第4話
メルシャが出て行ってからも嬉しかったこともあって魔法を何度も唱え続ける。
さっきと同じように唱えた分全て問題無く発動したので俺に魔力があるのは確実なようだ。
それにしても元の世界に魔法なんて無かったはずなのに何故俺には魔力があるんだろう?
こっちに召喚ばれたことで貰えた特典だろうか、それとも元の世界にも魔力があって使おうと思えば魔法も使えたりするのか?
まあ今のとこそれらを検証することは不可能なので深く考えず素直に魔法が使えることを喜んでおこう。
しっかしこの詠唱はほんと面倒だし厨二だった時の悪友を思い出されるので俺的には人前で使いずらい、なので無詠唱をなんとしても使えるようになろうと思う。
魔法は魔力を使って発動していて詠唱はあくまで魔力の流れを作っているに過ぎないってのが十数回魔法を使った俺の考えだ。
この事を踏まえて考えると自力で詠唱した時と同じ魔力の流れを再現できれば詠唱しなくても魔法が使えるはず。うん、思いのほか無詠唱は簡単にできそうだ。
無詠唱は簡単だと考えていた数十分前の俺を殴ってやりたい。
実際やってみて無詠唱がなんで主流になっていないのかが俺にも分かった。
魔力を自力で動かすのはとんでもなく難しいのだ。仮に動かせたとしてもかなりの集中力を要し、簡単な魔法の『灯火』でさえ詠唱した時よりも3~4倍の時間がかかった。仮に10秒位の詠唱魔法でも無詠唱だと1分近くかかる計算になる。
戦闘中に魔法1つ使うのに時間をかけていられないだろうし、それなら早口で詠唱した方がかなり効率的だ。たぶんこういった理由から無詠唱が廃れたのだろう。
とはいえ『水』や『灯火』は簡単な一文なので既に早口で詠唱することが出来るし、他の魔法の詠唱は知らない。
結局他にやる事もないし無詠唱を諦められない俺は魔力をスムーズに動かす訓練に没頭した。
コンコン
突如聞こえてきたノック音で意識を外へ向ける。
日が傾きかけてきていることからどうやらかなりの時間を魔力操作に没頭していた。
「はーい、誰ですか?」
「メルシャです、夕食をお持ち致しました」
文明レベルからそこまで食事は期待していなかったのだが、どうやら嘗て召喚された人物が既に料理革命を起こしていたようだ。というか、元の世界にいた時の俺よりも豪華な食事とデザートが出てきて弟妹達に若干申し訳ない気持ちになる。
「城ではいつもこんな豪華な食事?」
「いえ、今回は大事なお客様とのことでしたのでこのようになっています。普段は王族の方々でも平民とそれ程変わらない食事をなさっています」
「王族なのに平民と同じ食事なの?」
「はい。豪華な食事にして無駄に国庫を消費するより、いざという時に備えて貯えて置くべきだというのがこの国の王族の方々の考えです」
どうやらこの国は思っていた以上に善政していて感嘆する。
「それは素晴らしい考えだ」
「えぇ。とわいえ、王族がそうだといって貴族全員が同じ考えというわけではありませんけど」
そう言って苦虫を噛み潰したような顔を見せるメルシャから窺い知れる様にどうやらどんな国でも屑はいるみたいだ。
コンコン
夕食を終えてまた魔力操作に没頭しているとノック音が聞こえてきた。
「どうぞ~、開いてますよ」
「失礼致します」
扉を開けて入ってきたのはメルシャとは少し違った服装のメイドさんと真っ白なドレスを着た綺麗な女の子だ。
「今お時間よろしいでしょうか?」
「暇潰ししてただけだから大丈夫だよ」
「よろしいようです」
メイドさんが道を空け女の子が一歩前に出る。
「初めましてトウヤ様、私はルーシア=イングヴァルトと申します」
「あっ、どうも初めまして神無冬夜です。こっちだとトウヤ=カミナシかな。イングヴァルトってことはもしかして・・・」
「はい、ルーシア様はこの国の第2王女です」
突如現れた王女に国が取り込みに来たのかと顔には出さないが俺は警戒度を上げる。
「そう警戒しなくても大丈夫です、ルーシア様はただお話したいだけですから」
「OHANASI?」
「そちらではありません」
!?、どうしてこのネタを・・・このメイドさんもしかして俺と同じ召喚された者だろうか?
「違います」
このメイドさんは心でも読んでいるのか?
「もちろんそれも違います」
いや絶対読めてるでしょ!
「あの~、そろそろよろしいですか?」
心の中でメイドさんにツッコミを入れているとルーシア王女が話しかけてきた。
「あ、はい。それで話って?」
「はい、謝罪とお聞きしたい事がございます」
「謝罪? 君と会うのは初めてだし、謝罪されるような事をされた覚えはないんだが」
「謝罪とはこの国の都合で問答無用に召喚しておきながら不手際により貴方という何ら関係のない方を召喚してしまったことです」
ルーシア王女が頭を下げてきた、正直いって王族が簡単に頭を下げてきたことには驚きだ
「別に君が召喚したわけじゃないんだから君が謝る必要はないよ」
むしろ召喚が失敗したのは俺が原因だろうからこっちが謝ったほうがいいのか。
「いえ国が行った事の失敗の責任は上に立つ者が負うべきですから」
立派な考えだと思う、故になおさら申し訳なく思えてくるよ。
「分かった、君の謝罪は受け取るよ」
「ありがとうございます、明日お父様から今後の対応のお話があると思いますので詳しい事はそちらで」
「ああ、でも勇者召喚は失敗して大丈夫だったのか、ダンジョンマスターが誕生するかもしれないんだろ?」
「それは全く問題ありません、そもそも私は此度の勇者召喚を反対しておりました」
「全く問題がない?」
「はい、トウヤ様は召喚された理由をどのようにお聞きでしょうか?」
俺はグライト王から聞いた話をルーシア王女に話した。
「まず占い師の予言ですが10回中1~2回当たるか当たらないかというくらい低いですし、私が知る限り過去にダンジョンマスターが攻めてきたという出来事はありません」
なるほど、あの話は嘘か。となると召喚された本当の理由はルーシア王女も知らないあの何か隠しているような雰囲気が関係してるんだろう。
「あっ、でも、ダンジョンが理由で滅びた国がありましたよね、ディオラ?」
「はい、と言いましてもそれは自業自得の話です」
へぇ~、ダンジョンで滅びた国はあるんだ、ちょっと気になるなあ。
「それってどんな原因だったの?」
「小国が戦力増強の為に大軍をダンジョンに送り込みましたが全滅し、それと重なるように魔物暴走が起きてさらに国力低下したのです」
「そして、その隙をつかれて他国に攻められ国としては滅びたというわけです」
「たしかに自業自得だが、それはダンジョンのせいなのか?」
「ちょっと違うかもしれません。ですが、この事を踏まえて国は直接ダンジョンに関与しないようにしております」
あえて危険に突っ込む必要も無いし、そう考えるのもありか。
「色々ありがと、それで聞きたいことって?」
「はい。あの、私異世界の方とお会いするのは初めてですので、よろしければその、異世界のお話をお聞きしたいと思いまして・・・ダメでしょうか?」
先程までの沈痛な面待ちとは打って変わって、惚れ惚れしそうな笑顔だ。
話して困るようなこともないし、ここはルーシア王女の好感度を上げる為に頑張るか。
ここまで読んで下さりありがとうございます。