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ヴァルキリー Guns of Mercenaries 第5話

交戦予定ポイントに到達してから3時間経過し、陽は傾き始め辺りは夕焼けに照らされる


マリアは軍用キャップの位置を直し、スナイパーライフルのスコープを覗く


辺りは静寂に包まれており、聞こえるのは時折起こるそよ風と自身がグリップを握りなおす音しか聞こえない



『こちらV2、ターゲットを確認できず』


キノ達がいる位置から400メートルほど離れた廃ビルの屋上にて待機しているマリアから通信連絡が入る


「はーい。もう……いつ来るのさぁ……」


「想定したルート通りならそろそろなんだがな」


キノはサングラス型アイウェアの望遠機能を使い、辺りを見渡している後ろで、シェリルは待ちくたびれた様子で砂埃だらけの床に座り込みチョコバーを齧っている


2人はすっかり寂れた車両生産工場の屋上にてターゲットの接近するのを待っていた


周りは半壊した工場やコンクリートの建物があり、通りにはすっかりボディは錆びつきタイヤが腐りきった沢山の車、中身が開けられていないガソリン入りのタンクやドラム缶が放置されている


元々ここら一帯は小さな工業地帯だったが、数年前の地震による大火災が発生し、それ以来は労働者達は去り今のような廃墟群と化しているが、見ての通り人目がない上にヴァスクの国境は数キロ先にある


TDCの武装コンボイは間違いなくこのルートを通るはずだ


「ん?そういやギャレスは?」


「ここだ」


不意に男性の声が聞こえたシェリルはひゃっと間の抜けた声を出し、左を向くと声の主がそこに立っていた


顔立ちは20代半ば相応で目つきが鋭く、頭に巻かれた黒いバンダナと首筋から覗くサソリのタトゥーに灰色の瞳が印象的だ


腕や大腿は戦闘服の上からでもキノよりも筋肉質であることが分かり、市街地用の迷彩が施された戦闘服からキノ達と同じTEスーツを纏っている


背中にはベルトマガジン式ライトマシンガンに旧ロシア製対戦車クルップ式無反動砲(RPG)に腰周りにはフラググレネードやテルミットが収められたグレネードポーチを装着している


「ギャレスかぁ……びっくりしたぁ……」


「ボサッと菓子食ってたらそりゃあびっくりするだろうよ」


ギャレスは少し呆れた様子を見せた後、キノの隣にしゃがみ込み状況を報告する


「リーダー、交戦予定ポイントにC4爆薬の設置を完了させた。カモフラージュはしてある」


「お疲れ、聞こえたかみんな?V5が準備を完了させた」


『V2、了解しました』


『V4……了解……』


キノはマリアと如月の位置をHUDに表示させると如月の位置どころかバイタル情報も確認出来ないことに気付き、もう慣れた様子で如月に無線通信を送る


「如月…いい加減HUDを同期させろ。たまには真面目にやれって」


『あら、私はいつでも真面目よ?面白そうな事には...ね』


如月はそう答えると通信が途絶え、HUDに通信途絶と表示された


キノは盛大なため息をつき、通信機能を閉じようとしたとき、コール音が鳴り通知欄にエクスシアと表示された


『こちらリザ・アバーテ...じゃないやこちらエクスシア、偵察用ドローンがTDCの武装コンボイを確認したよ。V1達がいる交戦予定ポイント到達まで5分』


うっかり自身の名前を言ってしまったエクスシアの映像が現地にいるヴァルキリーメンバーのHUDに映し出される


その姿は10代前半ほどの少女で顔つきは幼く、肩にかかるほどの長さであろうブラウンの髪を後ろに縛っており琥珀色の瞳は彼女が操作している端末の光を反射させ微かな輝きを放っている


椅子に腰かけているその姿は胸部から上しか見えないが、肩幅は狭く年相応の少女よりも華奢な体つきだと分かる


「ありがとうエクスシア、お前の作ったドローンがあると心強いよ」


『もう、褒めたってなにも出ないよ?V1』


照れくさそうに頬を赤く染め、インカムのマイク部分をいじっているリザを余所に、キノは偵察用ドローンからの映像を映し出すと大型のコンテナを積んだ3台のトラックにその周りにはアサルトライフルやライトマシンガン、RPGで武装した60人ほどの歩兵に軽トラックの荷台にガトリングを設置した簡易的なテクニカル(武装車両)が5両、更には旧中国製主力戦車が先頭に一両、最後尾に一両と合計2両が山道を前進していた


