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ヴァルキリー Guns of Mercenaries 第7話

「ゲートを開けろ」


辺りは闇に包まれ凍てつくように寒い砂漠地帯の中、ベルトマガジン式ライトマシンガンを肩から提げた兵士がそうインカムに向かって話すと後ろのフェンスで作られた簡易的なゲートが開き、3両のジープがゲートを通過する


ゲート内にはコンテナとガンケースが積まれ、防弾アーマーとTEスーツとは別種類の強化外骨格を纏ったTDCの兵士達に数体のバトルエクソが厳重に警備しており、軍の前哨基地のような光景が広がっていた


「うう……腕が疲れる」


「一番力がある奴がよく言うな」


キノとシェリルは最後尾を走るジープの車体の下に虫のように張り付き、時折起こる強い揺れに備えて力一杯握っている両腕は堪え難い痺れを感じ始めていた


ジープが止まり、ドアが開くとデジタル迷彩のズボンに軍用ブーツを履いた脚が幾つか現れそれらが数メートル離れたのを確認した2人は車体の下から脱出しコンテナの陰に身を隠す


キノは陰から顔を覗かせるとアイウェアの望遠機能を使いバンから出た兵士達に囲まれながらすまし顔で歩くスーツ姿の男を見つける


白髪混じりの短髪で30代後半ほどと思われる顔つきにアンダーリムの黒い眼鏡をかけ高い身の丈にしては体格は細く、見るからに肉体労働向きでは無い雰囲気だ


「エクスシア、ターゲットのスキャンを」


『スキャン完了……うん、アダム・デイビスで間違いないよ』


アダム達が研究所と思われる白い建物へ消えていくのを確認すると、シェリルを連れて研究所入口付近の警備に当たっている2人の警備兵の近くに積まれたガンケースの山に身を隠す


砂利ひとつ無い砂だらけの地面に腰を落とし、アイウェアで警備兵達を捉えるとHUD上で彼らの身体に赤いオーラの様なマークが付けられた


「入口前に敵兵が2人、始末できるか?」


『了解V1、排除します』


マリアの応答から1秒も経たずに警備兵の頭部から赤い霧が吹き出し糸が切れた操り人形のように崩れ落ちるが、如月とギャレスがそれぞれ死体を背中から支え建物の影に転がす


「プロフェット、これより施設に進入する」


『了解だ、V1』


2人がギャレス達と合流した後にサプレッサー、狙撃用スコープを装着したブルパップ式マークスンライフルを提げたマリアも合流するとキノを先頭に5人は研究所に進入する


壁や床、スライド式ドアなど目に入るもの全てが真っ白な廊下を慎重にクリアリングしながら5人は進み、アダムがいるか一つの部屋につき一枚は張られている強化ガラス越しに部屋の中を確認していく


バトルエクソのパーツと思われる配線が丸見えになっている腕や脚の修理、投射映像で映し出された端末のキーボードを叩き画面とにらめっこをする研究員達はヴァルキリーの進入に気づく様子は無い


「(いないなぁ……ん?)」


最後尾に着き、ストックとグリップが一体となっているポンプアクション式ショットガンを構え進んでいたシェリルは、停止状態にあるバトルエクソにオプションパーツであろうチェーンガンや腕部装着式マシンガンなどが所狭しと並べられた保管庫らしき部屋に犬のような生き物を見つける


一体のバトルエクソの足元に伏せ、体には肌触りの良さそうな毛の代わりに黒く冷たく硬いアーマーのような外皮を纏っている


「(うわぁ……可愛く無い……)」


苦虫を噛み潰したような苦い顔をするとその場から逃げるようにキノ達を追いかけた


地下に通じる階段を足音を立てぬよう降ると、奥からヒップホップ系の曲らしき鼻歌が聞こえ始め5人はその鼻歌を頼りに真っ白な廊下を進む


「音痴みたいね」


「如月、無駄口は厳禁です」


先程に見た他の研究室とは比べものにならない程の広さの部屋を見つけ開いたままのドアの近くに隠れる


中は数十台のコンソールにバトルエクソパーツ、武器作成用3Dプリンターが稼働しておりスーツ姿のアダムがタブレット型の携帯端末を耳に当てながら空いた左手で調整を行っている


会話の内容はあまり上品なものではないようだ


「ああ、昨日は楽しかったよ。そう寂しがらないで。明日にまた君に会いに行くからさ」


「その予定はキャンセルしておけ」


アダムはギャレスの声に反応し背後を向こうとした途端、後頭部を掴まれ顔面を目の前のデスクに叩きつけられた。彼は必死に抵抗するがギャレスの強靭な腕で押さえつけられ首を動かすこともままならない


