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番外編〜魔界地獄のかつて、そのとき。


 リテイラは、騎士の家系に生まれた。遠い先祖にエルフがいたりする、少しばかり同族の人間より長生きする家系だ。

 だからなのか、彼女の家系は代々腕っぷしに自信がある男女を輩出していた。きっと祖先のエルフは、エルフはエルフでも、エルフの一種族で武闘派のアマゾネスエルフと呼ばれるエルフだったに違いない。

 そんな一族の出身のリテイラは、己より強き者を求めて放浪した。

 彼女の一族には、ある風変わりな掟がある。

 それは、成人したあとは一人立ちし、己より強き者を求め、主と仰ぎ仕えよ――そんな掟に従い、リテイラが出会ったのは勇者。

 勇者に闘いを挑み、敗北し、面倒臭がる勇者をストーキングに近い説得を試み、どうにか麾下にくだり、仲間に入れてもらい、以来ずっとリテイラは勇者のために尽力してきた。

 ……例え、勇者がロリコンな変態で惚れた相手に粘着しても。


「――そこまでだ」


 勇者が変態だろうが何だろうが、リテイラには関係なかった。


「…………」


 リテイラは、自分より強い猛者に従う。勇者は自分より強かった。だから、勇者が変態だろうが何だろうが、勇者の意向に従うのみ。だから危険極まりない前衛を任されても、斬り込み役を任されても、従ってきた。

 そして今。先ほど停戦が知らされたのに、彼女はまだ槍を手放していない。否、手放せない。


「無駄な抵抗はやめろ。我らはもはや敵同士ではない。同じ主君を抱く同輩、仲間だ」


 魔王軍の将軍が熱く語った。


「それが何だと?」


 リテイラは短槍の柄に力を込めた。

 リテイラとて知っている。

 変態ロリコン勇者は、はやい段階からロリコン属性の魔王を恋に落とすとのたまってきた。恋に落ちたと、周囲を憚らずに叫んできた。世界の中心だろうが、海底だろうが、精霊樹の前だろうが、世界樹の前だろうが、ところ構わず叫んできた。

 愛に満ちた結婚を目標に、誓いのキスを合言葉に、魔王を見るたびに口説いた。魔王が顔を青くしても、赤くしても、可愛い可愛いと口説いた。逃げたら追った。

 魔王の家臣や腹心に出会えば、戦いの意思がないことと、魔王を嫁にしたいと訴えてきた。ねちねち訴えた。納得させるまで訴えた。

 勇者の熱くもしつこい気持ちに、次第に家臣や腹心はおれた。おれたというより、正確には泣いてやめてお願いだからと乞うたらしかった。

 いつしか、敵対していた彼らは、勇者と魔王の結婚を応援するという、ひとつの目的、いやゴールをめざし始めた。

 だからこそ、今や敵などではないのも理解はしている。

 ついに、外堀を埋められた魔王は、勇者の熱くねちっこいプロポーズをうけたのだ。

 しかし、中には「ならば我らの屍を越えてゆけ」と、勇者の前に立ちはだかった物もいた。可愛い可愛いマスコットの魔王を渡したくなかったのだ。

 この戦いも、そんな熱い相手との戦いであった。勇者VS小姑の熱くも馬鹿馬鹿しい闘いである。

 リテイラはもちろん勇者側だ。先ほどまで、小姑の団体を一人で相手していた。

 そこへ、「おまえらはいつまでアホやってんだ」と、魔王軍の将軍が、自慢の大剣を振り回し、小姑をぎったんばったんやったのだ。


「だから、はやくおろせ」


 魔王軍の将軍は、血塗れの姿で、血塗れの大剣をリテイラに向ける。勇者とリテイラたちに「屍を越えてゆけ」と宣言した輩をほふった大剣で。


「決して、おろさない。あの方が是というまでこのまま向け続ける」


 魔王軍の将軍と、先ほどから互いに切っ先を向けている。リテイラの短槍は魔王軍の将軍の額に、魔王軍の将軍の大剣の切っ先はリテイラの喉に向けられている。

 リテイラの瞳に、魔王軍の将軍の姿が映る。色素の薄い髪と瞳の優男にしか見えないのに、自身の身の丈より大きい剣を難なくふるうその姿。 ――顔が、好みだった。意外と夢見がちなリテイラが、夢想してやまない「白馬の王子様」像にぴったりだった。

 リテイラは、勇者に是といわれるまで、動かないつもりではあった。

 けれども、動きたくない理由はもうひとつ。

 ――好みのこのひとを見ていたい。

 ……クールビューティーと名も高い女騎士リテイラは、たいへん、私欲に満ちていた。


「なら」


 魔王軍の将軍が、ふっと笑った。その顔に、リテイラの胸は射抜かれた――ずきゅんと。


「結婚してください」


 しかし、次の瞬間にリテイラはずきゅんを撤回した。一気に現実に帰還した。

 顔もいい。ときめきもした。射抜かれもした。けれども、けれども。


「――空気を、」


 リテイラの渾身の一撃が、魔王軍の将軍の懐に入る。もちろん、拳だ。


「読めぇ!」


 魔王軍の将軍が、空に舞った。




 そのあと、戦う必要が無くなったリテイラは転職する。変態ロリコン勇者から、もう好きにしていいよと太鼓判をもらったから、好きにすることにした。


「右に見えますは――」


 だから、リテイラは幼い頃から憧れていたバスガイドさんになった。

 ――この少し後に、まさか再会するとは思わずに。


「ツアーを乱されましたね?」


 リテイラは、再会するその日まで槍のガイドさんと名を知らしめ、


「見つけた」


 意図的な再会に身を投じるはめになる。

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