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第2話

「ト、トウヤ殿、戯れはそのくらいで良いだろ。早く聖剣を抜いてくれないか」


 王の言葉で周りの連中は少なからず安堵している、どうやら俺が遊んでいると思ったようだ。

 爺さんから話を聞いていたので彼等がそう思いたいのも分からないではない。

 数年に1回可能で必ず成功する普通の召喚儀式と違って、勇者召喚は十数年に1回で成功確率は極めて低く失敗する可能性の方が高いとされているからだ。


 とはいえ俺がもう一度ガチャガチャと抜けないことをアピールすると謁見の間は落胆や困惑といった感じで騒然としてきた。今回は勇者召喚に成功したにも関わらず聖剣が抜けないという異常事態-彼等にとってだが-であるから混乱により一層拍車をかけているのかもしれない。


 今後どうなるかなと考えていると、先程俺に不快な思いをさせた男が目に入る。

 男は周囲が混乱しているなか一見同じように慌てているようだが、時折気のせいかと思う程一瞬だけ歓喜の表情を浮かべるのが引っかかった。


 男は俺が見ていることに気付いたのか慌てて王様に話しかける。

 男の表情は気になるが俺しか気付いていないようだし気のせいとか言われたらそれまでだ。

 それに王様も俺が放置されていたことに気付いたようだしこの状況が動くかな。


「トウヤ殿、すまないがこれから我々だけで話し合うので席を外してもらおう」


 王様の言葉のあと俺は兵士に連れられて謁見の間を出ていく。

 正直勇者じゃないと分かった時点ですぐに追い出されるかとも考えていたので少し意外だ。

 とはいえ彼等の話し合いの内容しだいではそうなる可能性もあるだろう、なので先導している兵士から少しでもこの世界の情報を得ておくとするか。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ダンバルト殿、此度の失敗にどう責任を取られるのかな?」

「う、うむ・・・」

「ラギウルよ、そうダンバルトを責めるものではない。もともと勇者召喚は成功確率が低いのだ」

「しかし王よ! 此度は召喚自体は成功しているのです。なのに呼ばれた者は勇者ではないという結果です、召喚儀式に問題があったとしか言えません! もしやダンバルト殿、普通の召喚を行い勇者として偽り手柄を得ようと考えたのではないですかな?」

「ラギウル宰相は馬鹿なことを言いますな、そんな事しても先程のように聖剣が抜けないのですからすぐに分かりなんの意味もないでしょうに」

「ラギウルよダンバルトの言う通りだ。しかし、今回のような事態が後の世に起こるのも不味い。ダンバルトよまずは何故このような事が起こったか召喚陣を調査せよ!」

「はっ!」

「次にトウヤ殿の処遇だが・・・」


 誰もが話し合いはかなりの長い時間がかかるだろうと考えた。

 なぜなら勇者でなかったとはいえ異世界人は強力な力と知識を保有している場合が多く、手元に置けば多大な利益が得られると考えられるからだ。

 こうして相手を蹴落とし上位に立ちたいと考える貴族派閥の腹の探り合いや牽制という話し合いが始まった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「へぇ~、宰相ってのはそんなに貴族連中に嫌われてるのか」

「まあな。前宰相が推挙して王様が認めたとしても平民から抜擢されたんだ、いくら宰相とはいえ平民から色々言われるんだそりゃ貴族様にとっては面白くないだろ。だけど就任してから今日までに数々の実績をあげてるもんだから周りは何も言えないって訳さ」


 すっかり仲良くなった兵士との話から、俺に不快な思いをさせた男が宰相だということが分かった。


「平民から成り上がって活躍しているってことは貴族以外の人気は高そうだな」

「・・・・・」

「違うのか?」

「昔はな。ただここ数年の政策はまるで人が変わったようなものばかりで、王都はまだマシな方だが一部の地方農村では困窮しているという話も出ている。でも国としては利益が出ているらしいからなあ」

