マイマイの敗退
収集つかなくなったら第三者だよね!
彼はまだ本性を現しません!
目の前で涙するポンコツ先生。
引きこもりには辛い多数の視線。
静まる職員室。
困惑する私。
……どう言う状況何でしょうね?
整理してもよく分からない。
それにこれは私が悪いのか?
梅林先生の容姿は目もぱっちりして小動物のイメージに繋がる可愛い系の人だ。
そして、クラスでは親しまれていて他のクラスの生徒もたまに話しかけられているのを見ると人気もある。
かたや私は大の男よりもデカく、可愛くないと以前評価を貰った事があり、この学校に入って薄々気づいたが私は怖がられていてもいる。引きこもっていたから不気味なのかな?遠巻きにされボッチで人気のない私。
……ダメだ。あぁもう私の不利にしかならないよ。もう退学かな。
さよなら高校生活。今戻るよ!引きこもり生活。
「ちょっといいかな?僕も一緒に話に入ろうか。そしたら互いに言いたい事が伝わるかもしれないよ」
後ろから囁く様に声が聞こえ振り向くとやぁと手を振られた。
私より背が高くすらっとしている。優男と言われたら納得出来る顔つき。伊達さんのクラスの担任の土御門先生だった。
「八神さんとちゃんと対面して話すのは初めてだね。いつも僕のクラスの生徒がお世話になっているそうだね?ありがとう」
伊達さんの事ですね。分かります。
土御門先生は話が長くなるかもしれないからと空いているコロコロ椅子に座るように私に言う。私は頷き、土御門先生もニコニコと椅子に座って梅林先生と土御門先生と私で向かい合う体勢になる。
「さて、失礼だけど梅林先生の先程のお話聞かせてもらったけど、あの内容では伝わるものも伝わらないと僕は思ったよ。梅林先生には既に伝えたい事の考えが纏まっていたけど八神さんにどう伝えようか迷ったね?その迷いが話をややこしくしているようだけど伝えにくい事なのかな?」
梅林先生はオドオドと私と土御門先生を見て頷く。
「成る程成る程。では八神さんは何故呼ばれたか分かってるかな?」
私はウィルス性の胃腸炎に気を付けなさいと言われるのかと思っていたが先程の話からして違うと思う。分からないので首を傾げる。
「まぁ、僕も1年の外部生の先生の相談を受けているからね。梅林先生が伝えようとした事も憶測ながら予想は出来る。梅林先生もその事をがつーんと八神さんに伝えたかったのかな?」
顔を真っ赤にして縮こまる梅林先生。どうやらがつーんと言った事が恥ずかしかったようだ。
「うん、なら僕から一つお話をしよう。この話が八神さんの為になれば僕としては嬉しいのだけどね。僕が八神さんとお話する為に言葉を今こうして八神さんに伝えているけど、僕が八神さんに伝えたい事が果して本当に僕が伝えたかった本質を伝えきれているか分からないよね?言葉を伝えるって本当は難しい事だと僕は思っている。ここまでだと僕が何を言っているか分からないね」
哲学か何かなのかなって思いはするが分からないので頷く。
「それで良いのだよ。だってまだ僕が伝えたかった言葉や意味を含めてまだ話してないからね。でもね、この時点で八神さんが僕の言葉を深読みしたり、先読みしたらきっとこれから話す言葉は僕が伝えたかった言葉じゃ無くなるかもしれない。言葉を放ってから受け取る側と放った側では同じ意味の言葉だと言い切れないよね?思考の情報の共有をしない限り、曖昧なやりとりで僕達は相手と意思疎通を図っているとも言える。まぁ、これは捻くれた考えでもあるね。でも、先程のやり取りがそうと言えないかな?」
確かに私は梅林先生の伝えたい事は私が周りと仲良く出来ないボッチだと言う再認識以外伝わってない。
土御門先生の話に相槌をうつ。梅林先生も頷いている。
