これまでの人生を振り返ってみた
どこを見渡しても本しかない空間に、ただ一人の白髪赤眼の青年が居た。元々は整っていたであろうその顔は、何日も徹夜をして髪はぼさぼさ、目元はくっきりと隈を残して、近寄りがたい空気を作っている。
そんな姿になるまで、青年が何をしていたかと言えば、魔法の研究である。幼少の頃から魔法の才能があった青年は、その才能を見込まれ周囲に期待され、青年もその周囲の期待に応えるように常に励んでいた。
やがて、独学では限界が来た青年は、有名な魔法使いに弟子入りするが、数年もすればその魔法使いを越えてしまい、他の魔法使いを探すも、前回の魔法使いと同じ結果を辿ることになる。
現在の魔法使いに青年以上の魔法使いが居なことが分かると、青年は過去の魔法使いの魔法を知るために、滅んだとされている遺跡や秘境に挑み失った魔法を復活させて自身の力にしていった。
その過程の中で、青年は不死の魔物の血を体に浴び、青年自身も不老不死になってしまったが、青年はその事を嘆くどころか、これでまだ魔法の習得が続けられると。
それから、幾十幾百の年を重ね、青年は世界中を歩き回り、現存する魔法の全ての習得に成功する。
過去も現在の魔法も習得してしまった青年は、やることがなくなってしまって、これからどうすればいいか、深く考えてしまう。
幸か不幸か、不老不死になってしまった青年には、時間だけはたっぷりあると、のんびりと考えていたら、数十年の月日が流れていた。
それだけ長い間考えた結果は、覚える魔法がないのなら自分で作ろう、と言う至極当たり前の結論だった。
こうして新しい魔法の研究に時間を費やすために、あらゆる者からの接触を断つために大抵の人間が到達することが出来ない秘境の奥地に引きこもって数百年の月日がたった。
いつものように、いつもの場所で、いつも通りに魔法の研究を続けていた青年がふとあることを考える。
幼少の頃から、魔法の習得に人生を費やしてきた自分は遊びというものを知らない。もちろん遊びそのものは知っていたが、当時の青年には限られた時間しかない一生を遊んで費やすわけにはいかないと、魔法にばかり打ち込んでしまっていた。
それを今更ながら、青年は後悔していた。自分はなんてつまらない人生を歩んでしまったのかと。
魔法に人生を費やしたことを後悔はしないが、モノには限度というものがある。その事に気付いた青年は、もう一度人生をやり直したくなった。
「――そうと決まったら、魔法の研究なんてもうやめだ、やめだ! これから数百年は遊びまくってやる!」
徹夜明けで死んだ目をした青年の目には活力が宿り、椅子から立ち上がると、なんとも情けない宣言を大声で告げる。
これは、至高の賢者とまで呼ばれるほどまで魔法を極め、魔法使いの頂点に至った青年――クラウン=ハンスヴルストがそこまでに至った栄光の物語ではなく、その後の堕落の一途を辿る物語である。