ライバル
中に入ったものの一瞬の沈黙が辛い。私って確か呼ばれてきたよね?まさか、今日まで引きこもっていられたのをフイにしてしまったのか!
先に居た女子生徒も私を見て惚けていたけど目が合うなり、嫌そうな顔をする。
……そんな不愉快そうにしなくてもいいじゃん。
もう高校生活で他人と仲良く出来る自信がなくなったよ。
目が合うだけで嫌そうにされたら私の繊細なクリスタルハートはすぐに砕けてしまい、さよならきらめく青春の高校生活よ、ただいま引きこもり生活って感じだね。まだ高校生活始まってすらいないのだけどね。
見た目は友達候補にどストライクなんだけど。
今の私と同じ位の髪の長さで背も私の肩位あり、私はデカいと評されるけどこの子は丁度良くスラっとした感じで羨ましい。私の三白眼が見るもの全てを威嚇していると錯覚させるけど、この子の目はちょっと垂れていて癒される。おっとりと表現が許される容姿だ。要するに可愛いだけではなく美人だ。
だけどファーストコンタクトで友達なれないと思う。
見られただけで嫌われるって私の見た目はそんなにダメなのかな?
ん〜、やっぱり笑顔が大事だよね。
3年間どうしても引きこもっていた所為か表情が乏しくなってしまっている。
私の無表情な顔を必死に引きつらせ女子生徒に向けるとひぃって声を上げた。
なっ⁉︎この子失礼だぞ!私の友好的な渾身の笑みに対して小さく怯えの悲鳴あげたよ!
私からの歩み寄りを遮断され、こうして私とこの子の間に友好条約は決裂してしまった。
「あー、すまないが理事長が来てからだと思っていたがまだ来ない様だし14時になったのでそろそろ話をしようと思うが良いかな?二人共」
ん?二人共って事は私とこの子がこの場に一緒に居る事は間違ってないのね。
あっ!新入生代表の為に集まったら知らない私も来たからこの子は私に警戒したのかな。
私も一人だけかと思い、どう断ろうかなって考えていたからね。全校生徒の前で挨拶なんて私には難易度が高すぎる。最低、入学式は急に腹痛になる予定も考えなければならないとまで思っていた。
そう考えるとこの子の存在はありがたい。
「私の名は西園寺と言う。初めに君達の入学を歓迎する。さて、話に入るのだが新入生代表の挨拶をどちらかにして貰う予定だけど、どうする?本来ならテストの点数が良い方が挨拶をする風習なんだけど今回の受験の成績では一番の八神愛梨君に挨拶を任せたい所なんだけど出来るかな?」
「待って下さい。聞き間違いでは無く、私よりこの八神さんの方が成績が良かったのですか?」
女子生徒は一瞬私を睨んですぐに悔しそうな表情で校長先生に尋ねる。そんな顔したらせっかくの綺麗な顔が台無しだよ!さっきの私の様にスマイルだよスマイル!
「そうだよ、伊達真理亜君。テストの点数はね。しかし、君にも来てもらった理由にもなるのだが彼女は中学時代はとある事情で学校には通ってない。だけどセンターや模試試験などのテストはちゃんと受けていたし結果は全国テストでは3位以内から外れた事がない優秀な子だ。しかし、新入生代表の挨拶をお願いすると八神君が辞退する可能性が高いので次にテストの点数が良かった君を呼んだのだ」
……やだぁ、個人情報だだ漏れじゃないですか?
テストの結果なんて気にした事が無かったけど割と優秀な点を取っていたらしい。
そして、校長先生は私の事を理解していらっしゃる。
「ちゃんと親御さんからも聞いての入学許可だから安心しなさい」
なんと既に保護者面談済みですって⁉︎
あれ?色々大事になっているのは気のせいかな?
「スペアとして呼ばれたのなら帰らせて頂きます。では、失礼します」
「帰っても構わないが君にとってこの話は好都合だと思ったのだけどね。いや私は構わないのだよ。帰るのは君に不都合ではないのかな?」
校長先生と伊達さん(と呼ぼう)は見つめ合い二人の空間を作り出す。
……え、何?この意味深な会話は、、、私だけ置いてけぼり。
でもこの空間を私は知っている。
ついに私もそちら側に行く時が来たようね。
爆ぜろリアル!弾けるシナプス!パニックエンド・デス・ワールド!!