「だ、誰だ!?どこから入った!」


「失礼、彼とお楽しみの時間だから切るわね?」


如月はアダムの携帯端末を奪うと通話相手にそう伝え通話終了の表示を指でタップし床へ投げ捨てる


「俺達は傭兵部隊ヴァルキリー、CIAに雇われてあんたを連れ戻すように依頼された」


ギャレスはアダムの両手を手錠で拘束し彼をキノの目の前へ乱暴に立たせると、アダムはまるで恐怖に怯えていたかのような芝居を打つ


「ああ!ありがとう!奴らに兵器開発を強要されていたんだ!助かったぞ!」


「強要されていたにしては頻繁に歓楽街へ出入りしていたようですが?それも護衛も連れて」


「あとアンタがTDCからお金を貰ってるのも全部CIAは知ってるっての!」


「安心しろ。それも今日までだ」


呆れた様子で2人がそう言い捨てた時、後ろから男の声が聞こえ5人は声の主へ目をやると数十人の警備兵を連れた緑の迷彩服姿の警備部隊リーダーと思われる兵士がいた


「……おい」


「ごめん、気づかなかった…」


最後尾にいたシェリルを尾けてきたのだろうと予想したキノは冷ややかな目線をシェリルにやると、彼女は気まずそうにそう答え目線をそらした


「私を連れて行こうとしているんだ!はやく始末してくれ!」


「もちろん。目の前にいる守銭奴研究員も含めてな?」


警備兵達を見ると水を得た魚のようにアダムは助けを求めるが敵リーダーからの思いがけない言葉に焦り始め額には冷や汗をかき始めていた


「な、何故だ!私は君達の為に……!」


「働いてくれたさ。もうお前の自信作のデータはバックアップ済みでな?あとは量産するだけ……お前はもう無価値だ。目先の利益しか考えない馬鹿は利用しやすかったよ」


「だってさ。私達に連れられるのと、この場であいつらに殺されるのどちらがいい?」


絶望に表情が歪み顔が真っ青になるアダムにシェリルは笑いをこらえながら質問を投げかけた


「連れ出してくれ!死ぬよりかはマシだ!」


「……やるか」


アダムが半狂乱気味に叫ぶとギャレスは彼の足をけり飛ばし、デスクの下に伏せさせた。そしてフラッシュバンをアンダースローでリーダーの後ろに控えた警備兵達の足元へ転がし、キノ達はそれを合図に近場の遮蔽物に身を隠した


白い閃光に視界を白く塗りつぶされ、破裂音に聴覚を奪われた警備兵たちは耳を押さえながら膝をつく


「ギャレス!その馬鹿は任せる!」


キノは正面入り口の敵へセレクターを3点バーストに切り替えたアサルトライフルの銃口を向けトリガーを引き近場の敵の胸部に3つの風穴を作り真っ白な廊下にできた小さな血だまりにひれ伏させた


マリアと如月は東側入口、シェリルとギャレスは西側入り口の敵へ射撃を行うが警備兵達もキノ達を蜂の巣にしようと一斉射撃を行う


研究室は瞬く間に戦場へ変貌し双方の銃撃は純白の壁に銃痕を作り、床は破壊されたコンソールの破片に排出された薬莢がみるみる散らばり警備兵の死体も何体か出来上がっていた


「ハウンドとバトルエクソを出せ!」


フラッシュバンの影響を受けながらも即座に床かな伏せ難を逃れていた敵リーダーは拡張ストックやレザーサイトでカスタムされたサブマシンガンのリロードをしながら叫ぶ


警備兵達の死体が生きている数より多くなった頃に室内に響く銃声に混じり獣の咆哮のような音が微かに聞こえ始めると何十発の弾丸を受け止めていた小窓サイズの強化ガラスを三体の黒い物体が突き破り、破片が散らばった床に重々しい音を立て着地した


「あれって!?」


それはシェリルが保管室でみた犬型バトルエクソであり外見の違いは背部にチェーンガンを装着している点である


ハウンド達は3方向に散会し、そのうちの一体は銀色の鋭い牙を剥き出しにしキノの左腕に噛み付くと彼を押し倒す。Vエクソのフレームごと彼の腕を喰い千切らんばかりに首を激しく降りその度に赤い飛沫が飛び散る


