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ヴァルキリー Guns of Mercenaries 第6話

『準備はいい?』


「ああ、いつでもいいぞ」


太陽が最も高く昇る昼頃。TEスーツを纏い、いつもの戦闘服姿のキノはアサルトライフルのコッキングレバーを引くとリザの通信に自信ありげに応えた

彼の背中には軍用バックパックよりも小さい五角形のブースターが備え付けられていて、その両側には小型のノズルが確認できる


元は小さな空港の滑走路だった開けた場所には木材で作られた10メートルほどの高さの壁や高台で囲まれた簡易的な試験場がキノの目の前に立ち塞がるように設置されていおり、道中には人型の射撃訓練用ターゲットも幾つか設置されていた


リザは試験場から約50メートル離れた場所でUSBメモリーと同じぐらいの大きさと形をしたデバイスを掌の上に置き、キノのアイウェアからの視覚情報を投射映像で映し出し彼女の背後にいるマリアとシェリルへ共有している


『それじゃ3秒前ね…3…2…1…スタート!』


キノは合図とほぼ同時に地面を蹴り走り出す


TEスーツの運動補助機能により、アサルトライフルやグレネード、予備マガジンなどの装備を携行しながらも風を切る感触を頬で感じながら驚異的なスピードで駆ける


『そこでジャンプ!』


設置された高台が数メートル先まで近づいたのを確認し、キノは右脚で強く地面を踏み抜く

ブースターのノズルからアフターバーナーを点火した際に見られる青い炎が噴出しされ、彼の高い身体能力から生み出されるジャンプ力とブースターの推進力が合わさり高台を軽く飛び越せるほどに飛び上がる


キノは少し戸惑いながらも高台に着地し、アサルトライフルのストックを肩に当て手慣れた様子でターゲットへ狙いを定めてトリガーを引く

3発の銃声がリズミカルに響き、実験場中央に位置するターゲットの胸部に風穴か3つ作られた


「よし」


そう呟くと構えを解き再び走り、左の壁に向かって先ほどと同じようにジャンプすると壁に左手を置きブースターを再び起動させた

キノはまるで重力に縛られていないかのように壁を踏みしめて駆けながら壁とは反対側に設置されたターゲットへ鉛玉を撃ち込んでいく


「うわ、ニンジャみたいだね」


「シェリル…重い……」


シェリルはリザに背後から抱きつき、子供がぬいぐるみを抱くように彼女の頭に顎を乗せながら興味津々な様子で投射映像を見ている


「(あの時帰投する前にブースターを回収してほしいと言ったのはこの為だったのですね)」


投射映像に集中しながらマリアは3日前の武装コンボイ襲撃依頼での帰投前の出来事を振り返る


捕縛したTDCの兵士と彼らが運んでいた積み荷をセンチネルの回収部隊に引き渡した後、キノ達は始末した兵士達から武器や弾薬を回収していた。要はスカベンジングである


ヴァルキリーには出資してくれるスポンサーなどは無く、お世辞にも資金に余裕があるとは言えない


依頼が成功しクライアントから報酬が支払われても弾薬は勿論、移動に使った輸送機の燃料や維持費、武器やTEスーツが破損すればそれらの修理費、誰かが負傷すれば治療費で消えてしまい手元に残る金額は僅かである


シビアな問題だが戦う意志や能力以前に武器や装備を整える資金が無ければ傭兵部隊として話にならない

ヴァルキリーを結成したときから、このように敵兵士から装備を調達し節約できる部分は節約しているのだ

今となっては皆手慣れた様子でスカベンジングを黙々と行っている


TDCのテクニカル(武装トラック)の荷台に回収した装備と弾薬を詰め込んだバックパックを放り込み回収地点へ向かおうとした時、リザから破壊したバトルエクソからブースターを回収して欲しいと通信が来たのだ

キノはその意図を聞くと彼女は「秘密」の一点張りで少し不安だったが、TEスーツを作り出した彼女なら恐らく有用な使い方をするだろうと判断しブースターを何基か回収する事にした