「戦車まで……随分と豪勢だな」


「問題ない、全て破壊してやる」


内心は気分の高揚を隠しきれない様子でギャレスは無反動砲に予め装填してあった弾頭を軽く撫でる


「……爆弾魔」


「なんだ?」


ギャレスに聞き返されたシェリルは気まずそうに目をそらし、ショットガンのフォアグリップを前後させる


彼は爆薬や工学の知識に長けていて仕事では私情や一時の感情で流されることは滅多にないが敵を殲滅、爆破することには少なからず喜びを感じているようだった


「プロフェットは?まさかエクスシアに任せて機内で一服してるんじゃないよな?」


『おいおい……まあ、一服してるのは事実だがお前さん達の視覚情報を確認しとるよ』


『ちょっとプロフェット、機内でタバコ吸わないでよもう!匂いが付いちゃうじゃない!』


通信越しに年頃の娘のようにリザがクリスに文句を言っているのが聞こえ、キノとギャレスは苦笑いを浮かべる


『はぁ……最近の若者は年寄りに優しくないねぇ』


『携帯空気清浄機くらい買いなよ……ああ、ごめんごめん。一応今回の作戦内容を確認するね』


リザはコホンと咳払いをすると作戦内容を説明を始めた


『今回のクライアントはヴァスク陸軍の対テロ特殊部隊センチネル。2日前にコンテナを積んだ大型トラックを含むTDCの武装コンボイがサラトフで目撃。積み荷の中身は不明だけど、恐らく兵器か何かだろうね。武装コンボイは国境を向かってゆっくりと西進、私達の任務はその武装コンボイの国境越えを阻止し積み荷の破壊、可能ならば確保する事』


リザが淡々と説明している間に作戦現場にいるメンバーはTEスーツの出力調整や装備確認、銃器のセーフティー解除など済ませいつでも戦えるよう準備していた


『ここで積み荷の輸送を止めないと、またTDCは新たなテロ行為を行い、結果的に民間人が犠牲なっちまう。俺とエクスシアは作戦エリアから離れた場所からバックアップを行う』


『こちらV2、ターゲットを確認しました』


マリアからの通信を受けたメンバーは姿勢を低くし遮蔽物に身を隠すと遠方からキャタピラの動作音とトラックのエンジン音が聞こえ始め、だんだんそれが大きくなっていく


微かに振動を感じたと同時に偵察用ドローンで確認した武装コンボイが現れ、キノ達のいる廃工場近くの通りを進む


「ギャレス、タイミングは任せる」


「了解、スリーカウントで行くぞ...3...2...1...」


ギャレスはC4の起爆スイッチを取りだし、最後尾の戦車が予め地面に設置したC4の真上と重なった瞬間を狙いスイッチを押した


辺りに轟音が鳴り響き、真面に爆発に巻き込まれた戦車は履帯が吹き飛び無力化された


『今だ!』


キノはそう叫ぶと立ち上がり、コンテナを積んだトラックのタイヤをアサルトライフルで狙い撃つと車体が沈み走行不能なる


これで敵はトラックだけを逃がすような真似はできなくなり、この状況を打開するにはキノ達を殲滅する以外無くなった


襲撃を受けた歩兵達は四方に散開し、先頭の戦車は砲塔を150°ほど旋回させキノ達がいる屋上に向けようとするが、それを見逃さなかったギャレスはRPGを構え敵戦車に向け発射した


放たれた弾頭は敵戦車の弱点である後部装甲に直撃すると爆発を起こし、それに巻き込まれ誘爆したドラム缶は敵戦車を炎上させ付近の随伴兵を火だるまにし悲痛な悲鳴をあげさせた