「キノッ!」


マリアはキノを援護しようと試みるが、ハウンドの勢いに乗じた警備兵達は合流してきたバトルエクソの後方につきながら制圧射撃で迂闊に遮蔽物から身体を出せない状態にあり他のメンバーも同じ状況であった


「大丈夫だ!全員持ち場を守れ!」


そう叫んだキノはハウンドごと左腕を床に叩きつけ、サイドアームであるポリマーフレームで構成された自動拳銃の銃口を頭部に押し当てトリガーを引きガラクタ犬を黙らせた


アサルトライフルを拾うと痛々しい傷をつけられた左腕の痛みに耐えながら、小さなパイナップルのような形をしたフラググレネードのピンを抜き、それをワンテンポ遅れで投げる


入口付近にいた警備兵達に逃げる時間はなく、爆発に巻き込まれ辺りに飛び散った破片は彼らの身体に突き刺さった


「この馬鹿犬!」


シェリルはチェーンガンの掃射を行うハウンドをグラップルで引き寄せ、右ストレートを腹部にお見舞いする


慣性が乗った彼女の重い一撃はハウンドの腹部を派手にへこませ、後方に控えたバトルエクソを巻き込みながら壁に叩きつけた


「躾がなってないわね?」


ハウンドのチェーンガンによる鉛玉の嵐の中を床を這うように走り、ツイストナイフと呼ばれる刃がねじれた形をしているナイフをバトルエクソのカメラアイへ投げ牽制する


ナイフがカメラアイに突き刺さり視界不良となったバトルエクソの懐へ居合い斬りの構えで入り込み、アメノハバキリを横薙ぎに振り後方の警備兵ごと切り捨てる


ハウンドが如月の喉笛に噛みつこうと飛びかかるが、赤いカメラアイが弾丸に貫かれ他の哀れなガラクタ犬の仲間入りを果たした


マリアのマークスマンライフルのバレルからは微かに煙を上げ、それを見た如月は彼女に軽く微笑むと再びデスクに身を隠す


「(数が多すぎる…!)」


身を隠したマリアは赤黒いシミが広がっていく右肩を押さえ苦悶な表情を浮かべながら周りに目をやるとキノだけでなく、シェリルと如月もいつの間にか脚や腕を負傷していており状況は最悪以外の言い表し方が思いつかなかった


さらに地上にいた警備兵達も合流してきたのか勢いは収まらずキノ達の弾薬は底をつき始め、次第に追い込まれていく


止む気配のない制圧射撃の勢いに乗り距離を詰める敵達。キノはもう物言わぬ死体を拾い上げ肉壁にしようと立ち上がった瞬間、銃声が増えたと同時に警備兵達がバタバタと床に倒れ始めた


キノは死体を捨てて身を隠すと、マリア達に目をやるが誰も撃つどころか遮蔽物から出てすらいなかった


状況に困惑している内に銃声が止み、目の前に現れた深緑の戦闘服に強化外骨格を纏った兵士達が現れた。肩には


「俺達は傭兵部隊ヴァルキリーた。あんたらは?」


「シリウス加盟国、米国陸軍レンジャー部隊。ヴァルキリーを救出する任務を言い渡されている。外でガブリエルが待っている」


そう答えた兵士はキノに肩を貸し、部下へマリア達にも手を貸すよう指示した


TDC兵の無残な死体だらけの廊下を経て研究所を出ると、外は幾つもの輸送ヘリに捕らえたTDC兵を連行する80は下らないであろう数のレンジャー達がいる


その中に1人防弾ベストのみ装着したガブリエルがキノ達に走り寄る


「五体満足のようですね。お疲れ様です」


「俺たちを斥候扱いした訳だな……」


「ええ、おかげでレンジャー達は無傷な上にターゲットの確保もできた。万々歳です」


キノは軽く溜息を付くとクリスに迎えを寄越すよう連絡すると、満身創痍のマリア達を連れてこの場をあとにした


「お前……ギャレスだな…?」


ギャレスもキノ達について行こうと歩き出した時、声がした方向に目をやると他のTDC兵と跪かされている傭兵と思われる男がいた


彼の戦闘服の右肩には古代ローマ時代の兜を模したエンブレムがあしらわれていた


「……相変わらず馬鹿みたいな仕事をしてるらしいな。お前らは」


「人を粉々にするしか能の無い奴が偉そうな口を……恩知らずの裏切り野郎が」


ギャレスは自身の足元に男から血が混じった赤いツバを吐かれるが、彼は取るに足らないと言わんばかりに踵を返しキノ達を追いかけていった


「(裏切り野郎……か。自分がロクで無しのクソ野郎なのは知っている」

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