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ヴァルキリー Guns of Mercenaries 第4話

「マリア・ヴァレスディル大尉、貴官を不名誉除隊と処す」


左胸に多くの勲章を付けた左官用の軍服を纏った男性は呆れきった様子で訓練生時代に叩き込まれた気をつけの姿勢を保っている私にそう言い放ちました


「くだらん事で今までの功績を棒に振るとはな...嘆かわしい限りだ」


「私はそうは思いません。グレン大尉の裏切りは貴方が指揮系統不備の隠蔽のために作られた嘘だと分かったのですから」


「隠蔽?何の話かな?」


シラを切る彼に苛立ちを覚えながら私は彼にとって決して都合の良くない真実を話しました


「セルゲイ・ギールス少将、貴方はグレン・ラミレス大尉に数か月に渡るTDCへの潜入捜査を命じました。しかし我々センチネルにはその事を一切報告せず、TDC幹部達の会合襲撃任務で彼は味方に...私に頭を撃ち抜かれた」


スナイパーライフルのスコープ越しに映された彼の死……今でも目に焼き付いて離れません


セルゲイは露骨に舌打ちをし、怪訝な表情をしましたが私は構わずに話を続けました


「そして貴方は我々部下への通達を怠った責任を追及されるのを恐れ、裏切りの証拠をでっち上げた……違いますか?」


彼はため息をつくとセルゲイはいい加減耳障りだといった様子で机から立ち上がり私のそばに歩み寄る


「いいかねマリア元大尉、君は本来なら軍刑務所送りだった。これ以上この事に深入りしてもお互い損しかしないとは思わんかね?」


「…………」


セルゲイは私の顔を覗き込み、脅しにしか聞こえない言葉を言い放ちましたが、私はその脅しに沈黙で返しました


この方に……自身の保身しか頭にない男に何を言っても無駄だと悟ったからです


「……まあいい。もうここは君の居場所では無い、立ち去りたまえ」


セルゲイに部屋から出て行くように促され、私は踵を返しドアノブに手を掛けようとしたとき彼は再び口を開きました


「それに過ぎた事のせいで君が刑務所に送られるのはグレン君も望まないはずだ」


「それは私に……ましてや貴方にも分かりません。彼はもう死んでしまったのですから」


知ったような事を言うセルゲイへ怒りを必死で押さえ付け執務室から立ち去りました



すっかり見慣れた隊員専用宿舎の自室から必要な物をバッグに詰めエントランスホールへ繋がる階段を降りる途中に背後から聞き慣れた声が聞こえ、足を止めました


「ヴァレスディル大尉」


振り向くとエメラルドのような眼に銀髪のサイドテールが印象的な女性が階段の踊り場に立っていました


「もう階級は不要です、ウィリアム」


「貴女は私を許せないでしょうね……貴女を売ったことを……」


ウィリアムはどこか悲しげ眼で私を見ながらそう呟く

私はグレンの裏切りは何か裏があると考え、信頼できる部下であったウィリアムの協力を得て調査を行っていました


セルゲイの目を盗み彼の執務室のコンソールに進入しグレンの裏切りはでっち上げだと証明する証拠を手に入れようとしたとき、ウィリアムが警備兵を数人連れて現れ私を拘束した


「貴女はヴァスクの軍人として当然の事をしただけ……貴女を恨む権利は私にはありません」


ウィリアムを安心させる為にそう言いましたが、彼女の表情は少しも和いだ様子はありませんでした


「ヴァレスディル、これからどうするつもりですか?」


「私は傭兵として……私を必要としてくれる人達の為に戦うつもりです。貴女は貴女の信念の為に戦いなさい」


そう言い残すと私は踵を返し宿舎を後にしました



それから私はセンチネルから除隊された後、フリーランスの傭兵として世界中を転々としました


センチネルでの功績はヴァスク国内のみならず世界中に広まっていたらしく依頼の数は勿論多くのPMCからのスカウトもありましたがどこも私が居るべき場所だとは感じられず断り続けていました


そんなある日、新たな仲間を探していたクリスから依頼の手伝いを頼まれ南米で彼と初めて会ったのです


「クリスさん、どこに向かうつもりなのですか?」


私はクリスの後ろを歩きながらそう尋ねました


「着けば分かるさ」


先ほど彼と合流した街から歩いて30分は経っています


今は街外れのスラム街を歩いており、辺りにはお世辞にもきれいとは言えない様ないくつもの粗末なプレハブ小屋が密集しており、道は空き缶やタバコの吸殻や使用済みの注射器などのゴミが道に散乱しており、柄の悪い方々からの決して好意的ではない視線をいくつも感じました


