表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍脈戦儀 ー巫女と刀とヤマタノオロチー  作者: でぐら
巫女と刀と草薙の剣
21/24

21話 三英傑



 静流は天守閣の上で、眼下に広がる海に飲み込まれた景色を見ながら、頭を巡らせていた。


 海。まさにそう形容するべき、水の範囲。

 五十メートル越えの城の高さから見れば、一目瞭然だ。


 琴までおおよそ百メートル。その数倍の距離まで水で満たされている。

 名古屋城の裏を見ても、まだ海。その先端は、龍脈の桃色の壁にまで到達していた。


 静流たちの立つ空間全てが海に支配されている。

 つまり直径五百メートル。

 東京ドームの二倍の大きさのバンテリンドームを軽く飲み込める広大な領域だ。


 その圧倒的な召喚の力量。

 静流は、漣の言っていた『正面からでは勝てない』という言の意味をまじまじと感じていた。


(だけど、打つ手はあるはず)


 思考が、入り乱れる。

 果敢に攻めるための策。相手の心理を揺さぶる策。守に回り防衛を見極める策。

 それらが自分の中で綯い交ぜになる。

 まるで、静流の中に、三人の特色の違う希代の英傑が意見するように。


 もちろん、それは幻聴だ。

 静流の中の思考は一つ。

 ただ、自分でも思いもよらない作戦が頭に浮かぶことも、また疑いのない事実。


(……ホトトギス。今はどうすべき?)


 海というのは厄介だ。移動ができない。

 水攻めは最高の戦略だ。やられた側にできることなどない。

 だが、耐えることはできる。

 今は、様子見。こちらのできることをまとめる時。


 静流は、一つ眼下にある犬山城の屋根の上を見る。

 大智が、漣に教えてもらいながら、右手を元に戻そうとしている。


 漣は、その合間にも矢を放ち、相手に牽制を入れていた。

 その矢の行く先を追い、静流は遠間の相手に視線を向ける。


 巫女姿の少女が呼び出した、鰐の鱗を持ち鮫の背びれを持つ巨大な化け物。

 鉄砲隊の三段撃ちに対応するように、その化け物はいつの間にか、四体いた。その尾がふるわれるたびに、圧倒的な水量が壁となり、こちらの攻撃を全て防いでいく。


 だが、それでいい。

 今、大切なのは、時間を稼ぐことだ。

 耳に着けたイヤホンマイクを通して、仲間に状況を確認する。


「大智君、右手は?」

『あと、ちょっとだ。もう少しで治せる』


「漣さんは、狙えていますか?」

『だめだねぇ。あっちの彼が防いでくる。百発百中の矢といっても、叩き落されるとどうにもならないね。……昔だったら、そういう妨害も無視して当てられたのかもしれないけど』


 戦局は膠着状態。

 だが、整理はできた。


「邪魔なのは――海と、刀の彼ですね」

『そうだね』


 ならば、三手だ。足りる。


「……大智君。貴方に掛かっているわ」

『おう、任せとけ!』


 三英傑。

 それは確かに有名だが、哀しいかな、人の範疇を超えることがない。


 鉄砲隊のように、架空の兵士を召喚して攻撃することはできる。

 だが、あんな海の化身を軽々と扱う相手に、何をすればよいのか。

 神話には人間にとって理不尽なものが、ごろごろと転がっているのだ。


『よっし、静流。右手治った! 俺は突撃すればいいんだなっ?』

「待ってください」


 大智の勇ましい声に、落ち着いて指示を出す。


「大智君は海に潜って大きく迂回し、彼らの背後を取ってください」

『おう! で、俺は琴って子を狙えばいいのかっ?』

「いいえ、攻撃のタイミングは私に合わせてください。大智君は刀の彼の足止めです」


 すっと目を細める。


「とどめは――漣さんに」

『そうかい。じゃあ、僕も本気で行かないとね』


 軽い応答に静流は小さく笑みを浮かべる。

 仲間、という形をとっているが、出会ってまだ二時間も経っていない。それでも、静流は二人を信頼に値する人物だと感じていた。心強く感じる。


 龍脈界に関わるようになって、初めての協力者。

 何より、本当に気持ちの良い人たちなのだ。


「敵は強大です。でも、私たちならできます」


 イヤホンマイクから、静かな沈黙の答えが返る。


「負けると思えば負ける。勝つと思えば勝つ。……私たちは、勝ちましょう!」

『おう!』

『そうだね。勝とうか!』

「では、大智君、行ってください!」


 そう指示を出し、眼下で大智が海に飛び込むのを見て、静流は目を閉じた。


 三英傑の力は統治者のもの。軍を率いるもの。武勇の逸話ではない。

 だから、この身体を動かす逸話は別の者。


 本田忠勝。

 徳川家の重臣。五十七回の合戦を無傷で生き抜いた男。


 もっとも、静流は運動が得意なわけではない。

 本田忠勝という英霊を憑依したとしても、おそらく、大智の足元にも及ばないだろう。

 しかし、そこに奥の手を加えれば。


 手に持った軍配を桃色の光の粒子に返していく。この軍配と共に、しばらくすれば鉄砲隊も消える。

 だが、それでいい。


 静流は、祈るように両手を胸の前に合わせた。


 愛知に眠る、最大の神話。


 強く、強く、己の内から龍命気を練り上げていく。


 胸の内に想像するその形状。

 その長さ二尺八寸。まっすぐに伸びた両刃の剣。剣身は菖蒲の葉のように優美な広がりを持ち中央にかけてわずかに厚みを増す。柄元には節くれがあり柄頭は大きく張り出している。


 それは伝説であり、実物を見たものは全て呪い死んだと言われている。

 ただ、その実体はどうでもいい。

 大切なのは、その依り代にまつわる神話の数々。


 最後の銃声が続く。

 そのさなかに、彼女の祈りは龍脈を通じて、一振りの剣の形を成していく。

 身体の内から、水色に輝く龍命気が漏れ出ていく。


 掴んだ。

 感覚として、その剣の存在を。


「……いでよっ!」


 裂帛の声と共に、静流の胸の中心からその剣が生まれる。

 輝く光の粒子に包まれて。


「――草薙の剣!」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