「それでここからが八神さんにお話しておきたい事なんだ。僕は違うクラスの担任だし、八神さんの事情も知らない。でもね、僕の授業を受けている君も僕の生徒であるのだから1人の先生として生徒である八神さんに言ってあげなくてはと思っている事がある」
土御門先生は一息つき、私を見る。
「八神さんは話すのが苦手だよね。声を出すのも苦手なのかな?僕も一度も声を聞いた事がないからね。今はそれで良いのかもしれない。でもね、将来は違うはずだよ。いつまでも喋らず話さずだと限界が来ると思う。現に梅林先生の周りと仲良くって言うのはそこから来ているのではと僕は思う。喋らない事が悪いとは言わないけど先程の言葉の話と同じだよね。八神さんは言葉すら発さないのだから周りと意思疎通が更に難しいはずだよね。だから周りも同じ様に感じているかもしれないね。もし喋るのが苦手ならまずは挨拶から始めて自分なりに苦手なモノを克服しなくちゃいつまでもそのままだよ」
……土御門先生の言う事はご尤もで話さないと周りとコミュニケーションは難しい。
土御門先生に分かりました。ありがとうございますと御礼を言おうと口を開くが声が出ず、パクパクしてしまった。
「……うん。道のりは難しそうだね。少しずつ、八神さんのペースで僕にも声を聞かせて欲しいな。それに言いたい事はしっかり言う事だね。それで梅林先生も先程言った生徒に谷口さん居たね。その谷口さんからウチのクラスの子が毎回来て怖いとそして、怖くてお腹が痛くなったと苦情が来たのだけどね。梅林先生は聞いているかな?」
その話を聞いた梅林先生は首を横に振り、少し血の気が引いた様に感じる。
「昨日、僕も言われてね。本日の帰りのホームルーム時間にAクラスに迷惑をかけない様に伝えるつもりだったのだけど遅かったようだね。あぁ、もう一つ八神さんに聞きたいけど周りのクラスの子と話した事はある?」
隣どころかクラスの人と会話した事ありません。横に首を振り、首を傾げる。
「いいや、こっちの話だから大丈夫だよ。ほら、周りと仲良くしてみたらって梅林先生も言っていたでしょう?その確認だよ」
何の意味があるのか分からないけど不快感は無かったので土御門先生の失礼は聞き流そう。
「八神さんも物静かなのはいいけど息が詰まっちゃう子も居るかもしれないから気をつけてね」
確かに兄と家のリビングで遭遇して、無言で行動するあの時ほど息が詰まる瞬間はない。胃がキリキリしちゃいそうだった。
私も気をつけなきゃいけないね。私は頷き、か細い声で返事出来た。
「うん。やっと声が聞けたね。小さいけど少しずつ大きな声を出せるように頑張ってね。梅林先生これでひとまず話は纏まったかな?」
「はい、私が八神さんへ伝えたかった事を全て伝えて頂けました。それにもう一つの伝えようとしていた事は私の勘違いでしたので八神さんごめんなさい」
良く分からないけど土御門先生と梅林先生で何かが解決したようだ。
……今回、傷口をガツンと抉られ、説教されただけだよね?
私の昼休みが……泣きそう。
伊達さんの本日のぐぬぬが見れなかった事が非情に残念だ。
放課後になり、帰りの準備を終え帰ろうとした時に伊達さんがやって来た。そして、教室には入らずに私に宣言する。
「いつかギャフンと言わしてやるんだから!勝ち逃げは許さないんだからね!ぐぬぬ」
そう言って教室には入らずに走って帰っていった。
伊達!走るな!と先生の声が廊下で響いていたので遂に見つかり怒られたようだ。
それにしても私の為に放課後ぐぬぬを見せに来てくれたのかな?
後日、知ったのだが伊達さんはAクラスに出禁になったようだ。
伊達さん(´;ω;`)ブワッ