暴動を止めろ! 王、神の言葉を叫ぶ!
【これまでのあらすじ】
ドーナツ・トランペットの望みはただひとつ――王様になること!
暴動の首謀者として警察に追われるドーナツ。リブの助けでビッグパック101個を手に入れ、タイムリープしたドーナツは、暴動を止めるために走り出す!
ハンバーガー101個のタイムリープで、ドーナツはハチャメチャな人生を駆け上る!
俺はイグアナのベッドで目を覚ました。
飛び起きて時計を見る。8時50分。
「ヤバい。時間がない」
暴動が始まったのは朝の9時頃だったはずだ。俺は転がるようにベッドを飛び出すと、床に散らばった服を着こんだ。イグアナが甘い声で、俺をベッドに引きずり込もうとする。
「ねぇ。朝ごはんにはドーナツが食べたぁい」
「離せ! 俺は暴動を止める!」
俺はイグアナの手を振り払い、部屋を飛び出した。
ホームレスたちと酒盛りをした、コモドールホテルの裏通りに駆け付けると、すでにあたりは閑散としていた。酔いつぶれて眠り込んでいたジジイを叩き起こす。
「少し前に、みんな出て行ったぞ。それより、もっと酒をくれ」
俺はジジイの手も振り払い、ホームレスたちの後を追った。
三日三晩、警察から逃げ回ったかと思ったら、今度はマンハッタンを全力疾走。今にも眩暈で倒れそうだ。だが、なんとしても暴動を止めなければ。暴動の首謀者として警察に逮捕されでもしたら、俺の未来はマンハッタンの王どころか、ホームレスの王様だ。段ボールの王冠を被る羽目になる。
前方に、大勢のホームレスや売春婦が市役所に向かって通りを歩いていくのが見えた。陽射しに溶けたキャラメルに突き進む蟻のように、一直線に市役所に向かっていく。
俺はその隊列に、喉も裂けよと叫んだ。
「みんな、デモは中止だ! コモドールの再建なんか訴えなくていい! 絶対に警察を殴ったりするな! 俺が警察に捕まったら、お前たちの仕事もなくなるんだぞ!」
だが、まだ半分酔っぱらっているような連中の耳には、まるで届かなかった。盛り上がったホームレスどもは、
「何もかも悪いのは市なんだ!」
「俺たちに金がないのも、家がないのも、全部市が悪いんだ!」
と、口々に不満を吐き出しながら、どんどん進んでいく。
いよいよ前方に、市役所の大階段が見えてきた。
一体、どうすればいいんだ?
消防車で放水すれば止まるのか?!
金をバラまけば止まるのか?!
警察を呼べば――いや、呼んでどうする!
とにかく、どれも時間がない!
その時、市役所の前の通りに、一台のバンが停まっているのに気付いた。
ホットドッグの屋台だ。観光客が数人、水族館で餌を待つオットセイのように並んでいる。俺は般若の形相で駆け寄ると、オットセイどもを蹴散らして叫んだ。
「この車、全部買う!」
「ちゃんと並べ」
ホットドッグ作りが自分の天命だと信じているのか、店主は殉教者の顔つきで、俺を見ようともしない。俺はカウンターに分厚い財布を置き、さらに、その上に腕時計を外して重ねた。ずっしりと重い金の腕時計は、ねっとりとした輝きで、殉教者の心を溶かす。
「ロレックスだ。この車が3台買えるぞ」
「毎度!」
殉教者はあっさり踏み絵を踏んだ。
ホームレスどもが、世界で一番好きな言葉。
いや、全人類が世界で一番好きな言葉。
俺は、その神の言葉を解き放った。
「無料だ!」
隊列を運ぶ流れが一瞬、よどんだ。
間髪入れず、俺は声を張り上げた。
「本日、出血大サービス! ホットドッグ、食べ放題! タダだ! 無料だぞ!」
隊列が乱れたかと思うと、こちらに向かって一気に押し寄せてきた。あのモーセが割った大海の水もかくありなんというほどの勢いだ。
「お前も手伝え!」
さっさと家に帰り、昼間からビールでもかっくらおうとしていた店主を押し戻す。俺もバンに乗り込むと、猛烈な勢いでホットドッグを作り始めた。ソーセージを焼きに焼き、パンに挟み、ケチャップを振り絞る。ホットドッグは差し出したと思った先から、かっさらわれていった。
どれほどの数のホットドッグを作ったか分からない。材料が足りなくなれば、店主に買いに走らせ、とにかく腕がもげそうなほどのホットドッグを作った。
そうして数時間が過ぎた頃、ようやくホットドッグを欲しがるヤツは誰もいなくなった。気が付けば周囲は閑散としている。中には満腹になってベンチで寝ているヤツもいたが、大抵のホームレスは腹いっぱいになると、デモのことなどすっかり忘れ、満足してねぐらに引き上げていった。
人生を賭けた大作を描き上げた芸術家のごとく、ソーセージの油とケチャップにまみれた俺は、よろよろと自分のアパートに帰った。三日三晩、逃げ回った挙句、地獄のようにホットドッグを焼きまくり、今にも溶けてなくなりそうなほど疲れ切っていた。
なんとか暴動を止めることはできた。
だが、散々あがいた挙句、コモドールの件は何も進んでいなかった。
とりあえず眠りたい。
その前に、シャワーだ。
服を脱ぐと蛇口に手を伸ばす。
すると、またも電話が鳴った。
「ドーナツ! 例のババアだ! 今すぐ責任者を呼べって騒いでる」
ブルックリンの団地の管理人、パーシの甲高い声が響いた。
「勝手に言わせとけ」
「それがなんだか、超トップシークレットの情報があるんだってさ」
「全くそそられない。全くな。全くだ」
「そう言うと思ったから先に親父さんに電話したんだよ」
「何?!」
「そしたら、トランペットオーガナイゼーションの仕事は、もうアンタに任せたって」
俺は、深い深いため息をついた。
いい加減、クイーンズの王の仕事にはウンザリだ。だが、親父が関わった以上、放っておくわけにはいかなかった。団地の問題に対処しなかったと分かったら、親父は俺から王冠を取り上げ、吊し上げの刑に処するだろう。
「分かったよ」
俺はシャワーを諦めて、新しいシャツを着た。
「ババアめ!」
白く輝くキャデラックのアクセルを踏む。
朝の陽射しの中、俺は高速を走りながら、ひたすらにババアを呪い続けた。
ババアに呼び出されたドーナツ! そして、どうなる?!