「ナイス!」


そう賞賛の言葉を発したシェリルは屋上から飛び降りて通りへ着地する瞬間にTEスーツに衝撃を緩和させると、目の前にいたRPGを構える兵士にショットガンをお見舞いした


放たれた散弾は敵兵の腹部を抉り取り絶命させた


テクニカルの機銃兵達はシェリルをハチの巣にしようとそれぞれ狙いを定め砲身を回転させるが弾を発射する前に彼らの頭が次々に吹き飛ばされた


『機銃手を排除』


そう報告を行うとマリアはスナイパーライフルのコッキンレバーを引き薬莢を排出させ、次の標的に狙いを定めた


一定の間隔で遠方から発砲音が鳴り、その度に敵兵士が頭や胸部から血をぶち撒け地面に倒れこむ


『敵残存兵力あと10名!』


エクスシアから敵の残存戦力報告を受け、キノ達は一気にケリを付けようと更に攻撃の手を強めた


通りは屋上からの制圧射撃に特定されていない位置からの狙撃、さらには戦車とテクニカルを失い退路さえ塞がれた敵兵士達は戦意喪失したのかその場で銃を捨て両手を挙げた


「撃つな!降伏する!」


軍用ゴーグルと他の兵士が身に付けていないボディーアーマーを身に纏った武装コンボイのリーダーと思われる男は両手を挙げたまま通りの真ん中まで歩き、キノ達にもう交戦の意志は無い事を証明する


「どうする?」


「……お前も来い」


キノはギャレス連れ屋上から飛び降りると、敵リーダーを床に伏せさせ他の兵士達はギャレスとシェリルに任せた


「こちらV1、敵部隊を無力化。これより積み荷を確保する」


『V2、了解』


キノはギャレスとシェリルに敵兵士達の見張りを頼み、自身は警戒を解かずにコンテナが積まれた輸送トラックへと近づく


敵リーダーはギャレス達の目を盗み、右腕の袖に隠していた前腕部装着式デバイスを左手で操作するとピピッと電子音が鳴りその音はシェリルの耳に届いた


「ちょっと!」


シェリルは敵リーダーの後頭部をショットガンのストックで殴打し気絶させ、右腕を掴みあげると彼のデバイス画面には『バトルエクソ起動完了 バトルモードに移行』という表示が目に入った


『V1!コンテナから離れて!』


シェリルの警告とほぼ同時に一番奥三両目のトラックに積まれていたコンテナ内部から爆発が起こり爆風により巻き起こされた砂煙はキノを飲み込んだ


ギャレスはライトマシンガンのバイポットを展開し放置された廃車のボンネットに乗せ援護射撃の準備に入り、シェリルは隙を突かれ反撃される危険性を考慮し無力化した敵兵士達の腕にプラロックのような拘束具を装着した


『V1!一度下がってV5達と合流して!』


エクスシアから通信を受けたキノはアサルトライフルを前方に構え警戒しながらギャレス達がいる位置へゆっくり下がり、砂煙から脱出したのを確認すると素早くギャレスとは反対側の廃車へ身を隠す


砂煙はまだ晴れる気配がなく張り詰める空気が漂う中にガシャンという機械音が聞こえ始め、足音のように一定の間隔で機械音が鳴り響く


砂煙が晴れ始めると幾つもの人型のロボットが現れ円柱状のヘッドパーツからは赤く光るカメラアイがあり、胴体はロボット特有のメタリックな装甲に肩部から背中の台形型のブースターにエネルギー供給様と思われるチューブが繋がっていて、機械的な腕にはアサルトライフルを持ち背中にRPGを背負った個体も何体か確認できる