「こいつで最後!」


キノは壁から飛び降り、サイドアームであるポリマーフレームの自動拳銃をレッグホルスターから抜き最後のターゲットの頭部を撃ち抜く


『お疲れ様。新しく生まれ変わったTEスーツはどう?』


「ああ、少し戸惑ったが慣れれば問題ない」


自動拳銃をホルスターに納め、額の汗を手の甲で拭うとキノはリザ達の元へ悠々と歩きながらTEスーツを身体から外し左肩に担ぐ


「我ながら良い出来だよ。出力の調整が大変だったんだから」


えっへんと誇らしげな表情でまだまだ発展途上の胸を張る


「ですが、徹夜続きだったのは感心しませんよ?」


リザは先ほどの表情と打って変わり気まずそうに視線を横に逸らす


彼女は幼いがバイオメカニクスやロボット工学に長けており三度の飯より機械いじりが好きな根っからの開発者なのだ


TEスーツ用に調整したブースターも彼女が2日間不眠不休で作り上げた物である


キノ達からしてはありがたいが、リザの健康面が気がかりであり育ち盛りの14歳の少女なら尚更だ


「そそ、寝ないと大きくなれないんだぞ?」


リザはシェリルの言葉になにか疑問を持ったのか彼女を見上げながら豊満さの欠片もない胸に後頭部を押しつけると、質問を投げかけた


「シェリルは夜更かししたから胸小さいの?」


「え……ほ、ほら!あたしは傭兵じゃん?戦うのに胸があったら邪魔だし」


リザは一度シェリルを視界から外すと、豊満と呼ぶには充分過ぎるマリアの胸を凝視する


「じゃあなんでマリアはあんなに大っきいの?同じ傭兵なのに……」


「えっと……あのたわわはスナイパーライフルの反動を軽減」


「しません。いいですかリザ?睡眠というのは」


いい加減な事を言うシェリルを一言で黙らせ、成長期の女の子にとって睡眠はどれだけ大切かを説いているとクリスが現れ、苦笑いを浮かべながら黙って話の成り行きを見守っていたキノの肩をポンと叩く


「ん?クリスか…どうした?」


「お前さんにお客だ。談話室で待たせてある」


キノは分かったと頷くとこの場をクリスに任せ、そそくさと依頼人の元へと向かった




談話室のドアを開けると全身黒いスーツを身に纏い、アッシュブラウンの短髪を持つ女性がソファに腰掛けて来客用のティーカップに注がれた紅茶を優雅に味わっていた


キノに気づくとティーカップをテーブルに置き、座ったまま身体を彼に向かせ、前髪で隠れていない淡褐色の右眼で彼を見る


「貴方がキノ・ウッドロウですね?私はガブリエル、CIAの者です」


「ガブリエル…大天使か」


そう呟くとガブリエルと名乗った女性の向かい側のソファに腰掛けた


「もちろん本名ではありません。気に入ってはいますが」


「そうか。それで要件は?」


ガブリエルは愛想笑いから真剣な表情に変えると要件を話す


「ヴァスクでのTDC輸送部隊襲撃任務を受け持っていたなら話は早いでしょう。彼らの積み荷から米国製の武器やバトルエクソが見つかったのはご存知ですね」


ガブリエルの言葉にキノは知っていると頷く


「これにより我々はTDCに兵器提供をしていたのではないかとヴァスクから疑いをかけられています。勿論そんな事実はありませんし、アメリカ国内でも無差別テロを働く野蛮人達に武器を与える意味が分かりません」


「それで、依頼とは?」


お前達がシロかクロには興味はないといった様子でガブリエルに問うと彼女は紅茶を飲み、舌を湿らすと再び口を開いた


「米国製の兵器を製造し、TDCへ提供している人物を捕らえて欲しいのです」


ガブリエルは左胸ポケットからタブレットを取り出し画面に指をなぞらせると、キノの腕部デバイスの電子音が鳴りターゲットの顔写真とプロフィールが表示される


名前はアダム・デイビス

国防高等研究計画庁(DARPA)にいた研究員で数年前のTDCによる米軍施設襲撃の際に誘拐され消息不明となっていた男らしい


「捕らえる?救出じゃなくてか?」


「あの男は進んで奴らに兵器提供をしているのは間違いありません。 奴らの潜伏先にドローンを張り付かせましたが強要されている様子は一切ありませんし、それどころか多額の報酬を受け取り歓楽街へ頻繁に出入りしている姿も目撃されています」


ガブリエルは心底呆れた様子で説明するとキノは納得したらしく何度も静かに頷く


「彼をヴァスクへ引き渡しこちらの潔白を証明したいのです。テロ組織に兵器提供をしていたという噂が広まれば国際世論を敵に回しかねません。無理を言っているのは承知ですが、それ相応の報酬はお支払いします」


キノはヴァルキリーを必要としているなら無下にはできないなと依頼を受ける事を約束すると彼女と握手を交わした


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