「ふ~ん」


 力を持ったことで私欲がでて人が変わったのかまたは本性が出てきたのかどうかは分からないが清廉潔白で行くのは難しいってことか。


「おっと、ここだここだ」


 他愛無い話をしているうちに目的の場所に着いたみたいだ。


「何か用事があるようだったら部屋の中にベルが置いてある、それを使ってくれ。それじゃ」

「ああ、色々ありがと」


 手を振りながら去っていく兵士を一瞥して部屋に入る。

 来賓用なのか部屋は広くかなり豪華な装飾が施されている、庶民な俺はちょっとだけ気後れしちゃうよ。

 キョロキョロと見回すとテーブルの上にベルが置いてあった。


「これが言ってた物か」


 試しにベルを振ってみたが音が鳴らなかった。


「あれ、壊れてるのか?」


 何回か続けて振ってみたが全く鳴る様子がない。諦めてテーブルに戻すと、誰かが扉をノックしてきた。


「お待たせしました、どのような御用でしょうか?」


 入ってきたのは俺と同じか少し上くらいの美人のメイドさんだった。


「えっと、呼んだ覚えがないけど?」

「そうなのですか? ベルが鳴りましたのでてっきり何か御用がお有りかと」

「えっ、ベル鳴ってた!? 試しに振ってみたんだけど音なんて出ていなかったから壊れているかと」

「それは登録されている人のみに音が聞こえる魔道具です。ですので、この場合は私のみ音が聞こえるようになっております」


 させが異世界だ、現代では不可能とも思える物が魔法で簡単に可能にしている。


「それで、本当に御用は何も無いのでしょうか?」


 メイドさんは笑顔だが用事も無いのに呼んで嫌な思いをしたかもしれないので素直に謝っておく。


「お気になさらず、それでは御用の時はいつでもお呼び下さいませ」


 メイドさんが出ていってから一息つき、最初にやるべき事を考える。


「異世界召喚といったらまずはこれだよな、『ステータスオープン』!」


 高らかに叫ぶが何も起きない、・・・ちょっと恥ずかしくなった。

 気を取り直してやり方違うのかとラノベで知る限りの方法で色々試してみる。


 あれから数十分経っただろうか。


「はあ、はあ、はあ、何にも起きないけどどうなってるんだ!?」 


 やり方が特殊なのか俺だけでは対処できそうにないと諦め、先程のメイドさんを呼んで聞いてみる。


「ステータスの見方ですか?」

「うん、やり方が分からなくてね」


 メルシャさんは困った表情を浮かべている、もしかして初歩的過ぎて聞くのは可笑しい事なのだろうか。

 ん、そんな事よりなんでいきなり名前で呼んでいるのかって? そりゃ勿論聞くのを忘れていたから聞いただけだ、美人さんとは親しくなりたいし。


「あの、申し訳ありませんがステータスとは一体どういったものでしょうか?」


 おっと、予想外の答えだ。

 俺はレベル・数値化された能力値・スキルといったラノベでお馴染みのものを説明してみせた。

 俺の話を聞いたメルシャさんは首を捻っている、その動作がちょっと可愛いと思ってしまった。


「申し訳ありません、そのようなものは見たことも聞いたこともありません」


 嘘を言っているようには見えなかったのでこの話は終わらせる、美人さんを困らせて好感度を下げるわけにはいかない。

 それにしても、異世界もので一番とも思えるテンプレが無いとは残念だ。

 それじゃ、次に異世界といったらこれだろ。


「魔法について教えてくれないか」

「魔法ですか。私は簡単な生活魔法しか使えませんので、そこまで詳しい事はお話できませんがそれでよろしければ」

「構わないよ」

「説明は少し苦手ですので簡単に実演しながらお話します」


 メルシャさんが含羞みながらコップを取り出しテーブルに置く。

 あっ、可愛い・・・って、ちょっと待って今どこからコップ出した? その事を聞いても「メイドですから」って。いやいや、それこそ魔法だよね? 魔法の前にそっちの方が気になるよ!



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