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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

銀色の魔女は言の葉を紡ぐ

作者: 代永 並木

 魔法を扱う者は『魔女』、『魔人』と呼ばれ魔法を使い魔物を倒し、魔法学の研究を行い、魔法を持たぬ人々と共存している。

 人々は畏敬の念を抱き魔女、魔人は力を与えた。


 これはとある魔女の始まりの前の短い記録。


「今日も平和ー」


 私はソファーに寝転がっていた。

 ふかふかの寝心地の良いソファー、貰い物で気に入っている。

 ウトウトと眠気を誘う。


 ……寝ようかな


 ボーと考える。

 私の威厳の無い姿を見た村人に、溜め息をつかれる事も良くある。


「ここの魔女様は怠惰過ぎる」

「早く変わって欲しい」


 村人達が外で会話している声が聞こえる。

 いつも通り、私の事を不満に思って出る陰口だ。

 それもその筈、私は所謂穀潰しだ。

 何故なら私の管轄であるこの平和な村では、私の成す事が殆ど無い。

 飢饉は起きず、大きな災害も起きず、人災も厄介な魔物被害も余り起きない。

 小さく平和な村だ。


 村人達が不満に思う事は、仕方が無い。

 私も同じ立場なら不満に思うだろう。

 かと言って上の命令無しに、勝手に村から離れるのは魔契約違反となる。

 私にはどうにも出来ない。文句を言うのなら上司に言って欲しい。


「失礼するわ」

「あっ、村人達の意見が届いたみたい」


 扉が開き中に女性が入ってきた。

 魔女のローブを身に付けた、赤髪の女性。

 シャーロット・レブァ様、私の上司に当たる人物だ。

 この村に来るなんて珍しい。

 体勢を直してソファーに座る。


「その通り、村人達の意見が多かったからこの村の管轄を別の魔女にするわ。不満はある? 銀色の魔女」

「いえ、ありません」


 働き者の魔女なら村人達も受け入れる。

 私よりも適任は多い。


「それと丁度良いから貴女、王都で警備隊に参加しない?」

「警備隊は基本魔人の管轄ですよね? そもそもエリート中のエリートしか成れない警備隊に私が成れるとは思いません」


 警備隊とは対魔女、魔人に特化した者達の組織。

 魔法のエリートの中でも選りすぐりの者

 そして、魔人が多い男性社会。

 実績を持たない上、魔女の私が入れるような場所じゃない。


「確かに貴女は実績を持たない。けれど、力はあるわ。だから()()()の守護を任せたの」


 私は、この村に配属された時の話を思い出す。

 確かにシャーロット様が私を指名していた。

 その上、その時に危険だと聞いていた。尤も拍子抜けだった訳だけど。


「私が来てから特に何も起きていませんよ」

「問題と言う物は、人の目に付く事で表面に出てくる物よ」

「……それで王都には戻りますが、出発はいつですか?」

「明日よ。必要なものはある?」

「このソファーは持って行っても?」


 今座ってるソファーを指差す。

 他の物は買い替えても良いが、これは気に入っているから持って行きたい。


「構わないけど、それ昔の製品じゃない。王都なら新しい物買えるわよ?」

「いえ、気に入っているので」

「なら手配するわ。それじゃ明日の昼にここに来るわ」

「わかりました。準備します」


 シャーロット様は、帰っていく。

 どうやら村の宿に泊まる予定のようだ。

 私は、必要最低限の荷物を纏めておく。


 翌日の朝、私は目を覚まし準備を終え昼を待つ。

 村人達は、家を訪ねても来ない。

 管轄の魔女が離れるというのに悲しい話。

 そのくらいには、私は嫌われていたようで。

 尤も私も私で今日、外出て挨拶回りをしないからお互い様。

 暫く家で寝転がっていると、村に張っている結界に反応があった。

 感知系の結界、魔物が来た事を知らせる役目がある。


「……面倒」


 私は、溜め息をつく。

 そして、ササッと準備を済ませ家の外に出る。

 村人達が私を見てザワつく。


「なんだ? 久しぶりに外に出たぞ」

「挨拶回りでもするんじゃない?」


 陰口も混ぜられた会話が行われている。

 久しぶりに外に出ただけで色々と言われるのは、不服だ。

 だけど、そんな事よりもやる事がある。

 私の仕事だ。


「私が出ようか?」


 耳元でシャーロット様の声が聞こえる。

 対象に声を飛ばす通信の魔法。

 少し眠たげな声をしている。


「必要ありません。いつも通りにやるだけです」


 私は、結界の反応があった森へ向かう。

 森の中に入ると、一気に何かが飛び立った。

 そして、頭上を複数の影が横切った。

