見てトウヤ様が溜息を漏らしています、何か落胆させてしまうような事をしてしまったのでしょうか?

 そんな事を考えていると1人の男性がトウヤ様に詰め寄っています。どこかで見たことのある方ですね・・・あぁ思い出しました、たしかボルトニカ子爵家次男のミーゴです。

 トウヤ様とミーゴが口論になっています。ですが、ミーゴは本気で怒っているようですがトウヤ様の方はわざと相手を怒らせているように感じます。

 そうこうしているうちにミーゴがトウヤ様に攻撃し始めました。王族の客分に対して害しようとするなんてどうなるか考えていないのかしら、まぁトウヤ様に問題が無かったかと問われれば何も言えませんけど。


「ルーシア様、私の後ろへお下がりください」


 ディオラが私を守る様に一歩前に出る。


「止めなくて良いのかしら?」

「よろしいのではないでしょうか。余程の怪我をしない限りすぐ近くの治療院で治すことができますし、いざという時は私が止めに入りますので」


 たしかに今でこそディオラは私の専属メイドですが、以前はかなりの実力ある冒険者でしたので止める事事態は簡単なのかもしれません・・・って、そういう事ではありません。


「それにこの状況は都合が良いのかもしれません」

「都合が良いですか?」

「はい、一概に言えませんが見習い騎士の実力は冒険者ランクで言えばE前後位でしょうか。これは幼少より武術訓練をしてきた貴族が主だからです、そしてトウヤ様は冒険者になろうとしていますね。ここで見習い騎士のミーゴ様と戦うことでトウヤ様の今の実力を知ることができます。ミーゴ様に勝てるようでしたら冒険者を始めるうえである程度の実力を保持しているということになりますし、負けるようでしたら少し実力を付けてもらうという理由で城に残ってもらえば良いのです。その間ルーシア様とお話する時間も作ることができるでしょう」


 うん、大変魅力的な話です。ということはトウヤ様が負けるのを願った方が良いのかしら?

 試合(?)を見た限りミーゴが攻撃し続けトウヤ様は防戦一方・・・・・あっ!


「ディオラ、すぐに試合を止めなさい!」

「何か問題がございましたか?」

「問題も何もトウヤ様は武器を持っていないではないですか」


 そうなのです、いくら木剣とはいえ相手は武器持ちに対してトウヤ様は素手なのです。気持ち的に負けて城に残って欲しいなぁとは思いますがこれでは実力を確認することはできません。


「そのようですね、ですが特に問題はございません」

「問題無いって、現にトウヤ様は防戦一方ではありませんか」

「トウヤ様は攻撃しないで何かを確認するかのように観察しているだけですので見た目が防戦一方になっているだけで、実際はミーゴ様の攻撃を完全に見切って最小限の動きで避けておられます。そこそこ出来る方かと考えていましたが、まさかここまで実力差があるとは思いませんでした」


 ディオラに言われよくよく見ると、たしかにトウヤ様は余裕の表情を浮かべています。


「ミーゴ様はトウヤ様との実力差をあまり理解しておられないようですね、もし理解しておられるのならあんな単調で大振りの攻撃を続けないでしょうし」

「この後はどうなるでしょうか?」

「そうですね、ミーゴ様の体力が力尽きるのが先か観察するところが無いと判断したトウヤ様が反撃して終わりかのどちらかではないでしょうか」


 そうこうしているうちにミーゴの攻撃を避けると同時に初めてトウヤ様が反撃する、その瞬間ミーゴは十数メートル近く吹っ飛び転がっていった。


「・・・吹き飛びましたね」

「はい、吹き飛びました」


 私達はその光景を呆然と見続け、周りでトウヤ様達の試合を見ていた者達も信じられないといった感じに呆然としています。辺りには何とも言えない静けさが漂っています。

 少しずつ気持ちが落ち着いてきたところで先程の光景を思い起こしながらディオラに聞きます。


「あれは魔法なのでしょうか?」

「トウヤ様は昨日召喚たばかりですので、そのような魔法を覚える時間があったとは思えません。なので純粋な体術だと思われます」

「ですが、手を突き出しただけで人があれ程吹き飛ぶものなのですか?」

「ただ吹き飛ばすだけでしたら私でも出来なくはないですが、その場合条件として相手は私と同じような体格でそれなりの助走をつけて蹴る必要があります。なんの助走もなくその場から手を突き出しただけであそこまで人を吹き飛ばす方法は今のとこ考え付きません」

「あなたでも分かりませんか」

「申し訳ございません、もともと無手の技術はそこまで詳しい方ではありませんので」

「いえ、良いのです。ですが、これでハッキリしましたね」

「はい、トウヤ様の実力は現状で十分冒険者として通用します」


 城に残ってもらう理由が無くなってしまい少し残念ですが、それ以上に安心もしました。

 周りの見習い騎士達も現状を理解していき仲間がやられてということで徐々に剣呑な雰囲気が漂ってくる。これは少々不味い状況かもしれませんね。


「おいおい、お前達いったい何をやっているんだ?」


 突如なんともやる気のなさそうな声が聞こえてきました。



ここまで読んで下さりありがとうございます。

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