「ふむ、沈黙は肯定と言う事だね。では八神君の話へ変えるが君は全校生徒の前で挨拶は出来そうかい?声に出さなくて良いよ。出来そうなら頷き、出来そうになければ首を振って欲しい」
すぐに私の脳内妄想が遮断された。
全校生徒の前って、只でさえ私はコミュ症を拗らせ親しい人となら話せるがそれでも沢山の視線を感じて話すなんて緊張して声が出るはずがない。無理だ……
私は横に首を振った。
「うむ、そう言う事だ。伊達君、今回の入学式は君が新入生代表で挨拶をお願いする。それで喋らなければ八神君は行動は出来るそうだね。なので今年は生徒会から新入生へ花束を渡すと言う内容を項目に入れて優秀者2名の流れでやるので宜しくお願いする」
私と伊達さんは校長先生の話しに頷いた。
「さて、伊達君も八神さんの扱いを理解したと思うけど、彼女は喋るのが苦手でね、誤解されやすいのだけどこの様に接してあげると意思疎通出来るから仲良くしてあげてね」
……私は何かの珍獣か?っとツッコミたいけど、緊張で一言も喋れてないのでここは素直に受け入れてあげよう。
これで話が終わったと思ったら新たな来客があった。
「ごめんなさいねー、前の予定が中々終わらなくて遅れてちゃったわ。もう話は終わったかな?」
入って来たのはこれまた美人でグラマラスな女性だ。
「理事長、既に話は終わりましたよ。入学式以外で理事長からも何かありますか?」
なんと、この美人さんは理事長だったようだ。凄く若く見えるけど見えるだけだよね?
「うん、西園寺先生が終わらせたのなら私からは特に無いと本来なら言うのだけど今回入学してきたこの二人には少し折り入った話をしようと思っているの」
え?終わりましょうよ!理事長先生。面倒事は勘弁ですよ!
理事長先生はそのままでいいよ〜と言い話を続ける。
「ぶっちゃけた話をするけどね、この学校は私達の一族が独自に運営しているのだけど他の学校とちょっと違う部分があるのよね。二人共、名家の跡継ぎだから話すのよ。一般の人には話さない内容よ。この事は言いふらさないでね?」
理事長先生、中々エグい釘の刺し方だよね。私に言いふらす友達がいない事位知っていての振りなら私は泣いても良いよね?
「戦後、財閥解体で財閥が無くなった今、解体の対象にならなかった私達一族は独特の出自があり、日本の名家の存続を始めとして日本を支える優秀な人材を埋もれさせずに使う為に学校を設立したの。それが内部生と外部生ね。戦争に元々反対して中立だった私達一族だけど、いざ負けて日本が外部から弱体化されて黙っている程、愚かでは無いわ。影で色々と手を回して、日本経済が息を吹き返し、その後の経済にも貢献しているから色々とコネもあるのよ。奥州の伊達一族の末裔の真理亜さんも西日本の地方有力者の孫である愛梨さんも本来なら内部生として入って頂きたかったのだけど二人共の家庭の事情を考えてお誘いはしないけどこの話はしっかりと覚えていてね?それからお二人の入るクラスは本来、内部生が自分に合う人材をスカウトする為のクラスでもあり、外部生が将来を安泰に出来る場のクラスでもあるの。でも、互いのプライドの関係で上手くいかない事も多数あるけど未来ある子供達には良い勉強ね。真理亜さんも愛梨さんもこの学校で沢山得ると良いわ。貴方達を歓迎します」
……いきなりの話で私のメモリー内容が圧迫され故障しそうだ。
遠回しに脅しも含まれた話だったよね?
確かにお義父さんから貰うお小遣いが普通のお小遣いの範疇を遥かに超えていて、普通の家庭と違うかのなとは薄々気づいてはいた。だから、お義父さんが凄い人って思っていたけどお母さんの実家がそんなに凄いとは知らなかった。やたら格式があって面倒な実家なんだなってだけ思っていた。
だけど私はただの一般的な引きこもりのオタクだ。
……うん。記憶にそっと閉まっておこう。
私は校長先生と理事長先生に頭を下げ退室し、伊達さんにも頭を下げ、別れようとした時、
「私は貴方にもう負けない!次は私が勝つ!覚悟しなさい!」
そう宣言され、伊達さんは走って逃げていった。
……廊下は走っちゃいけないよ。