 バッと空を見上げる。

 木々の隙間からでも、大きな生物の大群が空を飛行している事が分かる。


 ……あれはワイバーンか


 飛竜種に属する下位のドラゴン。

 ワイバーンの大群は、私の結界に攻撃を始めた。

 炎を吐く、爪を立てる、噛み付く、様々な方法で結界に畳み掛けている。

 結界の一部を集中的に攻撃している。

 私の結界は防御結界を兼ねているとは言え、この攻撃の豪雨ではそう長くは持たない。

 私は結界が破壊される前に、ワイバーンの動きを確認する。

 先程の同時に飛び立つ行為と言い、攻撃も統率された動きをしていると感じる。

 飛竜種ワイバーンは、複数で活動することが多いが、統率はほぼ取れていない。

 連携はしてくるが、雑な連携だけ――これは普通では無い。


「ワイバーン、統率と言う事は上位のドラゴンか。杖よ我が手に」


 地面を軽くつま先で叩く。

 足元から光を帯びた紫色の円が現れ広がり、文字と模様が内部に描き刻まれる。

 描き終えた瞬間、円の中心から槍の形状をした銀色の杖が現れた。

 私は杖の持ち手を握り締める。この杖が私の武器。

 私は、杖の先を前に出し深呼吸の後、丁寧に言葉を紡ぐ。


「獣共を拒みなさい。愛しき我が領域に踏み入る事を許さず、道を奪い歩みを壊しなさい。フォヌォロィナ――ゾォルォ」


『魔法の詠唱』

 詠唱を終え、魔法名を唱えて魔法の発動が完了した。

 先程とは別の淡く光る葵色の円が大きく広がり、文字と模様が次々と書き足されていく。

 一瞬で魔法陣が完成し、既存の結界を飲み込むように透明な壁が地面から現れ、積み重なりドーム状の壁を形成する。

 私は今、既存の結界を基盤として、新規の防御魔法を重ねた。


 ……結界はこれで良し


 新しい結界のお陰でワイバーンの攻撃で壊れる事は無くなり、結界内部は安全になった。

 つまり、村人達に被害が出る事は無い。

 結界の外に出る。

 後は殲滅だけ。


「我が手に槍を、我が身に鎧を。ヤクフスルレイ」


 自身に身体強化の魔法を掛ける。

 地を蹴り木々を足場に伝って飛び上がる。

 木の枝の隙間から抜け出した瞬間、素早く目を動かし近くのワイバーンの場所を確認し標的を見つけ出す。

 足先が木の枝に乗った刹那、高速で距離を詰め飛び上がり杖の先端で標的の首を刺し貫く。

 鱗が砕け肉を潰す不快な感触が手に届き、真っ赤な液体が花弁のように舞い散る。

 鮮血の匂いが周囲に香る。

 私はグッと杖に力を込めて硬い肉を抉り鱗を押し切り杖を回す。

 ワイバーンの胴と首がベキベキと木の枝をへし折り、落ち葉を散らして地面に叩き付けられる。

 下から突き上げるように鈍い音が響いたが、一瞥もせず無数の獣の空を見上げる。


「この数は、纏めて叩く」


 私は深呼吸を挟み、言の葉を紡ぎ始める。


 〜〜〜


 通信が終わった後、シャーロットは村の中の様子を見に外に出ていた。

 村の中は平和、今魔女が戦っていると言うのに、誰もその事に気づかず普段通りの生活をしている。


「平和ね」


 シャーロットは、ボソッと呟いた後に手元にある紙を見る。

 そこには銀色の魔女、アリーゼの名前と経歴、魔女としての評価が書かれていた。

 尤も経歴の大半は一般的な魔女の経歴その物であり、魔女の学校の成績も良くも悪くもない。

 特筆した才能を見せず、一般的な魔女という評価が下されている。

 しかし、アリーゼにはただ一つだけ一般的な魔女とは違う経歴があった。


『在学中に起きた魔物侵攻の際、アースドラゴンの討伐に成功した』


 それは、普通の魔女では成し得ない偉業。

 上澄みと言われる魔女や魔人ですら困難を極める『最上位種』のアースドラゴン討伐を成した。

 この記録を知る者は数少ない。確固たる証拠が無いと言われ闇に沈んだ記録。

 真実だと知る者は、数人しか居ない。


「シャーロット様、終わりました」


 アリーゼがいつの間にかシャーロットの後ろに立っていた。

 返り血も無ければ、傷1つ付いていない。

 疲れた様子も無く、事情を知らない人が傍から見たら散歩の帰りのようにすら見える。

 つい先程、ワイバーンの群れと上位ドラゴンを討伐した者とは思えない姿。


「早かったわね」

「ただの上位のドラゴンでしたから」

「ただの……ね」


 ……普通なら討伐に十数人は必要なのだけど


 熱燼の魔女と言われたシャーロットですら、楽々とは言えない相手。


「どうかしました?」

「いえ、少し早いけど、行きましょうか」

「分かりました」


 アリーゼは荷物を纏めて、シャーロットと一緒に王都へ向かう。

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