部活設立のエトセトラ
今回は部活設立のときの話をしようと思います。それは、忘れもしない4月末の放課後のことでした。俺は、中学時代から仲が良かった佐々木透と軟式野球部を作ることにしたのです。
「部活作るのって大変なんだよな〜」
俺たちは、部活を作りたかったのですが、その作り方を大雑把にしか知りませんでした。それでも、生徒会に承認が必要とか、校長に許可をもらわなくてはいけないというのはどことなく知っていました。
悩んだ結果、何からはじめて良いのかわからないので、担任に聞きに行くことにしたのです。
それが、正解であり間違いだったのですが・・・
その頃にはもう、担任ひとみんこと熊谷ひとみの変人ぶりを知っていました。しかしながら、少なくともアドバイスぐらいはもらえると思って行ったのです。
「先生。部活について知りたいんですが・・・」
「部活について知りたいの?ちょっと待ってて」
ひとみんはそう言うと、引き出しの中から辞書を取り出して、なにやら探し始めたのです。
「なにしてるんですか?」
透がすかさず聞きます。すると先生は、
「間違ったことは教えられないから、辞書で調べてから部活についての説明をしてあげる」
ひとみん。俺たちは別に部活自体の意味は知っていますよ。
「え〜と、部活の意味じゃなくて、部活の作り方を知りたいんですが・・・」
透は冷静です。
「そうなんだ」
ひとみんは勘違いに気付き、辞書をしまいました。そして一言
「砂糖とかみりんで作れないかな?」
とつぶやきました。絶対作れないと思います。ってか、どうやって作る気ですか?
「先生は知らないようなので、生徒会に行って聞いてきますね」
俺がそう言って話を打ち切ろうとしたときに、ひとみんが
「私も行く」
えっ!?付いて来るんですか?断れなかったので、ひとみんを連れて生徒会に行くことになりました。
彼女はとっても張り切っているようだった。きっと、生徒に頼られたことがあまりないんですね。
「たのも〜〜」
ひとみんは、扉が破壊されんばかりに勢いよく開けました。
俺たちは道場破りに来たわけではありませんよ。
「な、なんですか?」
メガネの位置を直しながら、生徒会長こと・・・会長は言葉を発した。正直言って、会長の名前は知らない。だって、みんな会長って呼んでるもの。
会長は、この学校始まって以来の女性会長で、少し長い髪をポニテールヘアーにしている。目は鋭く、恐い印象を受けるが、実は天然だという噂がある。ホントかどうかが知らないけど・・・
透は、ひとみんが用件を話す前に話した。この透の判断は正しいといえよう。ひとみんに説明させたら、話が伝わらないだろうから。
「そんな急に部活を作りたい言われても困ります。まずは、愛好会を作って、人数や実績が伴った後に部になるので」
俺たちは、愛好会からはじめても良いと思った。というより、それが当たり前だと知らされたので、そうしようと思った。ひとみんは以外は
「賄賂を渡してもダメですか?」
ひとみんは何を言ってるの?
「物によります」
会長も何を言ってるの?
「砂糖ならここにあるんですが」
そういうと、ひとみんはスーツのポケットの中から砂糖の袋を取り出して、机の上に乗せた。
「1個では、了承しかねます」
「何個なら良いんですか?」
なんか、話が進んでるし・・・
「5個ならば手を打っても良いですよ」
「それならばなんとかなります」
ひとみんは、同じポケットから砂糖を次々と取り出した。ひとみんのポケットは○次元ポケットですか?
会長は満足したようで、書類を準備してくれた。
「この書類を校長先生が承諾してくだされば、部が設立となります。私ができるのはここまでです。きっと、そう簡単には承諾してくれないと思いますが・・・」
「校長先生にも賄賂を渡すので大丈夫です」
ひとみんは意気揚々と生徒会室を出て行きました。透もついて出て行きました。もはや子分のようです。仕様がないので、俺は会長に頭を下げて部屋を出ました。
ところで、どうして会長は砂糖が欲しかったのでしょう?
「これで、お菓子がいっぱい作れる〜」
理由は、ごく簡単だったようです。
俺は、生徒会室の前から校長室に向かいました。
会長は、人前ではしっかりしてる人のようですが、それ以外だとかわいい人のようです。そのギャップで、天然と言われているのでしょう。
ひとみんは、校長室の前でいろいろ調べまわっています。
「学校で一番偉い人だから、トラップの1つや2つぐらい・・・」
絶対にないと思います。
「よし、突入〜」
ひとみんを先頭に俺たちは入りました。
「なんのようかね?」
かなり威厳のある言葉使いです。さすが校長です。
ここでも透が説明をします。生徒会に賄賂を渡したことは内密にして。
「そうか。しかしな〜そうすぐ部を作るといっても無理なものは無理だ」
断固拒否です。これは無理そうです。
「賄賂を渡しても無理ですか?」
やっぱり賄賂を渡す気なのですね。
「そういうものは受け取れない」
さすがに校長です。しっかりしています。これでは、ひとみんもどうすることも・・・
ジャバー。ジャバー。
ひとみんは、ポケットから何を出しているの?
「みりんならあるんですけど・・・」
ひとみんはポケットに両手を突っ込んで液体を取り出し、撒いています。
「ちょっ、ちょっと何をしてるのですか君は?」
「足りませんか?」
ひとみんはなおも撒きます。
これでは、賄賂を渡してるのではなく、脅迫です。
「わ、わかったから」
校長はついに折れてしまい、承認してくれました。みりんの処理は、透と俺でやりました。
今回唯一俺が働いた場面でした。もう一瞬、俺要らないんじゃないかと思いました。
そして、ついに部はできたのでした。もちろん、顧問はひとみんです。
次は部員の募集です。1週間の期間にもかかわらず、結構入部届けがきました。
ひとみんは、次々に入部届に了承の判子を押していきましたが、俺たち2人を合わせて9人になると、判子を置いてしまいました。
「先生どうしたんですか?」
透が聞くと
「9人以上になると、補欠ができてかわいそうだから・・・」
ひとみんは、他の入部届を破り捨てました。
俺たちは、なすすべなくそれを唖然としてみていました。
「先生・・・怪我とかしたらどうするんですか?」
「私が怪我するわけないでしょ!!」
「いや、先生じゃなくて、俺たちが」
その問いに、先生はさらりと
「私が出る」
と言って、張り切っていました。
その後わかったことですが、俺たちは高校生の大会ではなく、社会人の大会に出ることになっていたのでした。
「ポジションとかもありますし・・・」
透は正論を言いました。
「監督に文句があるんですか?」
ひとみんは、監督らしいです。今知りました。
透は、あきらめたようです。9人で頑張るようです。後姿が寂しいです。
俺たちがひとみんに助太刀を頼んだのは、正解だったのでしょうか?間違いだったのでしょうか?俺にはわかりかねます。
こうして軟式野球部は1週間にして始動したのでした。
結局ひとみんは、砂糖とみりんと○次元ポケットで部活を作ってしまいました。御見それしました。この世に絶対はないのだと感じました。でも、部活にチアリーダーの服装で来るのはどうなの?
ひとみん曰く
「応援があったほうが良いでしょ」
だそうです。
とりあえず、軟式野球部はひとみんに逆らえないのは確かです。だって、一所懸命応援してくれるんですから。
なんとか2部を書き終わりました。いつもながら、ひとみんが活躍しております。
これからの予定ですが、月1ぐらいで載せられればいいかな〜と思っておりますのでなにとぞよろしくお願いいたします。
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