クリスさんは『もう一人一緒に仕事をしてる奴がいてね。顔合わせしておいた方がいいだろう』とおっしゃっていましたが、まさかこのスラム街に拠点があるのでしょうか


「勘違いしてるかもしれんが、このスラム街に拠点があるわけじゃあない。もしここならあいつが何度殴り合いの喧嘩をするかねぇ」


前を歩きながらクリスは私に目をやり苦笑いを浮かべました


「では何故...」


「あいつ曰く小遣い稼ぎらしい...噂をすれば」


クリスさんが話していた人を見つけたのか、彼の視線を追うとその先には灰色のスウィングショートの髪にサメの目のような黒い瞳を持つ男性おり、紺色のジャケットを羽織りジーンズは泥だらけで唇からは血が滲んでいました


「よう、キノ。その雰囲気だと負けたか?珍しいな」


キノと呼ばれた男性はクリスの言葉が気に障ったらしく舌打ちをする


「拳闘場仕切ってる奴が俺に負けるように言ってきやがったんだよ。その分金は稼げたがな……そいつは?」


私の存在に気付き、キノはクリスに尋ねました


「ああ、俺がスカウトした新戦力だよ。なんでも元センチネルの狙撃兵だったな?」


クリスさんに挨拶をするよう目で伝えられた私はキノの目の前まで歩き、自己紹介をしました


「元センチネル所属、マリア・ヴァレスディルと申します。宜しくお願いします」


私はキノに挨拶をすると彼はすぐに目線を私からクリスさんに移しました


「何のマネだよクリス?」


「キノ、やはり俺達二人だけじゃ無理がある。以前のように頭数を揃えないとできる仕事は限られてくる」


「俺がこう言う理由はアンタが一番知ってるはずだ。忘れたなんて言わせねえぞ」


やはり....彼も.……


「キノさん、貴方には過去に大切なお仲間がいたのですよね?」


「……話したのか?」


キノは「なぜ知っている」と言いたげな顔で私を見ると直ぐにクリスに問いました


「聞かれたからな」


クリスはまったく悪びれずにそう返すとキノは目線を私に戻しました


「私もセンチネルにいた頃、唯一無二の戦友がいました。私は彼を失い、貴方のように誰とも関わらないと以前はそう心に決めていました」


「それで?俺の気持ちが分かる....とでも?何も知らないくせに」


キノは私に歩み寄り怒りがこもった声で威圧し、その拍子に彼の首から提げた彼の名前と(カレン・シェイド)という名前が刻まれた2つのドッグタグが私の眼に入りました


「貴方の気持ちは分かっているつもりです、大切な人を失う悲しさを」


私は彼の眼をしっかりと見てそう答えた


嘘では無い、最愛の人を亡くす……それは自身が死ぬ方が楽にさえ思える程の悲劇であることを私は分かっていました


「キノ、そうカッカするな。彼女と共に何度か仕事をしてから判断しても遅くないだろ?」


そう宥められたキノはクリスと私を交互に見ると、諦めた様子で溜息を吐きました


「……分かった。だがヴァレスディル、アンタが俺達にとって不必要だと判断したら付き合いはこれっきりだからな」


「構いません」


「……ウッドロウ」


「え?」


「俺はキノ・ウッドロウ。キノでいい」



「マリアー?」


シェリルはマリアの目の前で指をパチンと鳴らすとマリアはハッとした表情でシェリルを見る


「えっと……私」


「珍しいね、マリアがうたた寝するなんてさ」


そう言うとマリアは自分は武器のメンテナンスをしていた事を思い出す


ブリーフィングルームで各々のメンバーは武器を分解し、パーツの交換を行いマガジンに弾丸を込めている


「別にいいんじゃない?うたた寝できるときはしても。昨日はあんな脱出劇があったんだから」


如月は愛用のブレードの手入れをしながら言い、椅子の背にもたれクリップを使い弾込めをしていたキノも口を開く


「ああ。誰かさんがTEスーツぶっ壊したアレな」


「だーかーらー!!それは謝るけどおかげで逃げ切れたじゃん!」


シェリルは身体を机から乗り出し反論すると、箱詰めされたショットガンの弾を盛大に床にぶちまけ、カランコロンと辺りに転がった


「わっとっと...あと修理費はあたしの報酬から差っ引いたんでしょ?」


床に散らばったショットシェルを一つずつ拾いながらシェリルは口を尖らせる


「当たり前です。危機を救ったのは感謝していますが、ちょっとは力加減を知りなさい。私たちは公費で贅沢できる訳ではないのですよ?」


「うー....」


マリアの注意にシェリルは不満げな顔をすると椅子に座りショットガンの弾込めの作業に戻る


「そういえばキノ?助けた科学者の方はどうなったのですか?」


「ああ、クリスから聞いたが命に別状はないそうだ。あとは奴ら(センチネル)がしっかりやるだろ」


特に興味は無いといった様子で答える


「てか、最近TDCって活動が活発になって無い?ニュースや新聞でもほぼ毎日に報道されてるしさ」


シェリルが言うとおり前回の拉致といいTDCの活動は活発になっているのは明らかである。軍施設の襲撃やハッキングに公共施設を狙った無差別テロ、前回のような研究者や技術者の拉致などだ


