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龍脈戦儀 ー巫女と刀とヤマタノオロチー  作者: でぐら
巫女と刀と草薙の剣
2/24

2話 淡路島を歩く


 ――龍穴。


 地の気が集まる場所。龍脈の交わる点。気の集積地。


 様々な意味合いがあるが、簡単に言えば、吉祥の地ということだ。スピリチュアルな話としては有名である。けれど、晴彦は真剣に考えたことはなかった。ただ、古くから信じられていることで、今の政治や都市計画にも、その思想は確かに根を残している。たとえば、皇居の位置。あれも、龍穴の上に建てられているという。


 龍脈は大地の気の道筋であり、大地の気は、人には混じらないとされてきた。人の気を人体に巡らせるのは、『経絡』と呼ばれる全身を巡る気の道であり、それはそれだけで完結している、というのが通説である。


 しかし、実際は人間の経絡が大きく開くことで、龍穴と同じように大地の気を人体に取り入れることができる。


 ただし、それは年齢によって大きく左右された。

 十歳以下の身体は、経絡がまだ成長途中のため龍脈と同調できず、大地の気が入ってこない。一方で二十歳を過ぎていくと、開いていた経絡がゆっくりと閉じはじめ、大きな出力を得ることが難しくなる。


 ――十五歳から二十五歳まで。


 人間が龍脈と接続し大地の気をもっとも強く宿せるのは、この十年間だけとされている。だからこそ、この年頃の身体は気に溢れている。古くから人の本能を左右し、子を産み、残す時期として刷り込まれてきたほどに。


 とはいえ、龍脈から取り出せる気の量には個人差がある。そして、ほとんどの者は大地の気が身体に少々混じる程度にしかならない。


 だが、その中で稀にとんでもない規模で引き出せる者がちらほらと存在した。


『龍宿者』――龍脈の気を宿すもの。


 身体の経絡を開き、そこに龍脈を混ぜることで、大地の気を体外にまで表出できる存在。


 晴彦は今年十七歳。

 その龍宿者として――県に選ばれたのだった。




 高速バスから淡路島に降り立ち、駅の庇の下に身を寄せながら、手をかざして空を仰ぐ。


 真夏の高い青。白く灼ける太陽。

 セミの声に混じって、海の音が微かに聞こえてくるような気がした。


 ――真っ昼間の夏真っ盛り。夏休み。


 龍宿として選ばれる者は、多くが学生だ。だからこそ、五年ごとのこの時期に、各県の代表を招集して序列を競う儀式が行われている。


 序列が高くなれば、向こう数年間、県に回る補助や予算の配分が増える。そう説明を受けていた。


(いや、だからって、晴彦君に一位を目指せとは言わないよ)

(大丈夫。最下位も覚悟しているから。何せ、前代未聞の準備期間の無さだからね)

(本当は何年も前から候補の子がいて、このために準備してたんだけど、急遽、おうちの事情で渡米することになってさ。――君が見つかって、本当に良かったよ)


 田中の声が、頭の中で蘇る。

 期待はしていないと、直接言われているため、必要以上に気負いはしていない。だがそれでも、晴彦はできる限りを尽くそうと思っていた。


 ――やると決めたのなら、全力で。


 それは父からの一番の教えであり、交わした約束であり、そして今では晴彦自身に根付いた確かな思いであった。


 スマホを取り出して位置情報を確かめる。

 少し離れた場所にポツンと立つ目印。その下に表示される徒歩十五分の文字。

 音声の案内が響くのを無視して、腕時計に目をやる。指定の時間は十四時。あと一時間はある。さっさと目的地に向かってしまおうとも思ったが、さすがに早過ぎるか。


(どうするかな)


 そう思案して、ふと考えが浮かんだ。


「そうだ。お土産屋」


 妹がなんかほざいていたのを思い出す。別に今すぐ買うわけではない。だが、帰りもたぶんこの辺りからになる。周囲を下見しておくのは悪くないだろう。


 あとは、コンビニかスーパーか。朝から三時間の移動で、持参したお茶は弁当と一緒に飲み切ってしまった。この夏の日差しを照り返すアスファルトを見ていると、さすがに飲み物は買っておこうという気になる。


 スマホの地図を開いて探す。コンビニはすぐ近くにある。スーパーも徒歩圏内だ。だが土産物屋は、どう検索すればいいんだろう。指で地図をちょいちょい動かして――晴彦は、ふと手を止めた。


(……なんだこれ?)


『ドラゴンクエスト記念碑』


 そんな文字列が目に飛び込んできた。


 父や母が好きでやっていた影響で、ゲームをあまりやらない晴彦もドラクエはよく知っていた。けれど、なんでこんなところに? ドラゴンクエストって、あのドラクエだよな?


 疑問と興味が湧いた。どうやら歩いて数分らしい。隣にスーパーもある。時間は余裕。しかも目的地方面だから、寄り道にもならない。

 悩む時間もなく、決めた。


(とりあえず、行ってみるか)


 リュックを背負いなおし、歩き出す。


 淡路島。

 少し歩けば、その匂いが自分の町とは違うことに気づいた。海が近いからか。キラキラと遠くで光を反射する海のきらめきが目に刺さり、ああ、ここって本当に島なんだな、と不思議な気分になった。


 とはいえ、どこに来たとしても日本は日本だ。

 舗装された道路。行きかう自動車、見慣れたスーパー。駐車場。コンクリートで作られた建物が並んでいる。平日の昼間だからか、人影はまばらだ。気温は三十度を超えているが、思ったよりは暑くない。潮風の影響か、日差しが柔らかいのか。


 目的地に向けて歩いていると、やがてゆっくりと緑が増えてきた。公園だ。遠目に見えてきた、木々に囲まれた緑の芝生に近づいていき、赤レンガの目立つ建物を脇目に、スマホを確認しながら足を踏み入れる。


(目的地は、すぐ近くだな)


 スマホをポケットにしまい、顔を上げたそのとき――


 晴彦は、彼女に出会った。





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