『バトルエクソ!?』


「チッ!」


ギャレスは先頭を歩くバトルエクソへライトマシンガンを数発放つが、ブースターを吹かし素早く横へ移動し弾丸を回避した


「敵兵士ノスキャン完了…交戦開始」


バトルエクソの一体が片言でそう話すとバトルエクソ達はキノ達に向け、横一列に隊列を組み一斉射撃を行う

キノ達は即座に身を隠し、反撃のチャンスを伺うが激しい制圧射撃に身動きが取れず次第にロボット達に距離を詰められる


『V2!狙撃で援護してよぉ!』


『はい!』


切羽詰まった様子のシェリルから通信を受けたマリアは機銃兵達を処理したようにヘッドパーツを狙い撃ち3体ほど無力化した


ボルトアクションを行い薬莢を排出させ次の標的に狙いを定めるとスコープにはRPGをこちらに構えたバトルエクソが数体確認できた


「ッ!!」


マリアは即座にその場から離れようと背を向け数メートル走った瞬間、爆風を背中で受け砕け散ったコンクリートと共に床へ叩きつけられる


「くぅ!」


外傷は殆ど無いがマリアの耳は爆発音につんざかれ彼女は思わず悲痛な声を上げる


直線の軌道を描いたRPGの弾頭はマリアがいた地点に直撃したのを目撃したキノはマリアに通信を送る


『大丈夫かV2!?何か言え!』


『くっ……大丈夫です!狙撃ポイントを変更した後、援護を再開します!』


キノ達の状況は変わらず、バトルエクソはジリジリと距離を縮めていく


「もう!調子に乗るなー!」


シェリルは遮蔽物にしていたテクニカルに装甲が施されているのを確認すると、ドアを引っぺがし盾のように構えてバトルエクソの群れの前に立ち塞がる


バトルエクソ達はシェリルに狙いを定めると集中放火を浴びせるが、引き下がるどころかバトルエクソの群れへ接近していく


「こんな役ばっかりだよ!」


「いつもの事でしょう?馬鹿力さん」


そう誰かが呟く声が聞こえたシェリルは顔を上げると、体勢を低くし居合の構えを取る如月の姿があった


「いきましょう?アメノハバキリ」


微かに電撃を帯びた鞘から何かに押し出されたように飛び出したブレードを即座に掴み、その勢いを利用し居合斬りを放つ


先頭の数体のバトルエクソはまるでナマスのように腰部から切り裂かれ、喧しい音を立てながら崩れ落ちた


「誰が馬鹿力だってー!?」


如月の言葉に激怒したシェリルは大量の銃弾を浴びズタズタになったドアをハンマー投げの要領で敵に向かって投げつけると、レッグホルスターから彼女の華奢な腕には似つかわしくない銀色に輝く大型拳銃を取り出し片腕で構えトリガーを引いた


放たれた大口径弾はバトルエクソのヘッドパーツを貫き粉砕した


「チャンスだ!一気に押し切るぞ!」


キノはアサルトライフルのセレクターをフルオートに変更し、姿勢を低くしながら走り寄る


バトルエクソ達との距離を詰めるとスライディングし被弾面積を小さくすると薙ぎ払うようにマガジン全弾を撃ち尽くすと、コンバットナイフを取り出し目の前のバトルエクソのカメラアイにねじ込む様に突き刺した


「ふふ…スクラップ完了……」


数十体のバトルエクソは例外無くスクラップと化し、如月はもう動かないガラクタに腰掛けブレードの刃こぼれのチェックをしていた


「皆さん…無事ですか?」


廃工場の屋上からグラップルを使い、通りに降りてきたマリアは自身の額から血を流しているにも関わらずまず他のメンバーの心配をしていた


「マリア!お前…自分の心配をしろよ…」


キノはマリアに走り寄ると、彼女は悲しそうな表情をする彼に優しい笑みを見せる


「ただの擦り傷ですよ。それより皆が…キノが無事で良かった」


「ああ…マリアも無事で良かったよ」


「もしもーし、お邪魔ですかー?」


2人が見つめ合う様子を見ていたシェリルは冷やかな視線を送る


「あー……悪い」


「おい!全員こっちに来てくれ」


一足早くコンテナの中身を確認していたギャレスの元へメンバー達は向かった


1両目のコンテナの中には大量に積み上げられたガンケースにTEスーツとは別タイプの強化外骨格、数台の武器作成用3Dプリンターが格納されていた


「エクスシア、見えるか?」


『うん……装備類はともかく3Dプリンターまで……どこからこんな物を』


「それに…装備類は全てアメリカ製の物です」


『こちらV3、こっちには偵察用ドローンと無人対人兵器がこんなに……。こっちもアメリカ製だよ』


シェリルの視覚情報を共有すると、そこには米軍が正式採用している鉄製の紙ヒコーキのようなドローンにホイール型ドローンに鋭いスパイクが無数に取り付けられた特攻型対人兵器が大量に格納されている


「……プロフェット、どう思うよ」


『ああ、ヴァスクとなった旧国製ならともかくシリウス加盟国の兵器を運んでたとなると…こりゃ裏がありそうだな』


『あとキノ達が戦ったバトルエクソ……こっちで調べてみたんだけど、それらもアメリカ陸軍が正式採用している物だったよ』


『アメリカ政府がTDCに兵器提供をした…ふふっ、面白くなってきたんじゃない?』


如月は言っている事が事実なら新たな戦争の引き金になりかねない


オマケにTDCに兵器提供をするメリットも存在する


ヴァスクから国々を解放する手助けをし、それが成就した見返りに旧ロシアで産出していた資源の権利をアメリカが得る


約一名を除いてヴァルキリーメンバーの頭には様々な憶測が飛び交っていた


『とにかく、今は考えても仕方がない。作戦は完了だ、今から迎えに行くからそこで待機していろ』


今回も誰1人欠けることなく任務は完了したが、メンバー達の心中は決して穏やかなものではなかった

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