「ええ、そして今もね」


如月は右腕に装備しているデバイスを操作すると室内灯が消えブリーフィング用のモニターにニュース番組が映された


『本日未明、ヴァスク国際空港にて爆発事件が起こりました。滑走路内で政府関係者が利用する専用機が離陸直後に爆発したと目撃者は証言しています』


「うへぇ……また?」


シェリルは苦虫を噛み潰したような顔する


『この爆発事故により死亡した政府高官らは反政府組織TDCへの武力制裁を強く薦めていた事が分かり、今回の爆発事故にTDCの関与している可能性が……』


途中に画面外から一枚の原稿用紙を渡されたニュースキャスターは顔色を変えそれを読み上げる


『速報です!反政府組織TDCのリーダーが今回の爆発事故に関与していたとの声明がありました!』


そうニュースキャスターが報道すると画面が切り替わり血のように赤い瞳を持つ黒い狼が鋭い牙で鎖を食いちぎっている姿を模したエンブレムが画面全体に映る


「TDCのエンブレム……」


キノはメンテナンス途中のアサルトライフルを机に置き、画面に集中する


『世界の人々よ……貴様らは我々を反政府組織やテロ集団などど言う。それは大きな間違いだ』


ボイスチェンジャーを使用しているのか音声にはノイズが混じり性別や年齢を推測するのが難しい


『ヴァスク……この国家は元々は多数の国だった。奴らはそれを下らぬイデオロギーやエゴの為に国々を併合した……かつての国民達の誇りさえ踏みにじってな。我々TDCは奴らの鎖を解き国々を解放する為に銃を取り戦っているのだ』


如月は馬鹿らしいと言わんばかりに鼻で笑い、目線をブレードに向けたまま手入れを続ける


『我々の悲願が達成されるまでは鎖で縛りつけた者達、そして彼らに追従したイェスマン共に安息は訪れることはない。よく聞け...このディアスこそお前たちの救世主である』


モニターが消えると再び室内灯が点灯する


「お前たちの救世主である....だってさ。馬鹿じゃないの」


「ええ。無差別テロを行う救世主がいるものですか」


シェリルとマリアは心底呆れた様子だった


「ヴァスク……か」


ディアスと名乗る男が言っていた通り、ヴァスクはいくつかの国家が併合され作られた国だ

2034年、今から50年前人類はロボット工学やAI技術の兵器転用が盛んとなりそれに必要な物資や資源の需要が爆発的に上がり始めた


それらの資源を産出、独占していたのはロシアであり莫大な利益を上げ経済的にも大きく成長していた


しかし、それを良しとしないアメリカ合衆国をはじめとする国々は「人類の技術発展に協力するべきだ」と非難しロシアへの様々な物資の輸出制限を行った


それに激怒したロシア大統領は資源や兵器の共有を約束に周辺国との相互防衛条約を締結、後に同盟国を巻き込む国家併合へと発展し、それをヴァスクを名付けた


それに危機感を覚えたアメリカ合衆国は対抗処置として民主主義国家間相互防衛条約シリウスを締結させた。それから50年にかけて両国の睨み合いが今も続いている


「(まあ……俺たちには関わり無いけどな)」


そう心の中で呟き、旧ロシア製のアサルトライフルのメンテナンスを終えたと同時にキノの手のひらサイズのタブレットからコール音が鳴る


「んー?誰から?」


「クリスからだ。なんだ?」


着信者名を確認し、応答した後にハンズフリーにするとテーブルの上に置いた


『楽しい仕事のお知らせだ。クライアントは前回と同じセンチネル』


「TDC絡みか?」


『ああ。クライアントからの話によると、TDC所属と思われるコンテナを積んだ3両のトラックを含む武装コンボイがヴァスクのサラトフで目撃されたそうだ』


「コンテナ?何を運んでいるのですか?」


『さあな。だが、ロクでも無い代物なのは確かだ。コンテナの中身を破壊、可能なら確保しろだそうだ』


「それで……誰が出るのかしら?」


『全員だ。それに丁度あの2人が仕事を終えたらしいから、現地にて合流してくれ。以上だ』


通信が切れるとキノはタブレットをジーンズのポケットにしまい椅子から立ち上がる


「よし、準備だ」


「はいなー」


「了解……」


マリアは3人が武器庫へと向かったのを確認すると、机の引き出しから所々塗装が剥げたペンダントを取り出し、チャームを開く


すると中には訓練正用の軍服を身にまとった自身と青い瞳の男性が肩を並べ笑顔でいる様子を写した写真が収められていた


「行ってきますね……ちゃんと無事に帰ってきますから」


そう言い残し、ペンダントを机の上に置くとマリアはブリーフィングルームを後にした

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